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51.その背中

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『シヌガイイ……。』

両足に力を込めて前方に飛ぶサタン。
右手の爪を鋭く立てて振り上げる。

「沙夜っ!」

サタンの狙いは、ブリュンヒルデの契約者である沙夜。
沙夜が正気を保てていないこの場面では、ブリュンヒルデを狙うことより、契約者を殺せば必然的に天使も消える結果となるからだ。

「沙夜っ、死ぬつもりですか!」

真希が敵となってしまったことを受け止められない。
真希とは戦えない、戦いたくない。

そういう思いが渦巻いている心の中に、ブリュンヒルデの言葉が入る隙間はなかった。

『グォォォォ!!!!』
 
沙夜は一切逃げようとしない。

「くっ!」

サタンの右手は、沙夜に向かって振り下ろされた。

「もう終わり?残念。」

それをずっと見ていた真希の目に映ったのは、

「ぐっ……。」

沙夜を守るために、サタンの一撃を背中に負ってしまうブリュンヒルデの姿だった。

『トドメダ……。』

サタンは今度は左手に力を集中させる。

紫の光が出始め、渦を巻く。
そして、禍々しい紫の玉を形成する。

「…………。」

背中に攻撃を負いながら、無言なブリュンヒルデの背中に、向かってそれを叩きつける。

が……しかし、

「残念でしたね、魔王サタン。」

攻撃がブリュンヒルデの背中に当たった瞬間、

『ナン……ダト?』

「ええぇ!?」

サタンと真希は驚いた。
ブリュンヒルデと沙夜が消えたのだ。

無数の光の粒となって、青い空に―。

驚きでサタンは、左腕を伸ばしたまま動かなかった。

「何してるのですか?ここですよ。」

その声は明らかに、先ほどの消えたブリュンヒルデ。

『ナッ……。』 

サタンの左側から聞こえるその声。
左に視線を向けようとした時、伸ばした左腕からは赤い噴水が現れ、サタンの両目を防いだ。

『グァッ…………ナ……ンダト……。』

右手で咄嗟に両目を押さえる。
左腕を攻撃されたサタン。

目は閉じているが、気配で感じた。
首もとに槍を突きつけられていることを……。

「なにが起こったの……?」

疑問に思う真希の後ろには、

「うまくはまってくれたわね、真希。」

先ほどとは別人かのように、雰囲気が違う沙夜がいたのだった―。
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