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【第十二章】大地母神ガイア編

12-30【ドワーフの親子喧嘩】

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飲んだくれドワーフのロダンを馬で運んで、俺が村長さんの家に到着したのは、まだまだ早朝に近い時間帯であった。

周囲は草原で牛や山羊が長閑に草を食べている。

なんとも清々しい朝である。

俺は加工された岩を積み重ねて作られた家の前で、まだイビキをかいて寝ているロダンをアキレスの背中から落とした。

「ぐふっ!!」

「起きろ、ドブドワーフ!!」

「ぐぅごごごごお~~」

うわ、まだ起きないぞ。

凄いイビキをかいてやがる。

馬の高さから落とされても起きないなんて、マジで筋金入りの怠惰だな……。

仕方ないので俺はロダンの首根っこを引っ張り引き摺った。

そして、玄関の前まで運んだ。

それから扉をノックする。

「すんませーん、お届け物でーーす!」

「はーーい、ちょっと待ってね~。宅配とは珍しいわね」

しばらくするとドワーフのおばちゃんが家から出て来る。

「息子さんを届けに参りました」

「あら、やだ、本当に我が家の息子だよ……」

「こちらにサインを貰えませんか?」

「ええ、サインだけでよろしいの?」

「あと代金が150000Gになります」

「たかっ!?」

「酒場のつけが含まれてますから」

「すみません、こんな子しらないわ。我が家の子じゃあないから受け取り拒否を願います……」

「返品は面倒臭いから、お子さんはここに放置して行きますね」

「それは迷惑なお話ね……」

「それよりも奥さん、私は人間の冒険者なのですが、酒場でサイクロプス退治の依頼書を見てやって来たのです。なので依頼人の村長さんにお会いできませんでしょうか?」

「主人はたぶん昼まで起きてこないと思いますよ。何せ根っからのドワーフ男子ですから」

「本当に怠惰だな」

「はい、ドワーフですから……」

「それじゃあ、旦那さんが起きるまで、その辺で待ってますね」

「では、主人が起きたら呼びに参ります」

こうして俺は近くの木の下で休みながら村長さんが起きて来るのを待つことにした。

そして、しばらくの間、長閑な時間が過ぎた。

そろそろ昼頃である。

すると突然であった。

村長さんの家のほうから怒鳴り声が飛んで来たのだ。

「なんだ、騒がしいな?」

俺が村長さんの家のほうを見たら、さっきまでイビキをかいて寝てたロダンと知らない面のドワーフ親父が掴み合いの喧嘩をしているではないか。

家の玄関前での掴み合いだ。

互いに襟首を掴んで額を近付けながら怒声を吐き散らしている。

「テメー、糞親父! 朝から舐めんなよ!!」

「なんだと馬鹿息子が! テメーこそ朝から舐めたことを言ってるなよ!!」

うむ、どうやら親子喧嘩のようだ。

だとすると、ロダンと掴み合いをしているドワーフがロダンの父で村長さんなのだろう。

ロダンよりもちょっと老けているが、さほど歳の変わらない感じがするな。

てか、ドワーフの男は、ほとんどモッチリ親父かモッチリ爺さんにしか見えないもんな。

「テメー、馬鹿息子!! テメーが何をしでかしたか分かって言ってるのか!?」

「テメーが昨晩作ったプリンを食べたぐらいで怒るなってんだ!! ドワーフのくせして玉が小せえぞ!!」

「馬鹿野郎!! 俺が昼に起きたら一番で食べようと思って大事に大事に作った手作りプリンだぞ!!」

「ああ、確かに旨かったよ! 傑作だったぞ!!」

「あたりめーだ!!」

「文句あるなら拳で勝負をつけるか!?」

「上等だ!! 受けて立つわい!!」

おおっ!?

親子の殴り合いが始まるのか!?

面白そうだな。

ドワーフの殴り合いなんて、なかなか見られないかも知れない。

ここはどっちが強いか黙って見てみるか。

「死ねゴラァ! 馬鹿親父!!」

「テメーこそ死ね! 馬鹿息子が!!」

二人のドワーフが真ん丸い拳骨を握り締めて互いの顔に目掛けて鉄拳を振り放つ。

二つのストレートパンチがすれ違う。

ゴンっとここまで音が聞こえた。

クロスカウンター!!

「ぐふっ!!」

「げふっ!!」

互いの鉄拳を顔面に浴びたドワーフ親子がよろめいた。

だが、倒れない。

退かない。

「息子の顔を殴りやがったな!!」

「テメーこそ父親の顔をなぐったな! 親にすら殴られたことがないのに!!」

「俺は親にしか殴られたことがないぞ!!」

「「おらっ!!」」

再び同時に放たれた鉄拳が互いの顔面を殴り付けた。

「「ふごぉ!!」」

鼻血と涎が飛ぶ。

「ふ、ふざけやがって!!」

「お、親父こそ!!」

「「とりゃ!!」」

今度は互いに飛び蹴りだった。

空中で交差するデブゴンの蹴りが互いの腹を蹴飛ばした。

「「うぷっ………」」

ドワーフ親子は着地と同時に片膝をついて吐きそうになる。

「は、腹は止めよう……。朝飲んだ酒が登って来る……」

「だ、だな……。殴り合うのは顔だけにしよう……」

「そうだよな……。吐いたら飲んだ酒が勿体ない……」

「んだんだ……」

二人が一息付いたところで俺が声を掛けた。

「気が済んだかい?」

「誰だ!?」

「お前は昨日の冒険者!?」

「昼間っから親子揃って殴り合いとは穏やかじゃあねえな~」

「人間には関係無かろう!!」

村長が額に血管を浮かべて俺に突っ掛かる。

憤怒に任せて俺に殴り掛かって来た。

「ぬうらぁ!!」

「わぉっ! 見境がないな!?」

しかしドワーフの打点は低い。

その丸々と堅そうな鉄拳も人間の胸の高さまでしか届かない。

それに、何より遅い。

トロ過ぎだ。

俺はヒラリとスピンしながら難無くドワーフの鉄拳を躱した。

それから爪先でチョン蹴りを放つ。

「ていっ!」

「ぎふっ!?」

俺の速い爪先の蹴りはドワーフ村長の股間に滑り込んだ。

キィーーーンっと金的を蹴飛ばしてやる。

「はぐぅぅぅ…………」

股間を両手で押さえながら両膝を突く村長さんは、煮え滾るような表情のまま静かになる。

「どーーーだ、糞親父!! 参ったか!?」

「何故にあんたが勝ち誇る、ロダンさん!?」

「だってこれはもう俺の勝ちだろ?」

「どう言う論理だよ……」

「ま、まだだぁぁああ!!」

少しキャンタマがさがったのか村長さんが復活して来た。

しかし、その表情は闘志と怒りに満ちている。

「人間ごときに遅れを取れるか!!」

「だから何故俺に挑んで来るんだよ?」

「そこに巨人が居るからだ!!」

「なるほど」

村長さんがジャンプしながらストレートパンチを繰り出して来た。

狙いは俺の顔面だ。

迫る鉄拳。

今度は届きそうである。

俺もストレートパンチで応戦する。

「シュッ!!」

すれ違う二つの拳

そして、命中。

「ぐほっ!!」

しかし、村長さんの鉄拳は俺の顔面に届かず。

だが、俺の拳は村長さんの顔面に深くめり込んでいた。

まあ、腕の長さが違うのだ。

これだけのリーチ差ではクロスカウンターも成立しない。

「うっ、ぐぅ………」

村長さんが白目を剥いてバタリと床に俯せで倒れる。

ノックダウンだ。

何せ俺が繰り出したのは左のパンチだ。

俺の左腕は糞女神によって本物の鉄腕に強化されている。

だから村長さんが顔面に食らったのは、本物の鉄拳なのだ。

紛い物の鉄拳じゃあない。

そりゃあ威力が違うよね。

TKOもされちゃうよね。

すると家のほうから村長さんの奥さんが声を掛けて来た。

「人間の冒険者さーん、さっき家の亭主が起きましたよ~」

俺は足元に撃沈している村長さんを指差しながら言った。

「すみません、また寝ちゃいました…」

「あら、まあ……」


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