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「笑って申し訳ございません。メアリー王妃は妻のツッティを覚えていないようだ。それであればこの場にいなくても問題ないでしょう。ツッティは宿に帰りなさい」

「そ、そんな!私は貴方の妻です。ここに残ります」

「今の話を聞いていただろう。其方の出番はない」

ツッティはヘキシオに睨まれ、しぶしぶ部屋を退室するしかなかった。ヘキシオはツッティが部屋から出るのを確認し陛下に頭を下げた。

「恥ずかしい所をお見せしました。陛下とメアリー王妃が政略結婚の成功事例であるなら、我々は失敗事例の代表です。心が通わず今に至った訳ですから・・・ツッティは此方の勝手ですが明日にでも先に帰国させます」

どこの国の王族も見栄を優先するものだが、ヘキシオの飾らない言葉は好感が持てた。

「実は結婚が決まった時にツッティの身辺調査を行いました。ツッティの母親であるベベラ元王妃は、幼い貴方に辛く当たったとか・・・その上物心もつかない貴方を母親方の遠縁であるキンバリー伯爵に預けた。さぞ辛い幼児期を過ごされたかと心配しておりましたが、今の話を聞けばキンバリー伯爵のもとで大切に育てられたようですね」

「ええ、その通りです。私はお母様を幼いころに亡くしましたが、キンバリー伯爵ご夫婦に実の子のように育てられましたから。私は運が良かったのでしょう」

その後エスト王国側から提案された石炭の輸出に関する交渉に入ったが、エスト側は大幅に値を下げて提案してきたのだ。

「そちらの提示金額が安すぎると思います。無理をすればしわ寄せがいくのは国民です」

「ほう。貴方は国と国との交渉の時に国民のことを考えているのか?」

「はい。王族は国民の税金で生活をしているのです。国民のことを考えるのは当たり前のことです」

「くっくっく。流石レイシャル嬢だ。それにしてもミリュー王国は良く貴方を手放しましたね。卒業パーティーでの婚約破棄の様子はエルンから聞いていますが、馬鹿の極みとしか言いようがない」

「そんな大それたことは申し上げていません」

「いや。感覚が狂い崩壊する王族も現実にはある。レイシャルが素晴らしいのは庶民感覚を持ち続けていることだよ」

「ウエンまで褒めないでよ。根っから庶民感覚がしみ込んでいるだけよ」

「おふたりは王族には珍しい恋愛結婚だとか。古い習慣に捕らわれない貴方達は本当に素晴らしい。スザン王子と結婚をしていたら今頃私と同じ二の舞になっていたでしょう。スザン王子が馬鹿で本当に良かった」

「ええ、私も彼が馬鹿で心から感謝していますよ」

「そうでしょうね」

(ふたりともスザン王子を馬鹿って。まあ、私も馬鹿だと思っているけど)

「それにしてもウエン達の結婚式にミリュー王国を招待していいものかのう?」

「そのことはレイシャルとも話したのですが招待状は送るつもりです。参加するかは彼方が判断するでしょう」

ウエンとレイシャルは身内だけのささやかな婚約披露宴が終わると、半年を待って国を挙げての盛大な結婚式を行う予定になっている。同盟国のノル王国や今回親しくなったウェスト王国への招待はもちろん、今回エスト王国からの訪問がなかったとしても招待状は送るつもりだった。もちろんミリュー王国にもだ。

今まで牧歌的な国だったシェド王国が急激に発展を果たした。些細なことで警戒心を持たれないように周辺国との調和が特に必要となるだろう。結婚式の招待はそのためだ。ミリュー王族の招待は迷ったが大人の対応で接するつもりだ。

そして、ミリュー王族を招待するとなると、リリアンが心配だったがいつまでもシェドにいることを隠し通せない。ミカエルからもいい機会ではないかと承諾を得ている。

ヘキシオ陛下との謁見も無事に済み、結婚式の招待も喜んで受けると約束をしてくれた。

「最後にメアリー王妃はツッティの処罰として何か希望はありますか?」

「処罰ですか?今の今まで忘れていた人ですから特には・・・」

「・・・アンヌ殿がシェド王国を大切に思う気持ちがよく分かりました」

「え?アンヌをご存じなの?」

「ええ、ある人を通じてですが。アンヌ殿はウエン王子とレイシャル嬢の結婚をとても喜んでいましたよ」

「アンヌが・・・もしアンヌに連絡がつくのであればみんな貴方に感謝していると伝えてくださる?アンヌは私の大切な友人なの」

「ええ、必ず伝えましょう」

エスト王国との海外輸入は現場レベルで何度か話し合いをすることになるだろう。ヘキシオ陛下とも長い付き合いになりそうだ。

ヘキシオ陛下は今回の交渉にとても満足していた。晩餐にはシェド貴族とも会ってみるかと提案をしたが、ヘキシオ陛下は今いるメンバーともっと会話を楽しみたいという。

ヘキシオ陛下の承諾を得て、最後の晩になるツッティ妃も招いて食事を楽しんだ。ツッティ妃は終始口を開かなかったが、晩餐会は夜遅くまで続いたのだった。
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