上 下
105 / 604

第105話【全裸のおっさんたち】

しおりを挟む
「わ、ワシは一体何を……?」

「ここはどこだ……?」

「俺は何をしてたんだ……?」

「あれれ……?」

猫たちが突然ながら人に変わった。

魔女キルケの呪いが解けたのだろう。

十匹ぐらい居た猫が、全匹すべて全裸のおっさんに変わっだのだ。

見ているこっちも驚いてしまう。

一人ぐらい可愛らしい乙女が居てもいいじゃあないかとも考えた。

なんとも読者サービスがなっていないと思う。

「はぁ! 何故にワシは全裸なのじゃあ!!」

「さ、寒い!?」

なんだろう?

このおっさんたちは記憶が無いのかな?

「ほれ、とりあえずそこに燃えている家が在るから暖まったらいいんじゃあないか」

「おお、これはありがたや!」

「温まろうや!」

「あったか~~い」

おっさんたちは火に当たり、体が暖まったせいか、どうやら徐々に落ち付きを取り戻していった。

おっさんたちの人数を数えたら、全部で十一人居た。

中には若い兄ちゃんも三人ほど混ざっている。

おそらくこの内の一人がマヌカビーだろう。

それは徐々に探って行こうと思う。

もうドデカイババァ~は死んだのだ、焦ることも無い。

「じゃあ、あんたらは自分が猫になってたことは覚えてないのかな?」

「俺たちが猫に……?」

おっさんたちは顔を合わせた後に考え込む。

「そ~か~、猫か~」

「確かに猫をやってたような気がするな~」

どうやらぼんやりと自覚は有るようだな。

「じゃあ、あんたらはここでドデカイババァ~にお茶を注がれて猫になったぐらいは覚えているんだな」

「ああ、俺は覚えているよ。確かに婆さんとお茶を飲んだぜ」

一番若い兄ちゃんが言った。

こいつかな、マヌカビーは?

「あんたの名前はマヌカビーか?」

「いや、違うが」

あれ、違った……。

「僕が、マヌカビーですが?」

あ、こっちの兄ちゃんのほうかよ!?

背の高い筋肉質な兄ちゃんだった。

あそこもご立派だ……。

「あんた、ソドムタウンでマヌカハニーの姉ちゃんが待ってるぜ。俺はあんたの姉ちゃんに雇われて、あんたを探しに来たんだ」

「そ、そうだったのか!?」

背の高いマッチョなマヌカビーだったが、気は優しげである。

あそこは暴れん坊サイズだが……。

「じゃあ、帰ろうか」

「あの~、良かったら服を別けて貰えないか?」

俺は即答した。

「ない!」

「やっぱり……」

異次元宝物庫に着替えが一着あるが、ここでは出せない。

見ている人が多すぎる。

それに異次元宝物庫の存在がバレてしまうじゃあないか。

どうせ一着しか無いのだ、全員には渡らないから我慢して貰おう。

マヌカビーが訊いて来る。

「出口は分かるのかい。僕は迷ってから出入り口が分からなくなって、ここに行き着いたんだが……」

「ああ、安心しろ。目印は付けてきたからな」

「やるね、キミ」

お前さんとは違うのだよ。

入って来た出入り口を見失い、あんな怪しいドデカイババァ~に騙されて猫に変えられるほど馬鹿では無いのだ。

くっくくく、っと心中で無意味に笑っていた。

俺は火に当たるおっさんどもに話し掛ける。

「おっさんたちよ、俺はこの兄ちゃんを連れてソドムタウンに帰るけれど、あんたらはどうする?」

「すまない、外まで連れてってくれないか?」

「それは構わんが、服はやらないぞ。これ一着しか無いんだから」

「ああ、分かったよ。とりあえず俺たちをソドムタウンまで連れてってくれないか。御礼はソドムタウンで払うから」

「御礼なんて、要らないよ」

「いやいや、待ってくれないか。俺はゴモラタウンの商人なんだ。俺はゴモラタウンまで頼むよ!?」

あー、それぞれ出身が違うらしいな。

「すまないが俺はソドムタウンの人間なんだ。ソドムタウンまでは連れて行けるが、それ以上は無理だから」

「そ、そうなのか……。仕方ない。とりあえずソドムタウンまで一緒に行くよ。そこから続きを考えるわ……」

「悪いな、おっさん」

話は纏まった。

とりあえずこのままソドムタウンに帰ることとなる。

俺は全裸のおっさんを連ねて出口を目指す。

メルヘン溢れるお花畑を進んだ。

やがて目印のロングソードが見えて来る。

お花畑のド真ん中に刺さるロングソードを引き抜くと、俺は眼前の空間を探るように突き刺した。

ロングソードの刀身が空中で消える。

「ここが出口だ」

「おお、凄いね。僕は帰れるのか!」

「「「おおおおおっ!!」」」

おっさんたちから歓声が上がった。

俺はその歓声に押されながら見えない扉を潜った。

そして、湿っぽいダンジョンの一室に移動する。

俺を追って次々に全裸のおっさんたちが出口を潜ってこちら側にやって来る。

俺はこの全裸の十一人を連れてソドムタウンに帰ることとなる。

俺は二日間もの間、全裸のおっさんたちと旅をした。

しかし、おっさんたちは逞しいものであった。

その辺の草や葉っぱを使って服を作り出す。

巧みなサバイバル術で水を集めたり、木の棒を槍に変えて獣を狩り出した。

それで生活をまかない始める。

案外と泣き言を垂れないで、帰宅の準備を無から作り出して行くのだ。

「すげーなー、おっさんたち」

「ああ、こう見えても冒険者だからな」

「奇遇だね、俺もだよ」

話を聞けば、十一人中、六人が冒険者で、三人が旅商人。二人が農夫だった。

そして、あの場所からお花畑に迷い込んだのはマヌカビーを含めた冒険者三名だけだった。

他の八人は別の場所からお花畑に迷い込んだと述べている。

あれと同じような出入り口が他にも在るようだ。

そして二日後に俺はソドムタウンに到着する。

ここで原始人ルックのおっさんたちと別れた。

俺とマヌカビーは冒険者ギルドに向かう。

行き場所が無い冒険者のおっさんたち五名も俺たちに続く。

マヌカビーはギルドの宿屋に宿泊していた姉のマヌカハニーと感動の再会を果たした。

「ハニー姉さん……」

「ビー!?」

姉弟は再開と同時に、姉が弟を往復ビンタした。

パアパパパパーーン!っと派手な音を奏でたが、次ぎには姉が弟に泣きながら抱き付く。

感動のワンシーンである。

けっ、俺の柄じゃあないぜ!

ぐすん……。

すると俺たちを出迎えてくれたギルガメッシュと、おっさんの一人が急に歓喜の声を上げた。

「お前は、ギルガメッシュか!?」

「そう言うお前はサンジェルマンか!?」

二人のおっさんが抱き合った。

キモイ……。

気を取り直して俺が問う。

「どういうことだ、ギルマス?」

「こいつは俺がまだ若いころに死んだ、冒険者仲間だ!」

「何を言ってやがるギルガメッシュ。俺は生きてるぜ!」

ギルガメッシュは事情が分かっていないから、このおっさんが死んだものだと思い込んでいたんだな。

ギルガメッシュが歓喜の声でサンジェルマンに話し掛けた。

「お前は今まで何をしてたんだ?」

「ああ、お前と別れた後に山脈に入ってな、そこで遭難してたのをこの若造に助けられたってわけよ」

「遭難?」

「お前と別れた後にな」

「別れた後に?」

「ああ」

「二十年間もか?」

「二十年?」

おっと話が合わなくなり始めたぞ。

「お前は二十年間も遭難してたのか?」

「二十年も!?」

あー、おっさんが慌て始めたわ。

たぶんさ、このおっさんは、あのドデカイ魔女の元で二十年間も猫をやってたんだろうな。

哀れだわ……。

まあ、そんな感じのことを俺が二人に説明してやる。

時が経っているのだよ、と。

「なるほど、俺は二十年間も猫をやってたのか……」

ギルガメッシュが言う。

「それじゃあ、ニャンジェルマンじゃあないか?」

「それ、いいな」

案外とサンジェルマンも納得していた。

こうしてマヌカハニーが持って来た冒険は終了する。

結局のところマヌカビーは姉の反対を押しきり冒険者を続けることにしたらしい。

しかも、あそこから帰って来たおっさん冒険者たちと組んでだ。

最近では『ニャンズパーティーズ』とか可愛らしく名乗っていやがる。

六名がおっさんや兄ちゃんなのにさ。

やっぱり冒険者って生き物は、呑気な生き物なのだろう。


【つづく】
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界で買った奴隷が強すぎるので説明求む!

夜間救急事務受付
ファンタジー
仕事中、気がつくと知らない世界にいた 佐藤 惣一郎(サトウ ソウイチロウ) 安く買った、視力の悪い奴隷の少女に、瓶の底の様な分厚いメガネを与えると めちゃめちゃ強かった! 気軽に読めるので、暇つぶしに是非! 涙あり、笑いあり シリアスなおとぼけ冒険譚! 異世界ラブ冒険ファンタジー!

痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~

ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。 食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。 最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。 それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。 ※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。 カクヨムで先行投稿中!

エラーから始まる異世界生活

KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。 本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。 高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。 冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。 その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。 某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。 実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。 勇者として活躍するのかしないのか? 能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。 多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。 初めての作品にお付き合い下さい。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

一族に捨てられたので、何とか頑張ってみる。

ユニー
ファンタジー
魔法至上主義の貴族選民思想を持っている一族から、魔法の素質が無いと言う理由だけで過酷な環境に名前ごと捨てられた俺はあの一族の事を感情的に憤怒する余裕もなく、生きていくだけで手一杯になった!知識チート&主人公SUGEEEE!です。 □長編になると思う多分□年齢は加算されるが、見た目は幼いまま成長しません。□暴力・残虐表現が多数発生する可能性が有るのでR15を付けました□シリアルなのかコメディなのか若干カオスです。□感想を頂くと嬉しいです。□小説家になろうに投稿しています。 http://ncode.syosetu.com/n8863cn/

他国から来た王妃ですが、冷遇? 私にとっては厚遇すぎます!

七辻ゆゆ
ファンタジー
人質同然でやってきたというのに、出されるご飯は母国より美味しいし、嫌味な上司もいないから掃除洗濯毎日楽しいのですが!?

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

ハズレスキル【分解】が超絶当たりだった件~仲間たちから捨てられたけど、拾ったゴミスキルを優良スキルに作り変えて何でも解決する~

名無し
ファンタジー
お前の代わりなんざいくらでもいる。パーティーリーダーからそう宣告され、あっさり捨てられた主人公フォード。彼のスキル【分解】は、所有物を瞬時にバラバラにして持ち運びやすくする程度の効果だと思われていたが、なんとスキルにも適用されるもので、【分解】したスキルなら幾らでも所有できるというチートスキルであった。捨てられているゴミスキルを【分解】することで有用なスキルに作り変えていくうち、彼はなんでも解決屋を開くことを思いつき、底辺冒険者から成り上がっていく。

処理中です...