好奇心と悪意

永井晴

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好奇心と悪意

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 鶴の恩返しの襖。開けてはいけない襖。開けさせるのは何だろう。好奇心?悪意?見分けなんてつかないそれは、大いなる力を振るう。開けたら鶴は悲しい目をみせた。その力は地割れすら起こしかねない。深い溝を広げかねない。雪に覆われた地面は、本当は乾ききってひび割れていたのかもしれない。潤いを湛える地は柔らかくそれを受け止められる。どんな刃物だろうと削れた部分に土は流れ込み、世界はまた平らに戻る。雪はいずれ解けたはず。長いかもしれない冬の間を待つのは辛いこと?分からない。彼らの間にも暖かな水は少しずつ流れ始めていたはず。でも見えないから、気づかない。
 
 何をしてるのだろう、という好奇心?それは悪意の裏返し。何をしてるのか暴いてやる、という悪意。純粋な悪意とも言えるかもしれない。でも鶴はその純粋さに傷ついた。綺麗な羽は傷ついた。襖という薄い隔たりは彼らの、まるで機織りの糸のような、か細い繋がりの部分だった。それはすごく繊細で、すぐに切れてしまうし、大切に扱わなければならない。でも幾つも束ねてみれば、美しく、丈夫になってくるもの。
 
 鶴は糸を欲しがった。機織りは大変な作業だから、気長に待つしかない。寒い冬の間には退屈で辛いことかもしれないけど、織れた布は価値がある。街の人だって認めてくれた。だからこそ鶴は糸を欲しがった。少しずつ、雪が解けるのをそうして待っていた。
 
 悲劇はいつも突然に来る。それを起こす人も驚いてしまうほどだ。
「カウ、カウ、カウ、」という声が山にも響く。切れてしまった糸が、機織り機のそばに散乱して、片付けるおじいさん達も大変だったろう。糸くずは役に立たない。もう繋がらない。拾い終わった頃には、鶴は山の奥。声も聞こえないはず。街へ売ってしまったあの布は今どこにあるのだろう。それを知ることは出来ない。悲しいかもしれないけど、それが運命。皮肉にも美しく見えたりするからとても厄介。でもおじいさん達はもう大丈夫。悲劇を学んだから。
 
 純粋な好奇心は純粋な悪意にもなりうる。錆びもついていない刃は鋭く、色んなものを傷つけやすい。我々も反省する前に、気をつけなければならない。綺麗な羽を汚さないために。綺麗に糸を束ねるために。綺麗な布を織るために。
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