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第73話【女装】
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俺はドラゴン兄妹が隠れ住む洋館を出てソドムタウンに帰って来た。
もう、日が沈み夜になっている。
ピンク色の魔法ネオンが目をチカチカさせていた。
ワイズマンから依頼を受けて、既に三日が過ぎようとしている。
この三日間でいろいろ有ったが、当初の目的を忘れかけていた。
そもそもがワイズマンの依頼が発端だったのだ。
しかし、そんなのどうでも良くなっている。
完全に最終目標は、『ドラゴンルビーの指輪』のゲットだ。
あれが欲しい!
とても欲しいです!
そのためにはいろいろ問題があるのだ。
ドラゴンお兄様のグラブルは、俺がウェイトレスに女装した姿に一目惚れしたらしい。
幸い彼は、一目惚れの相手と俺が同一人物だと気付いていないのだ。
だから上手く騙せれば、ドラゴンルビーの指輪をゲット出来るかも知れない。
ならば、作戦を念入りに立てなければならないだろう。
まず俺は冒険者ギルドの酒場を目指した。
ギルドの酒場は、夜になり酔っぱらいが増えて賑やかだった。
俺はカウンター席に腰かけるとバーテンダーのハンスさんに食事と飲み物を二人前ほど注文した。
久々の飯である。
ガッツリ食うぞ!
不味いとか文句を言わずに、兎に角ほおばった。
水もガブガブと飲んだ。
空腹は最大の調味料である。本当にさ。
そしてお腹が落ち着くとハンスさんにお願いをする。
「ハンスさん、お願いがあるんだけど、いいかな?」
「なんだい、アスランくん?」
「ここのウェイトレスさんの制服を一着譲ってもらいたいのだが」
「え、アスランくん。女装が癖になったのかい?」
「まあ、そんなところです」
「構わないけど、制服代は貰うよ?」
「ありがとうございます。買い取らせて貰いますよ」
こうして俺は、難無くウェイトレスの制服を手に入れた。
第一段階クリアだ。
俺は酒場の更衣室でウェイトレスの制服に着替えると姿見の大きな鏡の前に立った。
自分の姿をマジマジと眺める。
分からん……。
この姿に一目惚れとか理解できないわ。
俺は荷物をローブにくるんで背負った。
そのままの格好で酒場に出て行く。
そんな俺を見た数人のお客が、口笛を吹いて茶化していた。
「ハンスさん、この格好って、似合う?」
「う、うん……。そこそこ似合ってると思うよ……」
「そうですか」
明らかに社交辞令だな。
これが普通の反応だろうさ。
俺はとりあえずスカル姉さんの診療所に帰ることにした。
道中ソドムタウンの街中を歩いて進む。
流石はソドムタウンだな。
俺がウェイトレス姿で歩いても、さほど浮いていないし、振り返る人も少ない。
それどころか数人の男性や女性に値段を訊かれる始末であった。
このような格好で夜の町を歩くと商売人と間違われるのね。
大変勉強になりました……。
「あれれー、アスランくんじゃあないのぉ~?」
俺が街頭を歩いていると、知人に声を掛けられた。
不動産屋のスイッチガールこと、ミーちゃんである。
「こんばんわ、ミーちゃん」
「こ~んば~んわ~、アスランくん!!」
「今日も無駄に元気だな、あんたは」
「そうでもないよ。今日も契約取れなくって社長に散々絞られたばかりだもの~」
「だったら反省しろよ」
ミーちゃんのスイッチが瞬時に変わる。
「ちっ……。お前も私を現実に呼び戻すのか……」
「すまん。言い過ぎたわ」
「とーこーろーでー、冒険者を辞めて身売りでも始めたの。だったら一晩私が買うわよ、マジで!!」
「こえーよ、マジの目をしてるぞ!!」
「いやいや、マジだから!」
「なんでだよ!?」
「ウェイトレス姿の変態少年とか、滅多にない掘り出し物だよ! お買い得じゃんか!!」
「腐女子の趣味が良く分からんわ!?」
「ささ、これから私の部屋に行きましょう! ぜえはー、ぜえはー!!」
「何故に息が荒いの! きゃー、手を牽いて連れてかないで!!」
「良いではないか、良いではないか~」
「とうっ、地獄突き!」
「グフっ!」
ミーちゃんが俺に喉を突かれてのたうち回っている隙に、俺は全力ダッシュで逃げた。
逃走後、スカル姉さんの診療所に飛び込む。
ミーちゃんは追って来ていない。一安心する。
「ふぅ、なんなんだよ……」
一階の診療所は既に閉店していて誰も居なかった。
俺は二階に荷物を置いてから三階に上がって行く。
するとスカル姉さんがテーブルの上のカップにコーヒーを注いでいるところだった。
こちらを見ていない。
「ただいま~」
「おお、帰ったか、アスラン。昨日はどうした。帰らなかったから心配したぁぁあああぞおおっお!!!」
テーブルのカップにコーヒーを入れていたスカル姉さんが顔を上げて俺の姿を見た瞬間に、凄く驚いていた。
尋常じゃない驚きかただった。
スカル姉さんはテンション高めに訊いて来る。
「な、なんだ、その格好は! 僅か一日帰ってこなかった間に新たな趣味に目覚めたか!?」
スカル姉さんは引きつった笑顔で息を弾ませていた。
「な、何故に嬉しそうに言うの……?」
「ば、馬鹿言え! 嬉しくなんてないぞ! ただちょっとばかり可愛いかなって思っただけだからな! 勘違いするなよな!」
な、なんだ……。
なんなんだ、この反応は!?
ミーちゃんといいスカル姉さんといい、なんなんだ、この反応はさ!?
凄く興奮していないか!?
も、もしかして俺の女装姿には、需要が有るのかな?
しかも、凄く……!?
だからドラゴンのグラブルも、一目惚れしたのかな?
だとすると俺は、もっと女装姿に自信を持っていいのかな!?
俺の女装は、イケてるのか!?
イケてるのか!!!
【つづく】
もう、日が沈み夜になっている。
ピンク色の魔法ネオンが目をチカチカさせていた。
ワイズマンから依頼を受けて、既に三日が過ぎようとしている。
この三日間でいろいろ有ったが、当初の目的を忘れかけていた。
そもそもがワイズマンの依頼が発端だったのだ。
しかし、そんなのどうでも良くなっている。
完全に最終目標は、『ドラゴンルビーの指輪』のゲットだ。
あれが欲しい!
とても欲しいです!
そのためにはいろいろ問題があるのだ。
ドラゴンお兄様のグラブルは、俺がウェイトレスに女装した姿に一目惚れしたらしい。
幸い彼は、一目惚れの相手と俺が同一人物だと気付いていないのだ。
だから上手く騙せれば、ドラゴンルビーの指輪をゲット出来るかも知れない。
ならば、作戦を念入りに立てなければならないだろう。
まず俺は冒険者ギルドの酒場を目指した。
ギルドの酒場は、夜になり酔っぱらいが増えて賑やかだった。
俺はカウンター席に腰かけるとバーテンダーのハンスさんに食事と飲み物を二人前ほど注文した。
久々の飯である。
ガッツリ食うぞ!
不味いとか文句を言わずに、兎に角ほおばった。
水もガブガブと飲んだ。
空腹は最大の調味料である。本当にさ。
そしてお腹が落ち着くとハンスさんにお願いをする。
「ハンスさん、お願いがあるんだけど、いいかな?」
「なんだい、アスランくん?」
「ここのウェイトレスさんの制服を一着譲ってもらいたいのだが」
「え、アスランくん。女装が癖になったのかい?」
「まあ、そんなところです」
「構わないけど、制服代は貰うよ?」
「ありがとうございます。買い取らせて貰いますよ」
こうして俺は、難無くウェイトレスの制服を手に入れた。
第一段階クリアだ。
俺は酒場の更衣室でウェイトレスの制服に着替えると姿見の大きな鏡の前に立った。
自分の姿をマジマジと眺める。
分からん……。
この姿に一目惚れとか理解できないわ。
俺は荷物をローブにくるんで背負った。
そのままの格好で酒場に出て行く。
そんな俺を見た数人のお客が、口笛を吹いて茶化していた。
「ハンスさん、この格好って、似合う?」
「う、うん……。そこそこ似合ってると思うよ……」
「そうですか」
明らかに社交辞令だな。
これが普通の反応だろうさ。
俺はとりあえずスカル姉さんの診療所に帰ることにした。
道中ソドムタウンの街中を歩いて進む。
流石はソドムタウンだな。
俺がウェイトレス姿で歩いても、さほど浮いていないし、振り返る人も少ない。
それどころか数人の男性や女性に値段を訊かれる始末であった。
このような格好で夜の町を歩くと商売人と間違われるのね。
大変勉強になりました……。
「あれれー、アスランくんじゃあないのぉ~?」
俺が街頭を歩いていると、知人に声を掛けられた。
不動産屋のスイッチガールこと、ミーちゃんである。
「こんばんわ、ミーちゃん」
「こ~んば~んわ~、アスランくん!!」
「今日も無駄に元気だな、あんたは」
「そうでもないよ。今日も契約取れなくって社長に散々絞られたばかりだもの~」
「だったら反省しろよ」
ミーちゃんのスイッチが瞬時に変わる。
「ちっ……。お前も私を現実に呼び戻すのか……」
「すまん。言い過ぎたわ」
「とーこーろーでー、冒険者を辞めて身売りでも始めたの。だったら一晩私が買うわよ、マジで!!」
「こえーよ、マジの目をしてるぞ!!」
「いやいや、マジだから!」
「なんでだよ!?」
「ウェイトレス姿の変態少年とか、滅多にない掘り出し物だよ! お買い得じゃんか!!」
「腐女子の趣味が良く分からんわ!?」
「ささ、これから私の部屋に行きましょう! ぜえはー、ぜえはー!!」
「何故に息が荒いの! きゃー、手を牽いて連れてかないで!!」
「良いではないか、良いではないか~」
「とうっ、地獄突き!」
「グフっ!」
ミーちゃんが俺に喉を突かれてのたうち回っている隙に、俺は全力ダッシュで逃げた。
逃走後、スカル姉さんの診療所に飛び込む。
ミーちゃんは追って来ていない。一安心する。
「ふぅ、なんなんだよ……」
一階の診療所は既に閉店していて誰も居なかった。
俺は二階に荷物を置いてから三階に上がって行く。
するとスカル姉さんがテーブルの上のカップにコーヒーを注いでいるところだった。
こちらを見ていない。
「ただいま~」
「おお、帰ったか、アスラン。昨日はどうした。帰らなかったから心配したぁぁあああぞおおっお!!!」
テーブルのカップにコーヒーを入れていたスカル姉さんが顔を上げて俺の姿を見た瞬間に、凄く驚いていた。
尋常じゃない驚きかただった。
スカル姉さんはテンション高めに訊いて来る。
「な、なんだ、その格好は! 僅か一日帰ってこなかった間に新たな趣味に目覚めたか!?」
スカル姉さんは引きつった笑顔で息を弾ませていた。
「な、何故に嬉しそうに言うの……?」
「ば、馬鹿言え! 嬉しくなんてないぞ! ただちょっとばかり可愛いかなって思っただけだからな! 勘違いするなよな!」
な、なんだ……。
なんなんだ、この反応は!?
ミーちゃんといいスカル姉さんといい、なんなんだ、この反応はさ!?
凄く興奮していないか!?
も、もしかして俺の女装姿には、需要が有るのかな?
しかも、凄く……!?
だからドラゴンのグラブルも、一目惚れしたのかな?
だとすると俺は、もっと女装姿に自信を持っていいのかな!?
俺の女装は、イケてるのか!?
イケてるのか!!!
【つづく】
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