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23【ゴブリンキング】

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「殺す殺す殺す、モブギャラコフを殺してやるぞ!!」

個人名を口走りながら殺すと連呼するゴブリンキング。

禿げ上がった頭にブリキの王冠を被り、身なりは破けた粗末な服装。

瞳は死んだ魚のように濁り、歯並びが可笑しな口からは涎をダラダラと垂らしている。

完全に正気な成りではない。

その胸の前には赤く輝く深紅の水晶体を持っていた。

その眼光は殺意に溢れており、真っ直ぐにモブギャラコフ男爵を睨み付けている。

「間違いない……。肌の色も変わって耳も尖っているが、あれは隣村の村長ゲドジャッド・ワリーノ・ゴクアクスキー男爵だ!」

センシローが大剣でゴブリンたちを牽制しながら言う。

「ちょっと待ってくれ村長さん。なんで隣村の村長がゴブリンキングなんスか!?」

「し、知るか。だが、あのゴブリンにも負けない腐った眼差しは間違いなくゴクアクスキーの野郎だ!」

するとモブギャラコフ男爵がゴブリンキングに向かって怒鳴った。

「ゴクアクスキー、貴様、なんでゴブリンキングに成ってるんだ!?」

ゴブリンキングはモブギャラコフ男爵の問い掛けに親切にも答えた。

流石はゴブリンの王だ。多少の礼儀は弁えている。

「すべては貴様を殺すためだわい!貴様が憎くて堪らんのだ!!」

ゴブリンに変貌していても、まだ最低限のコミニュケーションは取れるらしい。

「やっぱりあの人は隣村の村長さんなのね……」

「何故に私の命を狙う!!」

「ワシは昔っから貴様が嫌いだった。理由はそれだけで十分だろ!!」

「なんて卑劣な!」

「だから殺す! 嬲り殺しにしてやる!!」

「貴様、貴族として恥を知れ、恥を!!」

愛美を呪いの権化として呼び出してゴクアクスキーを呪い殺そうとした人物の発言ではないだろう。

モブギャラコフが言えた義理ではない。

おそらくどっちもどっちだ。

ゴクアクスキーが深紅の水晶体を高々と上げると配下のゴブリンたちに命令する。

「殺せ、殺せ、殺せ! モブギャラコフを殺せ! 邪魔する奴も全員殺せ。モブギャラコフを殺したら村を襲え! 皆殺しだ!皆殺しだ!皆殺しだぁぁああああ!!」

ゴクアクスキーは金鉱のことをすっかり忘れている様子だった。

完全に目的と手段が逆転してしまっているのだろう。

モブギャラコフを殺すことだけに執着している。

「行け!我に忠実なゴブリンたちよ!!」

「「「キョェエエエ!!」」」

一斉にゴブリンたちが飛び掛かって来た。

それはまさに津波。

大量のゴブリンたちが生み出す高波だった。

そのウェーブに怯えたモブギャラコフ男爵が身体を丸めて縮こまる。

「ひぃぃいい、助けてくれッ!」

「ふんっ!」

刹那、愛美の剛腕が振られた。

右腕一本の横振り攻撃。

プロレス技のラリアットだった。

しかし、そのラリアットの一撃は飛び掛かってきたゴブリン4匹を空中で捕らえると力任せに振りきられる。

そして、ラリアットに飛ばされた4匹のゴブリンたちが弾丸と化して後方から続くゴブリンたちを巻き込みながら飛んでいく。

まるでゴブリンたちがドミノのように扇型に倒れていった。

ゴブリンの津波が押し返されたのだ。

愛美たちの前方に居たゴブリンたちがラリアットの一撃に30匹ちかくがダウンしてしまう。

しかもなぎ倒された半数以上のゴブリンたちが死ぬか気絶かして動かない。

おそろしいパワーであった。

だが、それでも水晶体の邪悪な魔力に操られているゴブリンたちは恐れを忘れて次々と愛美たちに襲い掛かって行く。

本来のゴブリンとは強い者には弱く、弱い者にはどこまでも強気で襲い掛かってくる卑屈なモンスターである。

簡単に言えば、自分たちが不利だと悟れば仲間を見捨てて一目散に逃げていくようなモンスターなのだ。

しかし、ゴクアクスキーに操られているゴブリンたちは、そのような恐れすら感じていない。

故に強いのだ。

一匹一匹が非力で弱くても、数の暴力は絶大と化す。

「怯むな、我が忠実な配下たちよ! 抵抗するものは命を駆けて捩じ伏せるのだ!」

するとゴクアクスキーが持っている深紅の水晶体が赤々と強く輝いた。

その輝きの中からゴブリンたちが沸き上がる。

無から沸き上がるゴブリンたち。

水晶体の膨大な魔力が死んで減ったゴブりンたちを補充しているのだ。

「あのゴブリンキング野郎、兵隊を召喚しているっスよ!」

「ま、不味いぞ。こうやってゴブリンたちの数を増やしていたのか!」

「これじゃあ終わらないわね……」

「キョェエエエエ!!」

「でも、関係無いわ。突き進んで大ボスを直接倒しますわ!」

ゴブリンたちのド真ん中を力任せに突き進む愛美。

剛力から繰り出されるプロレス技の数々がゴブリンたちをなぎ倒して少しずつ前に進んでいく。

エルボースマッシュ、ココナッツクラッシュ、ジャイアントキック、クラッチハンマー。

豪快なプロレス技に次々と玉砕していくゴブリンたち。

それでも愛美の進行は停められない。

「ええい、こうなったらホブゴブリンたちよ一斉に掛かれ!!」

ゴブリンキングの指示通りにホブゴブリンたちが五匹同時に飛び掛かる。

棍棒や石斧を振りかぶっての五匹五方向からの同時攻撃。

「フガァァアアア!!」

「ホブゴブゥゥウウ!!」

各自の武器を振り下ろしながら愛美に覆い被さるホブゴブリンたちの体躯に愛美の巨漢が隠れて見えなくなった。

だが───。

「ふうん!」

ドンッ!!!

空気が轟く音が響く。

次の瞬間には愛美を囲むホブゴブリンの一匹が斜め上に飛んでいき、5メートルほど離れた場所に墜落する。

その腹には大きな足形が刻まれていた。

愛美がホブゴブリンの腹を蹴飛ばして吹き飛ばしたのだ。

愛美はホブゴブリンたちが振るった棍棒や石斧の攻撃をその身で受けながらホブゴブリンを蹴飛ばしたのである。

更に素早く隣に居たホブゴブリンの頭を掴んで脇の下に抱え込む。

ゴキゴキゴキっ!

フロントネックロックだ。

正面から首を抱えたホブゴブリンの頸骨を砕いたのである。

もちろんその感も残りのホブゴブリンたちに武器で殴られている。

殴られているのだが、愛美は直ぐ様別のホブゴブリンを捕まえてコブラツイストに取って固める。

ゴギゴギゴギゴキっ!!

コブラツイストに苦しむホブゴブリンの全身から骨が砕ける音が響く。背骨が砕けた音だろう。

愛美はホブゴブリン二匹に殴られ続けながらも背骨を砕いたホブゴブリンをボロ雑巾のように投げ捨てた。

そして、愛美は残り2匹のホブゴブリンを同時に捕まえるとベアーハッグに締め上げる。

「ウゴ、ゴ……」

「ギギギギ……」

愛美にベアーハッグで抱え上げられたホブゴブリンたちが口から泡を吹き出した。

その泡には血痕も混ざっており、ホブゴブリンたちは白目を向いている。

「さあ、次はどいつよ!」

愛美がベアーハッグからホブゴブリンたちを解放すると、ホブゴブリンの巨漢が力なく足元に落ちて崩れる。

その背中が歪な方向に曲がっていた。

「ゴブゴブ……」

劣勢なのはゴブリンたちだった。

たった一人のゴリラ戦力に押されている。

それを見ていたゴクアクスキーが脂汗を流しながら呟いた。

「ならば、こちらも最終戦力を投入するしかあるまいて……」

そして、深紅の水晶体を拝むゴクアクスキーが新たな召喚を試みた。

「むむむむむむむ! おいでまっせ、鬼人オーガ!!」

するとゴクアクスキーの眼前に赤々とした霧が立ち込めると、その赤霧の中から巨漢を有した赤鬼が姿を表した。

そのサイズは愛美やホブゴブリンたちよりも大きい。

おそらく身長220センチはあるだろう。

しかも愛美と同じように極太の筋肉質。

ボディービルダー系のマッチョマン。でも腹だけがポッコリと出ていた。

まさにスーパーヘビー級を超えてウルトラハイパーヘビー級の体躯である。

「あ、あのゴブリンキング、とんでもないのを召喚しやがったっスよ……」

赤鬼の姿を見てセンシローの額から冷や汗が流れ落ちた。




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