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2・天界に忘れ物

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 一方、天界では──。

 女神アテナはエリクトニオスを下界に見送ったのちに、その場に残る破片に気が付いた。

『何かしら?』

 エリクトニオスの魂が立っていた場所に何かが落ちている。落とし物だ。

 女神アテナは首を傾げながら近付いてみた。そして目を凝らす。

『なに、これ?』

 首を傾げながらも落ちている破片を拾いあげたアテナは、それを自分の手の平に乗せるとマジマジと凝視する。
 
 破片は三つだ。
 否、破片ではない。
 それは、ありふれたネジである。部品である。

『これ、ネジよね?』

 三つのネジであった。
 元々エリクトニオスが生前に生きて居た世界では、どこにでもあるありふれたネジである。
 だが、女神アテナがエリクトニオスを送り込んだ世界には無い物品だ。
 その世界には文明レベル的にネジが存在しないのである。
 そして、この天界にも馴染まない物である。
 それが、何故か彼が居た足元に落ちていた。

『彼が落としたのかしら?』

 どこから?
 それが不思議である。
 エリクトニオスが落としたネジだと言うのなら、どこから落としたのか?
 肉体を持たない魂の塊がネジを落とすわけがない。物理的に不可能だ。

 女神アテナは再び首を傾げる。

『魂の断片? 記憶の欠片かしら?』

 どちらにしても──。

『まあ、いいか~』

 アテナは手の平のネジを放り投げると踵を返して歩きだした。
 どうでもいい──。

『まだ、仕事がたくさん残っているのだから、こんなのにかまってられないわ。次の転生者を探さないと』

 放り捨てられたネジは、そのまま闇の中に転がった。放置される。この先、物語には登場しないままに……。外れて、捨てられて、忘れられるのだ。

 このネジは──。
 そう、彼はネジが外れたのだ。頭のネジが外れたまま異世界に転生したのである。

 アテナの態度が示すように問題はないだろう。
 ただ、話が面白おかしくなるだけである──。

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