上 下
120 / 604

第120話【プリンセス・ポラリス】

しおりを挟む
俺はパーカーさんと一緒にスパイダーさんを、城の教会に連れて行った。

スパイダーさんは椅子に縛られたままである。

俺とパーカーさんとで担いで運んだのだ。

勿論ながらスパイダーさんの猿轡もそのままだ。

しかも、プリップリッと屁が五月蝿い。

そして、呪われたスパイダーさんを椅子ごと祭壇の前に置くと司祭さまを待った。

「へぇ~、ここが教会かぁ~。豪華だな~」

よくよく考えたら、この世界にやって来て一度も教会に訪れたことが無かったな。

まあ、信者でもないしね。

この教会は城内にあるんだから、相当お金が掛かってるんだろうけれど、それにしても豪華だわ。

俺が豪華な教会内をキョロキョロ見回している横で、スパイダーさんは項垂れながらプリップリッとしていた。

なんだか暴れる気力すら失せたようだ。

するとパーカーさんがドヤ顔で話し掛けて来る。

「どうだ、豪華だろ。この教会は」

「ええ、確かに豪華ですな」

「俺の家と、スパイダーやピーターの家などが数年前に資金を出して改装されたばかりの教会なんだぜ」

「へぇ~、そりゃあ凄いや」

だから役立たずの次男でも、囲って貰えてるんだね。

そして、しばらくすると司祭さまがやって来た。

モッチリと腹を出した髭面の老人で、人は良さそうな感じである。

その後ろに、きらびやかなドレスを纏ったお姫さま風の女性と数人のメイドを連れていた。

なんだろう?

屁が止まらない野郎を、面白半分に見に来たのか?

それにしても美人揃いだな。

メイドたちも美人ばかりで可愛らしいが、きらびやかに着飾ってるお姫さま風の女の子も美人だった。

髪型が縦ロールだよ。

初めて見たわ。

それにしても、可愛い度が三割で、美人度が七割ぐらいの配分ですな。

年頃は俺と代わらない。

ちょっと強きなところがチャーミングですわ。

そんなことを俺が考えていると、髭面司教さまが慌てながら話し掛けて来る。

「屁の呪いだとか? それはそれは大変ですね!?」

俺は受け応えをパーカーさんに任せる。

俺みたいな無礼者が出て行って、話が揉めたら詰まらなかろう。

「はい、司祭さま。このスパイダーが屁の呪いに落ちました!」

「屁の呪いとは、おそろしや!」

皆が耳をすませば、スパイダーさんからプリップリップリッと、はしたない音楽が聴こえて来る。

やべぇ~な。笑っちまいそうだわ!

真面目に屁の屁のって五月蝿いよ!

ほら、後ろの女性人たちも笑いを耐えてのがやっとじゃあないか。

お姫さまなんて扇子で隠しているけれど、頬を膨らまして笑いを耐えているよ。

パーカーさんが真顔で問う。

「司祭さま、どうやったらこの屁の呪いは解けるのでしょうか!?」

「聖水ですな!」

「聖水、ですか?」

「そう、聖水です!!」

そう述べると司祭さまは袖口から瓶に詰まった聖水を取り出した。

「これを頭から思いっきりかけてみなされ」

「はい、分かりました」

パーカーさんが司祭さまから聖水の入った瓶を渡される。

瓶の口はコルク栓で塞がれていた。

「あ、あれ~……」

パーカーさんが瓶のコルク栓を引き抜こうとしていたが、なかなか栓は引き抜けない。

「か、固いな、この栓……」

「え、そんなに固いのですか?」

パーカーさんと司祭さまがあたふたしているので俺が出て行く。

「ちょっと貸してみな」

「す、すまない、アスランくん……」

俺はパーカーさんから聖水の瓶を受け取ると、コルク栓を引き抜こうと力を込めた。

よーし、女子たちに俺のかっこいいところを見せちゃうぞぉ~。

ぬぬっ!

思ったより固いぞ。

もう一度だ!

「おぉぉらあああ!!」

かーてーえーぞー!!

何これ固いじゃんか!?

「ぉぉおおおらああ!!」

マジで抜けねえ!?

俺が必死に栓を抜こうと力んでいると、姫さま風の縦ロール女子が近寄って来る。

「貸してみなさい」

「えっ?」

俺は隙をつかれて瓶を奪われる。

そして彼女は軽くコルク栓を引っ張ると、容易く栓を抜いた。

「「「ええっ!」」」

男子三人が顔を青ざめながら驚いていた。

なんだ、このお姫さまはよ!!

怪力お姫さまかよ!!

「だらしない殿方だこと」

お姫さまは冷めた眼差しでそう述べると瓶を俺に手渡す。

そして元の位置に戻って行った。

その表情はドヤ顔そのもので、なんだかスゲームカつく感じでしたわ。

なんだ、この女はよ!

俺はイライラしながら聖水をパーカーさんに渡した。

司祭さまが述べる。

「パーカー殿、それでは聖水をお掛けになってくださいませ」

「は、はい……」

パーカーさんは言われるがままにスパイダーさんの頭に聖水をドボドボっとぶっかけた。

するとスパイダーさんの身体から、ジュワジュワっと白い蒸気が上がり出す。

それと同時にスパイダーさんが酷く苦しみだした。

「ぐぅぁあああ!!」

それを見ていた女子から悲鳴が上がる。

えっ、マジで呪いだったの?

すると見る見る蒸気が人の形に変わって行く。

屁の霊ですか!?

『おのぉ~れぇ~! 屁で祟り殺してやろうと思ったのにぃぃいいい!!』

マジですか!?

面白い爆笑幽霊の登場ですか!!

でも──。

俺は腰の鞘からショートソードを引き抜いた。

「おらっ!!」

俺は問答無用で斬りかかる。

白い蒸気の霊体に鋭い袈裟斬りを放った。

「ウェポンスマッシュ!」

斬っ、と風を切る。

『ぎぃぁあああ!!』

おお、効いたぜ!

流石はマジックアイテム+1だな!

白い蒸気の霊体は、それで消え失せた。

あっさりと決着が付く。

【おめでとうございます。レベル18に成りました!】

おお、ここでレベルアップですか。

ナイスだね。

俺が歓喜していると後ろから声を掛けられる。

「あなた、なかなかやりますわね」

背後から話し掛けて来たのは、お姫さま風の縦ロール女子だった。

俺が踵を返して見ると、ふてぶてしく微笑んでいやがる。

なんだかやっぱりこのお姫さまは気に食わねえな。

とっても態度が大きいぜ。

そしてお姫さまは高飛車な口調で訊いて来た。

「あなたは、どなたてすの?」

「ああ、俺か?」

「彼は冒険者ギルドのアスラン殿です」

俺が名乗ろうとしたらパーカーさんに先を越された。

するとお姫さまの形相が怖いものに変わる。

持っていた扇子をパーカーさんの顔面に投げつけた。

「どぁっ!!」

ドスンっと重々しい音を立ててパーカーさんが吹っ飛んだ。

扇子の一撃とは思えない衝撃である。

「えっ、なにこの扇子……」

俺が扇子を拾い上げると重々しい重量があった。

これは扇子の重さではないだろう。

鉄扇だわ。

完全な武器である。

「有り難うございます、冒険者さま」

お姫さまは俺から高飛車な態度で扇子を受けとると踵を返した。

そのまま出口に歩み出す。

「今日は面白い物を見せて貰いましたわ。また明日にでもお会いしましょう。それでは──」

そう述べるとお姫さまとメイドたちは、さっさと教会を出て行った。

呆然とする男子全員。

俺は司祭さまに訊いてみた。

「あのお姫さまは誰なの?」

「し、知らんのかね!?」

「知らんから訊いてるんだよ」

「この城の第三プリンセスのポラリスさまです」

「プリンセス・ポラリスかぁ……。怖いな……」

このお姫さまとの出会いが、この城での俺の暮らしを大きく変えるのであった。

そして、俺はよろめきながら立ち上がるパーカーさんに声を掛けた。

「大丈夫か、パーカーさん?」

「だ、大丈夫だよ……」

そう言うパーカーさんの顔面には大きな痣が残っている。

それで鉄扇の重さが鑑みれた。

「か、帰ろうか……」

「そうだね」

俺とパーカーさんが教会を去ろうとすると、司祭さまが声を掛けて来た。

「忘れものですよ……」

司祭さまは、椅子に縛られたままのスパイダーさんを指差している。

ああ、完全に忘れていたわ。

でも、もうどうでもいいや。

スパイダーさんなんてよ。


【つづく】
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

『特別』を願った僕の転生先は放置された第7皇子!?

mio
ファンタジー
 特別になることを望む『平凡』な大学生・弥登陽斗はある日突然亡くなる。  神様に『特別』になりたい願いを叶えてやると言われ、生まれ変わった先は異世界の第7皇子!? しかも母親はなんだかさびれた離宮に追いやられているし、騎士団に入っている兄はなかなか会うことができない。それでも穏やかな日々。 そんな生活も母の死を境に変わっていく。なぜか絡んでくる異母兄弟をあしらいつつ、兄の元で剣に魔法に、いろいろと学んでいくことに。兄と兄の部下との新たな日常に、以前とはまた違った幸せを感じていた。 日常を壊し、強制的に終わらせたとある不幸が起こるまでは。    神様、一つ言わせてください。僕が言っていた特別はこういうことではないと思うんですけど!?  他サイトでも投稿しております。

特殊スキル持ちの低ランク冒険者の少年は、勇者パーティーから追い出される際に散々罵しった癖に能力が惜しくなって戻れって…頭は大丈夫か?

アノマロカリス
ファンタジー
少年テイトは特殊スキルの持ち主だった。 どんなスキルかというと…? 本人でも把握出来ない程に多いスキルなのだが、パーティーでは大して役には立たなかった。 パーティーで役立つスキルといえば、【獲得経験値数○倍】という物だった。 だが、このスキルには欠点が有り…テイトに経験値がほとんど入らない代わりに、メンバーには大量に作用するという物だった。 テイトの村で育った子供達で冒険者になり、パーティーを組んで活躍し、更にはリーダーが国王陛下に認められて勇者の称号を得た。 勇者パーティーは、活躍の場を広げて有名になる一方…レベルやランクがいつまでも低いテイトを疎ましく思っていた。 そしてリーダーは、テイトをパーティーから追い出した。 ところが…勇者パーティーはのちに後悔する事になる。 テイトのスキルの【獲得経験値数○倍】の本当の効果を… 8月5日0:30… HOTランキング3位に浮上しました。 8月5日5:00… HOTランキング2位になりました! 8月5日13:00… HOTランキング1位になりました(๑╹ω╹๑ ) 皆様の応援のおかげです(つД`)ノ

裏でこっそり最強冒険者として活動していたモブ職員は助けた美少女にめっちゃ見られてます

木嶋隆太
ファンタジー
担当する冒険者たちを育てていく、ギルド職員。そんなギルド職員の俺だが冒険者の依頼にはイレギュラーや危険がつきものだ。日々様々な問題に直面する冒険者たちを、変装して裏でこっそりと助けるのが俺の日常。今日もまた、新人冒険者を襲うイレギュラーから無事彼女らを救ったが……その助けた美少女の一人にめっちゃ見られてるんですけど……?

俺のハクスラ異世界冒険記は、ドタバタなのにスローライフ過ぎてストーリーに脈略が乏しいです。

ヒィッツカラルド
ファンタジー
ハクスラ異世界×ソロ冒険×ハーレム禁止×変態パラダイス×脱線大暴走ストーリー=前代未聞の地味な中毒性。 ⬛前書き⬛ この作品は、以前エブリスタのファンタジーカテゴリーで一年間ベスト10以内をうろちょろしていた完結作品を再投稿した作品です。 当時は一日一話以上を投稿するのが目標だったがために、ストーリーや設定に矛盾点が多かったので、それらを改変や改編して書き直した作品です。 完結した後に読者の方々から編集し直して新しく書き直してくれって声や、続編を希望される声が多かったので、もう一度新たに取り組もうと考えたわけです。 また、修整だけでは一度お読みになられた方々には詰まらないだろうからと思いまして、改変的な追加シナリオも入れています。 前作では完結するまで合計約166万文字で601話ありましたが、今回は切りが良いところで区切り直して、単行本サイズの約10万文字前後で第1章分と区切って編成しております。 そうなりますと、すべてを書き直しまして第17章分の改変改編となりますね。 まあ、それらの関係でだいぶ追筆が増えると考えられます。 おそらく改変改編が終わるころには166万文字を遥かに越える更に長い作品になることでしょう。 あと、前作の完結部も改編を考えておりますし、もしかしたら更にアスランの冒険を続行させるかも知れません。 前回だとアスランのレベルが50で物語が終わりましたが、当初の目標であるレベル100まで私も目指して見たいと思っております。 とりあえず何故急に完結したかと言いますと、ご存知の方々も居ると思いますが、私が目を病んでしまったのが原因だったのです。 とりあえずは両目の手術も終わって、一年ぐらいの治療の末にだいぶ落ち着いたので、今回の企画に取り掛かろうと思った次第です。 まあ、治療している間も、【ゴレてん】とか【箱庭の魔王様】などの作品をスローペースで書いては居たのですがねw なので、まだハクスラ異世界を読まれていない読者から、既に一度お読みになられた読者にも楽しんで頂けるように書き直して行きたいと思っております。 ですので是非にほど、再びハクスラ異世界をよろしくお願いいたします。 by、ヒィッツカラルド。

拝啓神様。転生場所間違えたでしょ。転生したら木にめり込んで…てか半身が木になってるんですけど!?あでも意外とスペック高くて何とかなりそうです

熊ごろう
ファンタジー
俺はどうやら事故で死んで、神様の計らいで異世界へと転生したらしい。 そこまではわりと良くある?お話だと思う。 ただ俺が皆と違ったのは……森の中、木にめり込んだ状態で転生していたことだろうか。 しかも必死こいて引っこ抜いて見ればめり込んでいた部分が木の体となっていた。次、神様に出会うことがあったならば髪の毛むしってやろうと思う。 ずっとその場に居るわけにもいかず、森の中をあてもなく彷徨う俺であったが、やがて空腹と渇き、それにたまった疲労で意識を失ってしまい……と、そこでこの木の体が思わぬ力を発揮する。なんと地面から水分や養分を取れる上に生命力すら吸い取る事が出来たのだ。 生命力を吸った体は凄まじい力を発揮した。木を殴れば幹をえぐり取り、走れば凄まじい速度な上に疲れもほとんどない。 これはチートきたのでは!?と浮かれそうになる俺であったが……そこはぐっと押さえ気を引き締める。何せ比較対象が無いからね。 比較対象もそうだけど、とりあえず生活していくためには人里に出なければならないだろう。そう考えた俺はひとまず森を抜け出そうと再び歩を進めるが……。 P.S 最近、右半身にリンゴがなるようになりました。 やったね(´・ω・`) 火、木曜と土日更新でいきたいと思います。

役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !

本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。  主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。 その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。  そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。 主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。  ハーレム要素はしばらくありません。

異世界転生した俺は、産まれながらに最強だった。

桜花龍炎舞
ファンタジー
主人公ミツルはある日、不慮の事故にあい死んでしまった。 だが目がさめると見知らぬ美形の男と見知らぬ美女が目の前にいて、ミツル自身の身体も見知らぬ美形の子供に変わっていた。 そして更に、恐らく転生したであろうこの場所は剣や魔法が行き交うゲームの世界とも思える異世界だったのである。

処理中です...