上 下
25 / 83

村の一夜

しおりを挟む

~前回までのあらすじ~
 シノ様が不機嫌です。ご機嫌を直してもらおうと木の実を取りに行ったら、悪化しました。アズマと喧嘩して、襲撃計画まで立てています。お元気そうでなによりです。

 ***

 シノ様の夜襲は決行されることはなかった。
 陽が傾く頃になって村に着いたからだ。

 ガラウイ山の白い岩峰を右手に眺めて細道を歩いていると、その村は突然現れた。

 山の斜面いっぱいに作られた段々畑と、石と木で作られた家々。
 どうやら裏道を使って来てしまったらしい、村人たちに驚かれた。

 旅人に興味津々の子どもたちにまとわりつかれながら村長の家に迎えられ、茶を振舞われた。

 村長さんは、長い間この地で暮らすうちに染み付いてしまったんじゃないかと思うほどこの土地の土と同じ色の肌をした、深いしわを刻んだ老人だった。

 村長さんはボクらのことを始め胡散臭そうな表情で見ていた。

 まあ怪しいよね。

 アズマは柄が悪いし、ゴドーさんは全身黒いし、セリナさんはさっきからボクくらいの年齢の男の子を見るとそっとほほ笑んでさりげなくマントの内側を見せている。
 ボクとシノ様だけだね、怪しくないのは。

 と思ったら、何だい、その目は。
 そんなにボクの血で黒ずんだ服が珍しいのかい。
 たはは……。

「突然の訪問、申し訳ありません。シノ・ツチミヤと申す旅の者です。一夜の間、村に滞在させていただくことをお許しください」

 シノ様がそう言って頭を下げると、村長さんは態度を変えた。どこの無頼漢どもかと思ったら礼儀を知った者がいて安心した、というところだろう。
 流石はシノ様だ!

 そういうわけで村の隅の飼い葉小屋を貸してもらえることになった。
 あまり素敵な住居と言うわけではないが、久しぶりに屋根のあるところで眠ることができる。

 アズマとゴドーさんは、馬を繋ぐとこれからの道を探るために聞き込みに出て行った。
 セリナさんもいつの間にか一人でふらっと出かけてしまった。
 自由な人だな、もう。

 夕食は村長の家で食べさせてもらえることになった。

 どうやら旅人など滅多に訪れない村らしく、家の庭に敷いた絨毯の周りには村人たちが集まって村の外の話を聞きたがった。

 ボクらも歓迎の礼にと干し肉を差し出して、茶と練り麦、茹でたイモのメニューにもう一品加えた。
 大切な食糧だが、アズマによると、物を持っていそうな旅人があまりケチくさいことをすると村が丸ごと盗賊に変わることだってあるのだそうだ。

 まあ、この人たちはボクら全員を殺して身ぐるみ剥ぐことだってできるんだからね。そうしたところで誰にも知られることはないんだし。
 アズマとゴドーさんがいるから、滅多なことじゃ襲われないとは思う。

 シノ様とゴドーさんが専ら村長の話し相手になっていた。
 旅先で見聞きしたこと、国家間の情勢、作物の出来。
 少し真面目な内容だ。

 一方でアズマやセリナさんは若い村人に囲まれて賑やかにやっている。
 なんだか機嫌がいいなと思ったら酒が入っている。いつの間にか誰かが持ち込んでいたらしい。

 ちなみにボクはもっと若い、年下くらいの子に話しかけられた。
 多分、背が低いから年相応に思われてない。

 ボクももう十二歳なんだけどな……。
 まあいいけど。

 お開きになる少し前、セリナさんがボクの隣に座った。
 おしりをまさぐられる。

「ひうっ……!」
「あら、可愛らしい反応」

 ボクが驚いて声を上げると、セリナさんはにんまりと笑った。
 どうやら大分出来上がっているらしい。ボクに睨みつけられてもどこ吹く風だ。

「あのですね、前にも言いましたけど、ボクは女の子なんです。セリナさんの好きな男の子じゃあないんですよ」
「そのことね。確かに大事なことではあるんだけど、よく考えてみたら、男の子に見えるなら別に女の子でも関係ないかなって」

 くそっ、この女……。

「確かにわたしは男の子のまだ発達途上のものが少し擦ってあげるだけでぷるぷる震えているのを見るのが大好きですよ。涙目で悔しそうにしたり強がって虚勢を張ったりしている姿を見るとそれだけで堪らなくなる……!
 でも女の子だって、おぼこなら似たような反応してくれるかもしれないものね。何事も食わず嫌いは良くないなって……。
 ありがとう、イヅルさんのおかげでそう思えました」

 ああ、ボクはなんてモンスターを世に解き放ってしまったんだ。

 セリナさんはボクの膝のあたりから太ももに手を這わせてくる。
 手つきがやらしい。ちょっとなんか、変な心地がしてくる。嫌なはずなのにもっとしてほしいような、妙な気持ち。

 ボクにだって、それが性欲ってものだということくらいは分かる。

 いつかもしかしたら、シノ様にもそういうことをして差し上げる時が来るかもしれないと思った。
 シノ様だって女の子なんだから、欲求くらいあるだろう。前に一回だけ、もしかしたら、って思ったこともあったし。

 そういう時に一人で処理させないで、発散させてあげるのも従者としての務めなのではなかろうか。

 であるならば、それに備えてセリナさんにやり方を教えてもらっておくのがボクの義務であるのではないだろうか。
 求められた時、へたっぴだと思われたら嫌だし。

 どうせキスの仕方も教えられてしまったんだし、セリナさんは教師としては申し分ないのかもしれない……?

 と、そこまで考えて、ボクは慌てて思考を打ち切った。

 いや、いや。
 ボクは何を考えてるんだ!

 シノ様はそういう気持ちになんてならないし、一人でしたりもしてない。
 ボクともそういうことはしない!

「そういうことって?」

 うるさいやい!

「触らないでください。ボク、まだ初めに会った日のこと、許してないですから」
 ボクががしっとセリナさんの手を捕まえて持ち上げると、セリナさんは余裕たっぷりにとろりとした視線を向けてきた。

「あら、結構力強いんですね。ますますそそる……」

 あ、ダメだ。この人と一緒にいると十八禁になっちゃう!

 ボクの周りの子たちも、年齢が上の子は気まずそうにしている。もっと上の子はさりげなく木陰に隠れている。

「止めてください。ボクは身も心もシノ様のために捧げるって決めてるんですから」

「身も心も……?あら失礼、二人はそういう関係だったのね。あの子は怒らせたら怖そうですね。寝込みとか襲ってきそう」

 よく見ているじゃないか、それはそう。
 でもそういう関係ではない。

「黙っていればバレませんよ。それに大事なご主人の隣でするのって、想像したら結構興奮してきません?」

 耳元でささやかれて、ボクは急速に頭に血が昇るのを感じた。
 具体的な想像はボクにはできないんだけど、でもなんか……、でもなんか!

「はい、お水です」
「ありがとうございます」

 一息に飲んだら、酒だった。白くどろりとした麦の発酵酒が喉の奥に流れ込んで、身体がカッと熱くなる。

「どうです、したくなってきたでしょう?」
「セリナさん、ホントに怒りますよ」

 こんな話をして、シノ様にばれたらどうするんだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

野生児少女の生存日記

花見酒
ファンタジー
とある村に住んでいた少女、とある鑑定式にて自身の適性が無属性だった事で危険な森に置き去りにされ、その森で生き延びた少女の物語

生活魔法は万能です

浜柔
ファンタジー
 生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。  それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。  ――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

処理中です...