上 下
254 / 611
【第九章】アンデッドなメイドたち編

9-19【人形の群れ】

しおりを挟む
『ここからが地下の小ダンジョンです』

「ほうほう……」

俺はヒルダの案内で地下ダンジョンの入り口前に立っていた。

木製の扉を開けた先には、地下に下って行く石畳の階段が続いている。

その階段の下から乾燥した空気が流れ上がって来ていた。

なんとも嫌な空気である。

『ここから先には我々メイドたちでは進めませんので、中がどうなっているかは分かりません。ただし、この奥には人形たちが入って行ってます……』

「へぇ~」

俺がしゃがんで石畳の階段を見てみれば、階段には埃が溜まっており、その埃には小さな足跡が複数残されていた。

人形が出入りした足跡だろうな。

「人形の数って分かるかい?」

『さあ、分かりません。ですが毎晩のようにこちらから出入りしております。その数は多いとしか言えませんね』

「分かったよ」

俺は立ち上がるとショートソードを抜いた。

ショートソードの先にマジックトーチを掛ける。

「まあ、入って自分で確かめるさ」

『お気を付けてください。アスラン様……』

「じゃあ、行ってきまーす」

俺は呑気に明るく言うと階段を下って行く。

正直、空元気である。

まだ午前中だが、階段の奥はインキ臭くておどろおどろしていた。

石造りのダンジョンはメイドたちが入れないだけあって掃除は行き届いていない。

この先には人形の幽霊が沢山取り憑いていると分かってるのだ。

そりゃあ気が滅入るよね。

でも、この地下ダンジョンは狭いと聞いている。

リトルダンジョンなのだ。

だから探索に何時間も掛からないだろう。

さっさと漁って、さっさとガーディアンドールをぶっ倒して、さっさと地下金庫室からコア水晶をゲットしてクエストを終了させたいな。

そんな弱気で俺が進んでいると、霊体感知スキルにビンビンと気配が引っ掛かって来る。

思わず「妖気だ」っとか言って頭の毛がピーンと立っちゃうかと思うぐらいの反応であった。

沢山居るわ……。

相当量の霊体が居ますわ……。

もうメーターがずっと振り切ってますもの……。

「おっ、部屋だ……」

俺は広い部屋に出た。

部屋には真っ直ぐ進む通路と、右に進む通路がある。

その他には壁に複数の棚があり、みっしりと人形が置かれていた。

様々なフランス人形だ。

大きく高価なフランス人形から、小さく粗末な人形まで、様々な人形が沢山置かれている。

それらの人形一体一体から霊気を感じ取れるが、それらの人形は、まるで目を開けたまま寝ぬっているかのように動かない。

「完璧にこいつらがお化けだよな……」

昨晩廊下で見たのは、これらの一体なのだろうか?

おそらくこいつらも動くんだろうな。

俺は警戒しながら部屋に入った。

飾られている人形の数は百体は越えているだろう。

こんな数に教われたら、流石に怖いかな。

俺は部屋の中央で異次元宝物庫からロングソード+2も引き抜いた。

ショートソードとの二刀流だ。

「どうする?」

俺は誰に言うわけでもなく囁いた。

「俺は脅しても逃げ出さないぞ。俺を追っ払いたければ、力ずくで来な」

すると一体のフランス人形が反応した。

『ギィギィギィギィギィーー』

動いたわ!!

やっぱり動いたわん!!

フランス人形の一体が、首だけを曲げてこっちを見ましたわ。

なんかギィーギィー言ってますがな。

『おにーちゃん、私と遊んでくれるの?』

しゃべったーー!!

おにーちゃんとか呼ばれましたよ!!

こいつら妹系なのか!?

すると反対の壁にあったフランス人形がしゃべりだす。

『駄目よ、おにーちゃん。私と遊んでよ』

今度は正面のフランス人形が話し出した。

『駄目よ駄目。おにーちゃんは僕と遊ぶのよ』

『いいえ、私と遊ぶの』

俺があたふたしていると、フランス人形たちが、どんどんと自分の意見を語り出す。

『違うは、わっちと遊ぶのよ』

『ダーメー、僕と遊ぶって言ってるの』

『いえいえいえ、私とよ』

気が付けば、部屋全体の人形が言い争っていた。

それが奇怪に見えて背筋が震え出す。

『じゃあ、早い者勝ちにしない?』

『それがいいわね』

『そう、肉も魂も、早い者勝ち』

『ちぎって奪ってもいいの?』

『ちぎっていいなら私は耳で遊びたいな』

『僕は目ん玉をくりぬいて遊びたいよ』

『じゃあわっちは金玉を引っこ抜いて遊びたいわ』

なに!?

なに、こいつら何を怖いこと言ってるの!?

正気ですか!?

てか、完全に悪霊じゃんか!?

すると棚に座っていた人形たちが立ち上がる。

こいつら飛び掛かって来るぞ!!

百体を越える数で一斉に飛び掛かって来る気だな!!

『『『『キィーーーーー!!!』』』』

そして、複数の人形たちが同時に飛び掛かって来た。

部屋の四方八方から一斉にだ。

俺は一瞬で百体の人形に捕まれる。

俺を他所から見たら人形の山に埋もれているように見えただろうな。

だが、こんなパターンは想定済みである。

むしろ誘ったと言えよう。

よくさ、ラノベのネタであるよね。

小さなフランス人形の群れに襲われるってネタがさ。

だから対策済みだったんだよ、俺はな。

「ファイアーボール!!」

俺は自分を中心にファイアーボールを撃ち込んだ。

自爆行為だが気にしない。

俺を中心に爆発した爆風が、俺を生き埋めていた人形を飛び散らした。

吹き飛ばされた人形か飛び散り壁に激突して粉砕する。

部屋の中は燃え上がる人形たちでインフェルノ状態だった。

部屋の中が赤く染まっている。

まあ、人形風情ならば十分な火力だっただろう。

やはり人形は火に弱かったのね。

でも、俺のほうはファイアーボールの一発ならば、魔法防御と耐火向上を有しているから、どってことはない。

自爆しても平気なのだ。

『ギィ……ギィ……』

『火遊びは、禁止よ……』

まだ動いている人形も居たが、身体に引火した炎に呑まれてバタバタと倒れて行く。

数分後には、すべての人形が燃え尽きて灰になる。

「よし、これでザコの人形どもは始末できただろう」

煤けた顔を脱ぐいながら俺が言った刹那だった。

正面と右の通路から大量の霊気が流れ出て来た。

それも複数だ。

「えっ……?」

『おにーちゃん、遊ぼう』

『私たちと、遊ぼう』

ぎぃあーーーーー!!

二つの通路から、まだまだ複数の人形たちが現れたわ!!

大群で津波のように押し寄せて来るぞ。

「ファイアーボール! ファイアーボール! ファイアーシャード! ファイアーシャード!!」

俺は二つの通路に魔法の火球を撃ち込んだ。

更にファイアーシャードも撃ち込む。

「燃えろ! 燃えろ~!!」

結局ザコ人形を片付けるのには、もう少し時間が掛かってしまった。

自力で撃てるファイアーボールを使いきり、ファイアーシャードもだいぶ使ってしまう。

これではガーディアンドールと戦う際に使える炎系の魔法は、ファイアーボールリング+2から出せるファイアーボール二発と、ファイアーシャードが二発。

あとはファイアーエンチャントウェポンだけになる。

勝てるかな?

一回引き返して、またお風呂に入ってから明日に出直そうかな?

一日過ぎれば魔法もリチャージされるしさ……。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃんでした。 実際に逢ってみたら、え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこいー伴侶がいますので! おじいちゃんと孫じゃないよ!

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

田舎貴族の学園無双~普通にしてるだけなのに、次々と慕われることに~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
田舎貴族であるユウマ-バルムンクは、十五歳を迎え王都にある貴族学校に通うことになった。 最強の師匠達に鍛えられ、田舎から出てきた彼は知らない。 自分の力が、王都にいる同世代の中で抜きん出ていることを。 そして、その価値観がずれているということも。 これは自分にとって普通の行動をしているのに、いつの間にかモテモテになったり、次々と降りかかる問題を平和?的に解決していく少年の学園無双物語である。 ※ 極端なざまぁや寝取られはなしてす。 基本ほのぼのやラブコメ、時に戦闘などをします。

欠損奴隷を治して高値で売りつけよう!破滅フラグしかない悪役奴隷商人は、死にたくないので回復魔法を修行します

月ノ@最強付与術師の成長革命/発売中
ファンタジー
主人公が転生したのは、ゲームに出てくる噛ませ犬の悪役奴隷商人だった!このままだと破滅フラグしかないから、奴隷に反乱されて八つ裂きにされてしまう! そうだ!子供の今から回復魔法を練習して極めておけば、自分がやられたとき自分で治せるのでは?しかも奴隷にも媚びを売れるから一石二鳥だね! なんか自分が助かるために奴隷治してるだけで感謝されるんだけどなんで!? 欠損奴隷を安く買って高値で売りつけてたらむしろ感謝されるんだけどどういうことなんだろうか!? え!?主人公は光の勇者!?あ、俺が先に治癒魔法で回復しておきました!いや、スマン。 ※この作品は現実の奴隷制を肯定する意図はありません なろう日間週間月間1位 カクヨムブクマ14000 カクヨム週間3位 他サイトにも掲載

自宅アパート一棟と共に異世界へ 蔑まれていた令嬢に転生(?)しましたが、自由に生きることにしました

如月 雪名
ファンタジー
★2024年9月19日に2巻発売&コミカライズ化決定!(web版とは設定が異なる部分があります) 🔷第16回ファンタジー小説大賞。5/3207位で『特別賞』を受賞しました!!応援ありがとうございます(*^_^*) 💛小説家になろう累計PV1,830万以上達成!! ※感想欄を読まれる方は、申し訳ありませんがネタバレが多いのでご注意下さい<m(__)m>    スーパーの帰り道、突然異世界へ転移させられた、椎名 沙良(しいな さら)48歳。  残された封筒には【詫び状】と書かれており、自分がカルドサリ王国のハンフリー公爵家、リーシャ・ハンフリー、第一令嬢12歳となっているのを知る。  いきなり異世界で他人とし生きる事になったが、現状が非常によろしくない。  リーシャの母親は既に亡くなっており、後妻に虐待され納屋で監禁生活を送っていたからだ。  どうにか家庭環境を改善しようと、与えられた4つの能力(ホーム・アイテムBOX・マッピング・召喚)を使用し、早々に公爵家を出て冒険者となる。  虐待されていたため貧弱な体と体力しかないが、冒険者となり自由を手にし頑張っていく。  F級冒険者となった初日の稼ぎは、肉(角ウサギ)の配達料・鉄貨2枚(200円)。  それでもE級に上がるため200回頑張る。  同じ年頃の子供達に、からかわれたりしながらも着実に依頼をこなす日々。  チートな能力(ホームで自宅に帰れる)を隠しながら、町で路上生活をしている子供達を助けていく事に。  冒険者で稼いだお金で家を購入し、住む所を与え子供達を笑顔にする。  そんな彼女の行いを見守っていた冒険者や町人達は……。  やがて支援は町中から届くようになった。  F級冒険者からC級冒険者へと、地球から勝手に召喚した兄の椎名 賢也(しいな けんや)50歳と共に頑張り続け、4年半後ダンジョンへと進む。  ダンジョンの最終深部。  ダンジョンマスターとして再会した兄の親友(享年45)旭 尚人(あさひ なおと)も加わり、ついに3人で迷宮都市へ。  テイムした仲間のシルバー(シルバーウルフ)・ハニー(ハニービー)・フォレスト(迷宮タイガー)と一緒に楽しくダンジョン攻略中。  どこか気が抜けて心温まる? そんな冒険です。  残念ながら恋愛要素は皆無です。

転生したら侯爵令嬢だった~メイベル・ラッシュはかたじけない~

おてんば松尾
恋愛
侯爵令嬢のメイベル・ラッシュは、跡継ぎとして幼少期から厳しい教育を受けて育てられた。 婚約者のレイン・ウィスパーは伯爵家の次男騎士科にいる同級生だ。見目麗しく、学業の成績も良いことから、メイベルの婚約者となる。 しかし、妹のサーシャとレインは互いに愛し合っているようだった。 二人が会っているところを何度もメイベルは見かけていた。 彼は婚約者として自分を大切にしてくれているが、それ以上に妹との仲が良い。 恋人同士のように振舞う彼らとの関係にメイベルは悩まされていた。 ある日、メイベルは窓から落ちる事故に遭い、自分の中の過去の記憶がよみがえった。 それは、この世界ではない別の世界に生きていた時の記憶だった。

異世界でぼっち生活をしてたら幼女×2を拾ったので養うことにした

せんせい
ファンタジー
自身のクラスが勇者召喚として呼ばれたのに乗り遅れてお亡くなりになってしまった主人公。 その瞬間を偶然にも神が見ていたことでほぼ不老不死に近い能力を貰い異世界へ! 約2万年の時を、ぼっちで過ごしていたある日、いつも通り森を闊歩していると2人の子供(幼女)に遭遇し、そこから主人公の物語が始まって行く……。 ―――

【完結】幼馴染に婚約破棄されたので、別の人と結婚することにしました

鹿乃目めのか
恋愛
セヴィリエ伯爵令嬢クララは、幼馴染であるノランサス伯爵子息アランと婚約していたが、アランの女遊びに悩まされてきた。 ある日、アランの浮気相手から「アランは私と結婚したいと言っている」と言われ、アランからの手紙を渡される。そこには婚約を破棄すると書かれていた。 失意のクララは、国一番の変わり者と言われているドラヴァレン辺境伯ロイドからの求婚を受けることにした。 主人公が本当の愛を手に入れる話。 独自設定のファンタジーです。 さくっと読める短編です。 ※完結しました。ありがとうございました。 閲覧・いいね・お気に入り・感想などありがとうございます。 ご感想へのお返事は、執筆優先・ネタバレ防止のため控えさせていただきますが、大切に拝見しております。 本当にありがとうございます。

処理中です...