上 下
360 / 611
【第十三章】魔王城攻略編

13-7【社長エルフとの交渉】

しおりを挟む
糞真面目なイメージが強いエルフだって酒を飲むらしい。

社長エルフの家で行われた宴では、果物やら木の実やらのナチュラルな食事しか出なかったが酒はちゃんと出た。

麦から作った酒らしいが、俺は飲めない。

何せ、ゲコだからだ。

「なんだ、お前、飲めないのか!?」

木のジョッキを持った社長エルフが俺に絡んできた。

もう、ウザイ……。

ついさっき、酔っぱらって調子こいて来た凶介を、ジャーマンスープレックスで眠らせたのに、今度は父親に絡まれたよ。

もう、ウザイな……。

マジ、ウザイ……。

なんか屈辱感があるが俺は真実を話した。

「俺はゲコなんだよ……」

「えっ、本当か?」

「ああ、本当だ……」

「昔一緒に戦った人間の兵士から聞いたが、人間って酒が燃料で動いているんだろ!?」

「ああ、兵士には、そう言う人種も居るけど、俺は違うんだ。とにかく俺は酒が飲めない」

「人間には可愛そうなヤツも居るんだな!」

「なんとでも哀れめってんだ」

俺はひたすらライチの皮を剥いて食べた。

これ、好き。

初めて食べたけど、柔かな甘さの中にほんのりと酸っぱさが潜んでいるのが爽快だ。

今度は凶子が絡んで来た。

「ねぇーねぇー、アスラーン!」

「なんだよ。あっ……」

可愛い……。

凶子の野郎、いつの間にか着替えて着やがった。

アフロのカツラを取って、特効服から肩が見える軽い上着のミニスカートに着替えてやがる。

しかも、無かった眉毛も描いてきてやがるぞ。

化粧もケバさが消えて、素朴になっていた。

それが、可愛いのだ。

ヤンキー感が完全に抜けて、笑顔が妖精のアイドルのように輝いていやがる。

「ねーねー、アスラン。いつあたいをソドムタウンに連れてってくれるの!?」

「はぁ……?」

「ほら、テレポーターで転送してくれるんでしょ!!」

「はぁ……?」

「だって約束したよね!?」

「はぁ……?」

「何をすっとボケてるんだ、テメー! 絞めるぞ、ゴラッ!!」

凶子が額に青筋を浮かべて俺の襟首を掴んで引っ張った。

唐突にアイドルからヤンキーに豹変する。

「何を急に怖い顔を作ってんだよ。可愛い顔が台無しじゃあねえか!!」

「えっ、あたいって、そんなに可愛いかな……?」

デレた……。

チョロいな。

「はぁ、そんなでもないぞ~」

すると凶子が背中から風林火山の木刀を引き抜いた。

「どこに入ってたんだ、それ?」

「問答無用じゃあ、ぶっ殺してやる!!」

凶子が全力で伝説の木刀を真っ直ぐ振り下ろしてくる。

だが、その一撃を真剣白羽取りで受け止めたのは父の社長エルフだった。

エルフとは思えない大きな両手でガッシリと木刀を抑え込む。

「凶子、私はお父さんだよ。ド近眼なんだから、暴力を振るう時ぐらいは眼鏡を掛けておくれ……」

「あっ、ごめんなさい、パパン……」

そして向きを変えた凶子はジャーマンスープレックスでお尻を上げている兄の元に言って甘い声を出した。

「アスラーン、頼むよ。明日、あたいをソドムタウンに連れてっておくれよ~」

そう言いながら兄のお尻に頬擦りをする。

うん、やっぱりこいつは眼鏡を掛けたほうがいいな……。

そんなこんなしていると、社長が真面目な声色で話し掛けてきた。

「でぇ、アスラン。本当に魔王城を観光地にするつもりか?」

「ああ、そのつもりだ。観光地として流行るかは分からんがな。それに関してエルフの村としては問題があるのか?」

「我々は、魔王城の入り口の村を、戦後五百年守って来たのだ……」

「それを踏まえて、問題があるのかって訊いてるんだ」

「まず、我々が何故にこんな片田舎で墓守みたいなことをしているか分かるか。誰にも望まれていないし、求められてもいないのに、何故に魔王城を守るみたいなことをしているか、分かるか?」

「知らんな。そもそも本気で魔王城を守ってないだろ?」

きっぱりと言った俺は手にあるライチを一口で頬張る。

「我々は、戦後行き場がなかったエルフたちなのだ……」

「行き場がない?」

「私の祖父は、エルフだったが特殊でな……」

特殊ってなんだろう?

ただの変態かな?

「異世界転生者って、ヤツらしいんだ……」

「えっ、マジ!!」

で、出たよ、ここで。

「魔王や勇者も異世界転生者だったと噂されているが、私の祖父も、そうだったらしいのだ……」

それで、こんな変態なエルフなのか!?

異世界転生してきてエルフになった野郎がご先祖様なら少しは納得できる。

「破極道山もアンドレアも私の親戚だ。私の血が近いものは、異常な体型で生まれてくる」

「それで、あんなにエルフ離れした怪物が……」

「そう、怪物なのだよ……。だからエルフからも嫌われ、エルフの町を追い出された……」

「なるほど、そんな事情があったのか」

「そして、我々は五百年前の功績から、ここに村を構えることをゆるされてな。それから守り人のようなことをしている……」

「それは分かった。でえ、俺の町作りは、反対なのか?」

「私は心配だ……。同族のエルフにすら受け入れられない我々が、人間の町と隣り合わせでやっていけるのだろうか……?」

「今まで人間との交流はなかったのか?」

「村で作っている籠や家具を人間の町に下ろしている。今日もイルミナルの町から帰って来たところだ……。我々は、そのぐらいの付き合いしかないのだよ」

「へぇ~、家具とか作れるのか~。そりゃあいいな」

町が出来れば、その分だけ家具が必要になる。

これは手頃な職人たちをゲットできたかもしれんぞ。

家具やら何やらを作れる職人が隣に住んでいれば便利だろう。

しめしめだ。

「だが、私たちが人間の町に行けば、間違いなく白い目で見られる。恐れる者すらあるのだ。破極道山やアンドレアは特に怖がられる。やはりエルフにすら嫌われるエルフだからかも知れない……」

「いや、違うと思うぞ……。お前ら巨漢はエルフじゃあなくても怖いから……。それにお前ら極道っぽいものさ」

「ゴクドウ?」

この世界には極道が無いのか?

「ヤ◯ザのことだよ」

「◯クザ?」

無い物が多いな……。

もしかして、こいつら自分たちが強面の極道感に溢れていることに自覚がないのかな?

「とにかく、お前には分からないのだ。白い目で見られる我々の気持ちが!!」

「だが、安心しろ!!」

俺は胸を張って言った。

「何故だ……?」

「ここは魔王城の観光地になるんだぞ!」

「だからなんだ?」

「観光地にはアトラクションが付き物だ。お前らエルフは魔王と戦ったのなら、その役をやってもらいたい。それに魔王軍役も必要だ。お前ら巨漢どもが演じればいいんだよ!!」

「我々が魔王軍……?」

「耳が尖っているから、それなりの衣装で着飾れば、魔族にだって見えるだろうさ!!」

「我々が魔族を演じるのか……?」

「そうだ、社長! お前は体格も良いしマッチョマンで貫禄もあるから、魔王役をやれよ!!」

「わ、私が魔王だと……」

「そうだ、かなりイケてると思うぞ!!」

「そ、そうか……。私が魔王役か……。出きるかな……。演技とか素人だし……」

でも、なんかやる気有りそうだぞ。

案外の乗り気だな。

エルフがそんなことが出来るかって怒鳴ってくるかと思ったのにさ。

こいつらエルフとしてのプライドも薄いんじゃねえ?

ならばと俺は更に説得を続けた。

「お前は五百年前に魔王を見たことがあるんだろ?」

「あるが……」

「ならば、パクれ。真似しろ、模倣しろ!!」

俯いて考える社長エルフ。

「まあとにかくだ。やるやらないはあとの話だ。まずは町を作る。それをお前らエルフの村が協力する。それでいいだろ?」

するとムクリと社長エルフが立ち上がった。

顔が怖い……。

静かで気迫が滲み出た表情からは貫禄が怖さとなって伝わって来る。

「パパン……」

凶子も心配そうに見上げていた。

近眼で見えてなくても気迫を感じ取ってるのだろう。

社長エルフが渋声で言う。

「ならばアスラン。外に出よ」

俺もスタリと立ち上がった。

「OK」

俺は鼻歌混じりで出口に向かう。

その後ろに社長エルフが続いた。

「パパン、アスラン、どうしたの!!」

俺が出入り口をくぐる前に振り返って凶子に言った。

「やっぱり最後は男らしく、拳で決着をつけるらしいぞ」

「な、なんで……?」

凶子はわけが分からないって顔をしていたが、俺たち二人は外に出た。

外は夜だ。

俺たちは再び広場の真ん中に立つ。

静かな森の夜に冷たい風が服と、俺のローブと社長エルフの白いマフラーをユルリと揺らした。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

ハクスラ異世界に転生したから、ひたすらレベル上げしながらマジックアイテムを掘りまくって、飽きたら拾ったマジックアイテムで色々と遊んでみる物語

ヒィッツカラルド
ファンタジー
ハクスラ異世界✕ソロ冒険✕ハーレム禁止✕変態パラダイス✕脱線大暴走ストーリー=166万文字完結÷微妙に癖になる。 変態が、変態のために、変態が送る、変態的な少年のハチャメチャ変態冒険記。 ハクスラとはハックアンドスラッシュの略語である。敵と戦い、どんどんレベルアップを果たし、更に強い敵と戦いながら、より良いマジックアイテムを発掘するゲームのことを指す。 タイトルのままの世界で奮闘しながらも冒険を楽しむ少年のストーリーです。(タイトルに一部偽りアリ)

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

Lunaire
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

冷遇された第七皇子はいずれぎゃふんと言わせたい! 赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていました

taki210
ファンタジー
旧題:娼婦の子供と冷遇された第七皇子、赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていた件 『穢らわしい娼婦の子供』 『ロクに魔法も使えない出来損ない』 『皇帝になれない無能皇子』 皇帝ガレスと娼婦ソーニャの間に生まれた第七皇子ルクスは、魔力が少ないからという理由で無能皇子と呼ばれ冷遇されていた。 だが実はルクスの中身は転生者であり、自分と母親の身を守るために、ルクスは魔法を極めることに。 毎日人知れず死に物狂いの努力を続けた結果、ルクスの体内魔力量は拡張されていき、魔法の威力もどんどん向上していき…… 『なんだあの威力の魔法は…?』 『モンスターの群れをたった一人で壊滅させただと…?』 『どうやってあの年齢であの強さを手に入れたんだ…?』 『あいつを無能皇子と呼んだ奴はとんだ大間抜けだ…』 そして気がつけば周囲を畏怖させてしまうほどの魔法使いの逸材へと成長していたのだった。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

元悪役令嬢はオンボロ修道院で余生を過ごす

こうじ
ファンタジー
両親から妹に婚約者を譲れと言われたレスナー・ティアント。彼女は勝手な両親や裏切った婚約者、寝取った妹に嫌気がさし自ら修道院に入る事にした。研修期間を経て彼女は修道院に入る事になったのだが彼女が送られたのは廃墟寸前の修道院でしかも修道女はレスナー一人のみ。しかし、彼女にとっては好都合だった。『誰にも邪魔されずに好きな事が出来る!これって恵まれているんじゃ?』公爵令嬢から修道女になったレスナーののんびり修道院ライフが始まる!

処理中です...