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【第十一章】増殖祭り編。

11-14【勝利の宴会】

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ソドムタウンを騒がせたケルベロス増殖祭り事件が落ち着いたのは、日が沈みかけたころだった。

増殖を続けたケルベロスが番兵や冒険者たちにすべて討伐されて、勝者たちは酒場に集まって宴会を始めている。

中には普通の町の住人も混ざっていた。

だが、まだ外は後片付けで奮闘している人たちも多い。

町の番兵たちや急遽雇われた人足の人々がケルベロスの死体を片付けている。

「はぁ~~い、皆さ~~ん。今日は大サービスだよ。ケルベロスの焼き肉だ。お肉は無料だから好きなだけ食べていいよ~~!」

冒険者ギルドの酒場でウェイトレスのバイトをしているガチムチガールのユキちゃんが、大皿に山盛りとなっているケルベロスの焼き肉を運んで来た。

頭部が付いたままの三頭犬の丸焼きだ。

ビジュアル的には少しエグいが、肉の焼けた旨そうな匂いが見てくれを上回る。

これはこれで立派な料理だろう。

「ほらほら、食べた食べた。でも、お酒はお金を取るからね~」

「ひゃっほーーい!」

焼き肉が山盛りの皿をドシンっと音を鳴らしてテーブルに置くと、どっぷりと酔っぱらっている冒険者の面々が次々と群がった。

「待ってました、お肉だ!!」

「戦い疲れて、腹ペコだったんだぜ!!」

「うわ~~、肉だ肉だ~!!」

「うほ、ケルベロスってなかなか旨いな!!」

冒険者が群がった大皿は、直ぐに空になる。

しかし次々とケルベロスの焼き肉はウェイトレスたちによって運ばれて来た。

「慌てなくったっていいよ~。ケルベロスの肉は腐るほどあるからさ。っと、いいますか、とことん食べないと腐るから、どんどん食べてね~」

陽気なユキちゃんの台詞に煽られて、冒険者たちとケルベロスの新たな戦いが始まった。

食うか食われるかの戦いから、今度は食うだけの戦いだ。

「食ってやるー!!」

「とことん食うぞ~!!」

「負けるか、こん畜生が!!」

「ハムハムハム!!!」

男たちは酒を煽りながらケルベロスの肉を争うように食べていた。

そんな光景を眺めていた俺のテーブルに、ユキちゃんがケルベロスの肉が山盛りとなった小皿を運んで来た。

「はぁ~~い、アスランもお食べ~~」

テーブルにドスンと置かれるケルベロスの焼き肉を見て、俺は食べる前から胃がもたれ始めた。

「うわ~~、犬を食べるんだ……」

犬なんて食べたことないぞ。

てか、普通食うのかよ……。

げんなりする俺の隣に座っていたゴリがケルベロスの焼き肉に手を伸ばす。

「なんだ、アスランは犬を食べたことがないのか?」

ゴリに続いてオアイドスもケルベロスの焼き肉に手を伸ばした。

「国によっては犬は食べない風習が強いところもあるからね~」

「流石は吟遊詩人だな。いろいろ旅して見て来たんじゃな~」

カンパネルラ爺さんもケルベロスの焼き肉を、モリモリと食べ始める。

どうやらこの辺では犬を食べる風習があるらしい。

なんとも可哀想な話だ……。

犬は人間の忠実なお友達じゃあないのかよ。

俺の背後に立つユキちゃんが言う。

「どうしたのアスラン。食べないのか?」

「いや、頭が三つあるとは言え、犬はちょっとね……」

「頭が三つある以外は、普通の犬と変わらない味だぞ。ちょっと大味感はあるけれどね」

「俺が住んでたところだと、犬は食べないんだわ。おそらく一生涯で犬を食べずに死んで行く人がほとんどなんだよね……」

「そんなの気にするなよ。食べろよアスラン。これはお前のために私が焼いた肉なんだぞ」

「誰が焼いても犬は犬だし……」

「もう焦れったいな!」

ユキちゃんは怒鳴ると無理矢理にもケルベロスの肉を俺の口元に運んだ。

肉で口をゴリゴリされる。

「ユキちゃん、やめろよ!!」

「いいから、食えってば!!」

「犬を食えるか、可哀想だろ!!」

「お前のために肉を焼いたのに、食べてもらえないあたいのほうが可哀想だわ!!」

「知るか、そんなの!!」

ゴリたち三人が呆れながら俺とユキちゃんの攻防を見ていた。

「犬の肉は旨いのにな~」

「まあ、宗教で食えないなら仕方無いよ」

「豚を食べない宗教は聞いたことがあるが、犬を食べない宗教なんて聞いたことがないぞ」

「ワシもだ。犬は旨いのにのぉ」

「本当は犬肉が嫌いなだけじゃあねえの?」

「ええい、勝手なことばかりいいやがって!!」

「いいから、食べろよアスラン!!」

「人の口に肉棒を押し込もうとするな、ユキちゃん!!」

「さっさと食べてってば!!」

「ふぐふぐふぐぅ!!!」

力任せにケルベロスの肉を口の中に押し込まれた俺は涙ながらに焼き肉を噛み締めた……。

もぐもぐもく……。

「畜生……、旨いな……」

「でしょ~~う、だから早く食べるべきだったんだよ~」

ユキちゃんは焼き肉を頬張る俺の肩をバシバシと叩いたあとに仕事に戻って行った。

それにしても、マジで旨い……。

三日月傷のケルベロス、ありがとう……。

お前の命を糧に俺は生きるよ……。

そんな感じで俺たちが騒いでいると、宿屋の扉が開いてスカル姉さんが入って来た。

そして、酒場のホールに血だらけのハンパネルラを投げ捨てる。

それを見た冒険者たちが止まった。

ボソボソと話だす。

「あいつ、ハンパネルラだよな?」

「確かうちのギルドの?」

「テイマーのハンパネルラか?」

「そう言えばケルベロスを捕まえたとか言って、調子こいてたヤツだよな」

「てか、こいつがケルベロスを町に連れて来たんじゃあねえか」

「そうだよ、こいつのせいで大乱闘が始まったんだ!」

「犯人発見!!」

声色の中に、少しずつ怒りが芽生え始める。

その怒りは徐々に殺気と変わっていった。

「おいおい、こいつが今回の犯人だな!」

「こいつのせいで、何軒か家が燃えたんだぞ!!」

「俺なんか剣が折れちまったしよ!!」

「ワシだってローブが燃えたわい!!」

「俺なんか余所見してたら馬の糞を踏んじまったんだぜ!!」

「それは、お前が悪いだろ」

「そうなん!?」

「それなら俺が彼女にフラれたのもこいつのせいだわ!」

「その彼女は、今は俺の彼女だぜ!」

「なに!!」

酒場内で怒号が飛び交う中、ホールの真ん中にへたり座るハンパネルラは、ボケ~~っと天井を眺めていた。

なんだか状況が飲み込めていないどころか、頭の中が空っぽにでもなったかのような表情を見せている。

なんともアホっぽい。

すると突然スカル姉さんが入り口横の石壁をドンっと叩いた。

激音と共に、拳打に揺れた石壁には亀裂が走ると一瞬で冒険者たちの視線がスカル姉さんに集まった。

青筋を浮かべたスカル姉さんが静かに述べる。

「あんたら何を酒盛りなんて始めてるんだ!?」

酒盛りで暖まっていた酒場に冷ややかな空気が流れ込んだ。

寒さを増やす冷気の元はスカル姉さんである。

そう、怒りの冷気だ。

俺も焼き肉を咥えながらスカル姉さんを黙り込んで見ていた。

「町中は、まだケルベロスが壊した瓦礫の処理や燃えた家の処理、怪我人の治療で大忙しなのに、何をあんたらだけ勝利の酒盛りを上げていやがる!!」

あー、確かに……。

後処理が全然終わってないよね。

俺はてっきり明日にでもやるかと思ってたぜ。

「ヒールが出来る者は、怪我した兵士や市民の治療だ。力持ちどもは瓦礫の処理よ。魔法使いたちは、人手が足りなくなったから防壁の警護を手伝え!!」

スカル姉さんが怒鳴ったが、酒場内は静まり返って動かない。

俺たちには関係無いっと言った顔だ。

まあ、冒険者なんてこんなものだろう。

するとスカル姉さんが床をドンっと踏み鳴らしてから言う。

スカル姉さんの顔が鬼のように歪んでいる。

言うことを聞かなければ噛み殺すと言った表情だった。

一言で言えば、怖い……。

「わかったのか!!!」

「「「「はい!!」」」」

地鳴りに押されて椅子から直立した冒険者たちが声を揃えて敬礼した。

一瞬で酔いが覚めた表情だった。

恐怖に震えている者もいる。

「分かったら、さっさと行け!!」

「「「「はいーー!!」」」」

冒険者たちは逃げるように酒場を飛び出して行った。

中には入り口横に立つスカル姉さんを恐れて避けるように窓から出て行く者も居るぐらいであった。

ゴリやオアイドスも逃げだしている。

残ったのはウェイトレスと、バーテンダーのハンスさんだけだった。

いや、俺とカンパネルラ爺さんも残ってたか。

あと、息子のハンパネルラもだ。

そしてカンパネルラ爺さんは、ホールに胡座を組んで座っている息子に歩みよって行く。

「この馬鹿たれ!」

父が息子の頭を平手でパシンッと叩いた。

「あ~、オヤジじゃあねえか、どうしたん?」

角刈りに四角い髭のハンパネルラは、頭から血だらけなのに呆けていた。

カンパネルラ爺さんに頭を叩かれても変わらず呆けている。

スカル姉さんが問う。

「あんたはこいつの知り合いか?」

「恥ずかしながら父親です……」

「それは恥ずかしいな」

えっ、そんなに恥ずかしいの?

だがスカル姉さんの返答を気にしないカンパネルラ爺さんが息子のハンパネルラの頬をペシペシと叩いた。

「おい、ハンパネルラ。どうした、ショックでボケたか?」

「あー、何がー?」

なんだか可笑しいな?

ケルベロスに噛まれたショックで頭が可笑しくなっちまったかな?

これは普通じゃあないぞ。

スカル姉さんがカンパネルラ爺さんに訊いた。

「おい、息子さんは、いつもこんな感じの馬鹿なのか?」

「まさか、もっと元気な馬鹿だ。こんなに馬鹿じゃあないぞ」

「そうか、馬鹿違いか……。だが、この馬鹿さかげんは普通じゃあないぞ?」

「確かに息子は町中でケルベロスを逃がしてしまうほどの馬鹿さかげんを繰り広げそうな馬鹿だが、いま醸し出している馬鹿っぽさは違う馬鹿だ」

「なるほど。だが言っておく、ケルベロスを逃がしそうじゃなくて、逃がした馬鹿だ」

「確かにその馬鹿だ」

馬鹿にも色々とあるんだな。

でも、これで会話が成立しているのが不思議だわ。

すると突然別の声が飛んで来た。

「それは、魔法だな」

声の主はギルガメッシュだ。

ギルド本部の二階から、ギルマスのギルガメッシュが全裸で降りて来た。

てか、服を着る暇ぐらいあっただろ。

何故に着ないんだ!?

「ギルガメッシュ、魔法とは?」

「ドクトル、それは記憶を魔法で消されたばかりの症状に良く似ている」

「本当か……」

「ああ、間違いないだろ」

「ところでなんで全裸なんだ?」

「その記憶を消す魔法が使える者は数少ないはずだ」

あ、スカル姉さんの質問が無視されたわ。

流石はギルガメッシュだな。

俺も何故に全裸か聞きたかったのにさ。

「この町に、記憶を消せる魔法使いが居るなんて、聞いたことがないぞ?」

「居るには居る」

「誰だい?」

「魔法使いギルドのギルドマスター、紅葉だ」

「あの婆さんか……」

スカル姉さんが名前を聞いて臭い表情を作った。

魔法使いギルドのギルマス、紅葉か──。

どんなババアなんだろう?

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