上 下
181 / 604

第181話【オアイドス】

しおりを挟む
頭を俺に蹴飛ばされた吟遊詩人は気絶していた。

俺は気絶している吟遊詩人の体をパタパタと叩いてボディーチェックすると、武器に代わりそうな物を取り出す。

「ダガー一本に、フォークとナイフか~」

俺は鼻歌を奏でながら吟遊詩人の衣類をすべて剥ぎ取ってやった。

素早く素っ裸にしてやる。

それから吟遊詩人を暖炉の前の椅子に戻すと、新しい荒縄を異次元宝物庫から取り出して、椅子の背もたれにグルグル巻きに縛ってやった。

「そうだ、足もちゃんと縛らないとな~」

俺は今までの拘束経験から吟遊詩人の両足首を、椅子の足に縛り付けた。

これをされると、本当に動けないんだよね。

さーて、こいつが目を覚ますのが早いか、こいつが眠らせた客たちが起きるのが先か、さてさてどっちが先かな~。

俺はカウンター内に入ると、勝手にパンを咥えながら鍋の中のスープを皿に盛り付けた。

それからカウンター席で晩飯にする。

すると一番最初に目を覚ましたのは店の親父だった。

「あれ……、おれぇは……」

「おはようさん」

「あ、ああ、おはよう……」

店の親父は頭がガンガンしているのか、ブルブルと振るいながら眠気を飛ばしていた。

「わしゃ~、なんで寝ていたんだ……?」

俺は素っ裸の吟遊詩人を指差しながら言った。

「あの吟遊詩人が眠りの魔法で店の中の全員を眠らせたんだ。強盗目的でな」

「ほ、本当か!?」

「ほら、店の中を見れば分かるだろ。全員が寝ちまってやがる」

「あ、ああ……。本当だな……」

俺はカウンターの上にお金を置いた。

「勝手に食って済まないが、食事代と部屋代だ。部屋は空いてるだろ?」

「ああ、二階の三号室を使ってくれ」

店の親父がキーを差し出した。

「サンキュー」

俺は鍵を受け取ると、スタスタと階段を上り二階を目指す。

「おい、あんた。この素っ裸の吟遊詩人は、どうしたらいい?」

俺は階段の途中で止まると答えた。

「好きにしたらいいさ。強盗は俺が防いだから、未遂で終わってるからな。あんまりキツイ罰は与えないでくれよ」

「わかった。皿洗いぐらいで勘弁してやるわい!」

「あとそいつさ、たぶん目は見えているからな。その目隠しはハッタリだ」

「ハッタリ?」

「ほら、薄くて黒い布だと、明るい場所なら透けて見えたりするだろ。それがトリックの正体だよ」

「なるほどな~」

親父がカウンターを出て吟遊詩人の目隠しを外した。

すると三角の垂れ目が現れる。

なんだろう……。

けっこうイケていない素顔だな。

目隠ししてるほうが、なんとなく格好良かったかも知れん。

まあ、いいか。

あとは店の親父に任せよう。

「じゃあ、俺、寝ますから~」

そう言って俺は、二階の三号室に入った。

部屋は狭いがテントよりは遥かに広い。

それに何よりベッドもある。

久々のベッドである。

久々の布団である。

久々の寛ぎである。

わーーい。

俺はベッドにダイブすると、しばらくはしゃいでから寝た。

本当に久々の熟睡である。

そして、あっと言う間に朝が来た。

俺は寝癖が付いた頭をボリボリとかきながら一階の酒場に下りて行く。

「あれ~……」

俺が暖炉の前を見ると、まだ全裸の吟遊詩人が椅子に縛られていた。

目隠しはしていない。

吟遊詩人は項垂れながら眠っているようだ。

店内には他の客は居なくなっていた。

全員が家に帰ったのかな?

そして、俺がカウンター席に腰かけて朝飯を注文すると、昨日の晩と同じメニューが出て来た。

まあ、良くあることだ、我慢しよう。

俺が黙って晩飯の余りの朝食を食べていると、店の女将さんが話し掛けて来る。

「ねえ、あんたぁ」

「なんだい、女将さん?」

「あの吟遊詩人の強盗未遂野郎は、あんたが捕まえたんだろ」

「ああ、そうだ。褒美に朝食代を返金してくれるのか?」

「しないわよ……」

「じゃあなんだよ?」

「あれ、邪魔だから、連れてってくんないかしら」

「なんで俺が?」

「なんでって、あんたが捕まえたんだろ?」

「だが、犯行現場はこの宿屋だぞ?」

「それとこれとは別よぉ~」

「別も何も、いつもじっちゃんは独りって言うじゃあないか」

「じっちゃんは独り……?」

あー、この異世界には名探偵のアニメーションも無いのか。

ならば名言の一つも知ってるわけないよな。

「兎に角さ、邪魔だから、あの吟遊詩人を連れ出してくんないかい。あいつは全裸で文無しなんだよね」

あー、衣類もリュートも全部盗まれたのかな?

「しゃあないな~」

俺は朝食を全部食べ終わると、席を立って全裸の吟遊詩人に声を掛けた。

吟遊詩人は直ぐに目を覚ます。

「はっ! もう止めてくれ!!」

なんだ、いきなり?

「頼む、謝るから鼻の穴とか、いろんな穴に豚肉とか鶏肉を詰め込まないでください!!」

何こいつ、昨晩そんなことされてたんだ。

なんだかちょっぴり羨ましいな。

「おい、吟遊詩人」

「はっ、あんたわ!!」

「昨晩は、大変だったやうだな」

「え、ええ。酔った客たちに、散々弄ばれましたわ……。しくしく……」

「そりゃあ、随分と楽しんだようだな~」

「楽しんだわけがないですよ! 地獄でしたよ!!」

「いやいや、言ってる意味が分からないわ」

「こっちが分からんわ!!」

「まあ、縄をほどいてやるから、もう強盗とか悪いことをすんなよ」

「あ、ありがとう……」

俺がロープを解いて、全裸の吟遊詩人を自由にしてやった。

「ところで私の服は……?」

辺りを見回したけれど緑のローブは見当たらない。

「盗まれたんじゃあないの」

「私のリュートは!?」

「それも間違いなく取られたろ」

そこでカウンター内から女将さんが口を挟む。

「あんたら、リュートならそこを見てごらんな~」

俺たちは女将さんが指差すほうを見た。

そこには暖炉が在り、火の消えた暖炉の中には燃えかすと変わったリュートの破片が残っていた。

「あー、誰かが燃やしたんだね」

「私のリュートがぁぁああ!!」

「でえ、全裸の変態吟遊詩人さんよ。これからどうするんだい?」

「すみません、その呼び方は止めてくれませんか……」

「何を言いやがる。お前はどこから見ても、全裸の変態吟遊詩人だろ?」

「私は変態じゃあありませんし、服も無いしリュートも無いから、どこから見ても吟遊詩人だとは分かりませんよ!!」

「じゃあ、不明な点を省いて、全裸男で良いのかな?」

「それもかなり変態っぽく聞こえるから却下します……」

「全裸のお前に却下できる権利があると思うのか?」

「思いますよ!!」

「まあ、好きなだけわがままを言えばいいさ。俺は行くからな~」

「い、行くって?」

「旅の途中なんだ。そろそろこの町を出るつもりだが」

「全裸の私を置いてですか!?」

「ああ、全裸の変態野郎を置いてだ」

「そんなぁ……」

俺は全裸の吟遊詩人を置いて店を出た。

最後に店の女将さんが「またのおこしを~」っと声だけで見送ってくれた。

まだ朝が早いせいか、街角には人影が見られない。

農村だから、今ごろ仕事中なのかな。

そして俺が金馬のトロフィーからアキレスを呼び出すと、店の中から全裸の吟遊詩人が飛び出して来た。

「す、すまないが。服代だけでも恵んでくれないか!?」

「はぁ~……」って俺が深い溜め息を吐いた。

それから異次元宝物庫から転送絨毯を取り出すと地面に広げる。

「あんた、名前は?」

「オ、オアイドスと申します」

「じゃあオアイドス、ここに立ってくれ」

「はい~……?」

俺はオアイドスと肩を組むと二人で転送絨毯の上に立った。

「ちょっと屈んでくれないか」

「こ、こうですか?」

「転送先が、テント内だからさ」

「テント内……?」

それから俺は、アキレスに話し掛ける。

「アキレス。絨毯を見張っててくれよ。直ぐに戻るからさ」

アキレスはヒヒィーンと唸って答えた。

どうやら理解してくれたらしい。

そして俺は合言葉を口に出す。

「チ◯コ」

「!!!」

俺たちは瞬時にソドムタウンのテント内にテレポートした。

そして俺はテントから出ると、直ぐ側で焚き火に当たっていたスカル姉さんに言った。

「ただいま、スカル姉さん。こいつの面倒も見てくれや」

「いきなり何さ。なんなの、この変態全裸男はさ?」

「頼んだよ~」

俺はスカル姉さんの話を聞かずにテント内に戻ると直ぐに転送してスダンに戻った。

そして転送絨毯を丸めて異次元宝物庫に片付ける。

問答無用だが、まあいいだろう。

「さーて、旅立とうかな~」

俺はアキレスに股がると、手綱を引いて町を出た。

それにしても、放火魔とか吟遊詩人をぶっ倒しても、経験値にならないのかな。

あいつら弱かったから、経験値も低いんだろうな。

次こそレベルアップしたいもんだわ。

そんなことを考えながら、俺は馬を走らせた。

新天地、魔王城を目指す。


【次回につづく】
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

転生したら神だった。どうすんの?

埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの? 人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。

ハズレスキル【分解】が超絶当たりだった件~仲間たちから捨てられたけど、拾ったゴミスキルを優良スキルに作り変えて何でも解決する~

名無し
ファンタジー
お前の代わりなんざいくらでもいる。パーティーリーダーからそう宣告され、あっさり捨てられた主人公フォード。彼のスキル【分解】は、所有物を瞬時にバラバラにして持ち運びやすくする程度の効果だと思われていたが、なんとスキルにも適用されるもので、【分解】したスキルなら幾らでも所有できるというチートスキルであった。捨てられているゴミスキルを【分解】することで有用なスキルに作り変えていくうち、彼はなんでも解決屋を開くことを思いつき、底辺冒険者から成り上がっていく。

微妙なバフなどもういらないと追放された補助魔法使い、バフ3000倍で敵の肉体を内部から破壊して無双する

こげ丸
ファンタジー
「微妙なバフなどもういらないんだよ!」 そう言われて冒険者パーティーを追放されたフォーレスト。 だが、仲間だと思っていたパーティーメンバーからの仕打ちは、それだけに留まらなかった。 「もうちょっと抵抗頑張んないと……妹を酷い目にあわせちゃうわよ?」 窮地に追い込まれたフォーレスト。 だが、バフの新たな可能性に気付いたその時、復讐はなされた。 こいつら……壊しちゃえば良いだけじゃないか。 これは、絶望の淵からバフの新たな可能性を見いだし、高みを目指すに至った補助魔法使いフォーレストが最強に至るまでの物語。

幼馴染み達が寝取られたが,別にどうでもいい。

みっちゃん
ファンタジー
私達は勇者様と結婚するわ! そう言われたのが1年後に再会した幼馴染みと義姉と義妹だった。 「.....そうか,じゃあ婚約破棄は俺から両親達にいってくるよ。」 そう言って俺は彼女達と別れた。 しかし彼女達は知らない自分達が魅了にかかっていることを、主人公がそれに気づいていることも,そして,最初っから主人公は自分達をあまり好いていないことも。

転生したら赤ん坊だった 奴隷だったお母さんと何とか幸せになっていきます

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
転生したら奴隷の赤ん坊だった お母さんと離れ離れになりそうだったけど、何とか強くなって帰ってくることができました。 全力でお母さんと幸せを手に入れます ーーー カムイイムカです 今製作中の話ではないのですが前に作った話を投稿いたします 少しいいことがありましたので投稿したくなってしまいました^^ 最後まで行かないシリーズですのでご了承ください 23話でおしまいになります

「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります

古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。 一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。 一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。 どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。 ※他サイト様でも掲載しております。

処理中です...