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【第十一章】増殖祭り編。

11-9【猛獣大暴走】

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俺たち四人が人混みにそって町中を移動していると、人の流れは冒険者ギルド本部方面に進んでい行った。

どうやら捕獲されたケルベロスは冒険者ギルドに運ばれているようだな。

俺は人混みを進みながらカンパネルラ爺さんに質問する。

「カンパネルラ爺さん、ハンパネルラってさ、あんたの息子だろ?」

「ああ、よく分かったな」

分からんほうが、どうにかしてるよな。

普通は名前から分かるだろう。

「テイマーとしての腕前はどうなんだ?」

「まあまあかな。ワシほどじゃあないわい」

どうだろう……。

この言葉を素直に信用していいものかが疑問だわ。

何せこの爺さんは嘘つきだからな。

「カンパネルラ爺さん、あんたならケルベロスを捕まえられるか?」

「まあ、容易いとは言えんが、無理はないだろうさ。息子のハンパネルラに捕まえられて、ワシに捕まえられぬわけがなかろうて」

あー、やっぱり信用できないな。

おそらく息子のほうがウデコキのテイマーなのか。

「ところでなんで息子さんは、ケルベロスを捕まえて来たんだよ?」

「簡単な話しだわい。ワシらテイマーがモンスターを捕獲する理由は二つだ」

「二つ?」

「使い魔として共に旅をして、共に戦わせるか、依頼人の要求で捕獲してくるかだい」

「じゃあ今回の場合は」

「後者だろうて。そうじゃあなければ強引に縛り付けて見せ物になんぞせんだろうさ」

「なるほどね~」

ならば依頼人が居るってことだな。

しかも冒険者ギルドにケルベロスを引っ張って来るってことはだ、冒険者ギルドの関係者が依頼人なんだろう。

じゃあ、その依頼人って誰だ?

ギルマスのギルガメッシュか?

でも、そんな話はこれっぽっちもしてなかったぞ。

ならば───臭いのはアマデウスかな。

そんなことを俺が考えていると、人混みが厚くなり速度を緩やかにしていった。

それと同時に野次馬たちの熱気も濃くなって行く。

歓声のような声もチラホラと聴こえ始めた。

見上げれば冒険者ギルドの砦が正面に見える。

「なあ、ゴリ、何か見えるか?」

俺は背の高いゴリに訊いてみた。

人混みから頭一つ分だけ飛び出ているゴリが、更に背伸びをして先を窺った。

「なんか冒険者っぽいおっさんが一段高い場所で調子こいてるのが見えるだけだわ」

「どんなヤツよ?」

「黒髪で角刈りの髭オヤジだ。たぶん冒険者ギルドで何度か見たことあるおっさんだと思うが、あんまり記憶にない奴だわ」

ハンパネルラって相当モブキャラなんだな……。

ゴリの記憶にすら残らないほどによ。

そんな感じでゴリが背伸びをしながら説明してくれていると、前方の人混みがドッと沸いた。

それと同時に人混みが後退を始める。

俺たちも人混みに押されて後退を余儀無くされた。

「何が起きた?」

「なんだなんだ!?」

「きゃーー!!」

人の圧縮が強まり悲鳴が上がり始めた。

その騒ぎは大きく変化して混沌のままに人々が逃げ始める。

そして突如ながら前方で火柱が上がった。

何故に町の中で炎が?

騒ぎ、悲鳴、後退、それらが混乱にかわって人々が我先えと必死に逃げる。

俺は引き返して逃げて来る民衆に押されながら叫んだ。

「何が起きた!?」

俺の問いには誰も答えない。

ただ必死に叫んで逃げるのみだ。

その叫びが俺の言葉すら掻き消していた。

たぶんこれはあれだろ。

誰もが予想できるハプニングだ。

ほぼほぼお約束な展開だろうさ。

そう、ケルベロスが逃げたな。

そして、暴れてるな。

これは、ありがたい展開だ。

俺がケルベロスをぶっ倒して目立ってやるぞ!!

アピールタイムだぜ!!

でも、逃げ出す人混みが俺の進行を妨げる。

思うように進めない。

糞、邪魔だ!!

民衆たちよ、逃げるのはいいが、俺の邪魔はしないでくれよな!!

俺が先に進めないじゃあないか!!

うぐ、すげー邪魔だわ!!

あれ、皆はどこ行った?

ゴリやカンパネルラ爺さんともはぐれたぞ。

あっ、オアイドス発見。

あれ、でも直ぐに人混みに飲まれたわ。

あっ、またオアイドスが見えたけど、何故か上半身が裸になってるぞ……。

服はどうした?

あれ、またオアイドスが人混みに飲まれたわ。

あっ、直ぐに人混みから出てきたけど今度はズボンも無くなり全裸になってるぞ……。

あいつ、何をしてるんだ?

あらら、また人混みに飲まれたわ。

それっきりオアイドスも見失う。

流石は変態吟遊詩人のオアイドスだぜ。

あいつは一人で激動を歩んでいるな………。

そんなこんなしていると、俺を押していた人の波が収まった。

逃げる人々が俺の周りには居なくなっていたのだ。

チラホラ逃げる人は俺を避けて逃げて行く。

ふう、危うく人混みに飲まれて溺れ死ぬかと思ったぜ。

あっ、遠くにゴリが居る。

なんだろう、何か叫んでいやがるな?

何を言ってるのかな、まだ悲鳴が五月蝿くて良く聞こえないぞ。

でも、なんか口の形で分かりそうだな。

どれどれ、口を読んでみるか。

「う・し・こ」

うしこ?

なんだよ、うしこってよ?

ワケワカメだわ。

でもゴリは必死に叫んでいるな。

あれ、もしかして、うしこじゃあなくって、うしろって言ってるのかな。

なんだよ、後ろかよ。

なに、後ろを振り向けってことかい。

てか、もう遅いだろ。

今俺が後ろを振り向いたら、絶対にお決まりのパターンだよね。

絶対居るよね、俺の背後にケルベロスがさ。

でも、振り返らなければ始まらないしね。

しゃ~ないか~。

さて、振り返りますか──。

「「「グゥルルルルル」」」

はい、振り返って見たら、俺の眼前に男のお腹がありましたわ。

上を見上げて見たらレザーアーマーの男が頭を咥えられてブラブラしてますよ。

この光景は、さっきも見たな。

カンパネルラ爺さんがシルバーウルフのボスであるアーノルドにされてたよね。

てか、こいつがハンパネルラだよね、たぶんさ。

えっ、なに?

これは一子相伝の隠し芸か何かかよ?

カンパネルラ爺さんの家に伝わる秘技だよね。

そして、咥えられて居た男がペッと横に吐き捨てられるとケルベロスは眼前の俺を睨み付けながら喉を唸らせた。

三頭の魔獣が怖い瞳をギラ付かせながら俺を睨んでいる。

「「「ガルルルルル!!」」」

うわ、次のターゲットは俺ですか?

うん、俺みたいだね!

望むところだ!!

「ガルッ!!」

真ん中の頭が俺に噛み付いて来た。

俺は咄嗟に左腕を前に出して噛み付きを防ぐ。

否、防がれていない。

ケルベロスに左腕を噛まれてるわ。

周りから女性の声で悲鳴が上がる。

ケルベロスの鋭い牙は、俺のプレートメイルの左腕+3とディフェンスガントレット+2の装甲を貫いて、俺の皮膚まで届いていた。

だが、糞女神から貰ったばかりの鋼の腕までは傷付けていない。

俺は、痛くも痒くもないのだ。

やはりこの腕は、マジックアイテムより硬いな。

流石は糞女神の祝福が施されているだけのことはあるよね。

でも、またマジックアイテムに穴が開いたよ。

自己再生能力で修復するかな、このマジックアイテムは?

前回はプレートメイルの左腕+3は修復したけどバックラー+1は死んだもんな。

それよりもだ。

この俺の腕に噛み付いている三頭犬はどうしたものかな。

絶対に反抗的だもんな~。

とりあえず俺は右拳を脇の下から後方に振りかぶった。

そこからの~~。

アッパーカットだ!!

「おうらっ!!」

「キャン!!」

振り切られる俺のアッパーカットがケルベロスの真ん中の頭だけを跳ね上げた。

そのパンチの一撃で、ケルベロスは俺の左腕を口から離してよろめいてしまう。

すると周囲から「おおー」と歓声が上がった。

こうして俺とケルベロスとの戦いが始まったのである。

町のド真ん中で、沢山の観客の前でだ。

よ~し、目立っちゃうぞ!!


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