上 下
275 / 611
【第十章】蠱毒のヒロイン編

10-9【魔法使いの塔】

しおりを挟む
俺は朝になるとターナー村の酒場で朝食を取ることにした。

とりあえず飯を食ったら転送絨毯でソドムタウンに帰ってからスカル姉さんにミイラメイドたちを押し付けようと考えていた。

たぶん空き地に複数の大型テントを建てれば、案外と21人のメイドぐらい収納出来るんじゃあねの?

それから要らないマジックアイテムを売りさばきに行こうかな。

「マスター、なんでもいいから朝食をたのんますわ~」

「はいよ~」

俺がフレンドリーに頼むと出てきたのは鶏肉のスープと硬い黒パンだった。

それを俺がダラダラと食べていると、店のマスターがホールの床板をモップで磨きながら話し掛けてくる。

「なあ、お客さん。あんた冒険者なんだって。しかも凄腕で、ソロ専門の」

あ~、昨晩の話を聞いていたのかな。

ついつい長々と三人組の旅商人に自慢話をしてたもんな。

「ああ、俺はソロの冒険者だよ。それが何か?」

「じゃあちょっと頼まれてくれないか」

「仕事の依頼かい?」

「ああ、そうなんだよ。この村は田舎だから冒険者が来てもキャラバンの護衛の仕事中ばかりで、なかなかフリーの冒険者が捕まらなくてね。冒険者に頼みたい仕事があってもなかなか頼めないんだよ」

「へぇ~、そんな不便もあるんだ。いろいろと大変なんだな~」

「でぇ、受けてくれるのかい?」

「俺は今んところフリーだからいいけれど、仕事の内容と、報酬しだいだな」

「報酬は3000Gだ。仕事の内容は、とある魔法使いの安否を確認してもらいたいんだよ」

「魔法使いの安否って、生きてるかどうかってことかい?」

「ああ、そうなんだ」

こりゃまた変わった依頼だな。

報酬の金額はまあまあだけれど、依頼内容は面白そうだ。

それに魔法使いが絡んで来るならば、俺のハクスラスキルも爆発連チャンしそうだしさ。

これはとりあえず話だけでも詳しく聞いてみるか。

「じゃあ、受けるか受けないかは、前向きに検討するから詳しいことを聞かせてもらおうか」

「それならば村長さんに話を訊いてもらえないか。この依頼は村長さんからの仕事だからさ」

「了解した。でぇ、その村長さんの家はどこだい?」

「北の高台の上の大きな家だ。行けば分かるさ」

「了解したぜ」

俺は飯を食ってから村長さんの家を目指す。

とりあえずソドムタウンに帰るのは中断だ。

まずは朝の早い時間帯のうちに村長に会いに行こう。

朝ならば、すれ違いになることもないだろうからさ。

そして酒場を出た俺は、村の北に向かった。

直ぐに村長さんの家を見つける。

高台の上に、確かに他の家よりは大きな家が建っていた。

しかし、屋敷ってほどでもない。

まあ、こんな田舎の村ならば、これでも大きい家と言えるのだろう。

そして俺は早速村長さんの家の扉をノックした。

拳で強めに扉を叩く。

すると直ぐに中年のおばさんが出て来た。

俺を怪訝そうな顔で見ている。

「俺は酒場のマスターに言われて村長さんに会いに来た冒険者なんだが、悪いが村長さんに伝えてくれないか。魔法使いがどうとかの仕事の話だ」

俺が言うとおばさんは「少々お待ちを」って言ってから奥に引っ込んだ。

しばらくすると代わりに中年男性が出て来る。

額がズルッと後退したおっさんだったが、体型はマッチョマンである。

「私が村長だが、あんたが冒険者だって?」

村長も俺を見て奥さん同様に怪訝な表情を見せていた。

うん、これはいつものパターンで、信用されずに怪しまれている感じだな。

俺みたいな小僧が一人で来たら、そう思うよね。

じゃあ───。

「俺はソロ冒険者のアスランだ」

俺は言いながら異次元宝物庫内からレッドリザードマンの残馬刀を片手で引き抜いた。

調子に乗った俺は、玄関前でブルンっと残馬刀を可憐に回す。

それを見た村長は、鼻水を垂らしながら驚いていた。

斬馬刀は大きくて派手なわりに重量補正が掛かっていて軽いから片手で振るえるわい。

まあ、簡単なアピールだ。

でも、片田舎の人間には、ビックリする光景だったのだろうさ。

ただの小僧と思っていたヤツが、何も無い空間から大きな武器を片手で引き出すんだもの。

そりゃあビックリするよね。

てか、ビックリさせるために演じたんだもの、ちゃんとビックリしてくれて嬉しいよ。

「俺の実力のほどを理解してもらえたかな?」

俺が言いながら残馬刀を異次元宝物庫に戻すと村長さんは、ひたすらに頷くだけであった。

そして、一息付いてから俺は話を聞くために村長さんの家に通される。

俺はテーブルを挟んで村長さんと向かい合った。

すると村長さんの奥さんがお茶を出してくれた。

俺がそのお茶を一口飲んで愕然とする。

お茶かと思ったら白湯だったからだ。

お湯かよ!!

なんだよ、糞ばばぁ!!

てか、村長の奥さんにも、さっきのアピールをちゃんと見せておくべきだったな!!

まあ、いいや……。

とにかく依頼の話を進めるか。

「それで、村長さん。魔法使いの安否確認って、どんな依頼なんだい?」

「聞いての通りです。魔法使い様の安否を確認してもらいたいのですよ」

あれ、魔法使い様って言ったな。

様を付けるってことは立ててるのか?

この依頼は魔法使いが敵じゃあないようだな。

「詳しく話を聞かせてもらえないか?」

「分かりました。では、こちらに──」

そう言うと村長さんは家の二階に俺を連れて行く。

そして二階の窓から遠くを指差した。

「あれが見えますでしょうか」

あれって、あれかな?

「なんだ、あれ。……壁か?」

おそらく300メートルぐらい先である。

草原のド真ん中に建造物が見えた。

高台から見下ろすアングルで見えるそれは、大きく高い壁のように窺えた。

丸い円形の壁の中は森のようであった。

村長が答える。

「はい、壁です」

当たったぜ。

やっぱり壁だ。

その壁は、この距離からではハッキリと言えないが、高さは20メートルほどありそうだった。

それに幅も広い。

野球の球場なら三個から四個は入りそうだった。

しかし、壁の中は森以外見当たらない。

いや、よーく見れば、森の中央に塔が建っているな。

「あの壁に囲まれた森に魔法使い様が住んでらっしゃるのですが、その安否を確認してもらいたいのですよ」

「なんで?」

「ご本人の望みです」

「魔法使いの望みなの?」

「はい」

「もっと詳しく話してよ」

なんだかこの親父は話すのが下手だな。

全然話の全貌が見えて来ないよ。

結構じれったいぞ。

「魔法使い様は、あの森で魔法の研究をしていらっしゃったのですが、かなりの高齢で、本人も寿命でいつ亡くなるか分からないと申しておりました。そして自分が一ヶ月ほど食料やらの買い出しに出て来なければ、亡くなっているかも知れないから見に来てくれと頼まれておりましてね」

「それで一ヶ月経ったと」

「はい……」

「じゃあ、そのぐらい自分で確かめに行けばいいじゃあないか?」

「それがですね。あの壁の中は、魔法使い様が研究されてました巨大昆虫の巣窟でありまして……」

「うわ~……」

俺の心中でキモイ想像がイメージされた。

何とも鳥肌が立ちそうである。

「あの壁には巨大昆虫たちが超えられないように魔法の結界が張られているらしいのですが、中は何せ危険で……。巨大昆虫は、人間も襲うとか……」

「そりゃあ入るのも怖いわな」

「はい、なので冒険者を探していたしだいで……」

「それじゃあ、魔法使いの安否を確認してだ。もしも魔法使いが死んでたら、どうしたらいいんだ?」

「もしも死亡が確認できたら、私に知らせてください。あとは、あの森の中に人が入らないように出入り口を硬く施錠しますから」

「そうじゃあねえよ」

「はあ……?」

村長さんは太い筋肉質な首を傾げた。

もう、本当に察しが悪いな、こいつは。

「俺が聞きたいのは、魔法使いが死んでたらだよ」

「だから私に知らせてください」

「違うってば。俺が言いたいのは、魔法使いの遺品をどうするのかだよ」

「えーと、それは考えておりませんでした……」

やっぱり抜けてるな、この親父は。

考えも髪も抜けていやがるぜ。

だからツルッパゲるんだよ。

おっと、やーべ……。

こんなことばかり考えていると本音が漏れて世界中のハゲを敵に回しそうになるわ。

気を付けねば……。

心をピュアにエンジェルにだ!!

好感度は大切にだ!!

とにかくである。

うし、断然面白くなってきたぞ。

上手く話を進めて魔法使いの遺品をゲットしてやるぜ。

くっくっくっ。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

コスモス・リバイブ・オンライン

hirahara
SF
 ロボットを操縦し、世界を旅しよう! そんなキャッチフレーズで半年前に発売したフルダイブ型VRMMO【コスモス・リバイブ・オンライン】 主人公、柊木燕は念願だったVRマシーンを手に入れて始める。 あと作中の技術は空想なので矛盾していてもこの世界ではそうなんだと納得してください。 twitchにて作業配信をしています。サボり監視員を募集中 ディスコードサーバー作りました。近況ボードに招待コード貼っておきます

もふもふで始めるVRMMO生活 ~寄り道しながらマイペースに楽しみます~

ゆるり
ファンタジー
☆第17回ファンタジー小説大賞で【癒し系ほっこり賞】を受賞しました!☆ ようやくこの日がやってきた。自由度が最高と噂されてたフルダイブ型VRMMOのサービス開始日だよ。 最初の種族選択でガチャをしたらびっくり。希少種のもふもふが当たったみたい。 この幸運に全力で乗っかって、マイペースにゲームを楽しもう! ……もぐもぐ。この世界、ご飯美味しすぎでは? *** ゲーム生活をのんびり楽しむ話。 バトルもありますが、基本はスローライフ。 主人公は羽のあるうさぎになって、愛嬌を振りまきながら、あっちへこっちへフラフラと、異世界のようなゲーム世界を満喫します。 カクヨム様にて先行公開しております。

異世界のんびり冒険日記

リリィ903
ファンタジー
牧野伸晃(マキノ ノブアキ)は30歳童貞のサラリーマン。 精神を病んでしまい、会社を休職して病院に通いながら日々を過ごしていた。 とある晴れた日、気分転換にと外に出て自宅近くのコンビニに寄った帰りに雷に撃たれて… ================================ 初投稿です! 最近、異世界転生モノにはまってるので自分で書いてみようと思いました。 皆さん、どうか暖かく見守ってくださいm(._.)m 感想もお待ちしております!

私のバラ色ではない人生

野村にれ
恋愛
ララシャ・ロアンスラー公爵令嬢は、クロンデール王国の王太子殿下の婚約者だった。 だが、隣国であるピデム王国の第二王子に見初められて、婚約が解消になってしまった。 そして、後任にされたのが妹であるソアリス・ロアンスラーである。 ソアリスは王太子妃になりたくもなければ、王太子妃にも相応しくないと自負していた。 だが、ロアンスラー公爵家としても責任を取らなければならず、 既に高位貴族の令嬢たちは婚約者がいたり、結婚している。 ソアリスは不本意ながらも嫁ぐことになってしまう。

転生令息は攻略拒否!?~前世の記憶持ってます!~

深郷由希菜
ファンタジー
前世の記憶持ちの令息、ジョーン・マレットスは悩んでいた。 ここの世界は、前世で妹がやっていたR15のゲームで、自分が攻略対象の貴族であることを知っている。 それはまだいいが、攻略されることに抵抗のある『ある理由』があって・・・?! (追記.2018.06.24) 物語を書く上で、特に知識不足なところはネットで調べて書いております。 もし違っていた場合は修正しますので、遠慮なくお伝えください。 (追記2018.07.02) お気に入り400超え、驚きで声が出なくなっています。 どんどん上がる順位に不審者になりそうで怖いです。 (追記2018.07.24) お気に入りが最高634まできましたが、600超えた今も嬉しく思います。 今更ですが1日1エピソードは書きたいと思ってますが、かなりマイペースで進行しています。 ちなみに不審者は通り越しました。 (追記2018.07.26) 完結しました。要らないとタイトルに書いておきながらかなり使っていたので、サブタイトルを要りませんから持ってます、に変更しました。 お気に入りしてくださった方、見てくださった方、ありがとうございました!

異世界転生したら何でも出来る天才だった。

桂木 鏡夜
ファンタジー
高校入学早々に大型トラックに跳ねられ死ぬが気がつけば自分は3歳の可愛いらしい幼児に転生していた。 だが等本人は前世で特に興味がある事もなく、それは異世界に来ても同じだった。 そんな主人公アルスが何故俺が異世界?と自分の存在意義を見いだせずにいるが、10歳になり必ず受けなければならない学校の入学テストで思わぬ自分の才能に気づくのであった。 =========================== 始めから強い設定ですが、徐々に強くなっていく感じになっております。

異世界二度目のおっさん、どう考えても高校生勇者より強い

八神 凪
ファンタジー
   旧題:久しぶりに異世界召喚に巻き込まれたおっさんの俺は、どう考えても一緒に召喚された勇者候補よりも強い  【第二回ファンタジーカップ大賞 編集部賞受賞! 書籍化します!】  高柳 陸はどこにでもいるサラリーマン。    満員電車に揺られて上司にどやされ、取引先には愛想笑い。  彼女も居ないごく普通の男である。  そんな彼が定時で帰宅しているある日、どこかの飲み屋で一杯飲むかと考えていた。  繁華街へ繰り出す陸。  まだ時間が早いので学生が賑わっているなと懐かしさに目を細めている時、それは起きた。  陸の前を歩いていた男女の高校生の足元に紫色の魔法陣が出現した。  まずい、と思ったが少し足が入っていた陸は魔法陣に吸い込まれるように引きずられていく。  魔法陣の中心で困惑する男女の高校生と陸。そして眼鏡をかけた女子高生が中心へ近づいた瞬間、目の前が真っ白に包まれる。  次に目が覚めた時、男女の高校生と眼鏡の女子高生、そして陸の目の前には中世のお姫様のような恰好をした女性が両手を組んで声を上げる。  「異世界の勇者様、どうかこの国を助けてください」と。  困惑する高校生に自分はこの国の姫でここが剣と魔法の世界であること、魔王と呼ばれる存在が世界を闇に包もうとしていて隣国がそれに乗じて我が国に攻めてこようとしていると説明をする。    元の世界に戻る方法は魔王を倒すしかないといい、高校生二人は渋々了承。  なにがなんだか分からない眼鏡の女子高生と陸を見た姫はにこやかに口を開く。  『あなた達はなんですか? 自分が召喚したのは二人だけなのに』  そう言い放つと城から追い出そうとする姫。    そこで男女の高校生は残った女生徒は幼馴染だと言い、自分と一緒に行こうと提案。  残された陸は慣れた感じで城を出て行くことに決めた。  「さて、久しぶりの異世界だが……前と違う世界みたいだな」  陸はしがないただのサラリーマン。  しかしその実態は過去に異世界へ旅立ったことのある経歴を持つ男だった。  今度も魔王がいるのかとため息を吐きながら、陸は以前手に入れた力を駆使し異世界へと足を踏み出す――

処理中です...