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【第九章】アンデッドなメイドたち編

9-21【真】

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俺はパチパチと燃え上がるガーディアンドールの横をすり抜けて室内に戻った。

「熱いし、煙いわ……」

流石に二つの部屋で火災があったのだ、小ダンジョン内は煙が立ち込み温度もかなり上がっていた。

とにかく、熱いのだ。

換気も行き届いていない。

「スプリンクラーとか設置されてないのかよ。消防法に引っ掛かるんじゃあねえの、このダンジョンは……」

そんな愚痴を溢しながら俺は室内を魔法感知しながら漁って回った。

まずはガーディアンドールが持っていたシミター三本が、すべてマジックアイテムだった。

その他に、室内に放置されていた大工道具から何個もマジックアイテムが出てくる。

作業用にマジックアイテムを使うなんてリッチな魔法使いだよな。

さぞかし制作作業も捗ったことだろうさ。

とにかく俺は、工具だろうと何だろうと、すべてのマジックアイテムを回収して異次元宝物庫に放り込む。

「この部屋はここで行き止まりかな。隠し扉も無さそうだし、道を戻って正面の通路を進もうか」

俺は燃え盛るガーディアンドールを残して部屋を出て行った。

そして、大量の人形たちを退治した部屋に戻ると、今度は正面の通路に進んで行く。

そこからは侵入者を妨げるダンジョンらしかった。

ちらほらと生き残りの人形が襲って来るは、トラップから矢が飛んで来るわと、プチハプニングが幾つか続いた後に、最奥だと思われる金庫室に到着する。

「わぁ~~お………。でけー、扉だな」

俺が踏み込んだ部屋は15×15メートルの部屋だった。

天井の高さも15メートルほどありそうだった。

その高い天井には、きらびやかなシャンデリアがぶら下がっており、室内の壁際には大きな壺やら石像やらが複数置かれていた。

全部芸術品なのだろう。

そして部屋の正面には、この部屋が金庫室だと知らしめるほどの大きさの大金庫の扉が設置されていた。

その大きさは2×2メートルある両開きの鉄扉だ。

おそらくぶ厚いんだろうなと想像されるほどに露骨な金庫金庫したデザインの扉だった。

「さて、目的地に到着できたが、この大金庫をどうやって開けようかな?」

俺にはロックピッキングスキルとかがないのだ。

そもそも金庫を開ける術がない。

「壊すしかないのかな~」

俺が考え込みながら室内に足を進めると、黒光りする金庫の正面に目があることに気が付いた。

眼球である。

ギョロリとした生物の目だった。

鉄扉に眼球が付いている。

俺は扉に近付きその目をマジマジと見る。

その眼球は、小刻みに動いていた。

どうやら震えているようだ。

「生きてるのかな?」

俺は呟きながら、人差し指で眼球を「えい」っと突っついた。

すると──。

『ぎぃぃぁあああああ!!!』

叫んだ!?

いや、テレパシーかな?

ヒルダと同じテレパシーだな。

『てめー、この野郎!! なに人の眼球を指で触ってんねん!!』

「ああ、すまん。開閉ボタンかと思って押してみた」

『開閉ボタンちゃうがな、目玉だわい!!』

「まあ、そう怒るなよ。謝ってるだろ」

『それよりテメーは何者だ!?』

「冒険者だ」

『なに、冒険者だと!?』

「そうだ、冒険者だ」

『てっ、ことは、泥棒だな!!』

「ああ、よく墓荒しって揶揄されるよ」

『警備のスタッフー、スタッフーー!!』

「警備ならやっつけたぞ。ガーディアンドールもやっつけたぞ」

『えっ、マジで……?』

「大マジだ」

『じゃあ、あれは、なに?』

扉の眼球は、俺の背後の天井を見上げていた。

えっ……。

俺は咄嗟に横に飛んだ。

ゴロリと転がり立ち上がると踵を返しながら両手に剣を構える。

「なんじゃい、こいつ……!?」

俺が振り返ると、俺が立っていた場所に手刀を突き立てているマネキンが立っていた。

真っ白で無機質なマネキンである。

身長は俺と同じぐらいで、顔はのっぺらぼうだ。

髪もないスキンヘッドである。

衣類も身に付けていない。

小さな胸の膨らみがあるから女性用のマネキンだろう。

ただデパートのマネキンと違うのは、突き立てて伸ばした手刀からは30センチほどの刀身が出ていた。

マネキンは俺のほうを向きな押すと、両手から刀身を伸ばしながらユルリと攻撃的な構えを築く。

すると扉の眼球がテレパシーで言う。

『冒険者よ。嘘はいかんぞ。この金庫室最強の護衛であるガーディアンドールは、こうして健在ではないか』

「えっ、こいつがガーディアンドールなの……」

『そうだ』

「じゃあ、最初のほうで倒したデカイ人形は……」

『どれのことを言っているのか知らないが、おそらくプロトタイプの一体だろう』

「プロトタイプって……。じゃあこいつが本物のガーディアンドールですか……」

『そうだ。彼女こそが残忍で残酷な殺戮者。ガーディアンドールだよ』

扉の眼球に自己紹介されたマネキンは、構えを解いて直立不動になる。

手の平から出ていた鋭利な刀身を腕の中に引っ込めて、両腕をダラリと垂らして立っていた。

その姿からは攻撃の意思が見られない。

しかし、俺が警戒しながら見守っていると、ユラリと前に体を倒した。

華奢なフレームが斜め45度まで倒れると、そこからマネキンがダッシュして来た。

猛ダッシュ。

速い。

俺とマネキンとの距離は6~7メートルあったが、その距離が一瞬で埋る。

無表情のまま手刀を繰り出すマネキンの手に、再び30センチほどの刀身が生えていた。

手刀の狙いは俺の顔面だ。

「なろう!!」

俺が手刀をしゃがんで躱すと今度はマネキンの膝が俺の顔面を狙って飛んで来た。

俺は両腕を盾にして膝蹴りをガードしたが、その破壊力に仰け反り後退する。

俺は吹き飛ばされて後方の壁に背中をぶつけた。

「い、痛てえ……」

俺がガードに使った両腕を見れば血が吹き出ていた。

刃物の傷である。

「刺された。斬撃だと……」

俺がマネキンの膝を見ると、牙のような刃が体内に戻って見えなくなるところだった。

こいつ、体のあちらこちらから刃物が出せるのか……。

小賢しいギミックだな。

『どうだ。ビビったか。これがガーディアンドールの力だ!』

扉の眼球のテレパシーに合わせてマネキンが、マーシャルアーツの構えを築く。

体を斜めに、緩く開いた両手を胸の前に───。

隙の無い一流の構えに窺えた。

その構えが、無機質なマネキンの表情を恐ろしく飾っている。

「ジークンドー。まるでブルース・リーだな」


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