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21 神獣フワイフェルエ
しおりを挟む神獣フワイフェルエと僕達は近くの町まで戻って宿を取ることにした。
行きは徒歩だったが、森からはフワイフェルエが獣化して森の外れまで送ってくれた。
空を駆けていくので早かった。
獣化した神獣フワイフェルエは銀の長毛を持つ四足歩行の獣の姿だ。どこか兎のようなシルエットが可愛らしい。
毛並みは柔らかくスベスベとしている。
「ずっと獣姿の方が良いなぁ。」
なんと無く要望を出したが、人の中で暮らすには適さないと却下された。
今日は宿屋が小さかったので、1部屋にベットが2つしかない所しか借りれなかった。
「獣になって足元に寝ても良いけど?」
「俺がカシューゼネ様と寝るので結構です。」
フワイフェルエの申し出はアルゼトが冷たく断っていた。
僕の意思は?
「ところで、俺の加護がどうこう言っていましたが……。」
フワイフェルエはああ!と手を叩いた。
「きっと説明しないと分からないだろうと思って待ってたんだよ。」
フワイフェルエは小説の中で、カシューゼネの20歳の祈りに自分の力を乗せた。
その時に、再出発をアルゼトの存在に賭けたのだという。
「何故、アルゼトに?」
「それはね、カシューゼネがアルゼトに会いたいと、一緒に生きたいと願ったからだ。」
神獣フワイフェルエは元々神獣ビテフノラスと共に生きていた。
神獣ビテフノラスは緋色の獣だった。
大きく逞しい神獣ビテフノラスは、ある日1人の青年と出会い仲良くなる。
それは友情で、短い時間しか生きられない青年を神獣ビテフノラスは助けてあげようと、単なる友情からくる優しさだった。
青年は神獣ビテフノラスと共に人を集め、国を作った。
オルベルフラ国。
そう名付けられた国は、瞬く間に広がり豊かになった。
それは神獣ビテフノラスの力の賜物であり、国の人々は最初に国を作った青年が死ぬ時、神獣が去ってしまえば国が滅ぶのではと恐れた。
すまない、と言いながら神獣ビテフノラスに従魔の鎖が繋がれる。
叫び暴れる神獣ビテフノラスを、オルベルフラ国の王族は王家に従うよう命令した。
伴侶の神獣フワイフェルエは神獣ビテフノラスを助けようと王都で暴れたが、オルベルフラ王家の命令で、愛する伴侶である神獣ビテフノラスに封じられてしまった。
時は流れ、神獣ビテフノラスの緋色の毛は、穢れと腐敗で赤黒く変色し、息絶えようとしていた。
神獣フワイフェルエが封じられた祭殿に、『神の愛し子』が現れる。
神獣ビテフノラスが死にそうだと。助けたいから力を貸して欲しいと言って。
誰がそんな風にしたのかと怒りを顕にしたが、ジュリテアは祈りの力で神獣フワイフェルエの怒りを沈めた。怒りは負の力。穢れを呼び覚ます力であり、神獣ビテフノラスの穢れを増して、死期を早めるからと説得された。
じゃあその祈りの力で癒してくれと頼めば、王家の従魔の鎖を外せば一気に弱り死んでしまうので、神獣フワイフェルエが封じられた場所に神獣ビテフノラスを封じてみてはどうかと提案される。
元々この場所は神獣ビテフノラスが神獣フワイフェルエが傷付かぬように己の力を溜め込んで作った場所だった。
神獣ビテフノラスを自身の力の場で眠らせて、回復を図らせる。
その為にも大人しく封じる為に、神獣同士の立場を変えることによって静かに眠らせようと提案された。
それがオルベルフラ王家の企みとも気付かずに、神獣フワイフェルエは頷いた。
ヒュートリエ・リジウス・オルベルフラは従魔の鞭で神獣フワイフェルエに鎖をつける。
替わりに神獣ビテフノラスは封印されるはずだった。
しかし、神獣ビテフノラスは解けた鎖の奥から神獣フワイフェルエに嘆きを伝える。
ダメだと。
やめてくれと。
人の欲は神獣を穢す。
神獣ビテフノラスは神獣フワイフェルエに従魔になって欲しく無くて暴れた。
逃げて欲しいと、泣いていた。
神獣フワイフェルエは己の過ちに気付き逃れようとしたが、既に従魔の鎖は身体に巻きつき離れなかった。
ジュリテアに何でもするから神獣ビテフノラスを癒してくれと、治癒してくれと縋り付いた。
ジュリテアは祈りを捧げたが、力及ばす神獣ビテフノラスは穢れの中に消えて死んでしまった。
残されたのは新たな従魔となった神獣フワイフェルエだけ。
「私はお願いしたんだ。私が力尽きるまでオルベルフラ王家に従うから、浄化を終わらせたら20歳の加護を授かる時ビテフノラスを蘇らせて欲しいって。」
フワイフェルエは悲しそうに金の瞳を下げた。
「蘇らなかったの?」
僕の言葉に、フワイフェルエは頷く。
「既に存在の消えたものは蘇らないって。だから、ジュリテアは『神の神子』になって国を愛して愛されるように願うって言ってたよ……。」
愛し、愛される。
ジュリテアは愛されることを願う。
「アルゼトも蘇るわけでは無く、やり直しになった。」
「そう、私はそれに賭けた。」
フワイフェルエは見たのだ。
カシューゼネが緋色の蝶の中で燃える様に祈る中、一面の文字の羅列が現れた。
アルゼトに会いたい。もう一度会って、一緒に生きて行きたい。
そう願うカシューゼネに問いかける文字。
『アルゼトの肉体はもう無い。
物語は終わりを告げる。
書き記された物語を書き換えるか?』
文字の羅列が光り、次々と物凄い速さで一文字ずつ消えていく。
神が記した物語が消えているのだと思った。
カシューゼネの願いに神が応えた。
自分達は神が記した物語の人物。
それがどの時点まで消えるのか知らないが、フワイフェルエはそれに賭けることにした。
フワイフェルエはアルゼトという人物を知らない。
自分がカシューゼネ達に会う前に死んだ人間。
きっとアルゼトが存在する部分まで文字が消えるという事は、我が伴侶神獣ビテフノラスも蘇る。
君と私で変えてしまおう。ページを戻し、やり直そう。
これはきっと物語。
本の文字が消えたのか、ページが破り捨てられたのか、それは神にしか分からないけれども、記された文字が消え、新たに書き変わっていく部分がチカチカと光りながら変更されていく。
カシューゼネがゆっくりと頷いた。
あの時私は少し手を加えた。
神は止めなかったから、許可されたのだと判断した。
夜も更けて、暗くなった部屋でベットに座り話していた。
私はアルゼトを指差した。
「君の加護は書き変わっている。0歳の『道標』はカシューゼネの生きる希望となる様、神からの授かりもの。そして、15歳の『緋の光』は私が加えた加護だよ。」
アルゼトは相変わらず無表情だが、代わりにカシューゼネが握り拳を作ってええ!?と驚いている。
本人にも驚いて欲しかった。
加護授けれるくらい強い神獣なのに…!
「じゃあ、この『緋の光』という加護は何をする為の加護でしょうか?」
淡々と質問するし…。
カシューゼネの好みってこんなのかぁ、そーいやナギゼアの双子かぁ、性格違うな。
「私の伴侶ビテフノラスの運命共同体になってもらった。」
「はぁ…?カシューゼネ様の為の『道標』は嬉しい限りですが、何故神獣と……?」
なんか怖い。
無言の圧力が怖い。
「だ、だって!ビテフノラスは弱ってるんだよ!?アルゼトが授かってる『道標』って結構強い加護なんだ!君にとりあえず共同体になってもらえは消える事なく生きられるんだよ!?アルゼトは神に存続を許された存在なんだから!」
慌てて弁明する。
「アルゼトはじゃあ死なないって事!?…………良かった。」
パァと顔を輝かせてカシューゼネは喜んでるけど、殺気を放つアルゼトを抑えて欲しい。
あ、でも喜ぶカシューゼネを見てアルゼトの表情が戻ったのでいいか。
無表情は変わらないのに圧だけ変えてくるとかおかしくない?
「どうせならカシューゼネ様の『神の愛し子の盾』も別人にして欲しかったですね。」
アルゼトの言いたいことは最もだけど、これは話しが決められた物語。
最終的には瘴気を祓い国に平和を取り戻さねばならない。
それはカシューゼネの方が理解している様だった。
「多分この話はジュリテアが『神の愛し子』で、僕が『神の愛し子の盾』である事が前提の物語なんだよ。だからそこは変わらないんだ。………ただ、結末を変えることは出来る!」
絶対に変えるとカシューゼネは意気込んでいる。
「うん、私も伴侶を取り戻す為に変えて見せるよ。その為にも…………。」
言いかけた私に2人は視線を戻した。
「カシューゼネには『神の神子』になってもらう。」
「ええ!?」
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