上 下
314 / 611
【第十一章】増殖祭り編。

11-18【地獄の器】

しおりを挟む
俺は翌朝にはターナー村にあるイソップ亭に転送絨毯で返って来ていた。

昨晩はログハウスでガイアたち四人と、トランプで遊んでから寝たので少しながら寝不足っぽい。

ちなみにトランプのゲームはスカル姉さんが居なかったのでババ抜きをして楽しんだのだ。

スカル姉さんはババ抜きを始めると何故か怒り出す。

そもそも何故にトランプでババ抜きを始めるとスカル姉さんが怒り出すか俺には理解できなかった。

まったくもって謎である。

まあ、そんなわけで少し寝不足だが、朝からちゃんと起きれた俺は、宿屋の一階に出向いて一人で朝食を取ることにした。

店内には朝から飲んだくれてるオヤジたちが数人居るだけである。

オヤジたちも朝だから静かに酒を飲んでいた。

俺が一階に降りて来ると、店のカウンターに居るマスターが声を掛けて来る。

「おお、お客さん、生きてたかい。部屋の扉を叩いても返答がないから死んでるかと思ったよ。生きてて良かった良かった」

まあ、部屋の中に居なかったからな。

ほとんどソドムタウンに居たんだもの。

しゃあない、適当に言い訳を並べるか。

「生きてるわい。ちょっと疲れてて、寝坊しただけだよ」

「それならいいんだが」

「それより、朝食を貰えないかな。メニューはおすすめで」

「朝食? 何を言ってるんだ、もう少しで昼だぞ」

「えっ……、そうなの?」

「そうですよ」

うん、寝すぎたな……。

まあ、いいか。

それじゃあとりあえず朝飯は諦めて昼飯にするか。

「マスター、朝飯でも昼飯でもいいから温かい飯を出してくれないか」

「不味くても構わないか?」

「構うだろ!」

「じゃあ、うちのおすすめメニューを出してやる、まっていろよ!」

マスターは何故かルンルン気分で厨房の中に消えた。

なんだ?

そんなにおすすめメニューが出せるのが嬉しいのかな。

すると一人の飲んだくれオヤジが俺に話し掛けて来た。

「あんた、勇敢だね~。流石は壁の中に一人で入っただけのことがあるよ。この店のおすすめメニューを注文するなんてよ」

なんだ、俺が壁の中で英雄のように戦ったのが知れ渡っているのかな?

に、してもだ。

なんでおすすめメニューを注文するのが勇敢なんだ?

俺は飲んだくれオヤジに訊き返した。

「ここのおすすめメニューってなんだ?」

「あんた、知らんで注文したのかよ?」

「うん、知らん……」

「ああ……。じゃあ、出て来てからの楽しみだ。あんたは食べきれるかな?」

「なに、そんなにヤバイのが出て来るのかよ?」

大盛か何かなのか?

ここはおもうま系の店なのか?

「まあ、俺たちは見学させてもらうぜ、勇者様よ」

なんだ、マジでヤバイのか?

なんだか怖くなって来たぞ……。

どんな下手物料理が出て来るんだ?

もしかして、このタイミングだと、やっぱり虫料理か!?

それとも蠢く感じで蟲料理かな!?

てか、やっぱり俺は、虫はどうやっても食えないぞ……。

するとしばらくしてマスターが料理を運んで来た。

お盆に乗せられた黒い石の器が運ばれて来る。

そして、器の中からジュージューと焼ける痛々しい音が聴こえて来ていた。

「石鍋か!?」

「はい、お待たせしました。当店自慢の地獄風石鍋です!」

「地獄風石鍋っ!?」

俺が石の器の中を覗き込めば、赤い液体と野菜や肉やらが、ゴトゴトと沸騰しながら揺らいでいた。

マスターは、その器を厚手の手袋をはめて俺のテーブルに置いた。

「ぐわっ!!」

湯気が痛い!

湯気が目に染みるし、鼻の粘膜がヒリヒリとする。

ヤバイぞ!

これは激辛料理じゃあねえか!!

「どうだい、うちのおすすめメニューの地獄風石鍋は?」

「これは、激辛の石焼き鍋だよね……」

「いかにもだ。20分以内に全部食べたら無料だ。食べきれなかったら料金500Gだぞ!」

俺は迷うこと無く手の平から500Gを召喚してテーブルに置いた。

そして、叫ぶ。

「ギブアップ!!」

「はやっ!!」

店内に居たすべての人物が、俺のヘタレっぷりに度肝を抜いた。

「おいおい、お客さん。そりゃあないよ。一口も食べないでギブアップは失礼じゃないか!」

「失礼も何も、もう香りだけで痛いわ!!」

「じゃあなんで注文したんだよ!」

「注文なんてしてないもん!!」

「子供みたいに駄々を捏ねてないで、とにかく一口食べてみな。まずはチャレンジだ。それでこそ冒険者だろ!?」

「うぬぬ……」

冒険者とか冒険者じゃないとか言われると辛いな。

ここは男らしく食べないとアカンのですか?

でも、これは見た目からして激薬だぞ。

絶対に辛いを通り越して痛いだもん……。

見ているだけで涙が流れてくるほど辛そうだわ……。

「さあ、冒険者なら食ってみろ!!」

「うう……」

悟られたぞ……。

このマスターに俺の弱点が悟られた。

俺が冒険者としての見栄が高いってことが……。

完全に煽られてますわ……。

お客のオヤジたちも俺を煽りたてる。

「さあ、冒険者らしくチャレンジしろよ!!」

「勇者らしいところを見せてくれや~」

「ぐぐぐ……。仕方無い……」

追い詰められた俺はテーブルの上に置かれたスプーンに手を伸ばした。

そして、焼けた器を鉄の左手で支える。

「なに、こいつ、焼けた石鍋を手で支えたぞ!!」

「おい、こいつの左ては鉄だぞ! 鉄の手で石鍋を押さえてやがる!!」

マスターや客が詰まらないことで騒いでいる。

そんな中で俺はスプーンを片手に石鍋の中身を睨み付けていた。

いつまでもグツグツと揺らぐ赤い液体に、その灼熱の汁をタップリと吸い込んだ具材の山。

絶対に唐辛子とかハバネロとかカプサイシンとかが粉末状になって溶け込んでいるよね。

でも、ここで勇気を出さねば馬鹿にされるぞ……。

「じゃあ頂きます……」

俺は鍋の中にスプーンを差し込んだ。

するとゴロッとした感触の後に形そのままの唐辛子が複数本浮かび上がって来る。

ポッキリ────。

再び心が折れる。

「く、食えるか!!」

こんな物が食えるか!!

俺はインド人とかタイ人じゃあねえんだぞ!!

辛さに免疫がある人種じゃあねえんだ。

こんな地獄の食い物が食えるわけがねえだろ!!

てか、これは食い物じゃあねえよ。

これで虫が殺せるレベルの、いいや、人が殺せるレベルの兵器だよね!!

これを一滴だけバッタに垂らしたら、泡を立てて沸騰しながら死んで行くよね!!

人間でも同様だよ!!

「なんだ、やっぱり諦めるのか?」

「情けねえ冒険者様だな~」

「ぬぬぬぬぬっ!!」

この腐れ外道どもが!!

こうなったら最後の手段だ!!

俺は焼ける器を左手で持つと、スプーンで汁を掬ってマスターの顔にピシャっとぶっ掛けた。

「ぎぃぁあああ!!!」

店のマスターは、顔を押さえながら床の上でのたうち回る。

「あんた、何をするだ!?」

「うるせえ、お前も食らえ!!」

俺は客にもピッピッと赤い汁をぶっ掛けた。

「うぎゃぁぁあああ、何をするだぁぁあああ!!!」

「何か文句でもあるか!? 文句あるヤツは、俺の前に出てきやがれ!! 地獄の汁をぶっ掛けてやるぞ!!」

「うわ、こいつヤバイぞ!!」

「に、逃げろ! 巻き込まれたら堪らん!!」

その他の客たちが災難と化した俺から逃げ出して行く。

「わっひゃひゃひゃ、どうだバロー!!」

「ぐぐぐ、くそっ……」

この時の俺は完全に切れて冷静じゃあなかったんだ。

だから不意を突かれたのである。

「それっ!!」

「うぎぁぁあああがががが!!!」

俺の隙を突いたマスターが、起き上がるのと同時に俺が片手で持っていた石鍋の器を下から叩いたのだ。

その勢いで石鍋から跳ねた地獄の赤汁が、俺の顔面にぶっ掛かったのである。

「ヒィィイイイアアア!!!」

痛い! 痛い! 痛い!!

目に入った!!

激痛ですわ!!!

目が潰れる!!!

前が見えないわ!!!

もうマジで死ねる!!!

助けてくれ!!!

そうだ、ヒールだ!!!

「セルフヒール! セルフヒール!!」

「なに、ヒールとはズルイな!!」

ズルイとかズルくないとかじゃあねえよ!!

これはマジで失明するぞ!!!

こんなハプニングで盲目とか有り得ないわ!!

更にマスターのターンが続く。

「ならば、これならどうだ!!」

えっ、なに!?

ドボドボって頭に何か掛けられてますわん!?

これって、もしかして!!

「ぎぃぁあああ! テメーこの野郎!! 頭から唐辛子スープを掛けやがったな!!」

「ほほう、見えてなくても分かったかい。どうだね、うちのおすすめメニューの味は!?」

「うごぉぉおおお!! 頭皮が焼ける!! これは禿げるぞ!! 絶対に禿げる!!」

「はっはっはっ、ざまあ見ろってんだ!!」

「この野郎! お客様に何をしやがる!!」

「知るかボケ!!」

あっ、ヒールが効いたようだ。

目が見えるぞ!

そして、ヒリヒリする視界には、テーブルに置かれた石鍋が見えた。

赤い汁はまだ半分ぐらい入っている。

そしてマスターは、俺に汁を掛けられた別の客を気づかっていた。

俺に背を見せている。

目の痛みが緩んだ俺は石鍋を手に取ると、マスターの背後に忍び寄った。

そして、声を掛ける。

「おい」

「えっ?」

マスターが何気に振り返る。

その刹那に俺はマスターのズボンを引き寄せると、上の隙間から地獄汁を流し込んでやった。

「うそぉぉおおおお!!!」

「わひゃひゃひゃひゃひゃぁぁああゃい!!」

「チンチロリンが焼けるぅぅううう!!」

「どうだ、チンチロリンに金柑を塗った数十倍、否、数百倍の刺激だろう!!」

「も、捥げる~! チンチロリンが捥げそうだ!!」

「わっひっひっひっ、俺の勝ちのようだな!!」

【おめでとうございます。レベル32になりました!】

えっ、ウソ!?

これでレベルアップするのかよ!!


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

Lunaire
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた

杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。 なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。 婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。 勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。 「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」 その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺! ◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。 婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。 ◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。 ◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます! 10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

冷遇された第七皇子はいずれぎゃふんと言わせたい! 赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていました

taki210
ファンタジー
旧題:娼婦の子供と冷遇された第七皇子、赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていた件 『穢らわしい娼婦の子供』 『ロクに魔法も使えない出来損ない』 『皇帝になれない無能皇子』 皇帝ガレスと娼婦ソーニャの間に生まれた第七皇子ルクスは、魔力が少ないからという理由で無能皇子と呼ばれ冷遇されていた。 だが実はルクスの中身は転生者であり、自分と母親の身を守るために、ルクスは魔法を極めることに。 毎日人知れず死に物狂いの努力を続けた結果、ルクスの体内魔力量は拡張されていき、魔法の威力もどんどん向上していき…… 『なんだあの威力の魔法は…?』 『モンスターの群れをたった一人で壊滅させただと…?』 『どうやってあの年齢であの強さを手に入れたんだ…?』 『あいつを無能皇子と呼んだ奴はとんだ大間抜けだ…』 そして気がつけば周囲を畏怖させてしまうほどの魔法使いの逸材へと成長していたのだった。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

転生したら赤ん坊だった 奴隷だったお母さんと何とか幸せになっていきます

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
転生したら奴隷の赤ん坊だった お母さんと離れ離れになりそうだったけど、何とか強くなって帰ってくることができました。 全力でお母さんと幸せを手に入れます ーーー カムイイムカです 今製作中の話ではないのですが前に作った話を投稿いたします 少しいいことがありましたので投稿したくなってしまいました^^ 最後まで行かないシリーズですのでご了承ください 23話でおしまいになります

〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。 だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。 十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。 ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。 元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。 そして更に二年、とうとうその日が来た…… 

処理中です...