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【第十七章】クローン研究編

17-6【メリケンサック】

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約10×10メートル四方の部屋だろうか。置かれた家具は部屋の隅に移動されたテーブルと幾つかの椅子ぐらいだ。

明かりは4メートルほどの高さがある天井にランタンが複数ぶら下がっている。出入り口は俺が入って来た扉と、その反対の壁にもう一つだ。

俺は部屋の中央で黄金剣を構えて立っていた。そんな俺を五体のクローンたちが取り囲んでいる。

悪魔化した四体のクローンたちは武装していた。

手にはバトルアックス、ウォーハンマー、ショートスピア、メリケンサックを武装している。

小説を書いていた若いクローンだけが武装していない。

四体の悪魔化クローンは敵意満々である。殺気が眼光から溢れ出ていた。

俺の殺気感知スキルにもビンビンと引っ掛かって来る。

メリケンサックを両手に嵌めたクローンが厳つい表情で述べた。

「なあ、こいつは俺に譲ってくれないか?」

バトルアックスのクローンが不満を述べる。

「なんでだよ、俺だって命が欲しいぞ」

「もう俺は二十日が過ぎてるんだよ。そろそろ老化が始まる時期だ。歳を取りたくないんだよ。命の補充が必要だ」

三体のクローンが渋々ながら武器を下げた。

「なら、今回は譲ってやる。こいつは俺たちのルールを知らずに育った外れ者のクローンっぽいからな。さっさと処分するしかないだろうさ」

「サンキュー、皆。感謝するぜ!」

メリケンサックのクローンがファイティングポーズを築いて前に出て来た。姿勢を猫背に、メリケンサックを装着した両拳を顔の前に並べている。

構えは小さくコンパクト。ボクシングのインファイタースタイルだ。

それにしても「命の補充」って、もしかしてこいつらは、他人の命を吸収して寿命を伸ばしているのか?

いや、もしかしたら同じクローンからしか寿命を吸収できないのか?

それと、二十日が過ぎて老化が始まるってことは、こいつらの寿命はかなり短いぞ。

可愛そうだが儚き命なんだな~。

それでもだ──。

同情に値するかも知れないが、慈悲を掛けてはいられない。

こいつらは、この世に生まれてこないはずの生命体なんだ。

生命のルールを違えたクローン生物なんだ。

しかも俺のクローンだぞ。処分するしかない。

俺はメリケンサックのクローンと向かい合うと剣を向けた。

「悪いが、容赦はしないぞ──」

「それはこっちだって──」

俺とクローンが睨み合う。

悪魔の眼光の奥に俺が見えた。瞳に俺が映り込んでいるだけなのだろうが、俺の心だけが感情的に揺れた。

「くっ……」

同情は無しだ。

俺は奥歯を強く噛み締めながら先手を打った。

ダンッと音を鳴らして大きく一歩踏み込む。そこからの突き。

黄金剣の先端が真っ直ぐクローンの眉間を狙う。

疾風の如く会心の突きだった。その突き技をクローンが躱す。

頭を右回転に渦巻かせながら黄金剣の下を潜り出ると突進してきた。

気が付けばクローンが俺の右肩側に立っている。

「速い!」

ボクシングのフットワークか!?

これぞ疾風の如くだ!!

突きが来る!?

パンチが横から飛んで来た。

クローンが繰り出したのは右拳のストレートパンチ。真っ直ぐ攻めて来た縦拳が、俺の顎先で渦を巻いて捻られた。

コークスクリューパンチだ。

俺は咄嗟に顎を引いて背を反らした。カッンっと小さな音が脳内に響く。

僅かにヒット。

「くっ!!」

顎先に拳が掠めたが直撃を免れた。

「おおぅ……」

俺は蟹股でヨタ付きながら後退した。

「ちっ、一撃で決められなかったか」

こいつ、俺を一撃で沈めるつもりだったのか!?

俺、舐められてるの!?

いや、俺がこいつらを舐めていたのか!?

掠めただけだが、僅かだが足に来ている。顎の先端を叩かれて、脳が揺らされたかな。ピンポイントパンチってやつか……。

アイツの狙い通りに顎先を叩かれていたら、間違いなく脳震盪で一発KOだったぞ。

こりゃあ、同情とか慈悲とか言ってられないわ。

煩悩に惑わされていないクローンたちは、半端無く強いってことかよ……。

「次で決める!!」

クローンが低い姿勢でダッシュして来た。そして俺の眼前で右ストレートを繰り出す。

俺は大きく脇に跳ね退いた。すると空振ったメリケンサックの拳が背後の壁を強打する。

ドゴゴゴゴゴコッッ!!!

凄い振動であった。部屋全体が轟いている。

狙いを外した右ストレートパンチが壁を殴ると手首までめり込んでいた。壁に渦巻くような皹が走っている。

続いて轟く激音と共に、粉砕された壁肌が崩れ落ちた。

「ちっ、ちょこまかと──」

ヒィィイイイイ!!

なに、あのパンチ力は!?

どんだけ腕力が高いんだよ!!

てか、もしかしてマジックアイテムの効果か!?

あのメリケンサックは、それだけヘビーなマジックアイテムなんですか!?

観戦していたバトルアックスのクローンがヤジを飛ばしてきた。

「おーい、アスパン。何をやってやがるんだ。部屋を壊すなよ~」

「すまん、ちょっと狙いが外れちゃってさ……。次のパンチで決めたるわい!」

再びメリケンサックのクローンがファイティングポーズを取る。

今度は姿勢を低くしながら頭を∞の字にウィービングを繰り返す。

デンプシーロールですか!?

デンプシー・ジャックさんの真似ですか!?

「ボコボコのスクラップにしてやるぞ!!」

そんな怖いことを言うなよな!!

もう、こうなったら!!

「ライトニングボルト!!」

俺は左手を突き出すと魔法を発射した。

「ぬわっ!!」

直撃!

俺が繰り出したライトニングボルトの魔法がクローンの上半身に炸裂する。

だが、それでもクローンの動きは止まらなかった。

電撃を浴びて焦げ臭くなった身体を丸めて弾丸のようにダッシュして来る。

「怯みさえしないのか!?」

「食らえっ!!」

低い姿勢からのボディーブロー。俺の腹筋を狙った拳が飛んで来る。

しかし、電撃のダメージが残っているのかスピードが落ちていた。

「ならばっ!!」

俺は突進して来たクローンの拳とスレ違うように前蹴りを繰り出した。

そして、俺の足のほうがリーチが長かった。先に俺の爪先がクローンの顔面を蹴り飛ばす。中足が鼻先にヒットする。

「ぐふっ!!」

「とりゃ!!」

更に二発目の攻撃。

剣技による兜割りだ。頭を真っ二つに割ってやる。

「くっ!!」

躱された。

俺が振るった剣先が床に当たって金属音を奏でる。

「勝機っ!!」

クローンが左腕を大きく振りかぶった。ボクサーならば有り得ないほどのテレホンパンチだ。

「食らえ、天馬メテオパンチ!!」

「なにっ!!!」

届かぬ間合いで繰り出されたパンチがショットガンのように広がりながら弾丸を放出した。それはまるで流星群の輝きである。

光った複数の拳が飛んで来て俺の身体を打ち殴る。

「ぐあっ!!」

それは止まらない。連打だ。俺の全身を幾度も撃って撃って撃って攻め立てる。

そして、俺の身体が壁際まで押されて行った。

一発一発は重たくないが、逃げる隙すらない連打だ。止まらず、休まず、隙間無く、全身を打ち殴られる。

「これで終わりだ!!」

今度はクローンが左拳を大きく振りかぶった。

「天馬コメットパンチ!!!」

振りきられた拳から巨大な惑星が飛び出した。その大きさは直径1メートルのサイズだ。

巨星の突撃。

あんなの食らえないぞ!!

食らったらミンチになりそうだ。

俺は頭上に黄金剣を振りかぶった。全身全霊を込めてスキルを発動させる。

「ワイルドクラッシャー!!!」

振り下ろされる黄金剣とクローンの闘拳から発射された彗星とがぶつかり合った。

「うらぁぁぁああああああ!!!」

俺の気合いと共に激しく空気が揺れた。室内で闘志が荒々しく渦巻く。

「ザンっ!!!」

斬った。

俺の黄金剣が燃え盛る惑星を真っ二つに切り裂いた。

「バカな……」

二つに割れた彗星の陰から唖然としたクローンの姿が現れる。

「隙有り!」

湯気を出しながら消え始めた彗星の間に踏み込んだ俺がスキルを乗せて黄金剣を振るった。

「クイックスラッシュ!!」

熱風を切り裂きながら瞬時の速さで振られた剣先が、クローンの喉仏をフラッシュの速さで過ぎた。

「ぅぁ…………」

すると声にならない声を漏らすクローンの首から鮮血が吹き出す。

「最初にお前が仕掛けた攻撃が正解だったんだよ。無理して派手に攻めなくったって、ほんの少し顎先を叩いて脳を揺らすだけで相手を倒せる。派手に戦い過ぎて、隙が生まれたんだ」

「な……る……ほ……」

喉から鮮血を流すクローンが膝から崩れ落ちた。こいつは出血多量で直ぐに死ぬだろうさ。

「「「アスパンっ!!」」」

クローンたちが敗者の名を叫んだ。

アスパン?

アスラン+パンチの訳語かな?




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