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【第七章】魔王城へ旅立ち編

7-20【朝食の会話】

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俺は豪華な客間のベッドで起きると両腕を伸ばして背伸びをした。

「ふぁ~~~ん、良く寝たわ~」

レースのカーテンが揺れる窓の外には麦畑の景色が広がっていた。

その麦畑の向こうにゴモラタウンの城壁が窺える。

俺が一晩の宿を取ったのはワイズマン邸の客間であった。

フカフカの枕に、艶々の白シーツ。

ベッドも高級なのか柔らかい。

流石は金持ちのベッドだ、空き地に建てられたボロテントとは寝心地が違いやがるぜ。

俺はゴモラタウンの側まで来たのでワイズマンの屋敷に一晩泊めてもらったのだ。

「よし、そろそろ起きようかな」

窓から入る朝日が眩しい。

すると部屋の扉が開いて執事の爺さんが入って来る。

「おはようございます、アスランさま。朝食の準備ができておりますので、食堂にお越しくださいませ」

おお、ナイスタイミングだ。

どうやら朝食が準備できているらしい。

「サンキュー」

執事は一礼すると静かに部屋を出て行った。

俺はベッドから出ると、装備品一式を装着してから食堂を目指す。

「ふぅぁ~~ん……」

まだ欠伸が出るな。

朝が早いのは苦手だ。

寝ててもいいなら、いつまでも何時までも寝ていたいものである。

怠惰は、最高な蜜の味だぜ。

「怠惰最高!!」

そんなくだらないことを考えながら俺が食堂に出向くと、既に正装したワイズマンが朝食を取っていた。

「やあ、アスランくん、おはよう」

「ちゅーす、おはよう~」

俺はチャライ挨拶を飛ばすと朝食が用意された席に勝手に座った。

たぶんここが俺の席だろう。

知らんけど。

「ワイズマン、宿だけでなく、朝食まで悪いな~」

「構わんよ、何せベストフレンドの訪問だからね!」

「ぬぬっ……」

俺は持っていたスプーンを親指でグニャリと曲げてから言う。

「す、すまんが、そのベストフレンドっていう表現は、やめてくれないか……。蕁麻疹が出そうだわ……」

「あっはっはっはっ、照れるなアスランくん」

「照れてないからさ……。キモイだけだからさ……」

俺が眉間を摘まんで俯いていると、後ろから執事の爺さんが、代わりのスプーンを差し出してくれた。

「代わりのスプーンでございます。どうぞ」

「あ、ありがとう……」

ここで話題の内容が変わる。

「なあ、アスランくん」

「なんだい?」

「今日の予定はどうなっているのかね?」

「たいして急ぎな予定はないが、大きな目的は、旧魔王城までの旅かな。今回は、その途中で立ち寄っただけなんだよ」

「旧魔王城ですか?」

「ああ」

俺は返事をしてからスープをスプーンで掬って啜った。

何これ、旨いな……。

流石は金持ちの朝食だぜ。

貧乏な一般市民が口にするような安物の調理とはわけが違うようだ。

肉も大きくたくさん入ってやがるしよ。

スパイスもハーブも効いてやがる。

マジでうめー。

「冒険者ギルドの仕事でかい?」

「いや、個人的な目的でだ。あそこを占拠して、秘密基地を作ろうと考えているんだ」

ワイズマンは不思議そうな顔で言った。

「秘密基地を作るとは、なかなかロマン溢れる遊びだな」

流石は分かってらっしゃるぜ。

それにしても、このスープは本当に旨いな。

何これ!?

無限に飲めるぞ!!

それはさておき……。

「ああ、あそこの城を占拠して、国から正式に土地の権利をもらったら、村を作ろうと考えているんだ」

「それはそれは、壮大な計画だね。だが、あそこは辺鄙で人が住める環境じゃあないよ。そもそも誰も手を出さない理由は、流通が不便だからだ。引き込もって暮らすならいいが、外の世界との交流は不便極まりないぞ」

皆が述べる意見である。

スカル姉さんやギルガメッシュにも同じようなことを言われたような気がする。

だから魔王城は放置されているのだ。

「その問題は、打開できているんだ」

「打開策とは?」

「とあるドラゴンから転送絨毯って言うマジックアイテムを貰ったんだ。それでソドムタウンと魔王城をテレポーターで繋ぐ予定だ」

「あー、転送絨毯か~。あれは確かに便利なマジックアイテムだ。あれなら辺境と都会を繋げられるな」

流石は大商人で、マジックアイテム屋のグレイスの息子だな。

転送絨毯を知ってやがるんだ。

「だろ~う。名案だろ~う」

「それにしても、良くあの絨毯を手に入れられたな。あれはかなり高額なマジックアイテムだぞ。レア中のレアだ。金を払えば、誰でも容易く手に入る代物でもない」

「そうなのか」

まあ、それなりの仕事はやったからな。

当然の報酬だぜ。

「何せ物流の法則を壊すマジックアイテムだからね。私も一組ぐらい欲しいぐらいだ」

「あー、確かにな~」

「でえ、土地の権利はどうやって国から貰うんだい?」

「それはギルガメッシュに頼んである」

「なるほど、私の出番は無さそうだね……」

詰まらなそうに言ったワイズマンが気を取り戻すように言う。

「彼なら何とか出来るかも知れないが、時間が掛かりそうな話だね」

「そんなに時間が掛かるのか?」

「ああ、何せ強引に村を作るんだろ。何より捨てられた土地とは言え、場所は魔王城だ。いろいろ問題も多かろうて」

「なるほどね~……。まあ、その辺はギルガメッシュに苦労してもらうしか俺には策がないんだけどね」

ワイズマンが両肘をテーブルに突くと、両手を組んで口元を隠しながら怪しく言う。

「どうだろう、アスランくん」

「なんだ?」

「私にギルガメッシュ殿の手伝いをさせてもらえないか?」

よし、乗ってきたな、強欲な商人め。

思惑通りだぜ。

「手伝うのは構わないが、何か見返りを要求してくるんだろ?」

商人が、そう言った人種なのは俺だって理解できている。

このワイズマンは変態だが大商人。

なんの利益もないのに話に絡んで来るはずがない。

俺の話を聞いて、瞬時に利益が出る何かを企んだのだろう。

「勿論だ。できれば私もその村に店を出したいのだが?」

「それだけ?」

「ああ、魔王城支店を持っている商人なんて、箔が付くってもんだ」

見栄の問題ですか~。

いや、そんな安い考えで動かんだろう。

見え見えだぞ、ワイズマン!

「分かったよ。そのぐらいなら構わんが、村の権利を乗っ取ろうとかすんなよな」

「ああ、わかってるよ。その辺はベストフレンドを裏切ることはないぞ。むしろ村を守る側に回ってやるさ」

本当かな~。

ドップリと商法に浸かっているヤツは信用できないからな。

まあ、今後いろいろと企む奴らは出て来るだろうから、警戒は怠れないか。

それに何より味方は多いほうがいいだろう。

「ふぅ~、食った食った~」

そして、朝食を食べ終わった俺はナプキンで口元を拭いた。

それにしても金持ちの飯は旨いな~。

こんなに旨い料理ばかり食ってるからブクブクモッチリと太るんだよ。

「さて──」

すると席を立ったワイズマンが、このあとの提案をしてくる。

「なあ、アスランくん。暇ならこれから私に付き合わないかね?」

「デートの誘いならお断りだぞ」

「違う違う、これからゴモラタウンの冒険者ギルドに行ってギルドマスターに会うんだが、どうかね?」

あー、ゴモラタウンの冒険者ギルドか~。

そりゃあゴモラタウンにも冒険者ギルドぐらいあるよな~。

「ゴモラタウンの冒険者ギルドは、ソドムタウンほど大きくないが、キミもゴモラタウンのギルマスに、会っておいたほうがいいんじゃあないか?」

「人脈を作れと?」

「顔は広いに越したことはないぞ」

本当に、商人的な考えであるな。

でも、大切な行動かも知れない。

「分かったよ。出発の前に少し付き合うよ」

「そうか、それならこれから出ようか」

俺はワイズマンと一緒にゴモラタウン内の冒険者ギルドに向かった。

ワイズマンの豪家な黒馬車で向かったのだが、ゲートは馬車を止めることなく顔パスだった。

金持ちって凄いな~。

こいつも貴族のプレートネックレスでも持っているのかな?

そして、俺たちは間もなくしてゴモラタウンの冒険者ギルドに到着した。

建物は三階建ての宿屋風である。

一階が酒場で二階が宿屋だった。

三階が冒険者ギルドの本部らしい。

酒場のサイズも建物の大きさも、ソドムタウンより小規模だ。

やはりソドムタウンの冒険者ギルドのほうが、冒険というジャンルでは土地柄から盛んなのだろう。

「じゃあ、行こうか」

「おう」

俺はワイズマンに導かれ三階を目指す。

ワイズマンは受付の女性に、軽く手で挨拶をしただけで中に通してもらえた。

そんなところを見せられると、ワイズマンって、本当は凄い商人なんだなって思えた。

真の姿は、ただの変態親父じゃあないのね。

そして俺たち二人は応接室に通されると、しばらく待たされた。

それにしてもだ……。

何故にパンダの剥製ゴーレムがあるんだよ。

これって、金持ちのステータスですか?

それとも、この世界だと、どこの冒険者ギルドにも一体ずつはパンダゴーレムがあるのかな?

まあ、それは置いといてだ。

俺はワイズマンに問い掛けた。

「でえ、今日はなんの話をするんだい?」

「前々から私が依頼していた仕事の話だよ。その前にキミをギルマスに紹介するから」

「おう」

さてさて、ゴモラタウンのギルマスは、どんな変態かな。

まさかギルガメッシュを上回る出落ちキャラは期待できないだろう。

でも、冒険者なんだから、変態なのは間違いなかろうて。

そして、部屋の扉が開くと背の高い男が入って来た。

期待するギルマスの登場である。

それは、老紳士だった。

口髭に七三ヘアー。

グレイのスーツをビシッと着込んでいる。

手にはイギリス紳士が持つような杖をついていた。

まさにザ・紳士である。

いや、ミスター紳士と呼ぶべきだろうか。

「ワイズマンさん、おはようございます」

老紳士風の男は柔らかく微笑んだ。

あーれー……。

すげー、ふつー……。

超紳士じゃんか……。

あれれれー、期待ハズレもいいところだわ……。

アスラン、つまんなーい……。

服でも脱いで、暴れちゃおうかな~。


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