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【第十四章】太陽のモンスター編。

14-2【謎の勝負】

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部屋の温度が少し寒い……。

「こちらのお方はどなたですか、アスランくん?」

笑顔で言ったのは薬師のスバルちゃんだった。

ツインテールに少し地味なメガネを掛けた美少女が、小首を傾げながら明るい笑顔で訊いてきたのだ。

その笑顔には殺気が滲み出ている。

今俺たちが居るのは新築されたスカル姉さんの診療所の三階である。

まだほとんど荷物が運び込まれていないスカル姉さんの部屋の真ん中に丸テーブルが置かれ、俺とスカル姉さんの他にスバルちゃんとブルードラゴンのグラブルが椅子に腰かけていた。

引っ越し作業の途中で休憩しているのだ。

そこに配達途中のスバルちゃんがやって来たのである。

そして俺は引きつった顔でスバルちゃんの質問に答えた。

「えーと、こいつは、グラブルって野郎で……」

「野郎?」

スバルちゃんは満面の微笑みを見せながら言う。

「こんな美人さんを捕まえて野郎だなんて、随分とアスランさんと親しいようですね」

棘がある。

茨鞭のような痛々しいほどの棘があるぞ。

女体化したグラブルが美しい笑みを浮かべながら返答する。

「ええ、アスランくんとは子作りの約束をしているのですよ。僕は彼の子種を孕むつもりです」

グラブルの挑発的な台詞を聞いたスバルちゃんが座っていた椅子をダンッと倒しながら立ち上がった。

可愛い顔を赤くさせながら眼を血ば散らしている。

額に血管を浮かべて奥歯をギリギリと音を鳴らして噛み締めていた。

明らかに憤怒している。

メガネの奥の瞳が怖い。

瞳孔が全開だ。

そして背後の景色が歪むほどの危険なオーラを放っている。

怖い、怖い、怖い!

マジで怖いぞ!!

「子作りって、なんですか!? 孕むって、なんですか!?」

スバルちゃんとグラブルは初対面である。

だからスバルちゃんは俺とグラブルの関係性を知らないのだ。

スカル姉さんが言う。

「まあ、スバルちゃん、落ち着きなよ」

「は、はい……」

スバルちゃんは倒れた椅子を起こすと座り直す。

スカル姉さんがスバルちゃんに訊いた。

「それでスバルちゃんは、今日は何しに来たんだ?」

「ドクトルの引っ越しが始まったと聞き付けたので、注文されていた秘薬を届けに来ました」

「そうか、なら二階の診療所に置いといてくれ。幾らだ、今ここで代金を払うぞ」

「すみません、秘薬を忘れました……」

おい、なんだそれ?

言ってることと、やってることが違うじゃんか?

「あんた、アスランが居るから来たのね?」

「は、はい……」

どうやら秘薬の配達は口実らしい。

そんなスバルちゃんがモジモジしながら言った。

「念のため一日一回はアスランさんが帰って来てないかログハウスに通ってたんですけど、今日は大工さんに訊いたら全員引っ越しだって聞いて、それで診療所に急いで見に来たらアスランさんが知らない美人さんとイチャ付いてたので、ついついカッとなりました……」

具体的に説明してくれるな。

相当動揺しているぞ、こりゃあ。

しかも、カッとなっちゃうんだ……。

スカル姉さんが席を立ちながら言う。

「まあ、今コーヒーを入れるから、それを飲んで落ち着きなって」

「はい、ドクトル……」

良かった。

スバルちゃんが少し落ち着いたようだ。

「ところでグラブルは、よく俺がここに居るって分かったな?」

「ああ、昨日の夜に星占いをやってね」

「星占い?」

「その星占いで今日ドクトルの診療所に皆して引っ越すって分かってたから完成した大型転送絨毯を届けようと飛んで来たんだよ」

「便利な星占いだな、すげー具体的だぞ……」

「僕は次元を操る魔法に長けているからね。予言や占いも得意なんですよ」

マジで便利なドラゴンだ。

ならば──。

「なあ、グラブル」

「断ります」

「えっ!?」

こいつ、知ってやがるぞ!

俺が町作りの資金を出してくれって言い出すのを、知ってやがるぞ!!

これも星占いか!?

それにしても何故に断る?

こいつは守銭奴なのか?

ドラゴンは寝床に宝物を溜め込む習性があるから可能性は高いのかな。

「でも、心配要らないよ、アスランくん」

「何故だ、グラブル?」

「君には大きな星が輝いているから、必ず上手く行くさ」

「そうなん……」

なんだか曖昧な回答だな。

まあ、所詮は星占いだ。

信じるも信じないも俺次第かな。

こんなもんだろうさ。

そこにスカル姉さんがコーヒーを出してくれた。

テーブルに並ぶ四つのコーヒーカップ。

コーヒーからは湯気が立っていない。

アイスコーヒーかな?

そして、コーヒーカップを四つ置いたスカル姉さんが言う。

「冷めたコーヒーだが、三つは本物だ」

「じゃあ、残り一つは何だよ!?」

「インクだ」

さらりと訳が分からないことを言い出したぞ、このヤブ医者が!!

グラブルがコーヒーカップを睨みながら言った。

「ドクトル、これはロシアンルーレットってヤツだね!?」

この世界にロシアってあるんかい!?

すると今度は顔を青ざめながらスバルちゃんが言う。

「これが、あの極寒地獄の大国で騎士同士が決闘で行われる伝説のロシアンルーレットってやつですか!?」

やっぱりロシアって国があるんだ!!

スカル姉さんが言葉を続ける。

「コーヒーを無事に飲めるのは三名。インクを飲むのは一名よ!」

てか、ロシアンルーレットをやるんですか!?

なんでだよ!?

グラブルが言う。

「ぼ、僕は昨晩の星占いで答えを知っているから、大丈夫なんですがね!」

冷や汗かいてるじゃん!!

グラブルお前さ、ここまでの展開を予想してなかっただろ!?

ここまでちゃんと占っていなかっただろ!?

スバルちゃんがコーヒーカップの一個に手を伸ばす。

「わかりました、受けて立ちます!」

この娘さん、受けて立っちゃうの!?

するとグラブルもコーヒーカップに手を伸ばした。

「面白いですね。人間に遅れは取れませんから僕も受けて立ちますよ」

お前もやるんかい!?

スカル姉さんがコーヒーカップの一つを取ってから言う。

「さあ、残り一つはアスランの分だぞ」

スカル姉さんの顔が微笑んでいやがる。

これはもしかして……。

「ちょっと待ってくれ、皆……」

スカル姉さんが俺を嘲る。

「なんだ、アスラン。怖いのか?」

グラブルも続いた。

「アスランくん、これに負けたからって僕を直ぐに抱けとか言わないから安心していいんだよ。さあ、コーヒーカップを手に取って」

俺はテーブルに残ったコーヒーカップを指差しながら言う。

「そうじゃあねーよ。これってさ、インクが入ったカップをスカル姉さんは知っているよな?」

俺たち三人が同時にスカル姉さんの顔を見ると、スカル姉さんがわざとらしく顔を反らした。

やはり知ってるようだ。

何せスカル姉さんが用意したんだもの。

「さあ、皆、一度カップをテーブルに戻せ!!」

スバルちゃんとグラブルが素早くコーヒーカップをテーブルに戻した。

スカル姉さんもシブシブながらコーヒーカップをテーブルに戻す。

「スカル姉さんは後ろを向いてな!」

「あ、ああ……」

スカル姉さんが後ろを向くと俺は素早くコーヒーカップをシャッフルした。

「よし、いいぞ!」

これでどれがどれだか分かるまい。

「レディーファーストだ。スバルちゃんスカル姉さんの順でコーヒーカップを取りな」

グラブルが不満そうに言う。

「僕は……」

「三番目でいいだろ」

「レディーファーストはどうした?」

「もうチ◯コは捥げたのか?」

「まだ生えてる」

「じゃあやはり三番目だな」

「しかたあるまい……」

そんなこんなで皆が悩みながらコーヒーカップを一つずつ選んだ。

最後に余ったコーヒーカップを俺が手に取る。

「じゃあ、一斉に飲むぞ!」

「分かったわ、アスランくん……」

「了解だ、アスラン」

「じゃあ、飲むぞ!!」

全員が一斉にコーヒーカップの中の黒い液体を口に含む。

しばし全員の動きが止まった。

どうやら全員口の中にある液体の味を確認している様子だった。

「「「「…………」」」」

しばらくして皆がキョロキョロと他人の顔色を確認し始める。

そんな中で、俺は──。

あー、これって知らない味だわ~……。

すげー不味いぞ……。

どうしよう……。

もう吹き出すタイミングじゃあないよね。

えぃ、こうなったら飲んじゃえ!

ゴックン……。

飲んじゃった、てへぺろ。

「誰がインクだったんだろう?」

そう言いながら笑う俺の歯が、真っ黒だったのに気付くまで、俺はもう少しだけ時間が掛かった。

でも、皆の笑みが優しくなっていたので、まあいいや。

結果オーライだ。


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