49 / 604
第49話【定例儀式】
しおりを挟む
今現在俺は、美少女の前で苦しんでいた。
いつものようにエロイ妄想をモンモンと巡らせて、糞女神の呪いに苦しめられているのではない。
ただ漂う悪臭に苦しめられているのだ。
俺は鼻の穴から侵入して呼吸気管を通り越し肺の中まで汚染してくる悪臭に耐えながらツインテール美少女の話を聞いていた。
俺の額から熱いわけでもないのに汗がダラダラと流落ちて行く。
話しているのは薬師魔法使いのスバルちゃんだった。
赤毛のツインテールに眼鏡っ子というチャーミングポイントを有した美少女なのに、非常に非常に非常に非じょ~~に、残念だ!
美少女を前にして俺は、エロイ妄想をする余裕すら与えられないほどに苦しんでいた。
兎に角、半端なく臭いのだ。
完全に悪臭レベルの体臭だ。
スバルちゃんの小さな体から、とんでもない体臭が漂って来るのだ。
それはもう毒ガスのレベルだった。
小さな虫なら近付いただけで死んでしまうだろう。
彼女が全身から醸し出す謎の体臭が、周囲の空気を爛れるほどに汚している。
兎に角、超臭いのだ。
すっごい体臭なのだ。
スバルちゃんは、毒ガス美少女だったのだ。
最初は家の中で話さないかと言われたが、なんやかんや苦しい言い訳を並べて、それだけは避けた。
もしも閉鎖空間でこの子と一緒に居たら長くは持たないだろう。
間違いなく酸欠か、気持ち悪くなって倒れてしまうだろうさ。
なので俺たちは彼女の家の前で、立ち話程度に打ち合わせを済ませることにした。
それにしても、これだけの悪臭を体から放つスバルちゃんは何者なのだろうと考える。
自分では、この体臭に気付いてないのだろうか?
てか、周りの誰も忠告してくれないのだろうか?
それにゾディアックさんは大丈夫なのだろうか?
そう思いゾディアックさんの様子を窺ったが普通に彼女と話している。
しかし、よぉ~く見てみると鼻の穴の中に何か白い物が詰まっていた。
鼻栓だ!
この人は知ってて自分だけ鼻栓で悪臭を防御していやがる!!
なんて卑劣な!!
俺だけが悪臭の洗礼を受けているのかよ!!
すげー、不公平である!!
なので俺は出来るだけ早く話を済ませようと世話しなく急いだ。
薬草採取に出るのは明日の朝からにして、細かい話は道中で聞くことにしたのだ。
スバルちゃん曰く、戦闘になる可能性もあるそうなので、戦闘の準備だけは怠らないようにとのことだった。
件の薬草が在るのは、何らかのモンスターの生息地のようだ。
だから一人で採取しに行けずに護衛の冒険者を雇うのだろう。
そこまで打ち合わせを済ませると、俺は逃げるようにスバルちゃんの前から立ち去った。
20メートルほど速足で歩いたところで深呼吸を深々とする。
そして、俺は思う。
まさか、こんなに町の空気が美味しかったとは知らなかった。
清々しさすら感じられる。
速足で歩いていた俺にゾディアックさんが追い付いて来た。
「待ってくれよ、アスランく~ん」
呑気な声でゾディアックさんが俺を呼び止める。
イラッとした俺は踵を返すと同時に、ゾディアックさんのボディーに怒りの鉄拳を打ち込んだ。
「オラっ!」
「ゲフっ!」
打たれた腹を押さえながら両膝をついたゾディアックさんが苦しそうに言う。
「い、いきなり何をするんだい……?」
俺はヤンキーのように顔をしかめながら言ってやった。
「てめー、知ってて黙ってたな、ゴラァ!」
「ああ、済まない。これもすべては定例儀式だよ……」
「ああーん、何が定例だ!」
「彼女と初見で会う人々に、彼女の恐ろしさを直に知って貰うためにだよ……」
確かに恐ろしい出会いであった。
これなら次から鼻栓は忘れまいと思うだろう。
いいや、むしろ彼女といつどこで出会ってもいいように鼻栓を常備しておこうと心掛けるようになるだろう。
それだけ恐ろしい体臭&悪臭だった。
ゾディアックさん曰く、彼女からの薬草採取の依頼は数ヶ月起きにちょくちょくある仕事らしいのだ。
だから初見の冒険者には定例儀式のように報せないで会わせるらしい。
おそらくは、一番最初の冒険者が知らずに毒ガスを浴びたのを根にもって、後継者に教えなかったのが定例儀式となったのだろう。
俺も絶対に、次のヤツには教えたくないと思う。
俺が受けた苦しみを、是非に次のヤツにも味わってもらいたいのだ。
てか、毒ガスの洗礼を受けずに薬草取りの依頼を受けることは、もうなんぴとたりとも許されないだろう。
この定例儀式は正しいことだ!
そんなこんなあって、俺はひたすら謝るゾディアックさんを許すと町中で別れた。
それから一人でスカル姉さんの診療所に帰ることにした。
診療所に帰ると明日から冒険の依頼で旅立つことをスカル姉さんに告げると、もう一つスカル姉さんにお願いをする。
「畏まってお願いとはなんだ?」
俺は済まなそうにお願いごとを語る。
「スカル姉さん、済まないけれど、医療用の綿を幾分か分けて貰えないかな?」
「綿を?」
「鼻に詰めるから……」
「また外で、変な遊びを覚えてきたのか、アスラン?」
俺は理由を述べなかった。
ただ黙って鼻栓用の綿を分けて貰う。
準備は怠らない。
【つづく】
いつものようにエロイ妄想をモンモンと巡らせて、糞女神の呪いに苦しめられているのではない。
ただ漂う悪臭に苦しめられているのだ。
俺は鼻の穴から侵入して呼吸気管を通り越し肺の中まで汚染してくる悪臭に耐えながらツインテール美少女の話を聞いていた。
俺の額から熱いわけでもないのに汗がダラダラと流落ちて行く。
話しているのは薬師魔法使いのスバルちゃんだった。
赤毛のツインテールに眼鏡っ子というチャーミングポイントを有した美少女なのに、非常に非常に非常に非じょ~~に、残念だ!
美少女を前にして俺は、エロイ妄想をする余裕すら与えられないほどに苦しんでいた。
兎に角、半端なく臭いのだ。
完全に悪臭レベルの体臭だ。
スバルちゃんの小さな体から、とんでもない体臭が漂って来るのだ。
それはもう毒ガスのレベルだった。
小さな虫なら近付いただけで死んでしまうだろう。
彼女が全身から醸し出す謎の体臭が、周囲の空気を爛れるほどに汚している。
兎に角、超臭いのだ。
すっごい体臭なのだ。
スバルちゃんは、毒ガス美少女だったのだ。
最初は家の中で話さないかと言われたが、なんやかんや苦しい言い訳を並べて、それだけは避けた。
もしも閉鎖空間でこの子と一緒に居たら長くは持たないだろう。
間違いなく酸欠か、気持ち悪くなって倒れてしまうだろうさ。
なので俺たちは彼女の家の前で、立ち話程度に打ち合わせを済ませることにした。
それにしても、これだけの悪臭を体から放つスバルちゃんは何者なのだろうと考える。
自分では、この体臭に気付いてないのだろうか?
てか、周りの誰も忠告してくれないのだろうか?
それにゾディアックさんは大丈夫なのだろうか?
そう思いゾディアックさんの様子を窺ったが普通に彼女と話している。
しかし、よぉ~く見てみると鼻の穴の中に何か白い物が詰まっていた。
鼻栓だ!
この人は知ってて自分だけ鼻栓で悪臭を防御していやがる!!
なんて卑劣な!!
俺だけが悪臭の洗礼を受けているのかよ!!
すげー、不公平である!!
なので俺は出来るだけ早く話を済ませようと世話しなく急いだ。
薬草採取に出るのは明日の朝からにして、細かい話は道中で聞くことにしたのだ。
スバルちゃん曰く、戦闘になる可能性もあるそうなので、戦闘の準備だけは怠らないようにとのことだった。
件の薬草が在るのは、何らかのモンスターの生息地のようだ。
だから一人で採取しに行けずに護衛の冒険者を雇うのだろう。
そこまで打ち合わせを済ませると、俺は逃げるようにスバルちゃんの前から立ち去った。
20メートルほど速足で歩いたところで深呼吸を深々とする。
そして、俺は思う。
まさか、こんなに町の空気が美味しかったとは知らなかった。
清々しさすら感じられる。
速足で歩いていた俺にゾディアックさんが追い付いて来た。
「待ってくれよ、アスランく~ん」
呑気な声でゾディアックさんが俺を呼び止める。
イラッとした俺は踵を返すと同時に、ゾディアックさんのボディーに怒りの鉄拳を打ち込んだ。
「オラっ!」
「ゲフっ!」
打たれた腹を押さえながら両膝をついたゾディアックさんが苦しそうに言う。
「い、いきなり何をするんだい……?」
俺はヤンキーのように顔をしかめながら言ってやった。
「てめー、知ってて黙ってたな、ゴラァ!」
「ああ、済まない。これもすべては定例儀式だよ……」
「ああーん、何が定例だ!」
「彼女と初見で会う人々に、彼女の恐ろしさを直に知って貰うためにだよ……」
確かに恐ろしい出会いであった。
これなら次から鼻栓は忘れまいと思うだろう。
いいや、むしろ彼女といつどこで出会ってもいいように鼻栓を常備しておこうと心掛けるようになるだろう。
それだけ恐ろしい体臭&悪臭だった。
ゾディアックさん曰く、彼女からの薬草採取の依頼は数ヶ月起きにちょくちょくある仕事らしいのだ。
だから初見の冒険者には定例儀式のように報せないで会わせるらしい。
おそらくは、一番最初の冒険者が知らずに毒ガスを浴びたのを根にもって、後継者に教えなかったのが定例儀式となったのだろう。
俺も絶対に、次のヤツには教えたくないと思う。
俺が受けた苦しみを、是非に次のヤツにも味わってもらいたいのだ。
てか、毒ガスの洗礼を受けずに薬草取りの依頼を受けることは、もうなんぴとたりとも許されないだろう。
この定例儀式は正しいことだ!
そんなこんなあって、俺はひたすら謝るゾディアックさんを許すと町中で別れた。
それから一人でスカル姉さんの診療所に帰ることにした。
診療所に帰ると明日から冒険の依頼で旅立つことをスカル姉さんに告げると、もう一つスカル姉さんにお願いをする。
「畏まってお願いとはなんだ?」
俺は済まなそうにお願いごとを語る。
「スカル姉さん、済まないけれど、医療用の綿を幾分か分けて貰えないかな?」
「綿を?」
「鼻に詰めるから……」
「また外で、変な遊びを覚えてきたのか、アスラン?」
俺は理由を述べなかった。
ただ黙って鼻栓用の綿を分けて貰う。
準備は怠らない。
【つづく】
0
お気に入りに追加
386
あなたにおすすめの小説
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
転生調理令嬢は諦めることを知らない
eggy
ファンタジー
リュシドール子爵の長女オリアーヌは七歳のとき事故で両親を失い、自分は片足が不自由になった。
それでも残された生まれたばかりの弟ランベールを、一人で立派に育てよう、と決心する。
子爵家跡継ぎのランベールが成人するまで、親戚から暫定爵位継承の夫婦を領地領主邸に迎えることになった。
最初愛想のよかった夫婦は、次第に家乗っ取りに向けた行動を始める。
八歳でオリアーヌは、『調理』の加護を得る。食材に限り刃物なしで切断ができる。細かい調味料などを離れたところに瞬間移動させられる。その他、調理の腕が向上する能力だ。
それを「貴族に相応しくない」と断じて、子爵はオリアーヌを厨房で働かせることにした。
また夫婦は、自分の息子をランベールと入れ替える画策を始めた。
オリアーヌが十三歳になったとき、子爵は隣領の伯爵に加護の実験台としてランベールを売り渡してしまう。
同時にオリアーヌを子爵家から追放する、と宣言した。
それを機に、オリアーヌは弟を取り戻す旅に出る。まず最初に、隣町まで少なくとも二日以上かかる危険な魔獣の出る街道を、杖つきの徒歩で、武器も護衛もなしに、不眠で、歩ききらなければならない。
弟を取り戻すまで絶対諦めない、ド根性令嬢の冒険が始まる。
主人公が酷く虐げられる描写が苦手な方は、回避をお薦めします。そういう意味もあって、R15指定をしています。
追放令嬢ものに分類されるのでしょうが、追放後の展開はあまり類を見ないものになっていると思います。
2章立てになりますが、1章終盤から2章にかけては、「令嬢」のイメージがぶち壊されるかもしれません。不快に思われる方にはご容赦いただければと存じます。
王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します
有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。
妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。
さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。
そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。
そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。
現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。
狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。
街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。
彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)
神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜
月風レイ
ファンタジー
グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。
それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。
と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。
洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。
カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。
ハズレスキル【分解】が超絶当たりだった件~仲間たちから捨てられたけど、拾ったゴミスキルを優良スキルに作り変えて何でも解決する~
名無し
ファンタジー
お前の代わりなんざいくらでもいる。パーティーリーダーからそう宣告され、あっさり捨てられた主人公フォード。彼のスキル【分解】は、所有物を瞬時にバラバラにして持ち運びやすくする程度の効果だと思われていたが、なんとスキルにも適用されるもので、【分解】したスキルなら幾らでも所有できるというチートスキルであった。捨てられているゴミスキルを【分解】することで有用なスキルに作り変えていくうち、彼はなんでも解決屋を開くことを思いつき、底辺冒険者から成り上がっていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる