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第237話【ゴリ、バイマン、オアイドス】

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今の時間は朝食を食べ終わった午前である。

俺はランバラルルの鉱山町に宿を取り、転送絨毯でソドムタウンに帰ってきていた。

そして今はゴリ、バイマン、オアイドスの男ばかりと一緒に焚き火を囲んでいた。

俺たちの周りにはシルバーウルフたち六匹が寛いでいる。

スカル姉さんとガイアの二人は朝食を食べ終わってから市場に出掛けてしまった。

ガイアの服を買いに行ったのだ。

幼女を死に装束のままでは居させられないとスカル姉さんが言って買い物に出たのである。

ガイアに着替えを買ってやるのは良いことだと思うが、ならばオアイドスにも服を買ってやるべきだと思う。

あの吟遊詩人はまだ全裸だ。

俺は焚き火の前に腰掛けながら全裸でリュートを弾いているオアイドスに話し掛けた。

「オアイドス、リュートを買ったんだ」

「ああ、人足でお金を貯めてね。やっとリュートが買えたんだよ、凄いだろ~♪」

「なんでリュートを買うお金があるなら、何故に服を買わないんだ?」

「だって僕は吟遊詩人だよ。服より楽器を先に買うのが当たり前じゃあないか」

「そ、そうなのか……」

言ってる意味が分からんな。

それが吟遊詩人の常識なのか?

「ほら、楽器があれば、酒場で流しができるじゃあないか。そうすれば吟遊詩人として幾らでも稼げるからね」

「じゃあ、なんでまだ服を買ってないんだ。もう流しを始めてるんだろ?」

「売れない吟遊詩人は人足より稼ぎが低いからね。しかたないよ」

あー、こいつは馬鹿なんだな。

改めて理解したよ。

こいつは馬鹿だってね。

じゃあ流しで稼いでいる暇が有ったら、人足で稼いで服を買えよ。

それから流しを始めろってんだ。

こいつは順番を考えられないんだな。

可愛そうに……。

まあ、それはさて置きだ。

「じゃあ、オアイドス、お願いがあるんだが、いいか?」

「なんだい?」

「そこに立って貰えるか」

「ああ、いいとも」

「じゃあ、行くぞ」

「何が?」

「リストレイントクロス!!」

「ななっ!!!」

俺が新魔法を唱えると、俺の眼前から×ペケの字の光弾が発射された。

【魔法リストレイントクロス。攻撃力は中。束縛属性。× 字の弾丸が敵の動きを封じる。射程距離5メートルの魔法。回数は本人レベルが10おきに、一回ずつ撃てる。発動条件は魔法名を口に出す】

その×の字の光弾は人一人を包み込めるサイズの大きさで、飛翔してオアイドスに命中すると、彼の体を包むように閉じた。

×の字が手の平が閉じるようにオアイドスを包んだのだ。

それでオアイドスは立ったまま硬直する。

「うっ、動けない!!」

「ほほう、動けないのか。なるほどね~」

「いきなり何をするんですか、アスランさん!?」

「新魔法の実験だ。どのように効果が働くか見てみたかったんだよね」

「それを私で試さないでくださいよ!!」

オアイドスは立ったまま硬直しているが、口はしゃべれるようだ。

体を束縛して、拷問しだいで情報を聞き出すのには使えるようだな。

むしろそのための魔法なのだろう。

これはいろいろと使えそうだわ。

ナイスな新魔法を手に入れたぞ。

「魔法解除」

「わっ、動ける。助かったわ……」

解除も自由か。

拘束できる時間が説明されてないな。

あとは時間を試して見ないとならんか。

「リストレイントクロス!!」

俺は再びオアイドスに魔法を撃つ。

「のあっ、なんで!?」

「すまんな、オアイドス。拘束できる時間が知りたいから、魔法が切れるまで我慢してくれないか」

「そんな!!」

最初は驚愕していたオアイドスだが、何かを思い付いたらしい。

「バイト代、出る?」

「出す」

「じゃあ、魔法の効果が切れるまで我慢してます」

「ありがとう……」

物分かりのいいヤツで助かったわ。

今度から魔法の実験はすべてオアイドスに頼もうかな。

「よし、じゃあ俺は出掛けて来るぞ」

俺の言葉にゴリが訊いて来る。

「アスラン、どこに行くんだ?」

「冒険者ギルドだよ。ギルマスのギルガメッシュに会って来るつもりだ。最近ご無沙汰してたからな」

「お前、本当にあの変態ギルマスと仲がいいよな」

「ゴリ、お前はギルガメッシュと仲が良くないのか?」

「ほら、俺はアマデウス派だっただろ。幾らアマデウスに捨てられたからって、ホイホイと寝返るようにギルマスと仲良く出来ないぜ」

「お前、意外と律儀だな」

「もともと人情には厚いタイプだと思ってたんだがな。何処で間違えたのやら……」

「じゃあお前、俺が旧魔王城に秘密基地の町を作ったらよ、その町の冒険者ギルドのギルマスやれよ」

「はあ~~~!?」

ゴリは厳つい表情を崩して驚いていた。

「宿屋と酒場はユキちゃんにやって貰うから、お前がギルマスやれ」

「俺が……?」

「そう、お前がだ」

「出来るかな……」

「出来る出来ないじゃあねえよ。いいから、やれよ」

「でも……」

「まあ、考えておけ、いいな」

「ああ……」

俺は俯くゴリを残して空き地を出た。

少し歩くとバイマンのヤツが追っ掛けて来る。

「アスラーーン!!」

「なんだ、あいつ?」

息を切らしたバイマンが俺に追い付く。

その首にはカッパーサークレットが揺れていた。

どうやら装着はしているようだな。

これでこいつの体力も、少しぐらいは伸びただろう。

「なんだ、バイマン?」

「アスラン、俺には何か役目は無いのか!?」

「役目?」

「旧魔王城をアスランが手に入れたら、俺にも何か出来ることは無いのかってことだよ!?」

「ない」

「へぇ……?」

「別に無い」

「何も……?」

「うん、俺から任せる仕事は無い」

バイマンの肩がガックリと落ちた。

「お前はお前で何が出来るかを自分で考えろ。お前にはゴリと違って、その力が有るだろう」

「自分で考える力か……」

「ゴリは自分で何が出来るか気付けないタイプだが、何か仕事を与えられれば、それに全力を尽くせるタイプだろうさ。でも、お前は自分で考えて行動できるタイプだろ。だから自分で考えて俺を助けてくれ、頼んだぞ」

バイマンは痩せこけた顔で俺を見詰めていた。

「出来るだろ、お前なら?」

バイマンは呆然とした句調で答えた。

「分かった。考えておく……」

「俺が旧魔王城を占拠するまでに考えて置いてくれよな、頼んだぜバイマン!」

俺はバイマンの肩をバシンっと叩いてから踵を返した。

そのまま冒険者ギルドに向かう。

ゴリ、バイマン、オアイドスの三人なら、どうにでもなるさ。

一度コケたぐらいなら立ち上がれるさ。

ちょっと手を貸してやればさ。

あとは自分で歩く道を作っていけるはずだ。

だってあいつら、立派な大人なんだもの。


【つづく】
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