上 下
214 / 611
【第八章】ショートシナリオ集パート②

8-12【サザータイムの町】

しおりを挟む
「セルフヒール……。ちっ、まだ足りねぇか。ならばピュアヒール」

俺は魔女が納屋を出て行ってからしばらくして、ありったけのセルフヒールとピュアヒールで自分の傷を癒した。

それで、とりあえずは動けるぐらいには回復した。

折れていた肩の骨も修復できたが、まだ違和感が残っている。

なんだか肩の関節がコキコキするのだ。

まだ完璧に全回復していない様子であった。

身体のあちらこちらがズキズキと痛む。

ヒール系の魔法に関してはスカル姉さんのようには、まだまだ行かない。

「ちくしょう……。メチャクチャにやられたからな……」

残ったダメージの回復は明日だ。

明日になれば魔法回数も回復するはずだからな。

とにかく動けるようになった俺は、血の臭いが立ち込める納屋から出て周りの様子を伺った。

夜の暗闇を警戒しながら見渡している。

漆黒、満月、星々──。

動く者の気配は無い。

「魔女はまだ居るのだろうか?」

宿屋に居るのかな?

俺は警戒しながら納屋を出て宿屋に向かった。

しかし宿屋内を探したが魔女の姿は見付けられない。

「あの女、何処に行ったんだ?」

俺は窓から闇の景色を眺めた。

野外は何も見えない。

ただただ暗闇だ。

「居ないなら居ないで、ホッとするか……」

俺は納屋に戻るとスコップを探した。

直ぐにスコップを見つける。

それから俺は納屋の横に穴を三つ掘った。

そこに三人の遺体を埋める。

三人を埋め終わったころには日が上がりだしていた。

「ちっ、朝になっちまったな……。もう疲れたぜ」

俺は宿屋に戻って厨房にあった飯を勝手に食った。

それから二階の部屋で昼間で寝る。

流石に疲れていたのかグッスリと眠れた。

そして、昼に起きると昼飯を食ってから宿屋ロンドンを出て旅立つ。

無人の宿屋になっちゃったけれど、誰かが見付けていいようにしてくれるさ、たぶん………。

善人が見付けてくれたら、宿屋を引き継いでくれるかな?

悪党が見付けたら、山賊のアジトになっちゃうのかな?

まあ、どっちに転んでもしゃあないよね。

そこまで俺には関係無い。

あとは自然に任せるのみである。

「さて、俺も行くかな」

俺は騒ぎに巻き込まれないように旅の宿屋ロンドンを去った。

アキレスを全力で走らせる。

出来るだけ遠くに逃げるんだ!!

そして俺は夕暮れ前にサザータイムズの町に到着した。

「うん、いろいろ忘れるために全力で移動してきたから早く付いたぞ。それにしてもサザータイムズの町はけっこう大きな町だな」

ソドムタウンやゴモラタウン見たいにちゃんと防壁もあるし人口も多そうだった。

俺はアキレスをトロフィーに戻すとゲートを目指して進む。

そして、通行料金を払うとサザータイムズの町に入る。

なかなか賑やかな町だった。

メインストリートには二階建ての店がズラズラっと並んでいる。

そして道いっぱいの買い物客で賑わっているのだ。

その向こうに大きな砦が見える。

軍部がちゃんとした町なのだろう。

兵隊の数がチラホラと窺えた。

「よし、まずは宿を探そう」

それから──。

「ソドムタウンにはしばらく帰れないな」

俺は自分の胸に手を当てながら呟いた。

心臓に違和感がある。

何かが物理的に引っ掛かるような違和感だ。

「くそ……」

魔女は俺の心臓に指輪型の探知機を仕込んで俺の居場所を監視してやがるのだ。

俺がソドムタウンに帰れば、俺が転送絨毯を使っていることがバレるだろう。

そして、俺の拠点がソドムタウンだともバレる。

なんかそれが嫌だ。

あの魔女にすべてを晒すのは、ひじょーーーに嫌だわ。

魔女に情報を出来るだけ与えたくない。

拠点がバレたら戦略的にも難しくなる。

とにかく、何かしら厄介になる。

あの魔女とはいずれ決着を付けなければならないだろう。

俺がもっと強くなったら打ち倒すべき相手の一人だ。

もう一人は糞女神かな……。

まあ、そんなヤツに拠点がバレるなんて駄目だわな。

戦略的に不利になる。

そうなると、この旅の道中で、心臓の指輪をどうにかして取り出さないとなるまい。

そんなことを考えながら俺は宿屋を探した。

もう少しで日が沈む。

夕日が防壁の影を伸ばして町並みを包み出し始めた。

「早く宿を取らないとな。夜が来るぜ」

そして、しばらく歩くと宿屋の看板を見つける。

「おっ、あれが宿屋かな。酒場の看板を見つけたぞ」

俺は宿屋の前に立つと看板を読み上げた。

「完熟フレッシュ亭……」

んー……。

なんか、親父が娘と一緒に漫才をやってそうな宿屋名だな~。

まあ、名前は微妙だけど、宿屋としては問題なかろう。

「ここに決めたぜ!」

俺が店に入ると一階の酒場は繁盛していた。

暑苦しい野郎どもが黒いセーラー服を着て酒盛りをしている。

うーん、なんで……?

いきなりなんでですか!?

なんで客の全員が黒い冬服のセーラー服を着ていますか!?

しかもミニスカートだよ……。

野郎どものセーラー服ミニスカート姿なんて、マジでキモイぜ……。

コスプレバーなのかな?

俺、いきなりハズレを引きましたか?

そんな感じで俺が入り口で呆然としていると、一人のセーラー服野郎が絡んで来る。

「よ~、にーちゃん、ここは俺たちセーラー服反逆同盟の専用酒場だせ。いったい何しに来たんだい?」

セーラー服を来た酔っぱらい野郎は、俺の肩に腕を回すともたれ掛かる。

絡まれたわん。

「ああ、知らなかったんだ。すまん。帰るよ」

うん、これは出て行ったほうが得策だろう……。

関わるのはやめよう。

「帰る~、どこに?」

「店を出ていくからさ」

「じゃあ金を置いていきな。迷惑料だ」

「マジで?」

「マジでだよ!」

セーラー服野郎が凄んだ。

俺は咄嗟にセーラー服野郎の腰に両手を回してクラッチを組んでから持ち上げる。

「えっ!?」

「そぅらぁ!!」

そのままセーラー服野郎を臍で投げた。

ジャーマンスープレックスだ。

「ふごっ!!」

投げられたセーラー服野郎の後頭部が床板を割ってめり込んだ。

俺はすぐさま立ち上がるとジャーマンスープレックスで投げた逆さまのセーラー服野郎のパンツを確認した。

捲れたスカートからパンツが見えていたが、俺はホッとする。

良かったぜ、パンツはボクサーパンツだった。

これでパンツまで女性用の下着だったら発狂するところだったぜ。

俺が安堵していると、別のセーラー服野郎が酒瓶を棍棒のように振りかぶって殴り掛かって来た。

「この野郎!!」

「おっと」

俺はヒラリと酒ビンを躱すと膝を立ててセーラー服野郎の腹に打ち込んだ。

「ニーリフトだぜ!」

「うぷっ!!」

そして続いてくの字に屈んだセーラー服野郎の延髄にエルボースタンプを叩き落とす。

「そらっ!」

「ぐへぇ!!」

二人目が俺の足元に倒れ込むと酒場内のセーラー服野郎たちが大声をあげて立ち上がる。

「なんだテメーは!!」

「殴り込みか!?」

「この糞餓鬼が!!」

「おかすぞ!」

大勢のセーラー服野郎たちが立ち上がり俺に飛び掛かろうと身構えた。

そこで店の奥から大声が飛んで来る。

「待ちやがれ、野郎ども!!」

その声にセーラー服野郎どもが動きを止めた。

そして、セーラー服野郎どもが道を開けて声の主が姿を見せる。

店内の一番隅のテーブルに陣取っていた男は、組んだ両足をテーブルに乗せながら、優々と酒を煽っていた。

その男は大柄で金髪の長髪だった。

キリッとした太い眉に少し垂れ目で、大きくマッチョな体格とは別に、顔の形はスマートである。

勿論セーラー服を着ている。

しかし、一人だけ半袖で白い夏服のセーラー服だった。

「若くて活きがいいな、坊や」

女か!?

見た目は男に見えたが、声色は女だった。

確かに、よくよく見れば女だな。

しかも若い。

まだまだ生娘の匂いがしてくる若さだ。

でも、マッチョでデカイ。

完全なガチムチ女だ。

いいや、女と言うより娘かも知れないな。

その娘は組んでいた足を崩してテーブルから下ろすと立ち上がる。

分かっていたが立った姿は大きかった。

身長は190センチを越えているだろう。

しかし、2メートルは無いだろうさ。

首は頭と同じぐらい太い。

胸は分厚く、腰はクビレて逆三角形だ。

腕も脚も筋肉でパンパンだ。

確実にハードなトレーニングで鍛えている体型だ。

まさに女バージョンのゴリだな。

いや、ゴリよりマッチョかも知れない。

「なんなんだ、あんたら?」

「あたいたちを、知らないのかい?」

「旅の冒険者なもんでね」

「じゃあ教えてやるよ!」

メスゴリラがサイドチェストのポーズで筋肉アピールをしながら述べた。

「あたいらは、セーラー服反逆同盟さ!!」

「あ、ああ……」

それは、一番最初に聞きましたがな……。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた

杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。 なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。 婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。 勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。 「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」 その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺! ◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。 婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。 ◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。 ◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます! 10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

Lunaire
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

転生したら赤ん坊だった 奴隷だったお母さんと何とか幸せになっていきます

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
転生したら奴隷の赤ん坊だった お母さんと離れ離れになりそうだったけど、何とか強くなって帰ってくることができました。 全力でお母さんと幸せを手に入れます ーーー カムイイムカです 今製作中の話ではないのですが前に作った話を投稿いたします 少しいいことがありましたので投稿したくなってしまいました^^ 最後まで行かないシリーズですのでご了承ください 23話でおしまいになります

〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。 だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。 十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。 ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。 元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。 そして更に二年、とうとうその日が来た…… 

ハクスラ異世界に転生したから、ひたすらレベル上げしながらマジックアイテムを掘りまくって、飽きたら拾ったマジックアイテムで色々と遊んでみる物語

ヒィッツカラルド
ファンタジー
ハクスラ異世界✕ソロ冒険✕ハーレム禁止✕変態パラダイス✕脱線大暴走ストーリー=166万文字完結÷微妙に癖になる。 変態が、変態のために、変態が送る、変態的な少年のハチャメチャ変態冒険記。 ハクスラとはハックアンドスラッシュの略語である。敵と戦い、どんどんレベルアップを果たし、更に強い敵と戦いながら、より良いマジックアイテムを発掘するゲームのことを指す。 タイトルのままの世界で奮闘しながらも冒険を楽しむ少年のストーリーです。(タイトルに一部偽りアリ)

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

伯爵家の次男に転生しましたが、10歳で当主になってしまいました

竹桜
ファンタジー
 自動運転の試験車両に轢かれて、死んでしまった主人公は異世界のランガン伯爵家の次男に転生した。  転生後の生活は順調そのものだった。  だが、プライドだけ高い兄が愚かな行為をしてしまった。  その結果、主人公の両親は当主の座を追われ、主人公が10歳で当主になってしまった。  これは10歳で当主になってしまった者の物語だ。

処理中です...