上 下
259 / 604

第259話【乗っ取り】

しおりを挟む
俺は地べたに胡座をかいて座っていた。

ずぅ~~~っと、コカトリスの焼き肉を食べるリザードマンたちを眺めていたのだ。

時間が経ち腹が満たされたリザードマンたちは、段々と緊張感が解れて俺がいることを忘れたかのように振る舞い始めた。

大人たちが笑いだし、子供たちが元気に走り出す。

そして、二兎分のコカトリスを食べ終わるころには怠惰にまみれて多くのリザードマンたちが寝そべりながらだらけ出していた。

なんだろう……。

すげー、フレンドリーな空気になってないか……?

いや、もうさ、だらけてね?

飢餓からの緊張感が解かれて、なごんでませんか?

しかもさ、なんだかこいつら太って来てませんか?

最初のころは痩せてたけれど、段々と脂肪を蓄えて、肥えて来てませんか?

腹がポッコリと出てるし、体型が変わって肥満化してないか?

完全に体型がツチノコスタイルだよ。

もうデブじゃんか。

てか、爪楊枝で歯と歯の間をホジリながらシーシー言うのはやめなはれ……。

なに、この光景は……。

俺がリザードマンたちの変わりようを眺めて呆然としていると、白いローブのリザードマンが俺の側に寄って来た。

「いや~、人間の兄ちゃん、悪いな~、こんなにご馳走になってさ~」

うわ、なに、この砕けよう!

最初と態度が全然違うじゃんか!

口調も変わってるしさ!

最初は武士のように堅苦しかったのに、今じゃあ近所のおじちゃんだよ!

土下座していた時が懐かしいわ!!

なんなのさ、これは!?

俺は白いローブのリザードマンに言ってやった。

「なあ、お前ら急に砕けてませんか?」

「いゃ~、ワシらさ~、内と外で態度が変わるんだべさ~。だから、皆がこうして本性をあんたに曝け出しているってことは、飯を恵んでくださったあんたを仲間だと認めとるんだべさ~」

だべさって、訛りすぎじゃね?

「そうなん……。なんか嬉しいやらなんやらだわな……」

正直嬉しくない……。

微妙だわ……。

「ところで俺の名前はアスランだ。あんたの名前は?」

「ワシの名前はリザードマン族の族長カンタタだべさ」

「でえ、なんでこんなにあんたらは飢えてたんだ、カンタタさんよ?」

俺が訊くと、カンタタの表情が緊張感に引き締まった。

「村を乗っ取られただべさ……」

「村を、乗っ取り?」

「ワシらは、本来もっと森の奥に村を築き静かに暮らしていたんだべさ。そこはここと違って水も緑も豊富だべからの~」

「へぇ~」

「ワシらは、遥か昔、やんちゃでブイブイ言わせていたんだがね。人間の冒険者にこてんぱにやられてからは、それを教訓にひっそりと沼地で暮らしていたんだべさ」

「人間の冒険者は怖いだろ~」

俺は自慢気に言ってやった。

「ええ、もー、あいつら鬼ですわ。鬼強で、鬼怖ですわ~」

相当こてんぱにやられたんだな。

「まあ、そんなこんなでワシらは森の奥の沼地で静かに暮らしていたんだべさ。沼地は魚も取れるしワニも取れるから食料に困ることはなかったんだべさ」

ワニを食ってたんかい……。

「それが……」

カンタタの顔色が悪くなる。

「それが、なんだ?」

「それが……、それが、ヤツらがやって来たんだべさ。レッドリザードマン族が……」

「レッドリザードマン族って、お前らリザードマン族と違うのか?」

「根本的にはリザードマンですが、我々はノーマルのリザードマンで、レッドリザードマンはドラゴンを崇める狂暴なリザードマン族ですがな。ヤツらはリザードマンでも上位種だべさ」

「へぇ~」

スライムとスライムベースの違いなのかな?

てか、ドラゴンを信仰しているから生意気なのかな?

「我々とレッドリザードマン族は外見もちょっと違ってますがな。我々は見ての通り緑色で艶々な鱗ですが、ヤツらは赤いし刺々しい鱗を有してるべ。何より体格も我々より大きい戦士だべさ」

「それで、敵わず逃げて来たと?」

「はいだべさ……」

「でえ、レッドリザードマンたちは、略奪が目的だったのか?」

「略奪どころじゃあなかっただべさ。ヤツらは土地ごと奪いやがったんだべさ……」

「なんで土地ごと?」

「さっきも言った通り、ワシらの村は魚も取れるしワニも取れる恵まれた沼地だったから、ヤツらも住みやすいと思ったんだろうさ……」

「取り返そうとはしなかったのか?」

「無理だべさ。こっちは戦える戦士は二十匹程度、向こうは倍の四十匹程度いましたからね。一流の戦士族相手に、流石に無理だべさ……」

レッドリザードマン族が四十匹か~。

悪いリザードマンなんだよな~。

殺しても良さそうだよね?

戦士族だもの、戦いで死ぬのは問題無いよな。

うーむ……。

やっちまおうかな。

皆殺しにしちゃおうかな?

絶対にレベルアップするよね。

悪いリザードマン族なら構わないよね~。

少なくとも追い払うぐらいはしてやろうかな。

「よし、分かった。俺が村を取り返してやろうか」

「な~にをおっしゃいますか、アスランさん。冗談はあきませんよ~」

うわ~、こいつ信用してないわ。

俺が冗談をぬかしていると思ってますよ。

俺は異次元宝物庫から羊皮紙と筆記用具を取り出した。

「カンタタ。これに村の図面を詳しく書いてもらえないか?」

するとカンタタは表情を硬直させる。

「アスランさん、マジだべか……?」

「ああ、大マジだぜ」

「あきませんがな。絶対に無理だべさ。自殺行為だべさ!!」

「なに、ゲリラ戦なら得意中の得意だからよ。心配要らないってばよ」

「ワシらは手伝えませんよ。ワシらには子供や老人も居るんだべさ。ワシらの男衆が死んだら皆が飢えて死んでしまうだべさ!!」

「お前らに手伝えなんて言わないぞ。これは人間の冒険者が勝手に始めた戦いだ」

「だけども……」

「人間が襲ってきたんだ。ヤツらレッドリザードマン族だって、お前らが話に絡んでるとは思わないだろうさ」

「だけども……」

「気にすんな。お前らはここで待っていろ。村は俺が取り返してきてやるからよ!」

俺はカンタタの背中をパンパンと叩いた。

「だから村の図面を書け!」

「は、はいだべさ……」

さてさて、こうして俺とレッドリザードマン族との戦いが、勝手に始まったのである。


【つづく】
しおりを挟む
感想 39

あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店
ファンタジー
   訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。  そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。  プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。  しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。  プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。  これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。  こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。  今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。 ※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。 ※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜

月風レイ
ファンタジー
 グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。  それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。  と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。  洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。  カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。

処理中です...