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第94話【トリンドル】

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茨の森とはソドムタウンから歩いて二日ばかりの距離に在る狭い森である。

そして俺は、到着してから驚いた。

本当に刺々しい茨の森である。

森と言っても背の高い木々は少ない。

しかし、茨の蔓がところ狭しと生い繁っているのだ。

ほぼほぼ足場が無いぐらいにだ。

その光景は、まるでグルグル巻きの鉄条網が敷き詰められているが如しである。

そして、300メートルほど先に、今回の目的地である魔法使いの塔が見えていた。

細いが高い塔である。

しかしながら、そこまで行ける道がないのだ。

このまま強引に進めば足がズタボロになるだろうさ。

一体あそこまで、どうやって行けば良いのだろうか分からない。

そんなこんなで俺がしばらく悩んでいると、いきなり目の前の茨がモコモコと動き出した。

茨の蔓が動き出して二つに割れる。

そして道が開けたのだ。

まるでモーゼの十戒のようだった。

真ん中に塔まで続く道が、ポッカリと出来上がる。

これは凄いな。魔法の道だろうかな?

こんな道が出来るってことは、向こうさんも俺の到着に気付いたのであろう。

俺は茨の真ん中に出来た道を進んで行く。

やがて塔の麓までたどり着いた。

岩の作りで、細いが高い塔である。

十数階は有るだろうか。

なんか聳えているな~、ってイメージがした。

ここまで来るまでに感じた感覚だと、この塔に住んでいる魔法使いは、相当の使い手だろう。

ちょっと侮れない。

突然ながら、キィーっと音を鳴らして鉄の扉が勝手に開く。

自動ドアかよ。

このまま中に入って来いと言ってるのだろうか。

少し警戒しながら俺はスタスタと塔に入って行った。

塔の中は広くて薄暗い部屋だった。

数個の水瓶と沢山の薪が積まれている。

高い天井で、先が暗くて良く見えやしない。

どうやら煙突状態の塔のようだ。

するとユラリと影が動いた。

んん、誰か居るな?

「お待ちして降りました。冒険者ギルドからお越しの御方ですね」

「はい、そうですが」

何だろう。

なんかこの人、ボヤけてるな。

男か女かも分からないぞ。

てか、ほとんど闇人間だな。

奇怪だが脅威ではないから安心か。

直感でしかないが、生き物じゃあないな。

おそらく魔法の存在だ。

「では、主人のトリンドル様がお待ちですので上の階まで御上がりくださいませ」

謎の人物が階段のほうに俺を促す。

自分は上がらず俺だけに上がれと言っているな。

俺はボヤけた人物の横を過ぎて階段を登って行く。

壁沿いに螺旋を描く長い階段だった。

随分と俺は階段を登った。

長く長く続く階段を進むと、やっと到着地点だ。

俺は蝋燭の灯りが幾つも照らされた部屋に入る。

室内には、いろいろな物が置かれていた。

普通の家具から普通じゃあない禍々しい置物までいろいろと在る。

だが、ほとんどは禍々しい部類だろう。

総合するに、この部屋は怪し過ぎる内装だった。

窓は閉められ薄暗い。

灯りは数個の蝋燭と暖炉の火がついているだけだ。

そして暖炉の周りに怪奇な動物が丸まっている。

犬でも猫でもないが、愛敬は感じられた。

でも、俺は飼わないな。

だって醜いもの。

それにしても、室内からは人の気配がしない。

「誰か居ませんか~」

とりあえず呼んでみた。

すると部屋の隅で何かが動いた。誰か居る。

「来ましたね。冒険者ギルドの勇者様よ」

若い女性の声だったが、露骨にわざとらしい。

なんだろう?

一言で言ったら、作ってる感じがする。

部屋の隅から現れた影は女性だった。

細くて華奢で弱々しい。

でも、美人だ。

正確に言えば病弱美人さんだった。

「俺が冒険者ギルドから回された冒険者アスランだが、仕事の内容を聞きたいのだが」

「なるほど、でもちょっと待ってね……」

どうした?

魔法使いは何やらテーブルの上を漁っている。

「どうしたの?」

「ちょっと薬を飲む時間なの。貴方をここまで案内するのに魔力を使いすぎちゃって……」

「そうなんだ」

茨の道を開いたのはこいつの仕業か。

「薬って、これじゃあね?」

「あ、それそれ、ありがとう。探しても無いはずだわ~。そんなところに在るんだもの~」

なんだろう。

急に和やかになったな。

「はいはい、じゃあここに座って待っててね」

「はい……」

俺がテーブル席に座って待っていると魔法使いの女が薬を飲み終わってやって来る。

魔法使いの女は急に引き締まった口調に変わっていた。

「どうも、私が茨の森の魔法使いトリンドルです」

喋りがクールだな。

でも演技だと分かる。

自己紹介をする彼女は二十代後半ぐらいの女性だった。

もしかしたらもっと若いかも知れない。

何せ、病弱のようだから……。

「えーと、アスランくんって言いましたっけ?」

「はい」

「今回、貴方に依頼したいのはヒッポグリフを倒して貰いたいの」

「ヒッポグリフって、あのグリフォンと馬との間に産まれるっていう、あれか?」

ヒッポグリフとは、今俺が述べたとおりグリフォンと馬との間に産まれるって言うモンスターの一種である。

グリフォンってのはチャリオッツの引き手として使われることの有るモンスターな故に、同じチャリオッツを引く馬を敵視することがほとんどらしい。

しかし、牝馬は別で、見つけると犯すとされている。

牡馬は殺して、牝馬は襲うのだ。

そして襲われた牝馬から産まれたのがヒッポグリフとなる。

「そう、その雑種を殺して貰いたいのよ」

「なんで?」

「この茨の森の茨をムシャムシャと食べちゃうからよ」

「そんなのアンタが倒せばいいじゃあないか?」

この茨の森を管理している魔法使いなんだから、そのぐらい自分で始末を付けろよ。

なに、もしかしてこの人は弱いの?

「それが出来ないから依頼を出したのよ」

「なんで?」

「だって私は殆んど攻撃魔法が使えないもの」

「なるほど、大魔法使いって訳じゃあないのね」

「大魔法使いかどうかって述べれば将来的には大魔法使いだけれど、今は先代の茨の大魔法使いだった師匠様の遺品整理で大変なのよね~」

「アンタもしかして、この塔の主じゃあないのか?」

「いやいや、ちゃんとした主ですよ。ほとんどは先代の物ばかりだけれとね~。ここに在るので私が持ち込んだのは自前の薬ぐらいかしら」

あー、やっぱりそうか……。

この女魔法使いは大したことがないぞ!

なんかここまで来る間に、大分ビビらされたけれど、こいつは間違いなく三流の魔法使いだ!

間違いないな。

なんか会話のトーンも崩れて来たし、ここからはホチャラカパターンに突入だろう。


【つづく】
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