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【最終章】魔王城の決戦編

最終章-36【ファイナルファイト】

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アマデウスの野郎が三戦さんちんの構えで鋼鉄化していた。ウルトラメタルボディーの魔法だ。完全に引きこもり状態だぜ。これだから魔法使いって人種は困るんだ。何か都合が悪くなると直ぐに塔やらダンジョンに引きこもりやがる。とにかく、陰気な野郎共なんだよな。

俺はオーガラージメイスで鋼鉄化したアマデウスの股間を集中的に乱打していた。ガンガンっと殴りまくる。

「こなクソ、こな糞、こなくそ~!!」

やっぱり効かねぇ~……。

頭をどついても、股間をどついても鋼は鋼だ。この程度の強打じゃあ歯が立たない。まさにウルトラメタル状態だよな。悔しいが、この魔法のディフェンス力は完璧だ。

俺は肩を落として言った。

「それなら、手を変えて行きますか……」

オーガラージメイスを異次元宝物庫に仕舞うと別のマジックアイテムを取り出す。

「ジャジャ~ン。なら、今度はこれだ!」

俺が次に取り出したマジックアイテムはバトルアックスである。そのバトルアックスを鋼鉄化するアマデウスの肩に乗せると顔を近付けながら言った。

「鋼鉄化してても見えてるんだろ。さっきも俺や糞女が居なくなってからこっそり魔法を解除してたもんな。って、ことはだ。視力や聴覚が残ってるのかな。もしかして両方とも残ってるのかな~」

俺は嫌らしく微笑みながら言う。

「それじゃあよ~。視力や聴覚が残ってるなら、勿論ながら嗅覚も残ってますよね~?」

俺はバトルアックスでアマデウスの鋼鉄の肩をポンポンっと叩いた。

「この斧は悪臭のバトルアックスって言うんだぜぇ~」

【悪臭のバトルアックス+2】
魔力で強烈な悪臭を10分間放つ。命中率の向上。

「こいつは途轍もなく臭いぜ~。もう、鼻が捥げるほどにな~!」

アマデウスの首に巻き付いていたショートスピアが巻き付く位置を変えた。首から頭に移動する。口と鼻だけ見えるように巻き付く。

「これで、魔法を解いても鼻は塞げないぜ~」

俺は自分の口と鼻を布切れで縛るとマジックアイテムの効果を発動させた。

「悪臭、噴射っ!!」

刹那にバトルアックスから悪臭が流れ出し辺りに充満する。その魔力で空気に紫色が着色されていた。悪臭が色となって見えているのだ。

俺は引きつった声で叫んだ。

「臭っ!!!」

凄い悪臭だった。鼻を布で覆っているが、それでも臭う。スバルちゃんの体臭にも劣らない悪臭だ。激臭レベルだ。

臭いの攻撃に慣れているつもりだったが鼻が曲がりそうで耐え難い。否、鼻が曲がって鼻骨そのものが物理的に折れそうだ。

だが、これで次にレベルアップした時には悪臭耐性スキルを獲得できるだろう。このスキルだけは獲得しなければスバルちゃんとの結婚生活が破綻するかもしれないので必須である。俺は俺の嗅覚をスパルタ方式で強化しなくてはならないのだ。

一方のアマデウスは初めて体験するだろう悪臭攻撃に鋼鉄の身体を震わせていた。鋼鉄化したボディーがカタカタと痙攣している。間違いなく効いているのだろう。

「効いているな。もう少し待ってみるか……」

いずれ悪臭に追い詰められてアマデウスも鋼鉄化の魔法を解くはずだ。そすればチャンスが巡ってくる。

その時は直ぐに訪れた。悪臭に耐えかねたアマデウスがウルトラメタルボディーの魔法を解除する。

「臭い、臭いぞ!!!」

アマデウスは必死に自分の鼻を押さえようと試みるが頭部に巻き付いた手槍の厚みに阻まれて阻止されていた。しかも視界も手槍によって塞がれている。臭ううえに見えなくて、更には頭が手槍の束で重いのかふらついていた。

「ここは一丁、ぶん殴っておこうかな~」

俺は異次元宝物庫からスターメリケンサックを取り出すと両拳に装着した。

【スターメリケンサック+2】
ショットガン式の連続パンチを一日一回繰り出せる。メテオ式巨大拳を一日一回繰り出せる。

「それじゃあ一発ドデカク行くぜぇ~。とうっ!!」

俺は高くジャンプしてから鉄拳を振りかぶった。必殺技をぶちかます。

「メテオダイナミックパーーンチっ!!!」

巨大化する俺の右拳が空から振ってくる。その一撃がアマデウスの頭を脳天からぶん殴った。更に振りきられた巨体鉄拳が第九の脳天も殴り付ける。

巨大拳の衝撃にドシリっと周囲が揺れた。あまりの衝撃に吹き飛んだアマデウスが転がると巻き付いていた蛇手槍も外れてしまう。

そして、転がったアマデウスの身体が第九の縁ギリギリで止まった。

「落ちなかったか、まあ落ちても追って行くけどな」

俺がアマデウスのほうに歩き出すとユラユラとアマデウスが立ち上がる。その表情には余裕は伺えない。

「お、おのれ……、糞餓鬼が……」

アマデウスは肩で息を切らしていた。呼吸がままならないのだろう。足も若干だが震えている。見るからに立っているのもやっとに見えた。それらから決着が近いことが俺には悟れた。

俺は悪臭のバトルアックスを異次元宝物庫に仕舞う。それから仁王立ちで言う。

「そろそろ決着を付けようか、アマデウスさんよぉ~」

アマデウスが拳を構え直して怒鳴った。空手の構だ。

「勝つのは私だ!!」

アマデウスが前に跳ねる。低い跳躍から真っ直ぐに伸ばされた縦拳が俺の眼前に迫る。その拳の形は一本拳。その角先が俺の人中にヒットした。

「緩いっ!!」

人中で一本拳を受け止めた直後、俺は頭を反らした。威力を受け流す。

更にカウンターの右アッパーカット。俺のメリケン付き鉄拳がアマデウスの下顎を突き上げた。そして、腕を振り切るとアマデウスの口から白い歯が数本飛んだ。

「ぐはっ……」

「ふっ!!」

続いて鍵拳。左フックがアマデウスの頬を横殴る。

また、白い歯が血を混ぜながら飛んだ。するとアマデウスの身体がフラリと回って俺に背を見せる。

完全なる隙──。

俺が背後からアマデウスの後頭部を殴ろうと拳を上げた。直後、アマデウスの頭が前のめりに沈む。その代わりにシーソーの原理で片足が背後に跳ね上がって来た。

ここでアマデウスの反撃。

中段掬い後ろ蹴りが俺の股間に忍び込む。本日五度目の金的だ。

ガンっと俺の身体が下半身から僅に跳ねた。

激痛──。

だが、耐えた。金的に耐えられた。俺は片玉だからダメージも半分なのだろう。だから耐えられたのだろう。

代わりに俺がアマデウスの背後から掬い蹴りを股間に打ち込んだ。

「ぎぃゃっ!!!」っとアマデウスが悲鳴を上げる。

アマデウスの背筋がピンっと伸びた。

初めての感触だった。蹴り足から伝わる感触は、球体が弾ける感触だ。

悟る。ああ、アマデウスも潰れたな──。

そう俺が思った直後、アマデウスが顔から前に倒れ込む。額を地面に押し付け、お尻を突き上げて爪先で立っている。

への字だ。への字でダウンしてやがる。

俺は突き上げられたアマデウスのお尻に言った。

「なあ、アマデウス。これで決着ってことにしないか?」

和解だ。

そもそも俺にはアマデウスと戦う理由が無いに等しい。

それに俺には人を殺す趣味もない。この異世界に転生してから一度も、一度たりとも人間を殺したことは無いのだ。それは誇りだ。

まあ、アンデッドなら何体も退治はしたけれどね。だから、そんなわけでアマデウスも殺す気はサラサラ無いのだ。それに片玉の仇も取れたしね。

しばらくするとアマデウスがフラフラと立ち上がる。その顔は汗だく。顔面筋が引きつりまくっている。苦痛に歪む顔は前歯が数本抜けており、十歳は年を取ったかのように老けていた。そこからダメージの程が知れる。

それでもアマデウスの心は折れていない。

「ほざけ、糞餓鬼が……。私はお前を倒して、魔王城を占拠するのだ……。そして、宝物庫からハーデスの錫杖を奪い取る……。それで、冥界に妻を迎えに行くのだ……」

俺はサラリと述べた。

「じゃあ、ハーデスの錫杖をくれてやるよ」

「えっ……?」

アマデウスの怒りと執念に燃えていた瞳が点になる。何を言い出すのかと呆けていた。

「俺さ、わけあって魔王になることにしたから、宝物庫の錫杖とらやを、お前に上げるよ。だから、もう喧嘩は止めようぜ」

「えっ……?」

アマデウスの両肩から力が抜けて脱力している。

俺は踵を返して魔王城のほうを見た。そして大声を張る。

「マミーレイス婦人。マミーレイス婦人は居るか~。顔を出してくれ~」

俺が怒鳴ると魔王城のテラスからローブに身を纏った巨乳のリッチが姿を表した。

マミーレイス婦人が返答する。

『なんで有りましょう、アスラン様?』

「なあ、俺が新しい魔王になるから、宝物庫を開けてもらえないか~?」

『誠に魔王様に就任なされるのでありますか!?』

「ああ、魔王になる。なんか問題でもあるか?」

『いえ、ですが……』

「俺が魔王になっても、世界征服とかしないけど、それでも問題ないよな?」

『はい……、それは魔王様の自由。そもそも魔王様とは、世界最大の自由人ですから』

「よし、決まりだ!!」

こうして俺は、呆気なく第11代目魔王に就任した。新たな時代が、ここから始まる。


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