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【第九章】アンデッドなメイドたち編

9-25【メイドたちの夢】

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俺が地下金庫室があるリトルダンジョンから出て来ると、階段の上ではヒルダが畏まりながら待っていた。

もしかして、俺がダンジョンに入ってから、ずっとここで待っていたのかな?

まあ、野暮なことは訊かないでおこうか。

「ただいま、ヒルダさん」

『お帰りなさいませ、アスラン様。お疲れになりましたか?』

「ああ、だいぶ苦戦したからな……」

『もう日は落ちました。夕食の準備が出来ております。召し上がりますか、それともお風呂の準備をなさいましょうか?』

「あー、もう夜なのか」

思ったより長くダンジョンに潜っていたようだな。

確かに腹も減ったしお風呂にも入りたいな。

「じゃあ、せっかくだから食事を頂くよ。そのあとに風呂も入るぜ」

『畏まりました。では、こちらに。食堂にご案内します』

「サンキュー」

俺は黙って先を進むヒルダさんに続いた。

彼女は俺に訊かないのかな?

俺が冒険を終えたかどうか。

俺が金庫室からコア水晶を回収できたかどうかを。

そんなことを俺が考えていると食堂に到着した。

豪華な長テーブルの上には一人前の食器が並んでいる。

どれもこれもピカピカだ。

俺はヒルダさんが椅子を引いた席に腰かける。

すると、誰も何も言わないのにミイラのメイドたちが食事を運んで来た。

思ったより豪華な食事だった。

新鮮なサラダだけでなく、肉や魚の料理まであった。

気品溢れるフランス料理っぽかったな。

それにしてもだ。

何年も主が居なかったお化け屋敷に、こんな新鮮な食材があるわけがない。

俺は料理に手を付ける前にヒルダに訊いた。

「この料理の食材は、どうしたんだ?」

その質問にヒルダが明確に答えてくれた。

『我々メイドたちの貯金で市場から買って参りました。覆面を被って……』

そこまでして買い物をして来たのか。

なんだか健気だな。

まさに奉仕の鬼だわい。

これじゃあ料理を食べないわけにはいかないぞ。

俺はモクモクと食事をたいらげた。

旨いッ!

げっぷ……。

ちょっと食い過ぎたわ……。

食事中も俺の後ろで控えていたヒルダが述べる。

『では、直ぐにお風呂に入られますか。もう既に準備は済んでおります』

「至れり尽くせりだな……」

俺は寝室で全裸になるとルンルン気分のスキップ状態で浴場に向かった。

そして、脱衣所に到着してから気付く。

「あー、脱衣所で脱げばよかったのか。失敗失敗~」

俺は失敗から何も学ばないままお風呂に浸かった。

温かいな~。

極楽極楽だわ~。

俺はしばらくお風呂で寛ぐと、再び全裸で寝室に帰った。

俺は温まったからだを冷まさないように布団にもぐり込む。

さて、寝るかな。

こんな極楽は今日で終わりだ。

明日の朝になったら冒険者ギルドに帰って任務完了を報告しよう。

そうすると、この屋敷とも残念ならがらおさらばである。

ミイラのメイドさんたちには立ち退いてもらえるし、人形の幽霊を引き寄せていたガーディアンドールはやっつけたのだから。

でも、この環境は勿体無いよな~。

「なあ、ヒルダさん」

俺がベッドの中から独り言のように言うと、部屋の扉が開いてヒルダが入って来る。

部屋の前に待機しているのは霊体感知スキルで分かっていたのだ。

それに眠らないアンデッドならば、そのぐらいは苦ではないのだろうさ。

『お呼びでしょうか、アスラン様』

俺はベッドの中に入ったまま異次元宝物庫からコア水晶を取り出した。

「これがあれば、この屋敷から立ち退けるんだろ」

『それは、我々のコア水晶ですね』

「そのはずだ」

『それがあれば我々はこの屋敷から立ち退けますが、それにはコア水晶に新しい御主人様を登録しなければなりません』

「あー、そうなんだ~」

ちょっと面倒臭い話だな。

「要するに、新しい御主人様が必要なのね~」

『はい、そうなります』

「新しい御主人様に使えるとしてだ。給金とかは、どうなるの?」

『我々は奉仕の亡者ですので、快く奉仕できることが御給金の代わりと言えましょう』

「じゃあさ、俺に使えない?」

『喜んで』

「即決だな!?」

『ですが、アスラン様は御屋敷をお持ちでおられますか?』

俺、貧乏そうだから屋敷なんて持ってないと思われてるよね。

当然、持ってないけれどさ……。

「屋敷が無いと、駄目ですか?」

『我々は屋敷に使える亡者ですから』

「じゃあもう少し待ってくれないか、もう少ししたら屋敷どころか古城が手に入るからさ」

まあ、予定だがな……。

『こ、古城ですか!?』

あれ、ヒルダさんの反応が激しくなったぞ?

いつも冷めきって冷静なのにさ。

「城が気になるの?」

『メイドならば城に使えるのは、大きな夢ですから!』

へぇー、そーなんだー。

死んでてもメイドにはメイドの夢ってやつがあるんだな~。

ここでヒルダさんのテンションが普通に戻る。

『では、アスラン様が古城を手に入れるまで、我々はどこでどうしてたら良いのでしょうか?』

その辺も俺は考えていた。

俺は異次元宝物庫の穴を扉のサイズまで広げる。

「アンデッドならば、この中でも暮らせないかな」

暮らせるはずだ。

何せ中にはサトウさんって言う亡者が一人で働いているのだから。

ヒルダは異次元宝物庫の中を覗き見ながら俺に問う。

『これは?』

「異次元宝物庫って言うマジックアイテムだ。この中は無酸素で時間が止まっているが、中に一人だけ亡者が住んで居るんだよ。だからアンデッドならば問題無く暮らせるかなってね」

『少し入ってみて良いですか?』

「どうぞどうぞ、試してみてくれ」

するとヒルダが異次元宝物庫の中に入って行った。

俺はベッドの中でヒルダが異次元宝物庫から出て来るのを待った。

しかしなかなか出て来ないな……。

あれれ、まずったかな……。

何かトラブルでもあったかな?

そして、俺が心配しているとヒルダが帰って来る。

「良かった~。戻って来れなくなっているかと思ったよ。本気で心配したぞ、ヒルダさん!!」

俺はベッドから跳ね起きて言った。

するとヒルダは畏まって言葉を返す。

『異次元宝物庫の中の様子が分かりました』

「でえ、どうだった?」

『この中ではアンデッドならば自由に動けます』

「要するに、暮らせるってことか?」

『はい、暮らせます。そもそもアンデッドが暮らせるように作られております』

「マジで?」

『詳しいことは中におられましたサトウさんに訊いて来ました』

「へぇ~、あいつってしゃべれるんだ」

とりあえすサトウさんもコミュニケーションが取れるアンデッドなのね。

少し安心したぜ。

『この中ならば、我々二十一人のミイラメイドが過ごせますが……』

「過ごせるが?」

『我々はメイドなので、奉仕する対象が居ないと死んでしまいます』

いや、アンデッドなんだから死んでるだろうが。

それに、そんなに奉仕がしたいのかよ。

奉仕したくてウズウズしまくりだな。

「その辺は俺が城をゲットするまでしばらくは、俺の日々の面倒を見てもらうってので我慢してもらえないか?」

『畏まりました、アスラン様』

ヒルダは畏まってお辞儀をした。

本当に即決だな。

まだコア水晶に登録してないのに、ヒルダの気分は俺のメイドのようだった。

まさに奉仕をしたい一心なのだろう。

『では、異次元宝物庫への引っ越しは、明日の朝で宜しいでしょうか?』

「ああ、それで頼むわ。もうこの屋敷には戻らないからな」

『はい』

「あとさ、異次元宝物庫の中にさ、瓶詰めのマジックアイテムがあるんだわ」

『はい』

「それを身に付けていれば、アンデッドが人の姿に見えるらしいんだわ。それが全部で二十一玉あるから、皆で分けて装備してくれないか」

『はい、畏まりました。喜んで頂かせて貰います』

「じゃあ、俺は寝るね」

『良い夢を、アスラン様』

お辞儀をしたヒルダが部屋を出て行った。

ヒルダが人間の姿になったら、どんな感じなのだろう。

冷徹な澄まし顔の美人なのかな?

それはまた今度の楽しみだぜ。

それにしても、成り行きだったが、まさかメイドさん軍団をゲットできるなんて考えてもいなかったわ。

今回のミッションは、マジックアイテム以上の成果があったのかもしれないな。

ショートソード+3とかを諦めたかいがあったってもんだわ。


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