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第43話【スイッチガール】

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結局のところ俺はピチピチきゃぴきゃぴギャル店員のミーちゃんに連れられて不動産屋の店内に戻る。

俺は机を挟んでミーちゃんと向かい合って座った。

フードを深く被ってできるだけミーちゃんの裸体を見ないように心がける。

見たら死んじゃうもの。

そして、ミーちゃんが声を弾ませながら言う。

「そーれーでー、どんな物件をお探しですかぁ~?」

なんだかお客を舐めた口調だよな。

てか、日本のサービス業の皆様が異常なぐらい丁寧なのかな。

おそらく海外だと、こんなものなのだろう。

とりあえず俺は物件の希望条件を説明する。

「出切るだけ静かな場所を希望したいんですが」

「静かな場所ですね~。他に希望はぁ~?」

「一軒家でも貸部屋でも構いません」

「ほうほう……」

ミーちゃんは机の上で羊皮紙にメモを熱心に取り始める。

意外にお客さん思いで真面目だな。

「あと出来れば、冒険者ギルドに近い場所がいいです」

ミーちゃんは顔を上げることなくメモを取り続けながら質問を続けた。

「他に~、希望は~?」

「他にですか?」

「価格とかぁ~、予算はいかほどですか~?」

「予算は10000Gは有るので、それで一年は暮らせる物件を希望したいのですが」

ちょっと奮発しすぎかな?

まあ、いいや。

「わぉお、 意外とお金持ちですねぇ!」

ミーちゃんは顔を上げて、キラキラと目を輝かせた。

「じゃあ、私と暮らしませんかぁ~?」

「暮らせねえよ……」

「じゃあ、これあげますからぁ~」

そう言いながらミーちゃんは、今まで書いていたメモ用紙を俺に見せた。

そこには幼稚園児級の落書きが描かれていた。

この馬鹿女は俺の話を聞きながら熱心に落書きを楽しんでいやがったのか!

「やっぱり俺、別の不動産屋に行くわ……」

俺が席を立つとミーちゃんはローブを掴んで引き留める。

「わぁーん、待ってください~。これから真面目にご紹介しますからぁ~!」

今まで不真面目だったと認めやがったな、この馬鹿女が!

どれどれ、どれだけ真面目に仕事が出来るか見てやろうじゃあないか!

「じゃあ、今出した条件に見合う物件は在るんですか?」

「ちょっと待ってねぇ~。今から調べますからぁ~」

そう言いミーちゃんは羊皮紙の束から俺の出した条件に合う物件を探し出す。

真面目にやれば出来るんじゃあないか。

「じゃあ、こんな部屋は凄いですよぉ~」

ミーちゃんが一枚の羊皮紙を俺の前に拡げた。

そこには画伯顔負けの傑作な落書きが描かれていた。

「天丼かよ!!」

「きゃん!!」

俺が突っ込みがてらに机を叩くとミーちゃんが身を竦める。

そして、嘘泣きっぽく言う。

「こーわーいー、大声を出したり~、机を叩いたり、怖いです~!」

「うっせえよ、真面目に物件紹介しないと帰るぞ!」

キリッと効果音が聴こえた。

突然ミーちゃんの表情が引き締まる。

「分かったわ、本当に真面目にやるわ。──ちっ」

急に普通になったよ!

なに、キャラ崩壊ですか!

これがミーちゃんの素なのかよ!

「じゃあ、これなんてどうかしら。貸部屋になりますが」

机に物件の羊皮紙を拡げるミーちゃんだったが、素が余りにもクール過ぎてちょっと調子が狂う。

なんか違う……。

なに、二重人格なの?

「どれどれ……」

俺が進められた物件の間取りを見るとなかなかの広さであった。

更にミーちゃんが物件のアピールポイントを語る。

「ここは静かですよ。ただ窓はありませんがね」

「何故です?」

「地下ですから」

「それで静かってわけですか」

なるほど、地下なら音は遮断されて静かだろう。

女性の悩ましい声も届かないだろうさ。

日差しが入らなくても、考えように寄っては言いかもしれない。

「ただ、大雨が降ると高確率で水没しますけれどね。何せ地下ですから」

「却下です!」

今度は、でれっと効果音が聴こえた。

「え~。ミーちゃんは良いと思いますよぉ~」

「急にキャラ変えても駄目なものは駄目だろう。寝ていて水没したら死んじゃうじゃんか!」

キリッ!

「ああ、そうね。やっぱり駄目よね。当然か。──ちっ」

だから急に素に戻るなよ!

でれっとしたピチピチきゃぴきゃぴギャル系もウザイけれど、キリッとしたクールなミーちゃんもギャップが有りすぎて恐いよ!

すげー冷めた双眸だしさ!

「じゃあ、次はこれなんてどうかしら?」

ミーちゃんが次の物件を見せてくれる。

「ちょっと冒険者ギルドからは離れるけれど、5メートル四方の一部屋で家賃はたったの5Gよ」

あ、怪しいぐらい安いな……。

絶対にわけ有り物件だろ。

「何故にこんなに安いんですか。わけ有りですよね?」

でれぇ。

「あ~、ばれちゃいましたかぁ~。この物件ねぇ~。今のところ十二人連続して入った住人が自殺してるのよぉ~。凄いよねぇ~。あははは~」

「すげー記録更新中だな、おい!!」

こえーよ!

住めるかボケ!

てか、今までの住人に何がおきたの!?

なんで連続記録を更新できちゃうのさ!?

キリッ!

「ちっ、やっぱり駄目か……」

「あたりまえです……」

「じゃあ、この物件はどうだい。今まで住んだ住人がお化けを見たとか言って三日以内に部屋を出ていってるんだ。二十人も連続でな」

「うわー。さっきの部屋より記録更新している物件ってあるんだな~……」

ボケーーー!!

住めるか!!

お化けと住めるか、ボケ!!

「却下です……」

でれぇ。

「じゃあ、やっぱりミーちゃんの部屋で一緒に暮らすぅ~。そしたらミーちゃんは仕事を辞めてあなたのお金で年中食っちゃ寝してるからさぁ~。うふっ♡」

「てめー。今まで糞物件ばかり勧めてたのは、それが目的だな!」

キリッ!

「バレたか……。まだガキだから色気と裸体の誘惑で簡単に落とせると思ったんだがな。女恐怖症ってのは本当らしいぜ。ホモかよ。──ちっ」

「ミーちゃ~ん。言ってはいけない本音がお口から駄々漏れですよ~!」

でれぇ。

「あー、本当だぁ~。失敗失敗。てへぺろ♡」

駄目だ、こいつ。

面白いけど駄目だな。いろいろと……。

キリッ!

「じゃあ、騙せないなら、そろそろ本気を出して営業するかな。──ちっ」

だから本音が駄々漏れだってばよ……。

それと舌打ちすんなよ。やめれ!

「それじゃあ、この中から選べよ。どの部屋も冒険者ギルドとは徒歩10分以内だし、騒音対策で壁も厚めだからさ。でも、ちょっと高めだぞ」

「どれどれ──」

数枚の物件資料を眺めていると、その中から良さそうな物件を見つけ出す。

それは 7×6メートルの貸部屋だった。

キッチンはあるがトイレは共同。風呂は当然ながらない。

風呂があるのは一軒家クラスからだ。

しかし、井戸が建物の直ぐ真ん前に在る。

防犯は高めと書いてあった。

しかし、何より立地が良い。

大通りから奥に入った三階建の建物で、部屋は二階の一室だ。下宿宿の部類らしい。

それに冒険者ギルドとスカル姉さんの診療所とも近い。

地図上で三ヶ所を線で結ぶと、綺麗な三角形が出来る感じだ。

おそらく徒歩で5分ぐらいの距離だろう。

俺はここに決めたいと述べるとミーちゃんが物件の場所まで案内してくれる。

俺たち二人は、でれっとかキリッを繰り返しながら現地に向かった。

本当にスイッチの切り替えが激しい女である。

現地に到着すると、一階に住む大家さんと顔合わせをした。

大家さんは五十歳ぐらいのミセスだった。

左の薬指には、何気なく銀の指輪が光っている。

清楚だが、かなり堅物なイメージが強い女性に窺えた。

でも、悪人では無さそうだ。

大家さんは、俺たちを件の部屋まで案内してくれた。

案内された二階の部屋は角部屋だった。

部屋に入ると案外と広く感じる。

二つの窓には防犯用の鉄格子が付いている。

窓と述べても硝子窓ではない。

ここは文化の低い異世界だ。硝子も高価なのかも知れない。

それと厚い扉には四つも鍵が付いていて防犯は厳重である。

ベッドと小さなタンス、それにテーブルと椅子二脚が備え付けられていた。

かなり良い部屋だと思う。

この世界観では、防犯は大切なようだ。

その視点からして、この部屋は合格点だろう。

大屋さんがベットの側に歩みより言う。

「ここの床板が一枚開くから貴重品を隠せばいいわよ」

凄いな、隠し金庫っぽい場所も在るのか。

「ただし、どの部屋とも間取りが同じで、同じ場所に隠せるから、それは心得て置いてね」

「駄目じゃん、バレてるんなら意味ないじゃん!」

突っ込みどころが僅かに有ったが、俺はここに決めることにした。

前金で一ヶ月分の家賃を大屋さんに払った。1500Gである。

一般からしたら、少し高めの家賃である。

それとミーちゃんに紹介手数料を500G払った。

これで契約は終わりである。

俺は大家さんから錠前のようなごっつい鍵を貰う。

これが部屋の鍵らしい。

この時代の鍵はデカイな。


【つづく】
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