上 下
4 / 611
【第一章】アスラン伝説編

1-4【初戦闘と初勝利】

しおりを挟む
俺が、だだっ広い大草原を全裸で黙々と歩いていると、一体のスケルトンに出くわした。

ホネホネロックなスケルトンである。

下級アンデッドってやつだ。

とにかく初めて見た。

まあ、当然か……。

普通はスケルトンなんて歩いて居ないものな。

しかも、真っ昼間からよ。

とにかくだ、最初は遠目に見ていて人が歩いているのかと思って喜んだが、近付いてみると、それは骸骨だった。

真っ昼間の大草原を節操もなくスケルトンが一人で野外をぶらぶらと放浪していたのだ。

本当にガッカリである。

「なんとも非常識な話だな……」

どうやら女神も空気が読めないが、スケルトンも空気が読めないらしい。

異世界ってやつは空気が読めない輩が多いようだ。

とにかく今の俺は人間と出会いたいのである。

見知らぬ土地で一人は寂しいし、喉が渇いたので水を分けて貰いたいのだ。

まあ、スケルトンとはいえ出合ってしまったのは仕方がない。

これも運命かくだらない定めだろう。

俺はスケルトンの様子を草葉の陰から見守った。

スケルトンは俺に微塵も気付いていない。

草むらをガサガサと進むスケルトンは俺に背を向けている。

後方から近付いた俺にはぜんぜん気付いていない様子だった。

俺は少しばかりスケルトンを観察しながら後を追う。

スケルトンの数は一体だ。

しかも尾行が素人な俺にすら気付かないボンクラのようだ。

昼間だからかな?

アンデッドだから昼間だといろいろと鈍いのだろう。

それにスケルトンはボロボロの服を着ているだけで、武器や防具は一つも身に付けていない。

丸腰ってやつだな。

冒険者風の死体ではないようだ。

生前は平民だったスケルトンなのかな?

ならば勝てるかも知れないぞ。

素手同士だ。

しかも今はアンデッドが弱まる昼間の時間帯だ。

背後からの不意打ちを仕掛けられそうだし、きっと勝てると思う。

何せザコでも経験値になる。

少しでも強くなれるチャンスだ。

それよりも、服が欲しい!

スケルトンはボロボロの服を着込んでやがる。

残念ながら靴は履いていないがズボンは履いてやがる。

アンデッドが着ていたボロボロの服でも、この際だから構わない。

とにかく全裸よりマシだ。

俺は死者からだって追い剥ぎが出来る鬼畜の心を宿した男である。

だって、微風すら寒いんだもの……。

全裸だと心も冷えるのだ。

キャンタマ袋も冷えて縮こまるのだ。

決意を固めた俺は、背後からスケルトンに忍び寄った。

奇襲を仕掛けてやるぞ。

不意打ちだ。

もう少し、もう少し近付きたい。

あと、一歩だ。

もう少し……。

あと、半歩だ。

良し、今だ!

あと3メートルの距離まで近付いたところで俺は攻撃を仕掛けた。

ダッシュで飛び掛かる。

無言のまま走り寄りスケルトンの後頭部にラリアットをぶちこんでやった。

「おらっ!」

全力で振り切られる自称豪腕の右腕がスケルトンの後頭部を打ち殴った。

「奇襲、成功なり!」

すると俺の細腕に殴られたスケルトンの頭部だけが飛んで行って、近くの岩に当たって砕け散る。

頭を粉砕してやったぜ。

「勝った!」

っと、思ったが、頭部を失ったホネホネボディーがクルリと振り返る。

「えっ、動けるの!?」

どうやら動けるようだ。

なんか無くなった頭の辺りにモヤモヤと黒い影が浮かんでいる。

魂の形だろうか?

しかも、悪霊っぽいよね。

とにかく理由は分からんが、なんかおぞましい魔力を感じ取れた。

影の中央には、とてもおどろおどろしい人の顔が浮かんで見えるしさ。

瞳の部分が赤々と光ってやがる。

「怖ッ!」

そして、頭を失ってもスケルトンは動き続けた。

しかも、俺に殴り掛かって来る。

頭蓋骨が無くても俺が見えているようだ。

そして、スケルトンの反撃だ。

素早い速度の大降りフックだった。

いや、平手打ちである。

「げふぅ!」

そして、頭無しスケルトンのピンタが俺の頬にヒットした。

肉が付いてないのに重いピンタである。

俺はピンタのダメージに仰け反ってからダウンした。

背中から倒れて少し後頭部を打ってしまう。

その倒れた俺の上にスケルトンが飛び乗って来る。

「なぬっ!」

そして俺はスケルトンに腹を跨ぐ体勢でマウントポジションを取られてしまった。

「ええ、マジですか!?」

ピンチだ。

これってピンチだよね!

スケルトンにマウントを取られたのは初めてだった。

いや、それどころか他人に物理的なマウントを取られるのが初めてである。

俺が下から見上げると、無くなったスケルトンの首から上に人の顔が朧気に浮かんで見えた。

その形相が怪奇である。

「ひひぃ、怖っ!」

そして上からスケルトンピンタが振り下ろされた。

左右交互の連続ピンタ攻撃である。

俺は顔面を両腕でカバーしながら守りを固める。

その腕をスケルトンが何度も左右のピンタで叩いて来た。

その痛みは骨で出来た鞭でしばかれているような痛みだった。

もしも俺がM豚野郎だったら特殊な世界観に目覚めてしまうところだろう。

ヤバイ!

少し気持ち良くなってきた!?

「ち、畜生っ!!」

俺は防戦一方になっている。

ガードに固めた両腕が骨に叩かれてミミズ腫れを何本も刻んでいた。

そして、調子に乗ったスケルトンが今まで以上な大振りでピンタを振りかぶった。

それで攻撃の間に一瞬の隙が生まれる。

ほんの僅かな隙だった。

その隙に俺は頭と両足を使って体をブリッジさせて山を築く。

「こなクソが!」

するとアーチを築いた俺の腹の上からスケルトンがバランスを崩して転げ落ちた。

その隙に素早く俺は立ち上がる。

少し遅れてスケルトンも立ち上がった。

だが俺は、両足を揃えて高く跳躍していた。

そして、空中で両膝が顔に付きそうなぐらい体を丸めて全身に力を溜める。

そこから勢い良く全身を伸ばしてスケルトンのボディーを狙って背筋全開の両足蹴りを打ち込んだ。

「ドロップキックだ!!」

俺の両足がスケルトンの胸板にクリーンヒットする。

するとスケルトンの体が後方に飛ばされて、近くにあった岩にぶつかって砕け散る。

バコーーーンっと派手な音が鳴り響いた。

まるでボーリングでストライクを取った時に十本のピンが飛び散るようにスケルトンの骨がバラバラに散らばって飛んで行く。

それでスケルトンは完全に粉砕された。

今度は魔力が無くなったのか、スケルトンは立ち上がってこない。

朧気な影も消えている。

「よっしゃーーー!!」

俺はガッツポーズで自分の勝利を讃えた。

完全勝利である。

しかも、初勝利だ。

俺は溜め息の後に、早速スケルトンの遺体からボロボロの服を剥ぎ取ると、そそくさと着こんだ。

サイズは問題ない。

上着もズボンも丁度良かった。

でも、ちょっと臭い……。

それでも──。

「暖か~い」

初勝利からのお祝いプレゼントが、ボロボロの服でも侘しくなかった。

とにかく、ちょっぴり嬉しい。

全裸よりましだからだ。

そして、何気無くスケルトンの骨の破片に目をやると、金貨が一枚だけ落ちているのに気が付いた。

もしかして、これがモンスターを倒した時の報酬だろうか?

俺が金貨に手を延ばすと『チャリン!』と音を鳴らして手の中に金貨が吸い込まれて行った。

吸い込まれた?

手品かな?

いや、違うか、何かのシステムだろう。

ステータス画面をチェックしてみると、0Gが1Gと増えている。

経験値も10となっていた。

持ち金と経験値が増えたのだ。

しかし、その数値から武器無しスケルトンの経験値の低さを知る。

まあ、最初はこんなものだろう。

記念すべき初勝利に贅沢は言えないか。

みんなだってゲームで初めて倒すのはザコキャラのスライムなんだからさ。

それと一緒である。

とりあえず俺は、スケルトンの遺体から、一番太くて固そうな骨を一本拾い上げた。

太股の骨だろう。

それを何度か振るってみた。

「これ、棍棒代わりの武器になるかな?」

こんな物でも武器に使えるだろう。

アイテムスロット欄に『ボーンクラブ(装備中)』と『ボロボロの服(装備中)』と表示されていた。

どうやら骨は棍棒として認知されたらしい。

ありがたい。

それに服もズボンも手に入った。

これもありがたい。

これでやっと全裸から解放されたのだ。

チンチロリンは、隠せる時は隠しておくべきだろう。

それが大人のマナーである。

いや、人としてのマナーだろう。

とにかくだ、これで少し文化人に近付いた思いだった。

でも、ボロボロの服と骨の棍棒とは……。

これでは人は人でも原始人だな。

情けない。

まあ、いいか~。

次は水だな。

とにかく、水だ!

既に喉が渇きだしている。

早く水を見つけて休みたい。

出来ることなら乙女の膝枕でゆっくりと休みたいな。

この際だから、その乙女の聖水でも良いから喉を潤したい。

あれ、少し胸が痛むぞ……。

そして、俺が胸の痛みに俯いた瞬間である。

足元に小さな布切れが落ちているのに気付く。

「なんだろう?」

その布切れを拾い上げた俺は、何気無く両手で布切れの端々を持って左右に広げて見た。

「こ、これは!」

それは、三角形の下着だった。

ぐぁぁあああああ!!!!

唐突な胸の激痛。

どうやらあのスケルトンは女性だったらしい。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

Lunaire
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた

杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。 なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。 婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。 勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。 「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」 その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺! ◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。 婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。 ◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。 ◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます! 10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!

ハクスラ異世界に転生したから、ひたすらレベル上げしながらマジックアイテムを掘りまくって、飽きたら拾ったマジックアイテムで色々と遊んでみる物語

ヒィッツカラルド
ファンタジー
ハクスラ異世界✕ソロ冒険✕ハーレム禁止✕変態パラダイス✕脱線大暴走ストーリー=166万文字完結÷微妙に癖になる。 変態が、変態のために、変態が送る、変態的な少年のハチャメチャ変態冒険記。 ハクスラとはハックアンドスラッシュの略語である。敵と戦い、どんどんレベルアップを果たし、更に強い敵と戦いながら、より良いマジックアイテムを発掘するゲームのことを指す。 タイトルのままの世界で奮闘しながらも冒険を楽しむ少年のストーリーです。(タイトルに一部偽りアリ)

S級パーティを追放された無能扱いの魔法戦士は気ままにギルド職員としてスローライフを送る

神谷ミコト
ファンタジー
【祝!4/6HOTランキング2位獲得】 元貴族の魔法剣士カイン=ポーンは、「誰よりも強くなる。」その決意から最上階と言われる100Fを目指していた。 ついにパーティ「イグニスの槍」は全人未達の90階に迫ろうとしていたが、 理不尽なパーティ追放を機に、思いがけずギルドの職員としての生活を送ることに。 今までのS級パーティとして牽引していた経験を活かし、ギルド業務。ダンジョン攻略。新人育成。そして、学園の臨時講師までそつなくこなす。 様々な経験を糧にカインはどう成長するのか。彼にとっての最強とはなんなのか。 カインが無自覚にモテながら冒険者ギルド職員としてスローライフを送るである。 ハーレム要素多め。 ※隔日更新予定です。10話前後での完結予定で構成していましたが、多くの方に見られているため10話以降も製作中です。 よければ、良いね。評価、コメントお願いします。励みになりますorz 他メディアでも掲載中。他サイトにて開始一週間でジャンル別ランキング15位。HOTランキング4位達成。応援ありがとうございます。 たくさんの誤字脱字報告ありがとうございます。すべて適応させていただきます。 物語を楽しむ邪魔をしてしまい申し訳ないですorz 今後とも応援よろしくお願い致します。

美しい姉と痩せこけた妹

サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

処理中です...