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第130話【謎の穴、再び】

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俺はスパイダーさんをぶっ倒してから昼食を取ると、午後になってから閉鎖ダンジョンに入った。

ゴモラタウンにやって来て今日で五日目だ。

そして三回目のダンジョン侵入である。

当初の目的であるドラゴンの幽霊だったテイアーを、ベルセルクの爺さんに会わせるための条件として、三体の英雄クラスアンデッドを倒すこととなった。

三体の英雄クラスアンデッドを倒せばテイアーが身体まで帰れるようになる。

そしたらテイアーもベルセルクの爺さんに会ってやっていいとのことなのだ。

なんとも遠回りな面倒臭い話である。

まあ、そこまで達成できたら今回の仕事は終了なのだが、話はまだまだややこしい。

何故にややこしいかと言えば、俺がダンジョンへ出入りしている入口から目的地のドラゴンの身体が在るエリアまでの簡単なマップはもらっているが、そこまでの道中に居ると思われる英雄クラスアンデッドを探さなければならない。

もしも、道中まで書かれたマップ以外に英雄クラスアンデッドが居なければそれでいいのだが、もしも縄張りとして陣取られていたら、退治しなければならないのだ。

何せあいつらアンデッドは地縛霊的な習性があるから、気に入った場所から立ち退かない場合が少なくない。

それが面倒臭い話なのだ。

相手は曲がりなりにも英雄クラスだから、戦うとなると一苦労であろう。

出来れば不意打ちで決着がつけられれば幸いなのだが……。

でも、そんなに甘くないかな……。

まあ、悩んでも仕方ないので、兎に角討伐気分で俺はダンジョンを進んだ。

そんでもってスパイダーさんをぶっ倒して獲得した新スキルを紹介しよう。

新スキルは二つである。

【パッシブ・パワーマスタリー。筋力が向上する】

うん、有難いスキルである。

筋力がアップすれば色んな物が向上したも当然だからね。

腹を見たら腹筋が綺麗に割れてますよ。

うんうん、逞しい限りだ。

これで少しはポラリスに力負けしないだろうか?

まあ、いいか──。

そんでもって二つ目の新スキルは──。

【インプルーブピンチ。生命力が残り一割を切ると発動する。発動中はすべての運動能力が約2倍まで向上する】

おお、これは良いスキルだな。

前回みたいな大ピンチから脱出できるかも知れないぞ。

完全な保険だが、備えは無いより有ったほうが絶対に良いからね。

まあ、スパイダーさんをぶっ倒したかいが有ったってもんだわ。

よーーし、ダンジョンを進むぜ。

と、いった感じで俺はダンジョンを進んだ。

道中で、メイドたちが入浴していた謎の穴のあるポイントを通り抜けようとした時だった。

湯気が上がる謎の穴から明るい声が聴こえて来た。

くっ、苦しい……。

あの穴から聴こえる乙女の明るい声を聞いただけで胸が痛んでしまう。

だ、だが~~。

俺の身体は謎の穴に引っ張られた。

そこには乙女の秘密が潜んでいるのだ。

それを聞かずには居られるか!

俺は胸の痛みを耐えながら謎の穴を覗き込む。

しかしやはり中は蒸気だけで何も見えない。

仕方ないので俺が耳を添えると、謎の穴の向こうから二人の声が聞こえて来た

「メイド長様、お疲れさまです」

「あら、アンナさんもこれからお風呂なの?」

「はい、今日はプリンセス様のお付きでしたが、実家の都合で早退します」

「あらあら、それは大変でしたね」

あれ、なんだ、デジャブ?

いやいや、微妙に違うな。

「メイド長様、聞いてくれますか」

「何かしら?」

「今度はポラリス様ったら、場内でランニングを始めましたのよ~」

「あらあら、それはまた新たな筋トレ脳に火が付いたのかしら」

「なんでもベルセルク様がお入れになった冒険者に唆されているようで」

「あら、まあ~」

いやいやいや、俺はそんなこと唆して無いぞ。

完全に言いがかりだぜ。

「でも、いいんじゃあないの。健康的で」

「冗談じゃあないですよ。私はレスリングができるからメイドとして呼ばれたんですよ。トレーニングには付き合わされる立場なんですから」

どんなメイドだよ!

レスリングができるからってメイドとして雇われるか、普通よ!!

てか、パーカーさん曰く、アンナってメイドはかなりウッチャリ系の女性だって言ってたよな。

それって、メイドとして麗しく無いよね!!

最初っからトレーナーとして雇えよな!

なんか急に胸の痛みが引いてきたわ……。

「いいですよね、メイド長はお姫様のトレーニングに付き合わなくっていいんですから」

「まあ私は普通のメイド長ですからね。身の周りの世話だけですから」

その時で有った。

ガラガラッと扉が開く音が聴こえた。

え、引き戸なの?

まあ、それは置いといて、新たに誰かがお風呂に入って来たようだ。

「ポ、ポラリスさま!!」

メイドたちが驚いていた。

どうやらポラリスがお風呂に入って来たようだが、何故に驚いている?

怪力ポラリスでもお風呂ぐらい入るだろ?

えっ、もしかしてポラリスってお風呂に入らないタイプなの!?

そして、俺の疑問を他所にポラリスが述べる。

「ああ、畏まらなくて良いぞよ。わたくしのほうがお邪魔なのだから」

「何故にポラリスさまが、このようなメイド用の湯に!?」

あ~、ここはメイド用の女湯なんだ。

君主の孫が来るような場所ではないのだな。

「トレーニングで汗をかいたから湯を浴びたかったのだが、わたくしの部屋のお風呂が壊れてしまってな」

「は、はあ……」

「仕方ないから、ここに来たのじゃ。だから畏まらなくてよいぞ」

「ですが我々下々と一緒の湯に浸かるなんて……」

「構わぬぞ。どうせわたくしは何時もながらアンナたちと揉みくしゃにトレーニングを行っているのだ。今さら気にもせん」

「は、はあ……」

「だから、一緒に浸かろうぞ」

「わ、分かりました」

それからしばらくは無言が続いた。

三人とも口を開かない。

詰まらないから俺が立ち去ろうとした時であった。

ポラリスが気になる発言を放つ。

「なあ、メイド長にアンナよ。お主らはアスラン殿をどう思う?」

ぬぬっ?

何故に俺の名前が出て来る?

「どう思うかと、言いますと?」

「な、なんと言うか、あれじゃ、あれじゃよ」

あれとは何だよ!?

「あれとは、何でございましょう?」

良く訊いた、アンナ!!

「うむ、あ、あの男をどう見るかだ……」

なんだ、ポラリス!?

何故にそんなに照れくさそうに問う!?

何故だよ!?

「それは、男としての魅力でございましょうか?」

ええっ!!

男としての、俺の魅力ですか!?

「そうじゃ、メイド長。お前もあの男を見ているだろ?」

「はい、拝見いたしましたが──」

え、そうなの?

メイド長さんも俺を見ているのか?

俺はあなたの姿は分からんですよ。

「正直に答えて宜しいでしょうか、ポラリスさま?」

「ええ、構わぬぞ」

「私には子供過ぎますので、男とは見れません。あれは弟と同い年ぐらいですから」

「そ、そうか……」

へぇー、メイド長さんてお姉さんタイプなのか~。

それはそれで俺の中では有りだよ~。

ぐっ!!

ちょっと胸が……。

「では、アンナはどう思う?」

「私は無しですね。だって貧乏そうだもの」

何を、この女は!!

確かにパーカーさんはデブとか言ってたよな!!

デブが貧乏を馬鹿にするなんて、それは食費が問題か!?

飢えるのが怖いか!?

貧乏になって飢えるのが怖いんだな!!

俺は冒険者の中でも金持ちのほうだぞ!!

今まで全裸ネタは多かったが貧乏ネタなんて無かっただろう!!

「そうか、あやつはやはり貧乏なのか?」

「そりゃあポラリスさまから見たら貧乏ですよ。でも、年頃としてはポラリスさまと近いから、私はポラリスさまとお似合いかと思いますが?」

「やだ、もお~、アンナったら!!」

「げふっ!!」

ドゴーーンっと俺が耳を寄せていた壁が激しく揺れた。

どうやらアンナが投げつけられたようだ。

流石は怪力プリンセスだわ……。

「わたくしはあの方を男としてなんて、見てないですわよ。一冒険者としてどうかなって思っているだけですわ!!」

じゃあ、何故にそんなに慌てる!!

この穴から入り込んで、力一杯突っ込んでやりたいぞ!!

なんだろうな!?

あのお姫さまにはムラムラしないんだよな!!

何故だろう。

もう、気分が悪くなってきたわ。

「それじゃあ、何故に我々に訊いたのですか?」

メイド長の質問に少し黙ってからポラリスが答えた。

「あの御方を、冒険者の師匠として迎えようかと考えておりますの」

考えるな!!

勝手に考えるなよ、馬鹿プリンセスが!!

俺がお前なんかの師匠になれるわけが無かろうて!!

これだから世間知らずの馬鹿プリンセスは困るよな!!

「それは良い考えですわ」

メイド長も賛成するなよね!!

「分かったわ。100メートルを9秒台を切ったら告白しますわ!!」

切れるか!?

テメーはオリンピック選手になりたいのかよ!!

「あやつを婿に迎えて息子を閉鎖ダンジョン攻略の冒険者に育ててやるわよ!!」

なんだよ、そのビッグな夢はよ!!

なんで俺がお前の婿に行かにゃあならんのだ!!

誰が、あんな馬鹿女と結婚するか!!

確かに可愛いよ!!

でも、ベッドの上で締め殺されるぞ、あの怪力にさ!!

俺はプリプリと怒りながら謎の穴から離れた。

こうなったらあいつが100メートルを9秒台で走りきる前に、この閉鎖ダンジョンのミッションをクリアしてやるぞ。


【つづく】
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