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【最終章】魔王城の決戦編

最終章-1【謎の脱獄】

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俺がガルマルの町からソドムタウンに帰って来てから一週間が過ぎていた。って、言いますか、現在の俺は魔王城街に居るのだ。

「ぼけらぁ~……」

俺は魔王城の前に掛けられた石橋から湖の水面を眺めていた。魔王城前の石橋は既に復旧作業が完了して開通している。復旧作業には時間がかかったが、かなり整備された石橋と変貌していた。

その石橋の上をハムナプトラが操るフォーハンドスケルトンウォリアーたちが何体も四角い岩を四本腕で抱えながら運んでいた。城内に石材を運び込んでいるのだ。石橋の次は場内の復旧である。

眩しい太陽の下なのにフォーハンドスケルトンウォリアーたちが活動出来るのは、彼らが半分はゴーレムだからだ。

フォーハンドスケルトンウォリアーはアンデッドとゴーレムのハイブリット型モンスターなのだ。しかも素材が人骨なだけで、機能は殆どゴーレム寄りらしい。っと、言いますか、もうウォリアーでもなく、ただの作業用ゴーレムと化している。だから作業を行うのにハムナプトラの指示が必要なのだ。

俺はフォーハンドスケルトンウォリアーたちの指揮を取るハムナプトラに話し掛けた。

「ハムナプトラ、昼間っから精が出るな~。本当にご苦労様だぜぇ~」

ミミックの小箱を抱えたハムナプトラはのっぺらぼうな仮面を被った顔で俺に受け応えする。

「いやいや、私はフォーハンドスケルトンに指示を出しているだけですから、楽なもんですよ。あははは」

ほのぼのと話すハムナプトラだが、その風貌はローブにフードを被り顔は仮面で隠しているからとても怪しい。尚且つ片腕にはミミックの小箱を抱えて、反対の手にはスタッフを付いているのだ、怪しさは100点満点である。まさに敵役の魔道士の外見だ。

だが、この魔王城街では珍しい風貌でもない。

町中を見渡せば、マッチョなエルフやビキニノームたちが駆け回り、建物の屋根越しにはサイクロプスまでもが徘徊している頭が見えるぐらいだ。魔王城のあちらこちらにはハイランダーズが警備に励んでいるのが窺え、時折リングを外したガルガンチュワがクラーケンの姿でのびのびと湖を泳いでいたりもする。更には空を見上げれば、レッドドラゴンとブルードラゴンの姉妹も飛んでいるのだ。それに夜になるとゴースト大臣ズたちがゴーレムを操り夜勤に励んでいる。

もう、魔王城街は亜種や魔物の巣窟になっているのだ。だからと言って人間の姿が少ない訳でもない。

冒険者ギルドのスタッフや魔法使いギルドのスタッフ、それに神殿の神官たちが転送絨毯を使ってソドムタウンからやって来ては、各自の支部を建築し始めている。

それにメインストリートにはワイズマンや盗賊ギルドが幅を聞かせる商店が何軒も建ち始めていた。故に人混みも伺える。

そろそろ町らしい町の姿が完成し始めているのだ。

そして、俺がドズルルから帰って来ると、プロ子が率いる二十名のミイラメイドたちが独立して魔王城で働き出したのだ。

俺の異次元宝物庫内に残ったのはヒルダだけである。

そもそもがメイド二十一名との最初の約束が、魔王城が手に入ったら、そこで働くのが契約条件だったのだ。ミイラメイドたちにしてみれば、お城で働けるのが夢だったとか。ヒルダ一人が俺の元に残ったことが例外なのである。

それに傷が回復したミーちゃんも不動産屋として仕事を開始したらしい。あんなぶっ壊れた性格だが、不動産屋としては評判が良いのだ。喋らなければビジュアルは可愛いしね。

まあ、皆が皆して、逞しく生きているようなのだ。それはそれで結構な話なので、歓迎である。

俺はハムナプトラと別れて魔王城の中に入って行った。

城内では壊れた壁などをフォーハンドスケルトンが修理しており、装飾品に関しては見掛けないドワーフの職人たちが復旧していた。

「へぇ~、ドワーフまで出稼ぎでやって来てるのか~」

俺は城内を見渡しながら地下に向かった。

「久々にプロフェッサー・クイジナートにでも会いに行こうかな。あいつも頑張ってるらしいからな~」

俺は魔王城の地下牢獄に通じる通路を下に下にと進んだ。道中の魔物はハイランダーズによって退治された様子で、すんなりと地下牢獄まで進めたのだ。

「よ~~う、クイジナート、おひさ~」

俺は牢獄の中で鍛冶屋仕事に励んでいる悪魔なスケルトンに話し掛けた。

「おお、アスラン殿か」

彼はレッサーデーモンのアンデッドで鍛冶屋の引き籠り野郎だ。鍛冶屋仕事にしか興味が無いが、今は仕事に溢れていて大変重宝されている。上で使われている作業道具の殆どを、素材さえ差し出せば、彼が全部無料で作ってくれるのだ。修理だってお手の物である。しかも本人は楽しんでいるから問題も無いのだ。

クイジナートが鍛冶屋道具と魔法の釜戸が揃った牢獄内から言った。

「アスラン殿、新しい魔法の鎧を作ったのだが、どうだね、着てみないか?」

「おっ、マジか!?」

クイジナートが鍵の掛かっていない鉄格子の扉を開けると俺を獄中に招き入れる。

「これだ」

クイジナートが埃避けのシーツを剥ぎ取るとプレートメイルを着込んだマネキンが姿を表した。それは上半身だけのプレートメイルだった。

「プレートメイルか~……」

ちょっとガッカリしたな。

俺は不満を表情に出しながら述べる。

「プレートは音が酷いから隠密行動が多いソロ冒険者の俺には不向きなんだよねぇ……」

俺の不満を聞いたクイジナートが顎をしゃくらせながらホネホネな両腕を組んで自慢気に述べた。

「そう思いまして、マジックアイテムの効果を選さして作りました。どうぞアイテム鑑定をしてみてくださいな」

「んん、そうなの?」

俺がプレートメイルを鑑定してみると、喜ばしい内容が表示された。

【無音のプレートメイル+3】
耐久性が向上する。重量の軽減。鎧から金属音が立たない。

「おお、これはなかなかじゃあないか!!」

俺がプレートメイルの胸をコンコンっと叩いたが、金属音がしなかった。代わりに革鎧でも叩いたカのような軽い音がする。

「動いても金属と金属が擦れ合う音も鳴りません。正に隠密専用の重防具でございます」

「流石はクイジナートだな。なかなか腕が立つぜ!!」

「アスラン殿に出会ってから製作を始めた高品質ですからな。時間と手間が掛かっています」

「大事に使わせてもらうぜ~」

俺がプレートメイルを異次元宝物庫に仕舞うとハイランダーズのキャッサバが地下牢獄に姿を表す。

「ああ~、居た居た。アスラン様、探しましたぞ」

「んん、どうした?」

「上の階でマミーレイス婦人がお呼びです」

「なんだ、あの巨乳リッチがなんの用事だ?」

キャッサバが答える。

「なんでも地下牢獄の囚人が一人逃げ出したようですよ」

「囚人が逃げた?」

俺は檻の中のクイジナートを見た。

「囚人なら居るじゃんか?」

「いや、クイジナートさんじゃあなくって、別の囚人ですよ。とにかく、上の階に来てください」

俺はキャッサバに連れられて上の階に戻って行った。そして、マミーレイス婦人やゴースト大臣ズが待つ薄暗い会議室に通される。

まあ、こいつらもアンデッドだから日光がヤバイのだろう。だから昼間は薄暗い会議室に籠って居るのかな。

「どうした、巨乳。何かあったのか?」

マミーレイス婦人が暗闇に包まれた表情で述べた。

「アスラン様。地下牢獄に幽閉していた囚人が一名逃走いたしました」

巨乳と呼ばれても否定はしないんだ……。確かに馬鹿デカイのは真実だからな~。ほんに器がデカイ女だな。

「囚人って、誰さ。そんな奴って居たっけ?」

俺の記憶には無いな。忘れているだけかな?

静かにマミーレイス婦人が答える。

「アスラン様がミディアム・テンパランス嬢に刺された事件の際に、クラウド氏と一緒に捕まったアキレウスと名乗る戦士です」

「ああ~、そんな奴が居たな~」

確か角刈りでポニーテールな兄ちゃんだよな。正直なところすっかり忘れてたぜ。

「まだクラウドは幽閉中なのか?」

「はい、クラウド氏は三食おやつ付きで幽閉中です。最近、少々太って来ているのが心配されています」

おやつまで付いてくるのか……。しかも獄中で幽閉されているのに太るのか……。どんな獄中生活だよ。

マミーレイス婦人が闇で見えない顎に人差し指を当てながら述べる。

「それが、アキレウス氏が逃げ出した手段が不明で……」

「不明?」

「牢獄の扉は施錠状態でした。監視員も脱獄を目撃していません。城内でも目撃した者は居ませんでした。まさに逃走経路が不明なのです」

「あいつ、ただの戦士だったよな。そんなに器用なことが出来るタイプなのか?」

「さあ……」

マミーレイス婦人もゴースト大臣ズも首を傾げていた。俺も首を傾げる。

こいつらが悩むほどの脱獄手段なのだから、相当謎なのだろう。




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