上 下
188 / 604

第188話【アスランの連勝】

しおりを挟む
ダグラス・ウィンチェスターは、苦々しい顔でベンチに座りながら四角い頭を揺さぶるようにトントンと手の平で叩いていた。

その後ろからジャンヌがヒールを掛けている。

ジャンヌが心配そうに訊いた。

「大丈夫ですか、ウィンチェスター様……」

「ああ、ありがとうよ、ジャンヌ……」

ヒールを掛け終わったジャンヌが俺に詰め寄って来る。

「アスランさん、いきなり殴り掛かって、何をするんですか。相手は曲がりなりにも老体なんですよ!!」

ジャンヌは両手に持ったジルドレを突き出しながら俺を怒っていた。

突き出されたジルドレがシャーシャーと言いながら俺の眼前で爪を振るっている。

しかし、俺は正々堂々と言い訳を述べた。

「何を言ってるんだいジャンヌちゃん。最初に斧を投げて来たのは、その四角い爺さんだぞ」

「あー、確かに……」

反論は無いようだ。

ここまであっさり引かれると、なんだか張り合いが無いな。

もっと突っ掛かって来てもらいたいものである。

どうやらジャンヌちゃんは、ツンデレキャラでは無いようだ。

寂しいな~。

ひじょーーに勿体無い……。

M的な俺には刺激が足りないぞ。

そして、ダグラスがベンチから立ち上がると、俺たちに言う。

「ああ、確かにワシから攻撃を仕掛けたんだ。そいつの言う通りだな。謝るべきはワシのほうだわな」

俺の目の前に立ったダグラスが四角い大胸筋を張る。

「だが、謝らねーーぞ、ドアホが!!」

「なんだと、この糞爺!!」

「ちょっと待ってください、二人とも!!」

睨み合う俺たちの間にジャンヌが割って入る。

すると鼻を鳴らしたダグラスが退いた。

「まあ、それよりも、今までのメトロが送り込んできた冒険者よりは骨が有るってのは、よーーく分かったぜ。
でえ、名前は?」

「ソドムタウンのアスランだ」

「俺はダグラス・ウィンチェスターだ。よろしくな」

ダグラスが右手を差し出して来たので俺は握手を返した。

しかし───。

「かかったな!!」

「なに!?」

ダグラスは俺が差し出した手首を両手でガッシリと掴むと飛びかかって来る。

下半身で跳ねると両足を俺の腕と体に絡み付けてきた。

「飛び付き腕十字だと!?」

「この腕は、貰ったぜ!!」

ダグラスの体が俺の腕に絡み付くと、全体重で腕が、体が、強く引っ張られた。

身体が大地に向かって強い力で引っ張られる。

「なろーー!!」

だが俺は、蟹股に体勢を築くと全力で耐えた。

そして、動きが止まる。

ダグラスが逆さまの体勢で驚いていた。

「なに!?」

重力を利用して引っ張っていたダグラスの背中は大地に着いていない。

宙に浮いていた。

俺が飛び付き腕十字を支えるように、片腕だけでダグラスを持ち上げているのだ。

「若者のパワーを、舐めんなよ!!」

「ぬぬぬぬぬぬっ!!」

伊達にマジックアイテムで筋力をアップさせていないぜ。

何よりも、俺の身体は鍛え上げられているんだ。

数々の冒険歴を舐めるなよ。

それがすべてトレーニング以上のトレーニングなんだからよ!!

「おっらぁーーーー!!」

「ななななななっ!!」

俺は腕を高く上げてダグラスを持ち上げた。

ダグラスの体が俺の頭よりも高い位置に上がる。

「覚悟はいいよな、糞爺!?」

「承知のうえだ、餓鬼が!!」

「うらぁぁあああ!!」

「!!!!」

俺はダグラスを地面に向けて振り下ろした。

ダグラスは頭から地面に叩き付けられる。

ゴンッと音が鳴ると同時にゴキッと鈍い音も聴こえた。

「どうだ、糞爺!!」

「…………」

スルリと俺の手から放れたダグラスが、力無いままグッタリと沈む。

動かない。

気絶したかな?

「ダーグーラースーさーまー!!!」

叫んだジャンヌが駆け寄って来て、必死にヒールを施していた。

しかし、ダグラスは白目を剥いたままである。

やっぱり動かない。

三本勝負だとしても、俺の二連勝だ。

よし、これで俺の完全勝利だな。


【つづく】
しおりを挟む
感想 39

あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

城で侍女をしているマリアンネと申します。お給金の良いお仕事ありませんか?

甘寧
ファンタジー
「武闘家貴族」「脳筋貴族」と呼ばれていた元子爵令嬢のマリアンネ。 友人に騙され多額の借金を作った脳筋父のせいで、屋敷、領土を差し押さえられ事実上の没落となり、その借金を返済する為、城で侍女の仕事をしつつ得意な武力を活かし副業で「便利屋」を掛け持ちしながら借金返済の為、奮闘する毎日。 マリアンネに執着するオネエ王子やマリアンネを取り巻く人達と様々な試練を越えていく。借金返済の為に…… そんなある日、便利屋の上司ゴリさんからの指令で幽霊屋敷を調査する事になり…… 武闘家令嬢と呼ばれいたマリアンネの、借金返済までを綴った物語

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜

月風レイ
ファンタジー
 グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。  それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。  と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。  洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。  カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。

ハズレスキル【分解】が超絶当たりだった件~仲間たちから捨てられたけど、拾ったゴミスキルを優良スキルに作り変えて何でも解決する~

名無し
ファンタジー
お前の代わりなんざいくらでもいる。パーティーリーダーからそう宣告され、あっさり捨てられた主人公フォード。彼のスキル【分解】は、所有物を瞬時にバラバラにして持ち運びやすくする程度の効果だと思われていたが、なんとスキルにも適用されるもので、【分解】したスキルなら幾らでも所有できるというチートスキルであった。捨てられているゴミスキルを【分解】することで有用なスキルに作り変えていくうち、彼はなんでも解決屋を開くことを思いつき、底辺冒険者から成り上がっていく。

処理中です...