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【第七章】魔王城へ旅立ち編

7-29【変態の勝負】

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突然ながらメガロ・ガイストの幽霊が現れた。

それは見るからにレイスですね。

朧気に揺らめくローブ姿の魔法使いは半透明で顔色は真っ青。

黒く窪んだ眼下の奥で青白い瞳が輝いていやがる。

そして、長い髭を揺らしながら亡者のように呻いていた。

『ぁあぁァあァあアああぁアアア』

俺は一人で前に出る。

「ジャンヌちゃんはさがってて!!」

「は、はい!!」

さて、と──。

それにしてもキモイな~……。

意気込んでみたけれど、なんだかメガロの亡霊はエグいな。

とにかくビジュアルがエグい。

身長2メートルはあるよね。

巨大化してねえか?

変形してるって言ったらいいのかな。

悪霊化して、人間の枠から外れた体型をしてやがる。

灰色のローブから伸び出た両腕は、細くて異様に長いしさ。

長い足なんかローブから出てさ、膝の当たりから見えてますよ。

手も足も、爪なんて猛禽類のように伸びてますしさ。

何ですか、こいつは?

もう魔法使いの霊には見えませんがな。

『ぁあぁァあァあアああぁアアア!!』

しかも、すげー錯乱してないか!?

それとも発狂なのかな!?

俺がメガロ・ガイストを観察していると、メガロ・ガイストのほうから動いた。

フワリと浮き上がると天井に、背中を合わせて貼り付く。

「ちっ、上を取られたか!」

高い位置から攻めて来そうだぞ。

そう言うのって厄介だわ~。

俺が愚痴るとメガロはカサカサと素早く動いて天井を前進した。

そして俺たちの頭上を越えて行く。

なんかマジでキモイぞ!!

本当にキモイぞ、こいつ!!

巨大なゴ◯ブリみたいだわ!!

そして素早い移動で俺の背後に回ると床に下りて来る。

『しゃしャシャ!!』

着地したメガロはジャンヌの背後を取っていた。

「しまった、ジャンヌちゃん逃げて!!」

俺が叫ぶとメガロは長い身体を曲げてしゃがみ込んでいた。

「えっ……?」

どうやら足元に居る黒猫のジルドレの顎を撫でていようだ。

『しゃしャシャ~~♡』

「なぁ~~ご♡」

ジルドレはされるがままだった。

顎を撫でられて気持ち良さそうにしている。

それを見て俺は気付く。

「なるほど、そうだったのか!」

「ど、どうしたんですか、アスラン殿!?」

「ダグラスの猫たちがメガロに殺された理由が分かったぞ!」

「な、なんですか!?」

「メガロは猫好きだったんだ。そして猫たちを可愛がった!」

「ええ、そんなバカな!?」

「だから、可愛がり過ぎて、レイスのエナジードレインで猫たちの精気を吸い取ってしまったんだ!!」

「はぁ~?」

「その証拠に、ジルドレが弱りだしたぞ……」

「ニァ…………」

黒猫がフラフラしていた。

まるでお酒をたらふく飲んだ酔っぱらいのように千鳥足である。

「ジルドレちゃん!!!」

使い魔を心配したジャンヌちゃんが剣を抜いてメガロ・ガイストに斬りかかった。

しかし、ジャンヌちゃんの剣はメガロ・ガイストの頭部をすり抜けて床に当たる。

「なぜ!?」

剣を振り抜いたジャンヌちゃんが驚いていた。

あー、この子の剣はマジックアイテムじゃあ無いのね。

ノーマルウェポンじゃあレイス級の霊体モンスターを傷付けられないぞ。

よし、やっぱり俺がカッコいいところを披露しなければなるまい!!

「退いてくれ、ジャンヌちゃん!!」

俺はジャンヌちゃんを押し退けると黄金剣でメガロ・ガイストに斬りかかる。

「そら!!」

『しぁァあ!!』

メガロは身体を滑らせるように後退すると俺の剣を躱した。

「やるな、こいつ!?」

しかし今の動きは魔法使いの体術じゃあなかったぞ!?

そして間合いを築いたメガロ・ガイストが魔法を撃ってくる。

『しゃシャあアアア!!』

マジックアローだな!

レジストできない!!

魔法の矢が俺の頬をかすって過ぎて行くと、後方でジャンヌちゃんが「きゃ!」と叫んだ。

「ジャンヌちゃん!?」

どうやら俺が回避したマジックアローがジャンヌちゃんに当たってしまったらしい。

「大丈夫か!?」

「大丈夫です。このぐらいならヒールで治りますから!」

ちっ、やっぱりソロとは感じが違うな。

俺には仲間は無用だぜ。

邪魔に等しいわ。

とりあえず、ここはすんなりとメガロ・ガイストを討伐しなければなるまい。

「うらぁぁああ!!」

俺が黄金剣を振りかぶりながら前に出ると、メガロも前に出て来た。

何故に魔法使いが接近戦の間合いに入って来るんだ!?

いや、今は考えてる場合じゃあないぞ。

斬る!

「どらっ!!」

『しュ!!』

えっ!?

パンチ!?

目眩!?

俺は殴られたのか??

眼前がチカチカとしてやがる。

顎先を殴られた。

メガロの長い手が、剣の間合いの外から飛んで来て俺の顎を殴りやがったぞ。

「こ、こいつは──!?」

更に鞭で叩かれたような派手な音が鳴る。

メガロの長い左ジャブが俺の胸を叩いていた。

俺の息が一瞬だけ詰まる。

こいつは、魔法使いじゃないぞ!!

「ぐっぐぅ……!!」

俺の体がジャブの痛みに硬直して止まっていた。

「くそ……」

メガロが体勢を斜めに構えてステップを刻み出す。

左肩を前に向けた構えで、その左腕を肘からL字に曲げている。

そのL字に曲げた左腕を振り子のように振っていた。

「フリッカー、かよ……」

そこからメガロの追撃が放たれた。

左のフリッカージャブ!

長い腕が鞭のように振られてジャブを打ってくる。

「速ッ!」

更に長いッ!

──と、思った直後にはフリッカージャブが俺の顔面を捉えていた。

パチンっと音が弾ける。

「くっ!」

俺の視界が痛みに白く染まる。

更にそこからのチョッピングライト。

「げふっ!」

打ち下ろしのストレートが連続して俺の顔面をぶん殴っていた。

視界が派手に揺れる。

そして、フリッカージャブとチョッピングライトの勢いに俺の身体が後方に飛ばされた。

「なぁろ!!」

だが、俺は踏み止まった。

倒れない。

でも、鼻の穴から鮮血が鼻水のように垂れていく。

『しゃあアアしャアあアシャ!!』

メガロが威嚇の声を上げていた。

L字の左腕が左右に揺れている。

高い背を丸めながら顔を付き出すと、大きく口を開けて掠れ声を叫んでいた。

「忌々しい!!」

俺はペッと床に唾を吐いた。

その唾に赤い物が混ざっている。

けっこうな強打だったから、口の中がザックリと切れてやがるぞ。

こりゃー、しばらくは熱いコーヒーが飲めないだろう。

いや、ヒールで治るかな。

「なろう、容赦しねえからな!」

俺は強く黄金剣を握り締めた。

もう隙は見せられないぞ。

ジャンヌちゃんにこれ以上は恥ずかしいところは見せられない。

次で決めてやる。

そう俺が心中で決意すると、真横の扉が開いた。

そこはダグラス・ウィンチェスターが寝ているはずの部屋だ。

あの糞爺が出てきやがった!!

俺とメガロ・ガイストが同時に横を向く。

不味い!!

「なんじゃ、さわがしいな?」

都合の悪いことに、メガロ・ガイストのターゲットが直ぐ真横に出て来てしまったのだ。

しかし───。

あれーーーー!?

「なんじゃ、お前ら。戦ってたのか?」

そのダグラスの格好は、ピンク色のスケスケネグリジェで、頭には金髪のカツラを被っていた。

下着はブラもパンティーも、黒い女性用だ。

それだけじゃあなく、顔にはキモイぐらいの厚化粧が施されている。

それを見た俺とメガロ・ガイストは背を向けてゲロを吐いた。

「げろげろげろ~~……」

『ゲロゲロケロ~~……』

そしてゲロを吐き終わった俺は、メガロ・ガイストより早く振り返っていたのだ。

「あ、隙あり」

俺は背後からメガロ・ガイストの身体を黄金剣で貫いた。

『ギィァァァあァあアアア!!!』

悲鳴を上げたメガロ・ガイストの霊は霧となって消えて行く。

【おめでとうございます。レベル22になりました!】

わーい、やったー……。

レベルアップだぁ~……。

おそらく勝利の鍵は、どちらがより多く変態に慣れていたかだろう。

そう、俺のほうがより多く変態に触れ合っていたから、嘔吐から早く回復できたのだ。

これは、変態の勝利である。


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