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第100話【ダンジョンの割れ目】

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次の日の朝から俺は冒険者ギルドに出向いた。

ワイズマンのモッチリおっさんが依頼人だと抜かしていたけれど、どうなのだろう。

あのおっさんの依頼だから、多分ろくなもんじゃあないな。

そして俺は冒険者ギルドに到着した。

朝の酒場は静かだった。

昨日はあんなに忙しそうだったのに、今日は何故か普通である。

なんなんだ、この差は?

まあ、いいか。

俺は一先ず二階に上がった。

受付に話してギルマスの部屋に通して貰う。

するとマホガニーの机でギルガメッシュがいつも通り忙しなく書類を眺めていたが、その身なりはウエイトレスの制服だった。

どうやら昨日は下の酒場を手伝っていたようだな。

「おはよう、ギルマス」

「おお、来たか、アスラン」

「やあ、アスランくん、おはよう」

横を見るとソファーセットにワイズマンが居た。

隣には女性を一人だけ連れている。

なんだか堅物な洋服を着ていたから、この町の女性ではないだろう。

その女性も俺に会釈する。

「アスラン。とりあえずこっちで話すぞ」

「はい」

俺はギルガメッシュに連れられてソファーセットに移動した。

俺とギルガメッシュが一つの長ソファーに腰を下ろす。

向かいにはワイズマンと堅物の女性が腰掛けて居た。

女性は二十歳ぐらいだろう。

美人か美人じゃあないかと問われたら、普通である。

ただ、やたらと乳が大きい。

そりゃあもう、バレーボールを衣類の中に二つも隠し持っているのではと疑うほどに大きいのだ。

それが俺には猛毒なので、彼女から視線を反らした。

出来るだけ興味深く誘惑的な巨乳を見ないように心がける。

そして、ギルガメッシュが話し出した。

「それじゃあ、まずは自己紹介をしていない者たちで、自己紹介をして貰おうか」

するとスイカップの女性が機敏にスクリと立ち上がり俺に挨拶を語る。

「わたくしの名前はマヌカハニーと申します。お見知りおきを」

そう言いながら俺の眼前にシャキリと手を差し出す。

握手を求めているのかな?

「どうも、俺はアスランだ」

まあ、俺も立ち上がり握手を返した。

二人が手を離すとマヌカハニーさんはスタリと腰を下ろす。

なんだろうな、この人の動きは一つ一つがテキパキしすぎている。

それがわざとなのかは分からない。

俺が腰を下ろすとウエイトレス姿のギルガメッシュが話し出す。

「では、今回の依頼内容について話そうか」

さて、どんな仕事だろう。

今回はこのマヌカハニーさんも関係しているのだろうな。

まあ、そのぐらいは予想できた。

「今回はワイズマンさんとゴモラタウンの商店で会計役を勤めているマヌカハニーさんが依頼人だ」

「あれ、ワイズマンさん一人の依頼じゃあなかったのか~?」

俺が茶化すようにわざとらしく言った。

するとワイズマンがモッチリ顔を突き出しながら言い返す。

「正式には私が依頼料を払うことになっている。まあ、信用状の形だがね~」

「へぇ~、そうですかぁ~」

ここでマヌカハニーさんが割って入った。

「ワイズマン様。ここからはわたくしが話しても宜しいでしょうか?」

「ああ、かまわないよ~。別に~」

「では、わたくしから話させてもらいます」

この人はやっぱりせっかちさんだな。

動きや喋りで分かって来たぞ。

「お願いします、アスランさん。わたくしの弟を助けてくださいませ!」

うむ、分かりやすい依頼だが、ぜんぜん話が分からないぞ。

「すみませんが、もっと順を追って話して貰えませんか?」

「ああ、すみませんでした。わたくしたる者が、ついつい興奮してしまいました」

「いいんですよ、別に」

「では、改めまして……」

マヌカハニーさんは大きく深呼吸をしてから改めて語る。

「わたくしの弟を助けてください!!」

「だから、それじゃあ分かんねーよ!!」

俺は突き出されたスイカップをペシリと平手打ちしてやった。

「きゃん!?」

なかなか可愛らしい声を出すじゃあなえかぁぁがああがあだあだああ!!!

のーろーいーがぁぁあああ!!

「どうした、アスラン?」

「いや、ちょっとね。ぜぇはー、ぜぇはー……」

ギルガメッシュが俺の背中を擦ってくれたので少し落ち着いた。

ワイズマンが話す。

「すまないね、アスランくん。この子は会計の計算力は超一流なんだが、興奮すると会話が成立しないようだ」

「そのようですね……」

あー、大分落ち着いたわ。

それにしても気軽に大きな乳も叩けないなんて……。

酷い……、ぐすん。

「ここからは私が話すよ」

興奮して話にならないマヌカハニーに代わってワイズマンが今回の依頼内容を語り出す。

なんでもマヌカハニーの弟は姉の反対を押しきって、ここソドムタウンで冒険者を始めたらしいのだ。

そして数日前に冒険に出て行方不明になったらしい。

それが不思議な行方不明で、一緒に冒険していたパーティーは、弟以外は全員無事なのだ。

なんでも弟が出た冒険は、下級モンスターが住み着く遺跡の定期的掃除の仕事だったらしい。

正直、低レベルな冒険だ。

ダンジョン自体は差程広くもなくマップの羊皮紙も完成されている場所だとか。

そこで弟のパーティーは新しい通路を発見して、そこに弟が一人で入って消えたらしいのだ。

しかも、不自然にだ。

通路と言っても壁に出来た亀裂程度の細い通路だったらしい。

他のパーティーメンバーが見ている目の前で弟は、その亀裂に入り込み、直後に応答が無くなったらしいのだ。

他のパーティーメンバーは、初心者の一団だったのもあってか、それで恐れをなして逃げ帰ったとか。

「それが、どのぐらい前の話しなんだい?」

「もう六日も前の話だよ」

ワイズマンは俯きながら言った。

六日か……。

「食料は持ってたのか?」

キッパリとした口調でギルガメッシュが答える。

「僅かには持っていただろうが、六日はもたんだろう」

このおっさんは割りきってるな。

冒険者としての覚悟が決まってるのだろう。

おそらくだが、弟さんは死んでいるな。

普通に考えて、六日も行方不明なら死んでいるともさ。

「でも、なんで他のパーティーメンバーは、追って行かなかったんだ?」

「それが不自然なんだ」

ギルガメッシュがごっつい顎を撫でながら言う。

「その割れ目に弟が入った直後にだ、まるで穴にでも落ちて消えたかのように気配が無くなったらしい」

「気配が無くなる?」

「割れ目の中は通路っぽかったらしいが、入って直ぐに姿を消すような作りには見えなかったらしいのだ」

「パーティー内で何か揉め事は?」

俺は裏切りを推測した。

「彼らは硬派な仲間だ。それはなかろう」

「じゃあ、その通路に何かあるってことかい?」

「おそらくな」

「その後に誰か見に行ったのか?」

「誰もだ。お前が初めてになる」

俺がマヌカハニーのほうを見ると、大きなオッパイを見下ろすようにう俯いていた。

この人も弟が死んでいると覚悟は出来ているのだろうか?

理解は出来ていても現実は受け入れられないでいるのだろうか?

「で、俺にどうしろと?」

「まずは謎の解明だ。何が起きたか知りたい。できたら弟さんの遺体を回収して貰いたい」

弟の遺体と聞いたマヌカハニーの身体が震えた。

「ふぅ~……」

俺は深い溜め息を吐いてから答える。

「分かったよ。出来る限りのことはやってみるさ……」

なんか暗い仕事だな。

気分が乗らないけど、スイカップ彼女の依頼だもの、引き受けるしかないよね。

「で、弟さんの名前は?」

マヌカハニーが答える。

「マヌカビーです……」

あれ、落ちなかった。

最後の最後で軽く落としてくるかと思ったのにな。

ここからはお笑い禁止のシリアスストーリーですか?


【つづく】
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