上 下
211 / 604

第211話【奇襲を去れることもある】

しおりを挟む
俺は早朝から行動を起こしていた。

まずはバンリさんの家に立ち寄って見た。

まあ、掘っ立て小屋だな。

ここにバンリさんとアンリさんが二人で住んで居たのかと思うと、なんとも貧しい生活を送ってたんだなと感じる。

俺は立て付けの悪い扉を開けて小屋の中に入った。

「狭いな……。ここに兄妹二人で過ごしていたのか……。さぞ貧しかったんだろう」

薄暗い部屋の中で、壁や天井から木漏れ日のように明かりが入って来ていた。

隙間風と雨漏りが酷そうである。

俺は部屋の中を探るように見回した。

確かバンリさんが居なくなって数ヶ月だっけな。

まだ小屋には生活感が残っている。

でも、食器が無いな。

ベッドには毛布が無い。

身支度を整えた痕跡があるな。

これはバンリさんは生きてるぞ。

村を出て行ったのかな?

まだ、結論は出ないけれど可能性は濃厚だ。

「よし、朝飯を食いながら山にでも入るか──」

俺はコカトリスの手羽先を咥えながら山に入った。

小屋の裏は直ぐ山である。

細い道もあった。

まずはその道を辿って山を進もう。

この山道をコカトリスの肉を咥えながら進んでいれば、曲がり角で食パンを咥えた可愛い子ちゃんとぶつかって、ラブストーリーが始まるかも知れない。

いや、ごめん……。

こんなド田舎の山道で、そんなときめくハプニングなんて無いよね……。

可能性はゼロだろうさ……、グスン。

まあ、気を取り戻してっと。

俺は追跡スキルを使って足跡を探す。

【追跡スキル。足跡などを見つけて、対象を追跡や探索ができる】

初めて使うスキルだが、こんな時こそ役に立つスキルだね。

さっそく山道に足跡を見付ける。

人間の足跡が複数あるが、それとは別にハッキリとした蹄の跡が残っていた。

馬とか鹿じゃあ無いよな、これはミノタウロスだよな。

まだ山に入って差程たっていないのに、もうミノタウロスの痕跡を発見しちゃったわ。

てか、こんな人里間近にミノタウロスが下りて来ていいのかな。

駄目だろ……。

こりゃあアカンな。

こんなところまでミノタウロスが来ているようなら、村人に被害が出るのも時間の問題じゃね。

兎に角早めにミノタウロスを退治しないとならないだろう。

俺はいつミノタウロスと出会してもいいように、周囲を警戒しながら山道を進んだ。

さて、でも、この道はどこに通じているのだろう。

ローマかな?

オートマッ◯スかな?

それにミノタウロスの足跡もハッキリと残ってやがるな。

なんどもこの道を通っているのが分かるぞ。

俺は山道を上に上にと登って行った。

振り返れば随分と景色の良い高さまで上がっていた。

山道の疲労に、少し息が上がっている。

これだとレベルアップしたときに、登山スキルを覚えそうだぜ。

まあ、それも有りかな。

そして俺は山の頂上に到達していた。

そんなに標高が高い山でもなかったのか、あっという間だったぜ。

でも、疲れたわ……。

「んん?」

一息付いた俺が山の裏側を見下ろせば、山の麓から煙りが上がっているのが見えた。

「煙り?」

森の中から煙りが上がっているから、何故に煙りが上がっているか詳しく状況が分からない。

「狼煙ってほどでは無いが、人が火を使っているのは確かだな……」

俺は少し休憩を取ってから山の裏側に下りて行った。

煙りが上がるポイントを目指す。

そして、もう道は無い。

ショートソードを振り回して藪を切り裂きながら進んだ。

たぶん一時間ぐらい歩いただろうか、そろそろ煙りのポイントに到着するころだろう。

俺が藪の中をガサガサと進んでいいると、開けた場所に出た。

小さな広場だった。

奥に雑な作りの小屋が在る。

煙りはその小屋から上がっていた。

「ここに人が居るのか?」

バンリさんの家と変わらないサイズのボロ屋だった。

最初はマタギや木こり用の山小屋かと思ったが、更に近付いて周囲の様子を窺うと俺は驚いた。

畑である。

山小屋の周辺が耕されて、畑に成っていた。

いろいろな野菜が育てられている。

「こんなところに農家が?」

山の中に人が住んでいるなんて聞いて無かったぞ。

バンリさんが村の最果てに住んでいるはずだ。

に、しても……。

迂闊であった。

俺が山小屋や畑に気を取られていて、ヤツの接近に気が付かなかった。

そもそも、そんなことは無いと思っていたからだ。

まさか巨漢のミノタウロスに、気が付かれずに接近を許すなんてあり得ないと考えていた。

いや、そんなことは考えてもいなかった。

だからだ──。

俺の背後から気配を感じる。

獰猛で巨大な気配を……。

鼻息が荒いよね……。

「まずったぜ……」

『モーーーー!!!』

俺は瞬時に前へ飛んだ。

俺の居た場所に大きな斧が振り下ろされるとドスンっと衝撃が轟く。

俺は地面を転がると振り返りながら立ち上がった。

「出やがったな、ミノタウロス!!」

『モーーーー!!!』

雄叫びを上げるミノタウロスは、頭が牛で、身体は人間だった。

巨大な身体は身長2メートル30センチほどある。

噂通りに大きい。

まさにミノス王国の野獣王子の成りである。

そして、片手に錆びれた戦斧を持っていた。

上半身には継ぎ目が多い革の服を纏い、腰にはミニスカートサイズの腰巻きを身に付けていた。

手には革の手袋、足には革の靴まで履いていやがる。

全身革製の衣類を身に付け、その隙間から見える肌は褐色で筋肉質だった。

腹筋なんて見事なシックスパックですがな。

こいつがここに暮らして居るのか?

ミノタウロスが服を作って纏い、家を作り、畑を育てて、火まで起こしているのか?

もしかして、このミノタウロスはとても賢いのか?

それなら俺が背後を取られたのも理解できる。

こいつは蛮族的なミノタウロスじゃあねえな。

こいつは文化人系ミノタウロスだ。

ならば話せば分かるかな?

「あの~、ちょっと話をしないか?」

『モーーーー!!!』

ミノタウロスは俺の言葉も聞かずに襲い掛かって来た。

双眸が鬼畜の如く血走ってやがるぞ。

そして、ブルンブルンと戦斧を振り回しながら、逃げる俺を追いかけて来る。

「ひぃぃぃーーー!!」

『モーーーーー!!!』

駄目だこりゃあ!!

逃げる俺。

話が通じるタイプじゃあ無いぞ!!

説得は無理だ!!

戦うしか無いのか!?

走りながら逃げ回る俺は異次元宝物庫からロングソード+2を取り出すと足を止めた。

振り返ると同時に横一線の剣技を繰り出す。

「斬っ!!」

『モーーーーー!!』

だが、俺の剣をミノタウロスは飛んで躱した。

俺の頭の上を飛び越えると、空中で可憐に身体を捻りながら俺の背後に着地する。

「ムーンサルトだと!?」

俺は着地直後のミノタウロスに斬りかかった。

だが、すぐさまミノタウロスも攻撃を繰り出して来る。

『モーーーーー!!』

「なに!?」

俺の剣とミノタウロスの戦斧が激突した。

しかし、力負けした俺は、衝撃で後方に飛ばされる。

「打ち負けたのか!?」

俺は転倒を免れたが、心が動揺していた。

このミノタウロスは普通じゃあ無い……。

てか、獣では無いぞ……。

こいつは戦士だ……。

手練れの戦士である………。

『モーーーーーーっ!!』


【つづく】
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生したら神だった。どうすんの?

埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの? 人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。

転生したら赤ん坊だった 奴隷だったお母さんと何とか幸せになっていきます

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
転生したら奴隷の赤ん坊だった お母さんと離れ離れになりそうだったけど、何とか強くなって帰ってくることができました。 全力でお母さんと幸せを手に入れます ーーー カムイイムカです 今製作中の話ではないのですが前に作った話を投稿いたします 少しいいことがありましたので投稿したくなってしまいました^^ 最後まで行かないシリーズですのでご了承ください 23話でおしまいになります

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

異世界で買った奴隷が強すぎるので説明求む!

夜間救急事務受付
ファンタジー
仕事中、気がつくと知らない世界にいた 佐藤 惣一郎(サトウ ソウイチロウ) 安く買った、視力の悪い奴隷の少女に、瓶の底の様な分厚いメガネを与えると めちゃめちゃ強かった! 気軽に読めるので、暇つぶしに是非! 涙あり、笑いあり シリアスなおとぼけ冒険譚! 異世界ラブ冒険ファンタジー!

「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります

古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。 一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。 一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。 どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。 ※他サイト様でも掲載しております。

異世界転生したらよくわからない騎士の家に生まれたので、とりあえず死なないように気をつけていたら無双してしまった件。

星の国のマジシャン
ファンタジー
 引きこもりニート、40歳の俺が、皇帝に騎士として支える分家の貴族に転生。  そして魔法剣術学校の剣術科に通うことなるが、そこには波瀾万丈な物語が生まれる程の過酷な「必須科目」の数々が。  本家VS分家の「決闘」や、卒業と命を懸け必死で戦い抜く「魔物サバイバル」、さらには40年の弱男人生で味わったことのない甘酸っぱい青春群像劇やモテ期も…。  この世界を動かす、最大の敵にご注目ください!

ハズレスキル【分解】が超絶当たりだった件~仲間たちから捨てられたけど、拾ったゴミスキルを優良スキルに作り変えて何でも解決する~

名無し
ファンタジー
お前の代わりなんざいくらでもいる。パーティーリーダーからそう宣告され、あっさり捨てられた主人公フォード。彼のスキル【分解】は、所有物を瞬時にバラバラにして持ち運びやすくする程度の効果だと思われていたが、なんとスキルにも適用されるもので、【分解】したスキルなら幾らでも所有できるというチートスキルであった。捨てられているゴミスキルを【分解】することで有用なスキルに作り変えていくうち、彼はなんでも解決屋を開くことを思いつき、底辺冒険者から成り上がっていく。

微妙なバフなどもういらないと追放された補助魔法使い、バフ3000倍で敵の肉体を内部から破壊して無双する

こげ丸
ファンタジー
「微妙なバフなどもういらないんだよ!」 そう言われて冒険者パーティーを追放されたフォーレスト。 だが、仲間だと思っていたパーティーメンバーからの仕打ちは、それだけに留まらなかった。 「もうちょっと抵抗頑張んないと……妹を酷い目にあわせちゃうわよ?」 窮地に追い込まれたフォーレスト。 だが、バフの新たな可能性に気付いたその時、復讐はなされた。 こいつら……壊しちゃえば良いだけじゃないか。 これは、絶望の淵からバフの新たな可能性を見いだし、高みを目指すに至った補助魔法使いフォーレストが最強に至るまでの物語。

処理中です...