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【第六章】閉鎖ダンジョン後編

6-17【黄金剣のセルバンテス】

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セルバンテスミイラが丸い盾の中から召喚したシルバーウルブス三匹が俺に向かって走り出した。

野性的に牙を剥く銀髪の狼たち。

「怖っ……。三匹とも敵意満々ですな」

全身の毛は逆立っているは鼻の頭に深い怒りの皺を寄せているわで、もう狂犬狂暴な面構えですよ。

絶対に噛んでくるわ。

猛獣のようにガブガブと噛んでくるはずだ。

噛まれるのは仕方ないけど、こいつら狂犬病の予防注射はちゃんと受けているだろうか?

んー、やっぱり受けてないよね……。

そして、一方の俺は──。

はーい、俺はロングボウを異次元宝物庫に仕舞いまして、からのーー!

代わりに──。

【エクスフロージョンスタッフ+2】
爆発系魔法の範囲が向上する。爆発系魔法の破壊力が向上する。

──を出しまして、両手でしっかりと構えます。

俺の指の一つには──。

【ファイヤーボールリング+2】
ファイヤーボールが二回使える。

──が装着されておりますがな。

そして、念を込めながら。

「食らえ、ファイアーボール!」

俺の願いに沿って魔法のリングから火球の攻撃魔法が放たれた。

唸る火球が飛んでいく。

するとシルバーウルブスに飛翔したファイアーボールが爆発した。

「どぉーーわあ!!」

「キャイン!!」

凄い爆風がシルバーウルブスを包んだが、熱い爆風が俺にまで届いた。

危うく俺まで吹き飛ばされるかと思ったぜ。

「あー、もー、前髪がちょっぴり焦げちゃった」

エクスフロイダー・プロミスの爆発力を見ていたから、大体の爆発範囲は推測していたつもりだったけれど、想像以上に爆発範囲が大きかった。

これなら威力的には満点だろう。

流石のシルバーウルブスも壊滅だろうさ。

だが、しかし、念には念をいれて爆風の中に更なる火球を投げ込んだ。

「ファイアーボール二発目だ!!」

爆風の中から更に爆風が吹き荒れる。

「よし。これでシルバーウルブスはやっつけただろう」

俺は爆炎を見ながら異次元宝物庫にエクスフロージョンスタッフを投げ込むと、代わりに──。

【ロングソード+2】
攻撃速度が向上する。アンデッドにダメージ特効が向上する。

──と、

【マジックメイス+1】
クラッシュウェーブが一回使える。

──を取り出した。

右手にロングソード、左手にマジックメイスの不恰好なツーハンズだ。

「さて、どう来るよ」

俺は爆炎がやむのを待った。

床一面が燃えている。

俺が炎を眺めていると、燃え盛る炎の中からセルバンテスミイラが歩み出て来た。

殺意漲る木乃伊の強者。

セルバンテスミイラの歩みに合わせて周囲の炎が消えて行く。

「来やがったな……」

彼は微塵にもダメージを受けている様子はない。

「凄い冷気だぜ……」

しかも、セルバンテスミイラの陰から焼け焦げたシルバーウルブスが姿を表した。

「「ガルルルルッ!」」

「あら、まあ、生きておりましたか狼さんたち……」

でも、一体は減ってるな。

二匹しか居ない。

それにシルバーウルブスは大きなダメージを受けているのは明白である。

一体は倒せたみたいだし、残った二体も随分とダメージを受けてますね。

銀色の鬣からダサくも煙を上げてやがる。

かっちょ悪~~い。

ニヤリ。

「これなら行けるだろう」

そして負傷したシルバーウルブス二体が走り出した。

俺に駆け迫る。

まだまだ闘志と殺意が全開なのだろう。

「「ガルルルルッ!!」」

「野生ってタフネスだな!」

俺は左手のマジックメイスを頭上より高く振りかぶった。

それで足元の床を叩く。

「クラッシュウェーブ!」

叩いた床から衝撃破が波となって沸き上がった。

魔法の波がシルバーウルブスを飲み込みながらセルバンテスミイラに迫る。

シルバーウルブス二体はセルバンテスミイラの後方まで飛ばされた。

そして霧となって消えてなくなる。

ダメージが致死量まで達したのだろう。

だが、セルバンテスミイラは魔法の波を受けてもよろめきすらしていない。

ぐらつかない、怯まない。

完璧な魔法防御かな?

「ならば!!」

俺は異次元宝物庫にマジックメイスを仕舞うと左手を向けた。

「マジックアロー!」

俺の掌内から魔法の矢が飛んで行くが、セルバンテスミイラに着弾する寸前で霧のように消えてなくなる。

「魔法が効かない。完璧なレジストですか!?」

なんですか、こいつは!?

魔法や飛び道具は無効ですか!?

インチキ臭いよね!!

これだから高レベル冒険者ってチート臭いとか言われるんだよ!!

なんか戦うの面倒臭いな。

戦うのやめよっかな。

えっ?

『あがが、が、がぁ、がぁぁああ』

なんかセルバンテスミイラさんが、枯れた頬肉をバキバキ裂けさせながら、やたら一杯に口を大きく開いて来ましたよ。

何をしていますか?

なんか、口の中で真っ赤な魔法陣が輝いてませんか?

魔法を撃つきですか?

『マじっ♯イ■►◇◈!!』

チュドーーンと口から波動砲を撃って来やがった!!!

ド太い波動ビームが俺に迫る。

俺の体を丸ごと巻き込めるサイズの飛翔光ですわ!!!

魔力も凄まじい。

「やべぇ!!」

俺は必死に飛んで波動ビームから逃れた。

横っ跳び一線のヘッドスライディングで回避する。

「こわっ!!」

俺は腹這いから立ち上がる。

そして、俺が元立って居た場所を眺めた。

「なんつう破壊力ですか……」

そこには抉られて削られた傷跡が床に残っていた。

石張りの床を華麗に削り取ってやがる。

長々と一直線にだ。

「駄目だな、こりゃあ……」

遠距離戦は無理だ。

こっちの攻撃は効かないのに、向こうは超破壊力の波動砲ですよ。

もう無理無理無理ですわ。

俺はロングソードを構えて走った。

セルバンテスミイラに接近戦を仕掛ける。

遠距離戦が無理なら接近戦しかないだろう。

「うらぁ!!」

俺はアンデッド専用のロングソードで斬りかかる。

だが、初弾の一打目はシルバーウルフのシールドに容易く弾かれた。

そして、丸い盾の裏から黄金剣の刀身が飛んで来る。

『がっ○→☆!』

光輝く一太刀の突きだった。

まるでレイザービーム。

俺もその一太刀の突きを左腕に装着されたバックラーで受け止める。

しかし、凄まじい衝撃が身体全体に響いた。

突き押される衝撃。

ズシンと重い衝撃だった。

まるで相撲取りの重々しい突っ張りである。

「重いッ!」

その衝撃に全身の骨が軋みそうに悲鳴を上げていた。

そしてバックラーごと左腕が俺の脇腹にめり込んだ。

「ぐっが!!」

俺の体がくの字になって後方に吹っ飛ばされる。

「がはっ!!」

でも、足から着地。

うわ、消化されてドロドロになった朝食が逆流してきそうだったわ。

「やばい、倒れる!!」

俺は右足に力を込めて踏ん張った。

そこにセルバンテスミイラが走り寄って来る。

今度は向こうさんから仕掛けてきたぞ。

『☆かがぁ■③◇』

うーーぬ!!

我慢からのーー!!

袈裟斬りだ!!

だが、それも容易く躱された。

セルバンテスミイラは躱すと同時に片足の爪先を俺の脇腹に蹴り入れる。

「うぷっ!!」

俺の体が爪先蹴りの衝撃で前のめりに曲がった。

まるで鉄槌で腹を殴られたかのような重い衝撃だった。

内蔵がグツグツに煮えたぎるように痛む。

「吐きそうだ……」

俺は慌ててバックステップで間合いを開く。

だが、ダメージが膝に現れる。

下半身に力が入り難い。

それでも俺はよろめきながらも距離を作って逃げ延びる。

「くそ。この野郎、攻防一体の動きが鮮やか過ぎませんか!?」

ガクンっ!

「あれ……」

俺が悪態を付いた瞬間に腰が抜けた。

痩せ我慢で気張っていた下半身から完全に力が抜け落ちる。

時間差でダメージが肉体に現れたのだろう。

「あらん、腰が……」

俺は尻餅を着いてしまう。

こりゃあ、俺だって倒れますよ。

俺は尻餅を付いたあとにゴロゴロと転がった。

そして、二回転してからスクリと立ち上がる。

俺は剣を構えて凛々しく振る舞ったつもりだったが、完全に目が回り気持ちが悪い感覚であった。

なんとか立ち上がれたが両足もガクガクと震えている。

「やばいわ……。こいつは強いよ……」

正直な感想だった。

正面から堂々と戦って勝てる相手じゃあないぞ。

「ステータス値が違うのか……」

このままでは不味い。

何か策を立てなければ……。

ズルくても卑怯でも構わないから頭を使って戦わなければならない。

「こいつ、マジでやばいぞ……」

俺は踵を返して走り出していた。

逃走──。

とりあえず、逃げる。

「逃げるんだよ、スモーキー!!」

作戦を考えなくてはならない。

策して企まなくてはならんだろう。

実力の違いは知恵と勇気と頭脳と人生経験と卑劣なまでに勇敢な感情で埋めなくてはなるまい。

そう自分を正当化しながら俺は走った。

恥ずかしいとか、卑怯とか言ってられませんがな!!

戦力差が大き過ぎる。

死んじゃいますよ!!

マジでさ!!

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