上 下
268 / 611
【第十章】蠱毒のヒロイン編

10-2【飢え】

しおりを挟む
俺はターナーの村に向かう旅商人たちと別れて街道側の森へと入って行った。

森の中には沼地があって、そこにはリザードマンの集落があるらしいのだ。

あの商人の荷馬車を襲ったリザードマンの群れは、そこから来たと思われる。

俺は探索スキルを使ってリザードマンたちの足跡を追った。

隠す気のない足跡は、森の奥へと続いている。

しかし、なんとも寂しげな感じの森であった。

ほとんどが枯れ木ばかりで、その周りに生えている草木も枯れて茶色い色ばかりだ。

それに沼地があるはずなのに、その大地はなんだか乾燥しているように思えた。

まあ、周りの環境は置いといて、今は去ったリザードマンたちを追うのに専念しようかな。

そんな感じで俺が、リザードマンたちの足跡を追っていると、枯れた木々の隙間にボロい三角テントが幾つか見えて来る。

村か? 

いや、違うな。

そこまでの生活感がないな。

おそらく出来合いのキャンプだろう。

そこにリザードマンの足跡は続いている。

俺は忍び足スキルと気配消しスキルを駆使してキャンプに近づいた。

枯れ木の隙間から見るからに、三角テントの数は多い。

十から十五ぐらいはテントが建っている。

「なんだ、結構な群れだぞ」

三角テントは中央の広場を囲むように円形に設置されていた。

俺は枯れ木の森から出てテントの陰に隠れながら、その奥にある広場を覗き見た。

すると沢山のリザードマンたちが広場に集まり、輪になって座っている。

それは荷馬車を襲った数より多かった。

雌や老人、数匹の子供の姿も輪には窺えた。

全員が輪になり座っている。

完全に集落の全員が、このキャンプに集まって居るようだった。

だが、ここが村には見えない。

やっぱり粗末なキャンプだ。

ここに子供や老人が居るのは違和感がある。

そして輪の中央には、あの白いローブのリザードマンが居た。

おそらくこいつが蔓の魔法で動きを封じた蜥蜴だろう。

なんだか分からない言葉でしゃべっている。

おそらくリザードマン語なのだろう。

そして荷馬車から奪った僅かな食料を、少しずつ皆に配っていた。

見ていて分かったことは、一匹一匹に配る食料の量は、明らかに少ない。

一口で食べ終わる量より少ない量だ。

それを貰ったリザードマンたちは、手の平に有る僅かな食料を、ジッと見詰めるだけであった。

そしてすべての食料を配り終わった白いローブのリザードマンが何かを述べると、僅かな食料を貰ったリザードマンたちが、一斉に食料を口に運んだ。

一瞬で食べ終わる。

それからリザードマン全員が、食べてから直ぐに俯いた。

まるで祈るように静かにだ。

その表情や背中からは、なんだか寂しさしか感じられない。

「もしかして、すげー飢えてるんじゃあないのか、こいつらは……?」

俺は悲しくなって、フラリとテントの陰から出て行った。

すると直ぐにリザードマンたちが俺に気が付いて騒ぎ出す。

雄たちが槍や弓矢を構えると、雌や老人たちが子供たちを隠すように自分の背後に回した。

リザードマンたちが俺に警戒を強める中で、あの白いローブのリザードマンが前に出て来る。

「お前はさっきのヤツだな。食料を取り返しに来たのか?」

白いローブのリザードマンは、他のリザードマンに比べて冷静だった。

俺も静かに答える。

「俺はそんなに野暮な人間じゃあないぜ」

「ならば、何しに来た。我々を討伐しに来たか?」

「違うってばよ」

そう言いながら俺は手をブラブラと振った。

それから異次元宝物庫の出入り口を、大きく開くと中のヒルダに言う。

「ヒルダ。中にあるコカトリスの焼き肉を、幾つか出してくれないか」

すると異次元宝物庫の中から「はい」っと言葉が返って来た。

やがて二十一人のメイドたちが手に手にコカトリスの焼かれた肉を持って出て来る。

その光景を見ていたリザードマンたちが、目を見開いて驚いて居た。

中には口をアングリと間抜けに開けているリザードマンも居た。

流石のリザードマンたちも、次々と異次元宝物庫内から現れるメイドたちに驚いている。

そして、二十一人のメイドが出きったところで俺は言った。

「コカトリスの焼き鳥だ。食うか?」

俺が微笑みながら言うと、白いローブのリザードマンが返答する。

「いいのか……?」

「駄目なら出さんよ」

俺はヒルダにコカトリスの肉を渡せと目でサインを送る。

ヒルダが俺の言いたいことを察してコカトリスの肉を持ったまま前に出た。

そして白いローブのリザードマンにコカトリスの肉を手渡すと、別のメイドたちも前に出てリザードマンたちにコカトリスの肉を手渡す。

コカトリスの肉を受け取ったリザードマンたちが呆然としている間に、手ぶらになったメイドたちは異次元宝物庫の中に帰って行った。

その間、俺は、ずっと微笑みながら見ていた。

やがて再び俺は一人になる。

そして俺は満面の笑みでリザードマンたちに言った。

「腹が減ってるんだろ。食っちゃいなよ」

その言葉がリザードマンには通じてなかったのだろう。

リザードマンたちは、ずっと呆然としていた。

しばらく静かだった白いローブのリザードマンが、一言だけ何かを言った。

その言葉がリザードマン語だったので、俺には分からなかったが、次の瞬間には、リザードマンたちがコカトリスの肉を分け合って食べ始める。

子供のリザードマンは、はしゃぎながらコカトリスの肉を頬張っていた。

やがてコカトリスの肉はすべて食べ終わる。

食べ終わったリザードマンたちが、再び俺を見詰めていた。

その表情からは、まだ飢えの色が窺える。

あれじゃあ足りなかったかな?

食べてないヤツも居たもんな。

俺は異次元宝物庫を開くと中のヒルダに訊く。

「ヒルダ、まだコカトリスの肉は残っているか?」

「あと二兎分ほど残っております」

「悪いが全部出してくれないか」

「畏まりました」

そして再びメイドたちがコカトリスの肉を運んで来てリザードマンに手渡してから帰って行く。

それをリザードマンたちが貪った。

しばらくして──。

「どうだい、腹は落ち着いたか?」

俺が白いローブのリザードマンに問うと、彼は俺の前に正座をして、深々と頭を下げた。

爬虫類独特の骨格のせいか、土下座をすると、口先が地面に付いていた。

地面に口付けしているのだ。

正座かよ?

なんだか、やたらと和風だな。

そんなことに俺が驚いていると、他のリザードマンたちも正座をして俺に頭を下げた。

うわ、なんか怖いよ!!

そして頭を下げたままの白いローブのリザードマンが声を張る。

「ありがたき幸せ。ご慈悲に感謝いたします!!」

「いや、土下座までしなくても……」

「これは、我々リザードマン族が、最大限の礼儀を模したスタイルです。気持ちだけですが、お受け取りくださいませ!!」

うわー……。

一族総出で感謝しちゃってますわ……。

俺的には、食い飽きて余っていたコカトリスの肉を処分しただけなんだけどな~。

まあ、結果オーライってことでいいかな。

これで和解できただろうさ。


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様

コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」  ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。  幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。  早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると―― 「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」  やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。  一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、 「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」  悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。  なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?  でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。  というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

若返ったおっさん、第2の人生は異世界無双

たまゆら
ファンタジー
事故で死んだネトゲ廃人のおっさん主人公が、ネトゲと酷似した異世界に転移。 ゲームの知識を活かして成り上がります。 圧倒的効率で金を稼ぎ、レベルを上げ、無双します。

チート幼女とSSSランク冒険者

紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】 三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が 過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。 神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。 目を開けると日本人の男女の顔があった。 転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・ 他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・ 転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。 そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語 ※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。

貞操逆転世界に無職20歳男で転生したので自由に生きます!

やまいし
ファンタジー
自分が書きたいことを詰めこみました。掲示板あり 目覚めると20歳無職だった主人公。 転生したのは男女の貞操観念が逆転&男女比が1:100の可笑しな世界だった。 ”好きなことをしよう”と思ったは良いものの無一文。 これではまともな生活ができない。 ――そうだ!えちえち自撮りでお金を稼ごう! こうして彼の転生生活が幕を開けた。

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

処理中です...