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第186話【消えたワイズマン】
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「アスランくん、大丈夫かい。こんな仕事を受けてさ?」
ゴモラタウンの冒険者ギルドを出たところでワイズマンに言われた。
「ついついお金に釣られてしまったぜ……」
120000Gは魅力的だったのだ。
「まあ、秘密基地を作るのに金が必要なんだよね。なんなら私が貸してあげましょうか?」
「利子を取るだろ?」
「当然です」
「なら、要らん!」
俺とワイズマンは二人で馬車に乗った。
ワイズマンが御者に「屋敷まで」と言うと馬車が走り出す。
俺たちは一旦ワイズマンの屋敷で待機することになったのだ。
メトロ・ガイストがダグラス・ウィンチェスターに取り合ってくれるまでである。
おそらく俺がウィンチェスターと会えるのは昼過ぎになるらしいのだ。
俺は馬車に揺られながら考えていた。
何故に、メトロに取り付いたメガロが弟から離脱した直後は倒せないのか?
何故に、メガロはウィンチェスターの家では迷路に迷うのか?
多分だが、メガロの幽霊は、弟の家から逃げ出す時には、幽体らしく壁抜けを使っているのだろう。
しかし、ウィンチェスターの家では迷路に迷っていやがる。
壁を抜けて進めば迷うはずが無いのにだ。
その変が可笑しい。
なんらかの理由があるはずだ。
それが分からなければ、メトロからメガロが抜け出たところを襲っても無駄だろうし、ウィンチェスターの家でメガロを迎え撃っても討伐できる確率は低いだろう。
その謎を解くことが、今回の事件解決の鍵になるのではないかと考えていた。
「なあ、ワイズマン。ちょっと訊いていいか?」
「何かね。私の趣味が知りたいのか?」
俺はワイズマンのお茶目を無視して質問する。
「メトロ・ガイストはどこに住んでるんだ?」
「今は冒険者ギルドに自室を設けて暮らしていると聞いてるが」
「へぇ~」
「それがどうかしたのかね?」
「いや、まだ分からんが、何かのヒントになるかなって思ってさ」
そう、まずは手掛かりを探さなければなるまい。
「お前は、メガロがメトロから分離したところは見たことあるのか?」
「無いが、討伐しようとした冒険者ギルドのメンバーが複数目撃しているし、ウィンチェスター家に使えている召使いも複数目撃していると聞いているが」
「なるほどね~」
メガロの幽霊が存在しているのは間違いなさそうだな。
やはり、それでも謎が多い。
もっと情報を集めないとならんな。
しばらくすると馬車がワイズマンの屋敷に到着した。
俺たちが馬車から下りて屋敷に入ると、ロビーでマヌカハニーさんが待っていた。
そう言えばマヌカハニーさんとワイズマンは、信じられんが出来ているんだっけな。
結婚するらしいのだ。
乙女心は本当に分からん。
何故に、こんなキモイもっちりオヤジを好きになれるんだろう?
まさに謎だわ。
女性には謎が多すぎるぜ。
「おはようございます、ワイズマン様。あら、アスラン殿も御一緒でしたか」
「ああ、ちょっとゴモラタウンに立ち寄ってな。昨晩宿を借りたんだ」
「そうでしたか」
マヌカハニーさんは柔らかく微笑んだ。
それにしても乳が大きいな……。
う、うぐぅぅぅううわ……。
危うく血を吐くところだったぜ。
気を付けないとな……。
ワイズマンがマヌカハニーに言う。
「ハニー、仕事の書類は応接間に積んであるから頼むよ」
「それの計算ならば、お待ちしている間に済ませました」
「相変わらず仕事が早いな」
「それほどでも」
「では、少し早いが昼食にするかね」
と、ワイズマンが言うと、マヌカハニーがヒールの踵で強く床を踏んだ。
ダンっと脅迫的な音が鳴る。
「ワイズマン様、今日のトレーニングはお済みになりましたか?」
マヌカハニーが微笑みながら言うと、ワイズマンが怯えながら答える。
「い、いや……。今日の午前中はメトロ・ガイスト殿と仕事の話が有ったから……」
「それはそれ、これはこれ、トレーニングはトレーニングです。見ればトレーニングをサボったのが分かるんですからね!」
マヌカハニーが目を見開きワイズマンを睨み付ける。
彼女の背後でドス黒いオーラが揺らいでいた。
それは殺気である。
睨まれていない俺ですら怖かった。
「結婚式までに40キロ痩せるって言いましたよね!」
「そ、それは言わされたのであり、その……」
マヌカハニーがギロリと睨み付けながら脅すように言う。
「言わされたですって!?」
「自主的に言いました!!」
「じゃあトレーニングを始めましょう!!」
「い、今からかい……」
指をポキポキ鳴らしながらマヌカハニーが答える。
「今からです。直ぐにです。即にです!!」
「は、はい……」
「スクワット100回、腕立て伏せ100回、腹筋100回、背筋100回です。昼食後に更にもう一セットですからね」
「は、はい……」
ワイズマンが泣きそうな顔でスクワットを始めた。
こりゃあマヌカハニーさんと結婚したら、間違いなくあの大きな尻に敷かれるな。
俺はスクワットをするワイズマンを睨み付けながら監視しているマヌカハニーさんの隣に移動した。
マヌカハニーさんに訊く。
「なあ、マヌカハニーさん。メトロ・ガイストの兄貴の話って知ってるかい?」
「死んだメガロ・ガイスト様のお話ですか?」
「ああ、幽霊になってウィンチェスター家を祟っているヤツだ」
「はい、有名な話ですからね。毎晩町の上空を飛んでメガロ・ガイスト様の幽霊が、ウィンチェスター家に飛んで行くところは多く見られていますからね」
「目撃例が有るんかい」
「はい、数年前からちょくちょくと」
「なるほどね~」
メガロの幽霊は存在するんだ。
ならば何故に、ウィンチェスター家の迷路に迷うかだな。
それが最大の謎だぜ。
「ところでマヌカハニーさん」
「なんでしょうか?」
「なんでワイズマンと結婚するん。こいつのどこが良いのだ?」
「まず、彼の魅力は財力かしらね」
「うわ、超リアリストだな!」
「それと───」
「それと?」
「痩せればけっこうカッコイイんですよ、ワイズマンさまって……」
「見たことあるのか、痩せてるワイズマンを!!」
信じられん!?
ワイズマンに痩せてる時代が有ったなんて!!
こいつは産まれた時から豚野郎で黒歴史しかないかと思ってたのにさ!!
「見てごらんなさい、後ろを」
俺はマヌカハニーさんに言われて振り返った。
そこには汗だくで息を荒くした男性が立っていた。
金髪で細マッチョのジャニーズ系の美男子が立っているのだ。
「ワ、ワイズマンが消えた!?」
するとジャニーズ系美男子が述べる。
「ぜぇはー、ぜぇはー……。私がワイズマンだよ、アスランくん……」
「ワ、ワイズマンの声は聞こえるが、姿が見えないぞ!? 何故だ!!」
何故か俺にはワイズマンの存在が確認できなかった。
見えないのだ。
幾ら探せど聞こえるのは声ばかりである。
「どこに消えた、ワイズマン!?」
「目の前に居ますよ!!」
【つづく】
ゴモラタウンの冒険者ギルドを出たところでワイズマンに言われた。
「ついついお金に釣られてしまったぜ……」
120000Gは魅力的だったのだ。
「まあ、秘密基地を作るのに金が必要なんだよね。なんなら私が貸してあげましょうか?」
「利子を取るだろ?」
「当然です」
「なら、要らん!」
俺とワイズマンは二人で馬車に乗った。
ワイズマンが御者に「屋敷まで」と言うと馬車が走り出す。
俺たちは一旦ワイズマンの屋敷で待機することになったのだ。
メトロ・ガイストがダグラス・ウィンチェスターに取り合ってくれるまでである。
おそらく俺がウィンチェスターと会えるのは昼過ぎになるらしいのだ。
俺は馬車に揺られながら考えていた。
何故に、メトロに取り付いたメガロが弟から離脱した直後は倒せないのか?
何故に、メガロはウィンチェスターの家では迷路に迷うのか?
多分だが、メガロの幽霊は、弟の家から逃げ出す時には、幽体らしく壁抜けを使っているのだろう。
しかし、ウィンチェスターの家では迷路に迷っていやがる。
壁を抜けて進めば迷うはずが無いのにだ。
その変が可笑しい。
なんらかの理由があるはずだ。
それが分からなければ、メトロからメガロが抜け出たところを襲っても無駄だろうし、ウィンチェスターの家でメガロを迎え撃っても討伐できる確率は低いだろう。
その謎を解くことが、今回の事件解決の鍵になるのではないかと考えていた。
「なあ、ワイズマン。ちょっと訊いていいか?」
「何かね。私の趣味が知りたいのか?」
俺はワイズマンのお茶目を無視して質問する。
「メトロ・ガイストはどこに住んでるんだ?」
「今は冒険者ギルドに自室を設けて暮らしていると聞いてるが」
「へぇ~」
「それがどうかしたのかね?」
「いや、まだ分からんが、何かのヒントになるかなって思ってさ」
そう、まずは手掛かりを探さなければなるまい。
「お前は、メガロがメトロから分離したところは見たことあるのか?」
「無いが、討伐しようとした冒険者ギルドのメンバーが複数目撃しているし、ウィンチェスター家に使えている召使いも複数目撃していると聞いているが」
「なるほどね~」
メガロの幽霊が存在しているのは間違いなさそうだな。
やはり、それでも謎が多い。
もっと情報を集めないとならんな。
しばらくすると馬車がワイズマンの屋敷に到着した。
俺たちが馬車から下りて屋敷に入ると、ロビーでマヌカハニーさんが待っていた。
そう言えばマヌカハニーさんとワイズマンは、信じられんが出来ているんだっけな。
結婚するらしいのだ。
乙女心は本当に分からん。
何故に、こんなキモイもっちりオヤジを好きになれるんだろう?
まさに謎だわ。
女性には謎が多すぎるぜ。
「おはようございます、ワイズマン様。あら、アスラン殿も御一緒でしたか」
「ああ、ちょっとゴモラタウンに立ち寄ってな。昨晩宿を借りたんだ」
「そうでしたか」
マヌカハニーさんは柔らかく微笑んだ。
それにしても乳が大きいな……。
う、うぐぅぅぅううわ……。
危うく血を吐くところだったぜ。
気を付けないとな……。
ワイズマンがマヌカハニーに言う。
「ハニー、仕事の書類は応接間に積んであるから頼むよ」
「それの計算ならば、お待ちしている間に済ませました」
「相変わらず仕事が早いな」
「それほどでも」
「では、少し早いが昼食にするかね」
と、ワイズマンが言うと、マヌカハニーがヒールの踵で強く床を踏んだ。
ダンっと脅迫的な音が鳴る。
「ワイズマン様、今日のトレーニングはお済みになりましたか?」
マヌカハニーが微笑みながら言うと、ワイズマンが怯えながら答える。
「い、いや……。今日の午前中はメトロ・ガイスト殿と仕事の話が有ったから……」
「それはそれ、これはこれ、トレーニングはトレーニングです。見ればトレーニングをサボったのが分かるんですからね!」
マヌカハニーが目を見開きワイズマンを睨み付ける。
彼女の背後でドス黒いオーラが揺らいでいた。
それは殺気である。
睨まれていない俺ですら怖かった。
「結婚式までに40キロ痩せるって言いましたよね!」
「そ、それは言わされたのであり、その……」
マヌカハニーがギロリと睨み付けながら脅すように言う。
「言わされたですって!?」
「自主的に言いました!!」
「じゃあトレーニングを始めましょう!!」
「い、今からかい……」
指をポキポキ鳴らしながらマヌカハニーが答える。
「今からです。直ぐにです。即にです!!」
「は、はい……」
「スクワット100回、腕立て伏せ100回、腹筋100回、背筋100回です。昼食後に更にもう一セットですからね」
「は、はい……」
ワイズマンが泣きそうな顔でスクワットを始めた。
こりゃあマヌカハニーさんと結婚したら、間違いなくあの大きな尻に敷かれるな。
俺はスクワットをするワイズマンを睨み付けながら監視しているマヌカハニーさんの隣に移動した。
マヌカハニーさんに訊く。
「なあ、マヌカハニーさん。メトロ・ガイストの兄貴の話って知ってるかい?」
「死んだメガロ・ガイスト様のお話ですか?」
「ああ、幽霊になってウィンチェスター家を祟っているヤツだ」
「はい、有名な話ですからね。毎晩町の上空を飛んでメガロ・ガイスト様の幽霊が、ウィンチェスター家に飛んで行くところは多く見られていますからね」
「目撃例が有るんかい」
「はい、数年前からちょくちょくと」
「なるほどね~」
メガロの幽霊は存在するんだ。
ならば何故に、ウィンチェスター家の迷路に迷うかだな。
それが最大の謎だぜ。
「ところでマヌカハニーさん」
「なんでしょうか?」
「なんでワイズマンと結婚するん。こいつのどこが良いのだ?」
「まず、彼の魅力は財力かしらね」
「うわ、超リアリストだな!」
「それと───」
「それと?」
「痩せればけっこうカッコイイんですよ、ワイズマンさまって……」
「見たことあるのか、痩せてるワイズマンを!!」
信じられん!?
ワイズマンに痩せてる時代が有ったなんて!!
こいつは産まれた時から豚野郎で黒歴史しかないかと思ってたのにさ!!
「見てごらんなさい、後ろを」
俺はマヌカハニーさんに言われて振り返った。
そこには汗だくで息を荒くした男性が立っていた。
金髪で細マッチョのジャニーズ系の美男子が立っているのだ。
「ワ、ワイズマンが消えた!?」
するとジャニーズ系美男子が述べる。
「ぜぇはー、ぜぇはー……。私がワイズマンだよ、アスランくん……」
「ワ、ワイズマンの声は聞こえるが、姿が見えないぞ!? 何故だ!!」
何故か俺にはワイズマンの存在が確認できなかった。
見えないのだ。
幾ら探せど聞こえるのは声ばかりである。
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【つづく】
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