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【第十七章】クローン研究編

17-10【クローンの寿命】

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俺はクローンたちが巣くうダンジョンエリア内の通路を進んでいた。

ぎゅるるるるるう~~……。

あー、腹が鳴ったぞ。そろそろ昼飯の時間かな。

「なあ、ヒルダ──」

俺が呼び掛けると異次元宝物庫内からメイドの声が帰って来る。

『なんで御座いましょう、アスラン様?』

「簡単な食べ物でいいんだ。歩きながら食える物を出してくれ。昼飯はそれで済ませるからよ」

『ならばワニ肉の串焼きが御座います』

「ワニの串焼きかぁ~。まあ、それでいいかな。くれ」

俺が言うと異次元宝物庫内から手だけを出してヒルダがワニ肉の串焼きを二本ほど差し出した。

なかなかの大きさの串焼きだ。二本も食べればお腹いっぱいになるサイズである。

俺はそれを受け取ると、ワイルドな素振りで肉に噛り付く。

肉、ネギ、肉、ネギ、肉の順で組まれたネギマの塩焼きだ。

暖かい──。ハグハグハグ。

「ウマウマだ」

俺は食事を取りながらも歩みを止めなかった。今は時間が欲しいのだ。

一早く残りのクローンたちを倒してテイアーの研究所に入りたい。

ミッションの最終期限は今日までである。時間も残り僅かだ。このままでは報酬が無くなってしまうだろう。それだけは避けたいのである。

俺は竹串に刺された肉とネギを食べ終わると串を石壁に突き刺した。竹の串が石壁にブズリと突き刺さる。

石と石の隙間に刺さったのではない。石のド真ん中に竹の串が突き刺さったのだ。俺はこんなことも出来るようになっていた。

強度の違いを超えて武器を活かす。これもまた強者の証だ。

レベル44にて人間の頂点には達しているだろう。

だが、まだまだ人間の内でも最強とは呼べない。少なくともギルガメッシュは俺より遥かに強い。戦ったことはないが、見て分かるぐらいだ。

それに俺が目指す先は魔女を越えること、あの少女Aより強くならなければ、次に出合った際には殺されかねない。

だから、まだまだレベル44なのだ。目指すはレベル100である。

レベル100になれば、最終目標の糞女神討伐だって叶うやも知れない。

だとするならば、俺の旅はまだ半ば以下だ。中間点すら越えていない。

そして、あのクローンたちは子供のころは俺と外観が同じらしい。だが、成人を越えたころから悪魔化を始める。

これは、クローン技術の未熟が産み出した失敗なのか?

それとも正しい俺の末路なのか?

俺は、成人すると悪魔化が始まるのか?

今の俺は年齢にして十七から十八ぐらいだ。

この世界に成人式ってイベントはあるのだろうか?

今度スカル姉さんにでも訊いてみるか。

それにしても──。

あの小説家のクローンは二十歳ぐらいだった。

そのぐらいから悪魔化が始まるのか?

俺は、将来的に悪魔になるのか?

何故……?

思い浮かぶ原因は魔女とロード・オブ・ザ・ピットだ。

あいつらの暗躍か?

あり得る推測だな。

それとも俺が魔王城周辺を開拓しているのが原因か?

それもあり得るな……。

やべぇ~……。

心当たりが数個ほど有るは、俺……。

クローンの未来はオリジナルの未来な可能性が高いぞ……。

俺、将来的に悪魔化が始まるんじゃね?

だとすると、あと二年から三年が重要だ。

悪魔になんてなってたまるか……。なんであんなに醜い姿に変化しないとならないんだよ。マジあり得ね~ぞ。

でも、万が一にも悪魔化が始まったらどうしよう……。その時は諦めて魔王にでも転職しちゃおうかな。どうせ魔王城の主になるんだしさ……。

いやいやいや、諦めたらアカンだろ!!

それだけは無いわ~。あったらアカンだろ~。

まあ、最悪だけは避けるように努力せにゃあならんな。

「あっ、扉だ」

考えながら歩いている俺の目の前に扉が現れる。通路の突き当たりに両開きの鉄扉だ。

重々しい扉だが、僅かに隙間が開いている。

俺は気配消しと忍び足のスキルを使用しながら近付いたが、扉の隙間から声が掛けられた。

「もう、貴様が居るのは察している。入ってまえれ……」

老人の萎れた声だった。俺はスキルを中断して扉を両手で開ける。

「ハロー、エブリバディ!」

俺が明るく声を張ると室内の視線が俺に集まった。

家具らしい家具の少ない15メートル四方の部屋には三人の人物が立っていた。巨漢の悪魔、老人の悪魔、そして漆黒のローブを頭から被った人物。

巨漢と老人は俺のクローンだろうが、漆黒のローブを纏った人物は顔が見えない。

老人が萎れた声で言った。

「待っていたぞ、アスラン。我らがオリジナルよ」

「へぇ~、俺がオリジナルのアスランだと知っているのか、爺さん」

爺さんは矮躯で腰が曲がっていた。手足も枯れ木のように細い。顔は皺だらけで全裸の身体も皮ばかりで萎れている。

そして、片手に自分の背丈よりも高いスタッフをついて、反対側の手には水晶玉を持っていた。

こいつがノストラダムスだろうか?

いや、漆黒のローブ野郎も怪しいな。

老人のクローンが俺の質問に返答する。

「ワシが持つ水晶玉は、千里眼を可能にするマジックアイテムだ。前の部屋でのやり取りを見ていたわい。それにアスノベとの会話も聞いていたぞ」

「なるほど、盗み見や盗み聞きが趣味なのか、爺さんは」

「しょうがあるまいて。老い先短いと、何事でも知っておきたいと思うものじゃ」

「そんなものか?」

「お主も老いれば時期に分かることじゃて。何せワシはお前の老後だからのぉ~」

「…………」

俺って、爺になると、こんな感じなんだ~。なんかあんまり未来を知るって面白くないな。希望とか夢とかが湧いてこないよ。

「さて、本題に入ろうか」

巨漢のクローンが一歩前に出ながら言った。

巨漢の背中には鞘に収まったロングソードが二本背をわれている。魔力感知スキルで見るまでもないだろう。あれは間違いなくマジックアイテムだ。

巨漢のクローンは全裸だ。しかし身体の大きさは2メートルはあるだろう。悪魔化しているってことは二十日を過ぎているってことだ。

だが、俺は既に成長期は過ぎているはずだ。もうこれ以上は身長も伸びないはずである。なのにこいつは長身だ。俺のクローンならばあり得ない成長である。

巨漢のクローンは、ド太い小指で鼻の穴をホジリながら言った。

「やい、オリジナル。俺の巨漢を見て驚いているな?」

「それもそうだが、鼻をホジリながら言うなよな。お前は俺のクローンなんたろ。ならばもっと上品に振る舞えよ」

「お前は鼻糞が詰まったらホジらないのか?」

「まあ、ホジるけれどさ……」

「なら、問題なかろう」

「それで、何が言いたい?」

「産まれや育ちが異なれば、人前でも鼻の穴ぐらいホジるってことだ」

「そうじゃあねえよ。なんでお前だけ巨漢なんだって話だよ。お前は俺のクローンなんだろう?」

「あー、そっちの話ね~」

「そっちの話だよ」

「何故、俺だけ巨漢なのか。それはおそらくクローンたちの命を多く食らったからだろうさ」

こいつ、何体の心臓を食らったんだ?

「俺は命を食らう度に強くなり、身体が大きくなった」

「お前は、どのぐらい生きてるんだ?」

「約九十日だ」

クローンの心臓を食らえば十日ほど寿命が延びるって小説家のクローンが言ってたっけな。ならばこいつは、九体近くのクローンを食らっていることになる。

俺はチラリと老人のほうを見て訊いた。

「爺さん、あんたも命を食らって生き延びているのか?」

「ワシは違う。一人も食らっていないが、九十三日生きとるわい」

「長生きだな……」

「寿命もクローンによって異なる。お前ももしかしたら、長生きするかも知れんぞい」

俺は巨漢のクローンを睨み付けながら言った。

「でえ、お前らは、これからどうする?」

巨漢のクローンが背中からロングソードを一本引き抜きながら言った。

「オリジナルを殺して、その心臓を食らうつもりだ!!」

「あー、やっぱりそうなるよね~」

巨漢のクローンの顔が悪魔らしく怖い表情に変貌していった。額や首筋におぞましい血管が浮き上がる。

「オリジナルを食らえば俺がオリジナルだ。俺がお前の寿命分だけ生き続けてやるぜ!!」

俺も腰から黄金剣を抜いて構えた。

「何故に俺を食らえば俺の寿命が得られると分かるんだ?」

巨漢のクローンが親指を立てて漆黒のローブを指差した。

「ノストラダムスの予言が、そうおしえてくれたんだよ!!」

やっぱりこいつがノストラダムスか──。

こいつ、めっちゃ怪しいぞ。


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