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第128話【売買】

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俺とポラリスはワイズマンの屋敷で客間に通された。

ソファーの隣にはポラリスが座り、テーブルを挟んで前には正装して来たワイズマンが腰かけている。

いつものようにパンダの剥製がお茶を運んできたが、ポラリスは微動だにしない。

平然としている彼女には、パンダがお茶を運んで来ても珍しい光景では無いようだ。

「なんでアスランくんが、ポラリスさまを連れて歩いているんだい?」

ワイズマンが怪訝そうに訊いて来たので、俺は面白半分に冗談を飛ばす。

「あ~、言ってなかったっけ?」

「何をだね?」

俺は隣に座るポラリスの肩を掴んで身体を引き寄せた。

「俺たち、結婚します!」

「本当かい!?」

「そんなわけが有るかーー!!」

俺は怒ったポラリスにドスコーイと突き飛ばされて、長ソファーを飛び出して数メートルも離れた壁に激突した。

「うごぉ………」

く、首が折れるかと思ったぞ……。

次からはやめよう。このネタは危険だわ。

俺はヨタヨタとソファーに戻った。

まだポラリスは頬を膨らまして怒っている。

「まあ、こいつはさておいてだ」

俺は懐から手の平サイズのダイヤと宝刀のダガーを取り出した。

「これを買い取ってもらいたい」

俺が二つのアイテムを滑らせワイズマンの前に動かす。

ワイズマンはテーブルの上から宝刀のダガーを取ってマジマジと見回した。

「これはマジックアイテムかね?」

「いいや、二つとも閉鎖ダンジョン内で拾った物だがマジックアイテムではない」

「ふふん~」

ワイズマンは虫眼鏡を出して、二つを観察してから述べる。

「マジックアイテムでなければ、安値だな。まず、これはガラス玉だ」

ワイズマンは、ガラス玉だと評価したダイヤをテーブルの上でクルクルと回した。

「あら、ガラスなのかよ」

ならばただ同然だな。

畜生、あのゴーレムはトラップかよ。

結構強かったのにさ。

「次にこの宝刀の出来は素晴らしいが、それだけだな。まあ、高くても500Gかの~」

うわぁ~、思ったより安いな。

これじゃあ二日目の戦利品は赤字だわ。

まったくもって死にかけたかいが無いぞ。

「なるほどね。やっぱりマジックアイテムじゃあないと金にならないか」

「閉鎖ダンジョン内は、ほとんど物品は無いのかね?」

俺がポラリスをチラリと見ると、真剣な眼差しで俺を見ていた。

俺は視線をワイズマンに戻す。

なんか俺は悔しかったから方位磁石を出した。

「これは?」

「マジックアイテムだぞ。周囲10メートル内の気配を感じ取る方位磁石だ」

針は隣のポラリスを指していた。

「針は一つだから、最短の人物を指すようだな」

「だな」

「それならば2500Gで買い取ろう」

「売ったぜ」

「まあ、私の取り分は、ほとんど無いがね」

「まだ始まったばかりだからな。またマジックアイテムを拾ったら持って来るよ」

「でぇ~、今日来たのはそれだけではないだろう?」

「分かっているね、ワイズマン」

「なんだい?」

「知りたいことがある」

「それは?」

「閉鎖ダンジョンに巣くう英雄クラスのアンデットの名前が知りたい」

「ほほう、それは面白い話だな」

テイアーから聞いたのは外見だけだ。

「一体目は大柄の重戦士。二体目は魔法使い。三体目は黄金の剣を持った戦士だ。これらの外観から分かる情報は無いかな?」

ワイズマンは腕を組んで考え込む。

そして述べた。

「重戦士と魔法使いは情報量が少なすぎて分からないが、三体目の黄金の剣を有して居る剣士は分かるな」

「それは誰だ?」

「百年前ぐらいに閉鎖ダンジョンへ挑んだ、黄金剣のセルバンテスだろう」

「セルバンテス……」

「百年も前の冒険者だったが、それはえらく強かったと聴いているわい。何でもソロだったとか」

「俺と同じソロの勇者ですか」

「それが、勇者って柄じゃあ無かったらしいぞ。ソロだから不意打ち闇討ちなんでも上等、勝つためなら何だってやるタイプだったとか」

うわっ、俺と同じタイプだよ。

 まさに勇者じゃあないわ。

「今までも閉鎖ダンジョン内で黄金の剣を持ったアンデットに出合ったことがあるって噂が有ったけれど、本当だったんだね」

「もしも、その黄金の剣を持ってきたら、幾らになる?」

「さっきも言っただろう。すべては強力なマジックアイテムかどうかだ」

「分かったぜ。ゲットできたら持ってくるかも」

「やはり売らずに使うかね」

「そりゃあそうだろ」

「やはり幾つかはマジックアイテムを拾っとるな」

「じゃあ、俺は帰るぜ」

そう言うと俺はワイズマンの屋敷を出た。

テクテクと進む俺の後ろをチョコチョコとポラリスが速足で付いて来る。

「なあ、ポラリス」

「なんじゃ?」

俺は振り向かずに述べた。

「俺についてこれるかな?」

「ついて来る?」

「よーーーい、どんっ!」

俺はダッシュで走り出すとポラリスが必死に追い駆けて来る。

だが、彼女は遅いな。

「ひゃはっはっはっ~~、遅いぞお姫さま~」

「な、なにを!!」

俺とポラリスの間が少しずつ開いて行く。

まあ~、俺はスキルでマラソンコストダウンとノットランを持ってるからな。

怪力では向こうだが、脚力なら負けないぜ。

いざとなったら魔法オーバーランも有るし、やっぱり脚力だと負けやしないな。

俺はゴモラタウンの第一ゲートまで走ると遅れているポラリスを待った。

「遅いな~」

「ぜぇはー、ぜぇはー……」

しばらくすると、彼女は激しく息を切らせてやっとゲートに到着した。

「お、おぬしは足が、は、速いのぉ……」

ポラリスが息絶え絶えに言うと、俺は彼女の肩を叩きながら述べる。

「やっぱりお前を連れて冒険には出れないわ」

「な、何故じゃ!?」

「足が遅いもの」

「だからそれがどうした!?」

「だって俺はソロだよ。そんな俺がお前をパーティーとして迎えても、二人のパーティーだ。俺は敵が多ければ逃げも隠れもする。そんなスタイルの冒険がお前にできるか?」

「逃げも隠れもするって、何故に戦わない!?」

「戦ったら負けるからに決まってるだろ。負けたら死ぬんだぞ」

「だからって、逃げるなんて……」

「普通、逃げるだろ」

ポラリスは可愛らしくコクリと頷いた。

するとゲート内に向かって走り出す。

まるでマラソンでもするようにだ。

そのまま居なくなる。

「なんなんだ、あいつ?」

その日からポラリスのトレーニングが筋トレだけでなく長時間のマラソンまでメニューに組み込まれたと言う。

あの馬鹿お姫さまは、諦めていないようだ。

今からマラソンに励んで脚力を上げるらしいな。


【つづく】
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