上 下
108 / 604

第108話【冒険者ギルドでの昼食】

しおりを挟む
俺が無駄な四日間の旅から帰った次の日である。

俺は冒険者ギルドの酒場でゾディアックさんと昼食を食べていた。

彼も既にゴモラタウンで行われた魔法使いギルドの会議から帰って来たらしい。

店の中には、他にも多くの冒険者が酒を飲んでいたが、半数ぐらいは俺に冷たい視線を向けていた。

ゾディアックさんはギルガメッシュに会いに来たらしく、その際に食事中の俺を見つけて席を共にしたらしいのだ。

ゾディアックさんがスープの中のジャガイモをホークで突っつきながら俺に問う。

「キミは冒険者ギルド内で、いつもこんな感じなのかい?」

「こんな感じって?」

「なんだか半数以上のギルメンがキミに敵意を持ってないか?」

「あー、それね。そいつらは全部アマデウス派だよ。俺はギルガメッシュ派の人間だからね」

「なるほど。冒険者ギルドが分裂しているってのも本当なんだね」

「ああー、パッカリのポッカリのモッチリの分裂状態だよ」

「モッチリ?」

「俺も最初は不思議だったが、大人には大人の事情があるようだからな」

「なんでキミはギルガメッシュ派に入ったんだい?」

「アマデウスと少し揉めてね。その後に、どこのパーティーにも入れて貰えなくなったんだ。それが原因でギルガメッシュからソロの仕事を貰っているんだよ」

「キミはずっとソロなのかい?」

「ああ、この町に来てからソロの仕事しか受けたことがないぜ」

「それは不便だね……」

ゾディアックさんが憐れそうに俺を見た。

「まあ、俺はいろんな魔法が使えるし、いろんなスキルを盛っているから、一人でもそれなりに行けるんだよね。辛いのは多勢に無勢な場合かな。やっぱり一人だと大勢と戦い切れないんだよ」

「今キミは、何種類ぐらいの魔法が使えるのかね?」

「えーっと……」

俺は両手の指を使って覚えている魔法の種類を数え始める。

「アタッカー、シャーマン、エンチャント、ヒーラー、コンビニエンス、アストラ、ドルイド、サマナー、デビルサマナー、……かな?」

多分これだけだろう。

「全部で九種類ですか!?」

「ほとんど使ってもいない魔法も多いけれどね」

ゾディアックさんは唖然としていた。

まあ、そうだろうさ。

本来なら有り得ないパターンのはずだ。

魔法を複数習得すれば魔力で身体が食われて病弱になって行く。

普通なら才能的に考えても三種類が限度のはずだと聞いていた。

普通の魔法使いは二種類で止めるのだ。

覚え過ぎると魔力に体力が食われて私生活すら辛くなるとか。

それを俺は九種類だからな。

普通なら干からびて死んでいるレベルだ。

そりゃあ度肝を抜かれるよ。

俺は自慢気に言った。

「なんなら全魔法を見せようか?」

「いや、信用しているからいいよ……」

ちぇ、折角ここで見ている連中にも見せびらかしてやりたかったのにさ。

空気を読んでくれよな。

「それだけの神的な才能を有しているんだ。魔女キルケを倒したのも疑えないよ」

「じゃあ、賞金をくれるか!?」

「それは上げられませんね~」

「なんでだよ!」

「ほら、証拠が無いじゃんか」

「だって信用してくれるって言ったじゃんか!」

「それとこれとは話は別だよ」

「ケチ!」

「ケチで結構!!」

「じゃあ、スカル姉さんのパンティーを上げるからさ」

「もってるのかい!?」

「冗談だよ~ん」

「大人をからかうなよ……」

「大人なら今のは信じないぞ」

「いや、ほら、キミは変態だから、その辺は信用できるかなって」

「変態を信じるな!」

俺が突っ込みを入れると酒場の入り口からパーティーの一団が入って来た。

先頭は戦士風の男が二人だ。

クラウドとゴリである。

その六人パーティーはアマデウスの一行だった。

アマデウスのパーティーが酒場に入って来た途端に、空気の色が変わった。

少し暗くて重たい空気感に染まる。

一行が俺たちのテーブルの側を横切って行く。

クラウドは俺を一瞥したが声は掛けてこない。

アマデウスと一緒の時はいつもそうだ。

クラウドもアマデウスに気を使って居るのだろうさ。

アマデウスたちは酒場の一番奥の席に腰かけると食事と酒を注文し始める。

俺がゾディアックさんに言った。

「ゾディアックさん、あんたはアマデウスと知り合いだったよな」

「ああ、昔は一緒のパーティーを良く組んだよ。彼は攻撃魔法が得意で、私はエンチャント魔法が得意だったからね。二人の魔法で攻防一体だったんだよ」

「なるほどね」

「その後に彼が魔法使いギルドを辞めてからはパーティーも組んで居ない。僕が冒険者を辞めたのもあるがね」

「あんたが冒険者を辞めたのは、スカル姉さんが目を病んで冒険者を辞めたからか?」

「いや、えっと、そ、そうかな。うん、多分そうだよ!」

分かりやすいな。この人は……。

俺たちが話しているとゴリが一人だけ席を立ってこちらにやって来る。

あー、喧嘩を売られるな。

「よー、アスラン。元気だったかい?」

声が凄んでるよ。

ちょっと茶化してやろうかな。

「うほ、元気だったよ、うほうほ」

ゴリのこめかみに青筋が走る。

「俺たちは、これから広野にグリフォンの群れを退治しに行くんだが、お前は最近活躍しているのか?」

「うほ、うほうほ、してるよ、うほ」

俺の挑発にゴリの顔がヒクヒクし始めたぞ。

面白いな~、このゴリラ面やろうはよ。

「テメー、舐めてるんか!!」

どなり声を上げながらゴリが剛腕を伸ばして来た直後だった。

ゾディアックさんが魔法を唱える。

「パラライズボディー」

「ぬぐっっっ!!」

腕を伸ばしたポーズで硬直するゴリ。

魔法をかけたゾディアックさんは飲み掛けのコーヒーを一口飲んだ。

流石はベテランだ。余裕だな。

ゾディアックさんが使った魔法は、麻痺魔法だろう。

しかも、かなり純度が高いぞ。

「さあ、行こうかアスランくん。そろそろギルガメッシュさんの時間も良いころだろうさ」

「そうですね~」

俺とゾディアックさんは硬直して動けないゴリを残して席を立った。

チラリとアマデウスのほうを見たら、涼しい表情で酒を飲んでいやがる。

こちらに視線すら向けていない。

子分がやられたのに無視ですか。

お高いですね~。

なんだか、気に食わねえな。

もうちょっとイタズラしてやるか。

俺はゴリの頭の上に、飲み掛けのコーヒーカップを乗せてから、先を進むゾディアックさんの後を追った。

「こ……、この、やろう……」

後ろから切ない声が聞こえて来たが俺は無視する。

そのまま二人で二階を目指した。

これから仕事の話だ。

今回の依頼人は魔法使いギルドらしい。


【つづく】
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界転移したら女神の化身にされてしまったので、世界を回って伝説を残します

高崎三吉
ファンタジー
その乙女の名はアルタシャ。 『癒し女神の化身』と称えられる彼女は絶世の美貌の持ち主であると共に、その称号にふさわしい人間を超越した絶大な癒しの力と、大いなる慈愛の心を有していた。 いかなる時も彼女は困っている者を見逃すことはなく、自らの危険も顧みずその偉大な力を振るって躊躇なく人助けを行い、訪れた地に伝説を残していく。 彼女はある時は強大なアンデッドを退けて王国の危機を救い ある国では反逆者から皇帝を助け 他のところでは人々から追われる罪なき者を守り 別の土地では滅亡に瀕する少数民族に安住の地を与えた 相手の出自や地位には一切こだわらず、報酬も望まず、ただひたすら困っている人々を助けて回る彼女は、大陸中にその名を轟かせ、上は王や皇帝どころか神々までが敬意を払い、下は貧しき庶民の崇敬の的となる偉大な女英雄となっていく。 だが人々は知らなかった。 その偉大な女英雄は元はと言えば、別の世界からやってきた男子高校生だったのだ。 そして元の世界のゲームで回復・支援魔法使いばかりをやってきた事から、なぜか魔法が使えた少年は、その身を女に変えられてしまい、その結果として世界を逃亡して回っているお人好しに過ぎないのだった。 これは魔法や神々の満ち溢れた世界の中で、超絶魔力を有する美少女となって駆け巡り、ある時には命がけで人々を助け、またある時は神や皇帝からプロポーズされて逃げ回る元少年の物語である。 なお主人公は男にモテモテですが応じる気は全くありません。

俺のハクスラ異世界冒険記は、ドタバタなのにスローライフ過ぎてストーリーに脈略が乏しいです。

ヒィッツカラルド
ファンタジー
ハクスラ異世界×ソロ冒険×ハーレム禁止×変態パラダイス×脱線大暴走ストーリー=前代未聞の地味な中毒性。 ⬛前書き⬛ この作品は、以前エブリスタのファンタジーカテゴリーで一年間ベスト10以内をうろちょろしていた完結作品を再投稿した作品です。 当時は一日一話以上を投稿するのが目標だったがために、ストーリーや設定に矛盾点が多かったので、それらを改変や改編して書き直した作品です。 完結した後に読者の方々から編集し直して新しく書き直してくれって声や、続編を希望される声が多かったので、もう一度新たに取り組もうと考えたわけです。 また、修整だけでは一度お読みになられた方々には詰まらないだろうからと思いまして、改変的な追加シナリオも入れています。 前作では完結するまで合計約166万文字で601話ありましたが、今回は切りが良いところで区切り直して、単行本サイズの約10万文字前後で第1章分と区切って編成しております。 そうなりますと、すべてを書き直しまして第17章分の改変改編となりますね。 まあ、それらの関係でだいぶ追筆が増えると考えられます。 おそらく改変改編が終わるころには166万文字を遥かに越える更に長い作品になることでしょう。 あと、前作の完結部も改編を考えておりますし、もしかしたら更にアスランの冒険を続行させるかも知れません。 前回だとアスランのレベルが50で物語が終わりましたが、当初の目標であるレベル100まで私も目指して見たいと思っております。 とりあえず何故急に完結したかと言いますと、ご存知の方々も居ると思いますが、私が目を病んでしまったのが原因だったのです。 とりあえずは両目の手術も終わって、一年ぐらいの治療の末にだいぶ落ち着いたので、今回の企画に取り掛かろうと思った次第です。 まあ、治療している間も、【ゴレてん】とか【箱庭の魔王様】などの作品をスローペースで書いては居たのですがねw なので、まだハクスラ異世界を読まれていない読者から、既に一度お読みになられた読者にも楽しんで頂けるように書き直して行きたいと思っております。 ですので是非にほど、再びハクスラ異世界をよろしくお願いいたします。 by、ヒィッツカラルド。

異世界とチートな農園主

浅野明
ファンタジー
ありがち異世界転移もの。 元引きこもりが異世界に行って、農業する。 チートありだけど、勇者にはなりません。世界の危機もないかも? よくあるテンプレ異世界もの、ご都合主義お好きでないかたはお止めください。 注釈:農業とはいえ畜産や養蜂、養殖なども後々入ってきます。 女主人公です。 7月27 、アルファポリス様より書籍化進行中のため、8月3日、3章までをダイジェスト化させていただきます。 1月25日、アルファポリス様より2巻刊行決定のため、2月3日、「果樹園を作ろう」までをダイジェスト化させていただきます。 7月2日、アルファポリス様より3巻刊行決定のため、7月11日「花畑を作ろう」をダイジェスト化させていただきます。

異世界転生令嬢、出奔する

猫野美羽
ファンタジー
※書籍化しました(2巻発売中です) アリア・エランダル辺境伯令嬢(十才)は家族に疎まれ、使用人以下の暮らしに追いやられていた。 高熱を出して粗末な部屋で寝込んでいた時、唐突に思い出す。 自分が異世界に転生した、元日本人OLであったことを。 魂の管理人から授かったスキルを使い、思い入れも全くない、むしろ憎しみしか覚えない実家を出奔することを固く心に誓った。 この最強の『無限収納EX』スキルを使って、元々は私のものだった財産を根こそぎ奪ってやる! 外見だけは可憐な少女は逞しく異世界をサバイバルする。

愛されていないはずの婚約者に「貴方に愛されることなど望んでいませんわ」と申し上げたら溺愛されました

海咲雪
恋愛
「セレア、もう一度言う。私はセレアを愛している」 「どうやら、私の愛は伝わっていなかったらしい。これからは思う存分セレアを愛でることにしよう」 「他の男を愛することは婚約者の私が一切認めない。君が愛を注いでいいのも愛を注がれていいのも私だけだ」 貴方が愛しているのはあの男爵令嬢でしょう・・・? 何故、私を愛するふりをするのですか? [登場人物] セレア・シャルロット・・・伯爵令嬢。ノア・ヴィアーズの婚約者。ノアのことを建前ではなく本当に愛している。  × ノア・ヴィアーズ・・・王族。セレア・シャルロットの婚約者。 リア・セルナード・・・男爵令嬢。ノア・ヴィアーズと恋仲であると噂が立っている。 アレン・シールベルト・・・伯爵家の一人息子。セレアとは幼い頃から仲が良い友達。実はセレアのことを・・・?

【完結】辺境の魔法使い この世界に翻弄される

秋.水
ファンタジー
記憶を無くした主人公は魔法使い。しかし目立つ事や面倒な事が嫌い。それでも次々増える家族を守るため、必死にトラブルを回避して、目立たないようにあの手この手を使っているうちに、自分がかなりヤバい立場に立たされている事を知ってしまう。しかも異種族ハーレムの主人公なのにDTでEDだったりして大変な生活が続いていく。最後には世界が・・・・。まったり系異種族ハーレムもの?です。

クラス転移したら追い出されたので神の声でモンスターと仲良くします

ねこねこ大好き
ファンタジー
 モンスターと仲良くお話! 戦うなんてできません!  向井零(ムカイゼロ)は修学旅行中に事故にあい、気づくとクラスメイトとともに異世界へ飛ばされた。  勇者なので魔軍と戦ってほしいとのこと。  困惑するゼロは不安ながらもクラスメイトとともに迷宮へ潜り、戦いの特訓をする。  しかしモンスターと戦うのが嫌なゼロは足を引っ張るばかり。 「死ね!」  ついに追い出されてしまう。 「お腹が空いたの?」  追い出されてすぐにゼロは一匹のモンスターを助ける。 「言葉が分かる?」  ゼロはモンスターの言葉が分かる神の声の持ち主だった! 『小説家になろう様に転載します』

婚約解消して次期辺境伯に嫁いでみた

cyaru
恋愛
一目惚れで婚約を申し込まれたキュレット伯爵家のソシャリー。 お相手はボラツク侯爵家の次期当主ケイン。眉目秀麗でこれまで数多くの縁談が女性側から持ち込まれてきたがケインは女性には興味がないようで18歳になっても婚約者は今までいなかった。 婚約をした時は良かったのだが、問題は1か月に起きた。 過去にボラツク侯爵家から放逐された侯爵の妹が亡くなった。放っておけばいいのに侯爵は簡素な葬儀も行ったのだが、亡くなった妹の娘が牧師と共にやってきた。若い頃の妹にそっくりな娘はロザリア。 ボラツク侯爵家はロザリアを引き取り面倒を見ることを決定した。 婚約の時にはなかったがロザリアが独り立ちできる状態までが期間。 明らかにソシャリーが嫁げば、ロザリアがもれなくついてくる。 「マジか…」ソシャリーは心から遠慮したいと願う。 そして婚約者同士の距離を縮め、お互いの考えを語り合う場が月に数回設けられるようになったが、全てにもれなくロザリアがついてくる。 茶会に観劇、誕生日の贈り物もロザリアに買ったものを譲ってあげると謎の善意を押し売り。夜会もケインがエスコートしダンスを踊るのはロザリア。 幾度となく抗議を受け、ケインは考えを改めると誓ってくれたが本当に考えを改めたのか。改めていれば婚約は継続、そうでなければ解消だがソシャリーも年齢的に次を決めておかないと家のお荷物になってしまう。 「こちらは嫁いでくれるならそれに越したことはない」と父が用意をしてくれたのは「自分の責任なので面倒を見ている子の数は35」という次期辺境伯だった?! ★↑例の如く恐ろしく省略してます。 ★9月14日投稿開始、完結は9月16日です。 ★コメントの返信は遅いです。 ★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。 ※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません

処理中です...