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第196話【スイカを食べるワニ亭】

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俺がスカル姉さんのジャーマンスープレックスを食らって気絶している間にグラブルとアンの二人は山に帰って行ったらしい。

二人と述べるよりも、二匹と述べたほうが正しいのだろうか?

まあ、そんな細かいことはどうでもいいだろう。

俺が空き地で目を覚ますとスカル姉さんも居なかった。

ゴリと全裸のオアイドスが残っていたので訊いてみたら、ソドムタウンの郊外で怪我人が出たらしく、ヒールを掛けに行ったとのことだった。

俺は焚き火の側に置いて在った鍋からコーンスープを装うとパンと一緒に食べる。

「空腹は最大の調味料だな……。それにしても、まだ頭が……」

まだ、なんだか頭がガンガンするが、昼食を食べ終わった俺は転送絨毯で元の場所に帰ることにした。

「あー、まだ頭が痛いわ~……。糞、ゆっくり走らせるかな」

俺は後頭部を擦りながら転送絨毯を異次元宝物庫に仕舞うと、変わりにアキレスを召喚して背中に股がった。

目指すは──。

目指すは……。

目指すはーーーー!!!

名前が思い出せない!!!

目的地の町の名前が思い出せないぞ!!!

これもすべてジャーマンスープレックスの影響かな?

まあ、いいか~。

とりあえず俺はアキレスをゆっくりと走らせて次の町を目指した。

やかて日が暮れてくると、目的地の町が見えて来る。

町には防壁らしい物は無い。

なんか西部劇で見るような町である。

二階建ての建物がメインストリートに並んでおり、その周辺に幾つもの民家が立ち並んでいた。

俺が町に入ったころには完全に日が沈み、辺りは暗くなっていた。

それでも町の明かりに紛れてメインストリートには人影がちょろちょろと闊歩している。

俺は馬の上から通行人の親父に訊いた。

「なあ、宿屋はどっちだい?」

鼻の頭が真っ赤な親父は酒瓶をラッパ飲みしたあとに陽気に答えてくれた。

「次の交差点を左だべ~。あれ、右だったっけな~?」

「ありがとう、分かったよ」

うむ、どうやら次の交差点を右か左に曲がれば宿屋は在るらしい。

俺は馬をパカラパカラと走らせて、交差点を右に曲がった。

「よし、当たりだ」

俺は直ぐに宿屋を見つけるとアキレスをトロフィーに戻して異次元宝物庫にしまった。

宿屋の入り口横で、椅子に座りながら酒を飲んでいた親父が、俺を見て驚いていた。

まあ、金馬のトロフィーも異次元宝物庫もレアだからな。

そりゃあ驚くだろう。

俺は宿屋の看板を見上げる。

宿屋の看板には「スイカを食うんワニ亭」と書かれていた。

意味が分からんな……。

それから俺が店内に進もうとすると、入り口横で椅子に腰かけていた親父が話しかけて来る。

「なんか、お前さん、凄いのぉ……」

「ああ、一流の冒険者だからな」

「はぁあ……」

親父は納得はしていたが、キョトンとした眼差しで俺を見ていた。

俺はニコリと笑うと店内に進む。

酒場の中は賑やかだった。

中年のおばさんがリュートで賑やかに演奏しており、その曲に合わせて男たちが騒いでいやがる。

酒を煽る者、無茶苦茶に踊る者、大声で歌う者、カウンター席で静かに一人で飲む者と様々だった。

俺が店内に入って来ても気に止める者は一人も居ない。

各々が楽しく飲んでいる。

「まあ、今日も一日厳しい労働に励んでらっしゃったんだろうね。ご苦労様です」

俺は誰にも聴こえないように呟くとカウンター席に進んだ。

「はーーい、いらっしゃいませせせ!!」

うわ、何この店員のにーちゃんは!?

無駄に元気が良いな。

「なーーんしますか、エールですか、ビールですか、ウィスキーですか、ワインですか、全部ですか~~!?」

「何かお勧めの食事を頼むよ」

「畏まり、畏まりーーいい。とーちゃん、お勧めの食事を一丁頼むぜ~~!!」

にーちゃんが叫ぶと奥の厨房からおっさんの声で「あいよー、畏まりーー!!」と元気良く渋声が返って来る。

なんともテンションの高い酒場だな……。

いや、居酒屋の乗りだな……。

「で、お客さん、お飲み物は何にしましょうか?」

「水を頼む」

「へ?」

「どうした、にーちゃん?」

「お酒ですよ、お、さ、け。エールですか、ビールですか、ウィスキーですか、ワインですか、それとも全部ですか~~!?」

「あー、俺は飲めないから」

「はぁ?」

「だから飯だけでいいんだ」

「えーと、んーと……」

何を悩んでやがるんだ、このにーちゃんは?

「あー、分かりました~」

どうやら分かってくれたらしいな。

さて、どんな夕飯が出て来るか楽しみだわ。

と、俺が夕飯を楽しみに待っていると、カウンターの中からにーちゃんが顔を近付けて来る。

そして凄んだ声で言った。

「飲まねーなら、帰れよな。この糞ガキが!!」

何故に喧嘩を売られますか!?

「酒を飲まなくても飯は食うんだから構わないだろ。それに今日は部屋も借りて泊まる積もりなんだからよ」

「んん~」

にーちゃんは身体を引っ込めると、腕を組ながら考え込んだ。

それから厨房の奥に叫んで訊いた。

「とーちゃん、酒を飲まなくても客かい?」

すると奥から皿に盛られた肉の山とスープを持った髭親父が出て来る。

髭親父は俺の前に肉の山盛りとスープをドスンと置くと息子に叫ぶように言った。

「馬鹿息子、前にも言っただろ。世の中には酒を飲めないヘタレな人間も居るんだよ。だから飯を食ってくれるだけで客なんだ。覚えておけよ!!」

「分かったよ、とーちゃん。世の中には酒が飲めなくて、チ◯毛も生えてないヤツも居るんだな!!」

「そうだ。そう言うツルツルな客も居るんだぜ!!」

「おもしれーーな、とーちゃん!!」

「世の中、おもしれーだろ、息子よ!!」

「「がっはっはっはっはっ!!!」」

「ちょっと待てや!!!!」

俺は咄嗟にカウンターを叩いて怒鳴っていた。

皿に山のように盛られていた肉が散らばって、幾つか床に落ちる。

俺の大声でリュートの演奏も止まり、店内が静まり返っていた。

注目が俺に集まる。

「あんたら、誰のチ◯毛が生え揃ってないって!!」

呆然とするにーちゃんが俺を指差しながら言った。

「あんただ」

額に血管を浮かべた俺はカウンターに上がってズボンを下ろす。

そして下半身を丸出しにして叫んだ。

「チ◯毛が生えてないかどうか、きちんと見やがれってんだ!!」

店の客たちが俺のお尻を眺めるなかで、にーちゃんが俺の股間に顔を近付けて凝視する。

「こりゃ~、立派にフサフサだな~」

「だろう~」

俺はニヤリと笑った。

その笑みは自信に溢れた悪党のようだっただろう。

そして、髭親父が言った。

「ずまねーな、お客さん。今日の晩飯は俺のおごりだ。たっぷり食って行ってくれや。何せフサフサだからな!!」

「サンキュー、親父さん!!」

俺がズボンを穿いてカウンターの上から飛び下りると同時にリュートの演奏が再開された。

すると店内に騒がしさが戻る。

数人の客が「フッサフサ、フッサフサ」と連呼しながら踊り出す。

再びメルリッヒシュタットの酒場が賑わった。

あれ、ルメヒットジュダッドだったっけな?

まあ、いいか~。

ただなんだから、タップリ肉を食べよっと。

おっ、豚肉かぁ~。

わはははは~~。

ただ飯だぜ~~。ラッキー。

………ん~。

何、この意味の無い回は??


【つづく】
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