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第169話【修道僧】
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そいつを見付けたのは、日が落ちたばかりの暗がりだった。
ゴモラタウンのピンクな明かりが届かない薄暗い裏路地の片隅である。
三階建ての建物と建物との間に置かれた荷物の陰で、指先に魔法の炎を揺らしながら潜んでいた。
あれはキャッチファイヤーの魔法だな。
まさに今現在放火中ですか。
その人物は、麻のローブにフードを被り、腰は荒縄で縛られていた。
貧乏な修道僧の姿である。
坊主が放火魔だなんて、嫌な世の中だな。
俺はスキルで気配を消しながら忍び寄る。
坊主ごときに俺の隠密行動が破られるわけがなかろう。
くっくっくっ、捕まえてやるぜ。
俺が背後から近付くと、修道僧は木箱を指先の炎で炙りだしていた。
もうすぐ引火するだろう。
しかし中々木箱は燃え上がらない。
俺はローブに顔を近付けて囁いた。
「あんた、楽しいか?」
「っ!!???」
修道僧が驚きながら立ち上がる。
俺は腰に下げていたロングソード+2を引き抜いた。
「抵抗するな、放火魔さんよ。抵抗したら切り捨てるぞ!」
「っっ!?」
放火魔さんは、狼狽えていた。
ちなみに何故にロングソードを使っているかと言えば、黄金剣は目立つので異次元宝物庫に入れてあるだけだ。
万が一の時だけ装備しようと決めている。
あれを使えば、ちょっとした敵ならすべてザコになるだろう。
それでは自分の訓練に成らないからな。
試練は苦難なほど、乗り越えた時の経験値が高いのだ。
だからこんな放火魔ごときは、このロングソードで十分だ。
「お前さんが、ここ最近の放火犯だな。取っ捕まえて、番屋に付き出してやるぜ!」
俺が台詞を言い終わると、修道僧は右手を前に付き出した。
「おっ、反抗しますのね。いいよ~、来なさい」
「ファイヤーシャード!」
修道僧の掌内から放たれた炎の礫が俺に浴びせられた。
しかし、俺は動かない。
魔法の礫は俺の眼前で消えて無くなる。
効くわけが無かろう。
俺の全身には複数のマジックアイテムが装備されているんだぞ。
【バックラー+1。魔法耐久向上】
【メイジネックレス+2。魔法耐久向上。魔法の抵抗率向上】
【プレートメイルの左腕+3。耐火向上。魔法耐久向上。体術向上】
【ウィザードローブ+3。耐火向上。耐冷気向上。魔法耐久向上】
これだけの対魔法と対火防御能力だぜ。
そんじょそこらの魔法使いレベルが、屁のような魔法で炙ったぐらいじゃあよ、焦げの一つもつけられないんだからね。
案の定、修道僧も驚いてやがる。
だが、まだ諦めてないようだな。
その証拠に逃げやがらない。
まあ、逃げたからって俺の俊足から逃げ切れはしないけれどな。
そう、お前は俺に見つかった段階で、詰んだのだよ。
諦めない修道僧が両手を付き出した。
なんだい?
今度はどんな魔法かな?
どんな魔法でも弾いてやるぜ。
「マジックインフェルノォォオオオ!!」
えっ?
なにその魔法?
聞いたこと有りませんが?
「ぅぅらあああ!!」
「うそっ!!!」
修道僧から放たれる魔法は炎の津波だった。
この路地一杯を包み込むレベルの炎の大波が押し寄せて来る。
躱す余地は皆無。
食らうしか無い。抵抗するしか無い。
兎に角、耐えるしか無い!!
「ゆぅぅううう!!!」
俺は腕をクロスさせて顔だけ守った。
熱いじゃんか!!
抵抗しきれて無いな。
身体が焦げているぞ。
だが、耐えられる。
この程度ならば、耐えられるぞ。
何せエクスフロイダー・プロミスのファイヤーボールも我慢したんだ。
このぐらい耐えられるぞ。
しかし────。
炎の波が止まらない!?
炎が止まれば!!
止まれば!?
止まれよ!?
やば、熱には耐えられそうだけど、呼吸ができないぞ。
空気が燃え上がってて、酸素がねえじゃんか!?
このままだと、窒息しちゃうわ!!
俺は踵を返すと路地を逆走した。
吹き出す炎と一緒に大通りに飛び出す。
「ぷっはぁ~、空気だ!!」
俺は大きく息を吸い込むと振り返る。
「今日は新鮮な空気が旨い日だぜ!」
俺が裏路地を睨み付ければ、修道僧が走って逃げ出していた。
「逃がすか、ボケ!!」
俺は走り出していた。
町中で派手な炎系魔法を使いやがって、火事に成ったらどうする気だよ。
俺はあちらこちらが焦げ付いた路地を走り抜けると修道僧を追った。
「人混み……」
裏路地を抜けると、人通りの多い大通りに出る。
多くの風俗嬢が甘い言葉で客を誘っていた。
「見失ったか……」
辺りを見回したが、修道僧のダサイ身なりは見当たらない。
完全に人混みに紛れている。
「何処に行きやがった……」
俺は愚痴を呟きながら周囲を探し回った。
そして、道の隅に落ちている修道僧のローブを見つける。
あの野郎、俺が素顔を知らないからって、ローブだけを脱ぎ捨てて逃げやがったな。
娼婦や客に紛れ込んだな。
卑怯なり!!
畜生、完全に逃げられたぜ。
しかし、ヒントはゲットしている。
犯人は炎系の魔法使いだ。
しかもマジックインフェルノって魔法を使いやがる。
けっこうレベルの高い魔法ぽかったから、あの魔法を使える魔法使いも限られているだろう。
俺は魔法使いギルドに急いだ。
ゾディアックさんなら、あの魔法使いを特定できるかも知れないな。
まだゾディアックさんが魔法使いギルドに残っていてくれればいいんだが。
それを願いながら俺は先を急いだ。
俺、あの人の家を知らんのだよな。
まだ、残業をしていてください、ゾディアックさん!!
【つづく】
ゴモラタウンのピンクな明かりが届かない薄暗い裏路地の片隅である。
三階建ての建物と建物との間に置かれた荷物の陰で、指先に魔法の炎を揺らしながら潜んでいた。
あれはキャッチファイヤーの魔法だな。
まさに今現在放火中ですか。
その人物は、麻のローブにフードを被り、腰は荒縄で縛られていた。
貧乏な修道僧の姿である。
坊主が放火魔だなんて、嫌な世の中だな。
俺はスキルで気配を消しながら忍び寄る。
坊主ごときに俺の隠密行動が破られるわけがなかろう。
くっくっくっ、捕まえてやるぜ。
俺が背後から近付くと、修道僧は木箱を指先の炎で炙りだしていた。
もうすぐ引火するだろう。
しかし中々木箱は燃え上がらない。
俺はローブに顔を近付けて囁いた。
「あんた、楽しいか?」
「っ!!???」
修道僧が驚きながら立ち上がる。
俺は腰に下げていたロングソード+2を引き抜いた。
「抵抗するな、放火魔さんよ。抵抗したら切り捨てるぞ!」
「っっ!?」
放火魔さんは、狼狽えていた。
ちなみに何故にロングソードを使っているかと言えば、黄金剣は目立つので異次元宝物庫に入れてあるだけだ。
万が一の時だけ装備しようと決めている。
あれを使えば、ちょっとした敵ならすべてザコになるだろう。
それでは自分の訓練に成らないからな。
試練は苦難なほど、乗り越えた時の経験値が高いのだ。
だからこんな放火魔ごときは、このロングソードで十分だ。
「お前さんが、ここ最近の放火犯だな。取っ捕まえて、番屋に付き出してやるぜ!」
俺が台詞を言い終わると、修道僧は右手を前に付き出した。
「おっ、反抗しますのね。いいよ~、来なさい」
「ファイヤーシャード!」
修道僧の掌内から放たれた炎の礫が俺に浴びせられた。
しかし、俺は動かない。
魔法の礫は俺の眼前で消えて無くなる。
効くわけが無かろう。
俺の全身には複数のマジックアイテムが装備されているんだぞ。
【バックラー+1。魔法耐久向上】
【メイジネックレス+2。魔法耐久向上。魔法の抵抗率向上】
【プレートメイルの左腕+3。耐火向上。魔法耐久向上。体術向上】
【ウィザードローブ+3。耐火向上。耐冷気向上。魔法耐久向上】
これだけの対魔法と対火防御能力だぜ。
そんじょそこらの魔法使いレベルが、屁のような魔法で炙ったぐらいじゃあよ、焦げの一つもつけられないんだからね。
案の定、修道僧も驚いてやがる。
だが、まだ諦めてないようだな。
その証拠に逃げやがらない。
まあ、逃げたからって俺の俊足から逃げ切れはしないけれどな。
そう、お前は俺に見つかった段階で、詰んだのだよ。
諦めない修道僧が両手を付き出した。
なんだい?
今度はどんな魔法かな?
どんな魔法でも弾いてやるぜ。
「マジックインフェルノォォオオオ!!」
えっ?
なにその魔法?
聞いたこと有りませんが?
「ぅぅらあああ!!」
「うそっ!!!」
修道僧から放たれる魔法は炎の津波だった。
この路地一杯を包み込むレベルの炎の大波が押し寄せて来る。
躱す余地は皆無。
食らうしか無い。抵抗するしか無い。
兎に角、耐えるしか無い!!
「ゆぅぅううう!!!」
俺は腕をクロスさせて顔だけ守った。
熱いじゃんか!!
抵抗しきれて無いな。
身体が焦げているぞ。
だが、耐えられる。
この程度ならば、耐えられるぞ。
何せエクスフロイダー・プロミスのファイヤーボールも我慢したんだ。
このぐらい耐えられるぞ。
しかし────。
炎の波が止まらない!?
炎が止まれば!!
止まれば!?
止まれよ!?
やば、熱には耐えられそうだけど、呼吸ができないぞ。
空気が燃え上がってて、酸素がねえじゃんか!?
このままだと、窒息しちゃうわ!!
俺は踵を返すと路地を逆走した。
吹き出す炎と一緒に大通りに飛び出す。
「ぷっはぁ~、空気だ!!」
俺は大きく息を吸い込むと振り返る。
「今日は新鮮な空気が旨い日だぜ!」
俺が裏路地を睨み付ければ、修道僧が走って逃げ出していた。
「逃がすか、ボケ!!」
俺は走り出していた。
町中で派手な炎系魔法を使いやがって、火事に成ったらどうする気だよ。
俺はあちらこちらが焦げ付いた路地を走り抜けると修道僧を追った。
「人混み……」
裏路地を抜けると、人通りの多い大通りに出る。
多くの風俗嬢が甘い言葉で客を誘っていた。
「見失ったか……」
辺りを見回したが、修道僧のダサイ身なりは見当たらない。
完全に人混みに紛れている。
「何処に行きやがった……」
俺は愚痴を呟きながら周囲を探し回った。
そして、道の隅に落ちている修道僧のローブを見つける。
あの野郎、俺が素顔を知らないからって、ローブだけを脱ぎ捨てて逃げやがったな。
娼婦や客に紛れ込んだな。
卑怯なり!!
畜生、完全に逃げられたぜ。
しかし、ヒントはゲットしている。
犯人は炎系の魔法使いだ。
しかもマジックインフェルノって魔法を使いやがる。
けっこうレベルの高い魔法ぽかったから、あの魔法を使える魔法使いも限られているだろう。
俺は魔法使いギルドに急いだ。
ゾディアックさんなら、あの魔法使いを特定できるかも知れないな。
まだゾディアックさんが魔法使いギルドに残っていてくれればいいんだが。
それを願いながら俺は先を急いだ。
俺、あの人の家を知らんのだよな。
まだ、残業をしていてください、ゾディアックさん!!
【つづく】
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