上 下
153 / 604

第153話【ドラゴンスレイヤー】

しおりを挟む
俺はアルビレオを見送ってから裏庭の詰所に向かって歩きだした。

そう言えばパーカーさんのホモ疑惑は前からあったな。

以前俺がポラリスが脱ぎ捨てたドレスを悪戯に着こんだ時に、何故かパーカーさんはロン毛のカツラをすぐさま差し出しやがった。

あの時は疑問にすら思わなかったが、よくよく考えれば、普通の男性がロン毛のカツラなんて持っていないだろう。

あのカツラは女装ようのカツラだったのかも知れない。

だとするならば、パーカーさんとアルビレオの関係は、パーカーさんが女役で、アルビレオが男役なのだろうか?

なんだかアンバランスだが、可能性は有るのかも知れない。

まあ、彼らの関係を否定したいわけではないので、どうでも良いのかも知れないな。

二人の恋話に、呪われている俺が口を挟む問題でもなかろう。

誰が誰を愛しても俺の呪いが解けるわけでもないのだ。

まあ、ほっておこうか──。

そんなことを考えながら俺は木刀と丸太を素振りしている三人の前に立った。

三人は真剣な顔で素振りに励んでいた。

顔も体も汗だくである。

そして、俺に気が付いたパーカーさんが素振りをしながら俺に話しかけて来る。

「お帰り、アスランくん。これからダンジョンに入るのかい。扉を開けようか?」

「いいや、今日は探索をやめておくよ。休みだ」

「そうかい」

俺に話かけながら素振りを続けるパーカーさんに習ってポラリスとスパイダーさんも素振りを止めない。

しかし、ポラリスとスパイダーさんには、俺と話す余裕は無いようだ。

息が荒い。

「三人は食後の稽古かい?」

俺の質問にパーカーさんが答える。

「ああ、そろそろ一時間になるから、終わりかな」

えっ?

この人たちは、一時間も素振りをやってたのか?

熱心だね~。

そして、パーカーさんが素振りを中断すると、ポラリスとスパイダーさんも素振りを止めた。

スパイダーさんは熱い溜め息を吐いて拾うを表現していたが、パーカーさんは息を上げてもいない。

ポラリスに関しては、素振りを止めた途端に膝から崩れるほどに疲れた様子だった。

なるほどね。

怪力を有していても、体力はスパイダーさん以下なのか。

まあ、こいつだけ丸太を振るってたもんな。

そして、俺は膝を付くポラリスの前に立って話し掛ける。

「ポラリス、だらしないな~」

俺が彼女を揶揄すると、ポラリスはギロリと睨んで来た。

「お主は一時間も素振りができるのか!」

「たぶんできる。何せ何時間も走り続ける体力は有るからな」

「走るのと素振りでは、体力の使い方が違うではないか!?」

「だな~。よし、試してみるか」

そう述べたあとに俺はポラリスが振るっていた丸太を持ち上げる。

直径15センチぐらい、長さは170センチぐらいかな。

そこそこ重いが俺の筋力はマジックアイテムで強化されている。

ズルイかも知れんが、だから振るえない重さでもないのだ。

俺は素振りを始めた。

うんうん、これならば1時間ぐらい余裕だろう。

俺は丸太を振るいながらポラリスに話し掛けた。

「なあ、ポラリス。お前はまだ俺と結婚したいのか?」

「あたりまえじゃ。だから毎日トレーニングに励んでいるのだぞ」

「でも、俺は呪いのせいでお前のほどほどサイズの乳すら揉めないんだぞ。それを理解しているのか?」

「それはいずれどうにかしてみせる」

「どうにかって?」

「私に解決出来なければ金を使って誰かを雇えば良い。もしくはお主が勝手にどうにかするだろう」

「んー、まー、そうだな。俺は個人でどうにかしたいけど、それでもお前と結婚するのは別の話だ」

「呪いが解けてもわたくしと結婚したくないと申すのか?」

「分からん。だって俺はお前を愛してないからな。恋愛感情が生まれるほどのビッグイベントも無かっただろ」

「それはそうだな。よし、デートでもするかえ?」

「しねーよ、面倒臭いな」

「もう、そう言うところが本当にたまらないのだぞ、お前は!?」

「こんなところが嫌いか?」

「逆じゃ。塩対応がたまらなく惚れ惚れするのじゃ!」

あー、こいつは頭のネジが何本も揺るんでいるんだな。

こいつの恋愛感情は壊れてやがるぞ。

「はぁー、なんでこんなヤツらばかりに惚れられるかな、俺は……」

俺は素振りをしながら深い溜め息を吐いた。

その俺を見てポラリスが訊いて来る。

「こんなヤツらとは、どういう意味だ?」

「前にも婚姻を迫られて保留しているヤツがいてね……」

「なんだと! そんなヤツは、わたくしが殺してやるぞ!!」

過激なことを言う娘だな……。

だが、無理だろうな、ポラリスじゃあ。

何せ相手はドラゴン様だもの。

5000歳以上のドラゴンですよ。無理無理。

「アスラン、その者は誰じゃ。身元を教えてくれ!!」

「相手はドラゴンだ。俺との子供を産みたくて、今は山に帰っている」

「ド、ドラゴン……。お主は変わった者ばかりに惚れられるな……」

お前もその一人だろ……。

「そうなるとだ。わたくしはドラゴンスレイヤーに成長しなければならんのだな!!」

ええっ!?

こいつマジでドラゴンとやり合うつもりですか!?

なに、途方もない馬鹿ですか!?

「わ、分かった。じゃあ、そのドラゴンに勝てたら結婚してやるよ……」

「本当か、アスラン!?」

ポラリスは目映い笑顔で訊いて来たので俺は「う、うん……」と頷いた。

「ドラゴンの名前は分かっているのか!?」

「グラブルってドラゴンだ……」

「居場所は!?」

「知らん……」

「よし、分かった。退治は任せておけ、アスラン!!」

そう元気に述べるとポラリスは、新たな目標に向かって走り出した。

そのまま城の中に走って行く。

俺は素振りをやめてパーカーさんやスパイダーさんと顔を見合わせた。

俺が二人に問う。

「あれは、大丈夫かな……?」

スパイダーさんが呑気に答えた。

「大丈夫だぁ~。おそらくドラゴンになんて相手にもされないぜぇ。ひゃひゃひゃ」

「だよね~~……」

本当にそうだと良いのだが……。

少し心配である。



【つづく】
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

転生したら神だった。どうすんの?

埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの? 人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。

ハズレスキル【分解】が超絶当たりだった件~仲間たちから捨てられたけど、拾ったゴミスキルを優良スキルに作り変えて何でも解決する~

名無し
ファンタジー
お前の代わりなんざいくらでもいる。パーティーリーダーからそう宣告され、あっさり捨てられた主人公フォード。彼のスキル【分解】は、所有物を瞬時にバラバラにして持ち運びやすくする程度の効果だと思われていたが、なんとスキルにも適用されるもので、【分解】したスキルなら幾らでも所有できるというチートスキルであった。捨てられているゴミスキルを【分解】することで有用なスキルに作り変えていくうち、彼はなんでも解決屋を開くことを思いつき、底辺冒険者から成り上がっていく。

微妙なバフなどもういらないと追放された補助魔法使い、バフ3000倍で敵の肉体を内部から破壊して無双する

こげ丸
ファンタジー
「微妙なバフなどもういらないんだよ!」 そう言われて冒険者パーティーを追放されたフォーレスト。 だが、仲間だと思っていたパーティーメンバーからの仕打ちは、それだけに留まらなかった。 「もうちょっと抵抗頑張んないと……妹を酷い目にあわせちゃうわよ?」 窮地に追い込まれたフォーレスト。 だが、バフの新たな可能性に気付いたその時、復讐はなされた。 こいつら……壊しちゃえば良いだけじゃないか。 これは、絶望の淵からバフの新たな可能性を見いだし、高みを目指すに至った補助魔法使いフォーレストが最強に至るまでの物語。

幼馴染み達が寝取られたが,別にどうでもいい。

みっちゃん
ファンタジー
私達は勇者様と結婚するわ! そう言われたのが1年後に再会した幼馴染みと義姉と義妹だった。 「.....そうか,じゃあ婚約破棄は俺から両親達にいってくるよ。」 そう言って俺は彼女達と別れた。 しかし彼女達は知らない自分達が魅了にかかっていることを、主人公がそれに気づいていることも,そして,最初っから主人公は自分達をあまり好いていないことも。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります

古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。 一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。 一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。 どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。 ※他サイト様でも掲載しております。

処理中です...