上 下
55 / 611
【第二章】最臭兵器スバル編

2-26【定例儀式】

しおりを挟む
今現在俺は、ツインテール眼鏡っ娘美少女の前で苦しんでいた。

いつものようにエロイ妄想をモンモンと巡らせて、糞女神の呪いに苦しめられているのではない。

ただ漂う悪臭に苦しめられているのだ。

俺は鼻の穴から侵入して呼吸気管を通り越し肺の中まで汚染してくる悪臭に耐えながらツインテール眼鏡っ娘美少女の話を聞いていた。

俺の額から熱いわけでもないのに冷たい汗がダラダラと流れ落ちて行く。

話しているのは薬師魔法使いのスバルちゃんだった。

赤毛のツインテールに眼鏡っ子というチャーミングポイントを有した美少女なのに、非常に非常に非常に非じょ~~に、残念だ!

美少女を前にして俺は、エロイ妄想をする余裕すら与えられないほどに苦しんでいた。

とにかく、半端なく臭いのだ。

完全に悪臭レベルの体臭だ。

スバルちゃんの小さな体から、とんでもない体臭が漂って来るのだ。

それはもう毒ガスのレベルだった。

小さな虫なら近付いただけで死んでしまうだろう。

彼女が全身から醸し出す謎の体臭が、周囲の空気を爛れるほどに汚している。

とにかく、超臭いのだ。

すっごい体臭なのだ。

残念なことに、スバルちゃんは、毒ガス美少女だったのだ。

最初は家の中で話さないかと言われたが、なんやかんや苦しい言い訳を並べて、それだけは避けた。

もしも閉鎖空間でこの子と一緒に居たら長くは持たないだろう。

間違いなく酸欠か、気持ち悪くなって倒れてしまうだろうさ。

なので俺たちは彼女の家の前で、立ち話程度に打ち合わせを済ませることにした。

それにしても、これだけの悪臭を体から放つスバルちゃんは何者なのだろうと考える。

自分では、この体臭に気付いてないのだろうか?

てか、周りの誰も忠告してくれないのだろうか?

それにゾディアックさんは大丈夫なのだろうか?

そう思いゾディアックさんの様子を窺ったが普通に彼女と話している。

しかし、よぉ~く見てみると鼻の穴の中に何か白い物が詰まっていた。

鼻栓だ!

この人は知ってて自分だけ鼻栓で悪臭を防御していやがる!!

なんて卑劣な!!

俺だけが悪臭の洗礼を受けているのかよ!!

すげー、不公平である!!

なので俺は出来るだけ早く話を済ませようと世話しなく急いだ。

薬草採取に出るのは明日の朝からにして、細かい話は道中で聞くことにしたのだ。

スバルちゃん曰く、戦闘になる可能性もあるそうなので、戦闘の準備だけは怠らないようにとのことだった。

件の薬草が生えているのは、何らかのモンスターの生息地のようだ。

だから一人で採取しに行けずに護衛の冒険者を雇うのだろう。

そこまで打ち合わせを済ませると、俺は逃げるようにスバルちゃんの前から立ち去った。

20メートルほど速足で歩いたところで深呼吸を深々とする。

そして、俺は思う。

まさか、こんなに町の空気が美味しかったとは知らなかった。

清々しさすら感じられる。

すると速足で歩いていた俺にゾディアックさんが追い付いて来た。

「待ってくれよ、アスランく~ん」

呑気な声でゾディアックさんが俺を呼び止める。

イラッとした俺は踵を返すと同時に、ゾディアックさんのボディーに怒りの鉄拳を打ち込んだ。

「オラっ!」

「ゲフっ!」

ゾディアックさんの鼻の穴から詰めていた白い綿が飛び出した。

打たれた腹を押さえながら両膝をついたゾディアックさんが苦しそうに言う。

「い、いきなり何をするんだい……?」

俺はヤンキーのように顔をしかめながら言ってやった。

「てめー、知ってて黙ってたな、ゴラァ!」

「ああ、済まない。これもすべては定例儀式だよ……」

「ああーん、何が定例だ!」

「彼女と初見で会う人々に、彼女の恐ろしさを直に知って貰うためにだよ……」

確かに恐ろしい出会いであった。

これなら次から鼻栓は忘れまいと思うだろう。

いいや、むしろ彼女といつどこで出会ってもいいように鼻栓を常備しておこうと心掛けるようになるだろう。

それだけ恐ろしい体臭&悪臭だった。

ゾディアックさん曰く、彼女からの薬草採取の依頼は数ヶ月起きにちょくちょくある仕事らしいのだ。

だから初見の冒険者には定例儀式のように報せないで彼女と会わせるらしい。

おそらくは、一番最初の冒険者が知らずに体臭毒ガスを浴びたのを根にもって、後継者に教えなかったのが定例儀式となったのだろう。

俺も絶対に、次のヤツには教えたくないと思う。

俺が受けた苦しみを、是非に次のヤツにも味わってもらいたいのだ。

てか、毒ガスの洗礼を受けずに薬草取りの依頼を受けることは、もうなんぴとたりとも許されないだろう。

この定例儀式は正しいことだ!

そんなこんなあって、俺はひたすら謝るゾディアックさんを許すと町中で別れた。

それから一人でスカル姉さんの診療所に帰ることにした。

診療所に帰ると明日から冒険の依頼で旅立つことをスカル姉さんに告げると、もう一つスカル姉さんにお願いをする。

「畏まってお願いとはなんだ?」

俺は済まなそうにお願いごとを語る。

「スカル姉さん、済まないけれど、医療用の綿を幾分か分けて貰えないかな?」

「綿を?」

「鼻に詰めるから……」

「また外で、変な遊びを覚えてきたのか、アスラン?」

俺は理由を述べなかった。

ただ黙って鼻栓用の綿を分けて貰う。

必須の準備を怠らないためにだ。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

Lunaire
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた

杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。 なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。 婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。 勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。 「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」 その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺! ◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。 婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。 ◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。 ◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます! 10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!

ハクスラ異世界に転生したから、ひたすらレベル上げしながらマジックアイテムを掘りまくって、飽きたら拾ったマジックアイテムで色々と遊んでみる物語

ヒィッツカラルド
ファンタジー
ハクスラ異世界✕ソロ冒険✕ハーレム禁止✕変態パラダイス✕脱線大暴走ストーリー=166万文字完結÷微妙に癖になる。 変態が、変態のために、変態が送る、変態的な少年のハチャメチャ変態冒険記。 ハクスラとはハックアンドスラッシュの略語である。敵と戦い、どんどんレベルアップを果たし、更に強い敵と戦いながら、より良いマジックアイテムを発掘するゲームのことを指す。 タイトルのままの世界で奮闘しながらも冒険を楽しむ少年のストーリーです。(タイトルに一部偽りアリ)

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

転生したら赤ん坊だった 奴隷だったお母さんと何とか幸せになっていきます

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
転生したら奴隷の赤ん坊だった お母さんと離れ離れになりそうだったけど、何とか強くなって帰ってくることができました。 全力でお母さんと幸せを手に入れます ーーー カムイイムカです 今製作中の話ではないのですが前に作った話を投稿いたします 少しいいことがありましたので投稿したくなってしまいました^^ 最後まで行かないシリーズですのでご了承ください 23話でおしまいになります

処理中です...