いつも眠たい翠君は。

黄金 

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20 結良の暴走

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 夏休みもあっという間に終わり、まだまだ残暑厳しい中実力テストも終了した。
 今回も成績表をみて、うむむと結良は唸っていた。机の上には流雨と斎の成績表が無造作に置かれている。
 流雨には相変わらず1の羅列。斎はエリアスこと志岐要がいなくなって、接戦していた人物がいなくなった事でほぼ2が並んでいた。
 何これ、こいつらの頭おかしいんじゃ無い?と思いつつも、目の前でイチャつく二人を睨む。

「もう、いい加減にしろっ!」

「もうちょっと、後少しだけ!」

 嫌がる流雨を膝に乗せ、斎はスリスリと流雨に擦り寄っては首元に、指先にキスを落としていた。
 番になろうと告白したのは流雨の方からだが、今や執念い程引っ付いてるのは斎の方だ。
 少しでも離れるのが心配で引っ切り無しに匂い付けをされている。
 
「オメガクラスに危ない奴もアルファもいないから!」

 帰りは斎がオメガの玄関口まで迎えに来るので、一切危険はない。が、アルファのくせに気が小さい斎は、常に流雨にマーキングをしている。
 八月にあった流雨の発情期では、斎のマンションに行った流雨がなかなか帰って来ないと七木のお爺さん達から相談され、仕方なく結良が迎えに行った。
 抱き潰されて動けない流雨を引きずる様にタクシーに乗せる羽目になった。

「だって………。」

 膝に乗せた流雨を、切れ長の潤んだ目で見る斎。流雨がその顔に弱いと知っててやってるんだよな……?
 案の定、うっと言葉に詰まった流雨は仕方なし斎に舐められていた。

「ちょっと、学校ではイチャつかないでよ。僕だって要に会いたいのに!」

 結良は文句を言った。
 少しでも一緒にいたかった。遊びに行っても良いかと聞いても許してもらえなかった。
 せめて志岐家の本家が完全消滅しないと危なくて行かせられない、という事だった。

「あーーー、でも予定よりかなり早く進んでると思うよ?要もびっくりしてるかも。」

 なんせ古賀家と佐々成家が裏から手を貸してるのだ。佐々成家は要の養父の会社のバックアップを、古賀家は志岐家本家と協力体制を取っていた政治家達をそれとなく追い払った。

「ほんと!?じゃあ、いつくらいに行けるかな!?」

 結良は飛び跳ねる様に喜ぶ。

「それは常良兄さんに確認するのが一番じゃないかな?佐々成家側は常良兄さんに任せられてる筈だよ。」

 斎は邪魔されたく無くて手早く解決策を教える。
 騒ぐ結良を他人に押し付ける為に言ったセリフだったが、結良の思考はいつも突拍子も無い方向へ向かう。

「分かった!!僕、転校する!!!」

 





 黒く染まった髪に染め忘れが無いが確認し、黒縁の眼鏡をかける。視力は良いので伊達眼鏡だ。
 中学迄は違う学校に通っていたが、同じ高校に入る事になり、風磨から目立つ容姿を変える様に言われた。
 結良がいた学校では金髪碧眼で、二学期から通う高校では黒髪黒縁眼鏡。
 意外とこれだけで印象がガラリと変わるものだなと我ながら感心している。
 東京郊外に分けて建設された国立高校の内の一つに今は通っている。
 結良達の学校とは東京を挟んで反対側の一番遠い高校だ。
 夏休み中にもこっそり会いに行きたかったが、そこそこ距離もあるし最近忙し過ぎて離れられずにいた。
 どう考えても予定より進むスピードが早い。いや、早すぎる。
 大学卒業辺りまでかかる算段だったが、今年中にケリが付くのではと思える程に早い。
 正直結良との関係が佐々成家に知られると、別れさせられる可能性を考えていた。それならば結良に見合う人間になってから会いに行こう、そう考えてた程に今の自分達の立場はかけ離れている。
 まさか結良の生みの親の能天気な鶴の一声でバックアップされるなんて思ってもおらず、要はずっと頭を捻っていた。
 風向きが良いのならば、今のうちに進めてしまおうとは思うが、上手くいき過ぎて怖いくらいだ。





 今志岐本家はボロボロに崩れて落ちて行っていた。
 志岐家の家長としてアルファとしてふんぞり返り生きてきて、今やその矜持は風前の灯だった。
 元々あった愛人、不倫、賄賂等の不祥事が記事になり、押し寄せた記者へ暴言を吐いた。
 仲間であった筈の政治家達は、いつの間にか離れて行った。一人何故あんな大物に楯突いたのかと責められたが、意味がわからなかった。
 離れた政治家達は古賀家にやんわりと関係を断つ様勧められたのだが、志岐家はそんな事は全く知らない。
 地元で行われる公共事業を優先した手腕で地元民から押し上げられていたのに、子会社の筈の弟の会社が表立って事業を行っている。これもいつの間にか立場が逆転していた。
 七月の終わりに週刊誌に醜聞が載ってから、転げ落ちる様に転落して行ったのだ。
 オメガの妻はガタガタと震え、番の為に離れられないと文句を言うばかり。
 息子の風磨は未だに理解していない。
 アルファであれば、もう少し知恵を回して父親を助けるくらいすればいいのにと思うが、甘やかして育った所為か自分で解決する術が分からない様だった。
 もうお終いだ………。
 八月の終わり、たった一月で志岐家の家長のプライドはズタズタになっていた。





 風磨は学校を辞める様言われていた。
地元では名のある家に生まれ、アルファとして中学二年で診断された時は、一族総出で祝われた自分が、逃げるように去らねばならない。
 高校に入れば同じアルファ同士繋がりを作り、志岐家を盛り立てていくよう言われていた。一学期迄は良かった。それなりに上位の仲間ができ、その輪を繋げていけば良いと思っていた。下位のアルファ組を見下し、ベータを子分のように使い、高校生活を満喫していた。
 私立小中学で同じ学校にいた佐々成結良と古賀流雨というオメガを婚約者にしたかったが、それは叶わず高校は別になってしまったのだけは遺恨に残っていた。
 この自分を振るなんて許せず、見た目だけは良い要を送り込んだが、失敗したとだけ報告が入った。
 親に頼んで手間暇かけて用意してやったのに、使えない。やはり祖父が外に作った子供は自分より劣るアルファだ。そう風磨は結論付けた。
 高校はアルファ性の為同じ高校に入学するが、派手な見た目を抑える様黒髪に染めて目を隠せと命令した。
 少しでも他の人間の話題に上るのが許せなかった。
 二学期からは要を使って他のアルファを蹴落として自分の地位を上げていこうと考えていたのに、そんな暇もなく志岐家が危うくなってきた。
 
「何故学校を辞めるんだ!?」

 父親に問い詰めると、会社が今倒産寸前らしい。子会社を経営していた叔父の会社が今景気が良いらしく、会社を売却する話になっていると言われた。
 叔父は父の弟だ。ただのベータのくせに何故!?
 
「ですがっ、何も地元から離れなくても良いのでは!?」

 会社の他にも土地等の資産があった筈だ。だが父の顔色は悪かった。

「………無いっ、全てもう無い!!」
 
 会社を売却し、土地を売って負債を補っていた。
 何故!?
 アルファは恵まれた性で、名家に生まれた俺は勝ち組だった筈なのに!?
 逃げる様に地元を去らなければならないのか!?
 しかも爺さんが手をつけた子供は叔父に引き取られているので、今までよりも良い暮らしになるだろう。
 自分の方が嫡子なのに、何故アイツが良い思いをするんだ!?

 風磨の恨みは同じ歳の要へと向かって行った。

 翌日同じクラスに登校して来た要を呼び出す。
 要は言われた通り黒髪黒縁眼鏡で二学期から学校へ来ていた。
 未だに落ちぶれた本家の言う通りにする要に苛つきながらも、しないならしないで腹が立つ事も自覚している。
 もうそこには何も言うつもりはなかった。
 ただもうこれから良い目を見るであろう要を呼び出し、文句を言いたかった。
 
「志岐家が倒れようとしてるのを、いい気味だと思ってるか?」

 いつも下に見ていた使用人紛いに、これから見下されるのかと思うと我慢ならなかった。

「いい気味というか………。」

 歯切れ悪く話す要にイライラする。

「何だ!?言いたい事があるならハッキリ言え!!」

 要の言葉はほぼ独り言の様に小さかったが、風磨には妙にハッキリと聞こえた。

「計画通りなんだけど、進み方が尋常じゃ無い。」

 要もこんな妨害も何も無くすんなり志岐家が落ちぶれるとは思っていなかったのだ。もう少し抵抗されると思っていたのに、皆が手のひら返した様に、本家から養父に鞍替えして来た。

「はあ!?じゃあ、お前のせいなのか!?本家を潰して良いと思ってるのか!?」

 要からすると本家は無くていい。
 無くなって困るものでもなかった。
 だから要は憐れむ様にほんの少し笑った。
 眼鏡で見えにくくとも笑われた事に風磨は気付き、逆情する。
 要の胸倉を掴み、殴り掛かろうとした。
 勿論、要は大人しく殴られるつもりはなかった。
 避けるか、反撃するか、一瞬判断した。

 ドゴォ……!

 その一瞬の間に風磨は目の前から吹き飛びいなくなった。

「要!!」

 ふわりと羽の様に軽く暖かい体温が抱きついてくる。

「…………結良!?」

 ここにいる筈のない結良が、全体重を掛けて要に抱きついて来た。
 周りを見れば倒れた風磨の横に着地した流雨がいる。風磨の鼻から血が出て顔面が赤くなっている事から、飛び蹴りでもしたのだろうか。相変わらずフードを被り顔を隠している小柄な身体からは想像出来ない身体能力があるようだ。
 
「流雨!一人で突っ走らないでよ!」

 文句を言いながら斎までやって来た。
 そして何故か糸井まで。
 斎は脇目も降らす流雨が立ち上がるのに手を差し出し、糸井は倒れた風磨を覗き込んでいた。

「あ、脳震盪起こしてるかも。」

 糸井はささっと風磨の怪我の状態を確認した。

「かなめ!僕、転校するって言ってるのに、皆んなダメだっていうんだよ!」

 結良達が急に現れた事に驚いたが、要は直ぐに立ち直った。

「転校?それは、まぁ確かに……。」

 来てくれるなら物凄く嬉しいが、佐々成家が許さないのでは無いだろうか。
 というか何故ここに皆んないるのだろう?
 抱きついて文句を言った結良は顔を上げて、マジマジと要を見た。
 
「要、黒髪、眼鏡似合うね!」

 ぱぁっと天使の様な笑顔で褒めてくる。結良の相変わらず空気を読まない会話にヨシヨシと頭を撫でた。

「最初は風磨に言われて黒髪にしたんだけど、意外と目立たないみたいで高校はこれで通そうかと思ってるんだ。」

 元の金髪混じりの茶髪と青灰色の目は目立つ。
 アルファ性とオメガ性は日本人だと色素が薄くなるのか茶髪やグレーになる人間もいるが、流石に金髪や青い目はいないので目立ってしまう。

「何で皆んなここに?」

 要は事情を流雨達に聞く事にした。この中で説明出来そうなのか、何故かオメガの流雨が一番適任に思えるからだ。
 結良や斎は我が道を行き過ぎる。
 抱きついてくる斎をもがいて脱出を試みながら、流雨は説明した。

「結良が転校するって聞かなくて、結良の上の兄の常良兄さんに詰め寄ってさ、常良兄さんが根負けして要が良いよって許可したら良いって言われたんだよ。」

 ……………そうか。
 来てくれるのは嬉しいが、心配ごとも増える。

「結良、良く聞いて?転校して近くに来てくれるのは凄く嬉しいけど、こっちの学校はアルファクラスもオメガクラスも無いんだ。勉強も実力主義で、成績順でクラス分けされるんだよ。結良は俺と同じクラスになる点数を取らないと、同じクラスになれないんだ。もし違うクラスだと逆に心配だよ?今の学校ならオメガクラスで安全だと思うけど……。」

 結良は黙って要の説明を聞いた。
 そして意味を理解し、うるうると目に涙を溜め出した。

「うう……でも一緒にいたい……。」

 涙を溜める結良に、要もウッと息が詰まる。
 勉強を教えてやりたいが、毎日通える距離でも無い。オンラインで教えるか?自分の自制心が試されそうだ。

「クラス分けって新年度に一回?」

 流雨が質問した。
 
「そうだけど?」

 要の返事に流雨は頷く。

「じゃあ、二年生に上がる時に来れるよう、スパルタで教えるよ。それでいいだろ?」

 流雨の説得に結良は渋々頷いた。
 
「ごめんね。本当は俺が教えてあげたいけど、行けなくて……。無理はしなくていいんだよ?」

 結良は顔をくしゃりと歪ませて、行く、絶対頑張ると決意していた。
 大丈夫だろうか………。

「今日は何で来てるの?しかも皆んな制服で……。」

 そう、何故か制服でこんな遠い他所の高校へ来ている。

「それは結良が走って脱走してここまで来たから追いかけて来たんだよ。」

 特急を乗り継いでやって来たらしい。

「だって皆んなダメダメ言うんだもんっ!」

 
「あーー、はいはい、話に決着がついたところで、俺は風磨君を保健室に運ぶから、帰る時は声を掛けてよ。」

 それまで静かに静観していた糸井君が、重たそうに風磨を抱えた。糸井君も親がアルファなので体格はいい方だが、ベータ性なのでアルファの風磨には体格負けする。

「じゃあ、暫く結良と話してもいいかな?授業始まってるし、サボるよ。」

 せっかく来てくれたので結良と話したい。
 斎と流雨は適当に時間を潰すので、喋って来てと時間をくれた。流雨は相変わらずパーカー姿だからいいけど、制服の斎は動きにくいだろう。そんな長い時間は取れない。

 先生に見つかると邪魔されるので結良の手を繋いで裏門から出て近くの公園に行った。

「こんな無茶な事したらダメだよ。」

 つい注意してしまう。結良はオメガなのだからもっと気をつけて欲しい。
 
「要もダメダメ言うの?」

 ベンチに座り目に涙を溜めた結良を膝の上に乗せる。
 可愛い、可愛いからこそ、今手を出すわけにはいかない。
 歯止めが効かずに帰せなくなる。

「危ないから、今度は俺が行くから待ってて?今回はたまたま流雨達がついて来たから良かったけど、誰も気付かずに危ない目に会うかもしれないと思うと、不安で仕方がない。」

 抱きしめて結良の髪を梳く。
 艶やかな黒髪はまだ暑い残暑を浴びて少し熱くなっていた。
 重ねた肌からお互い汗が出て制服が湿り出す。それさえ結良の甘い匂いがして、クラクラしそうだった。
 なんとか我慢しなければ……。
 これで家に連れ帰りでもすれば必ず襲う。

「毎日電話するから………。ちゃんと言うこと聞いて、勉強するんだよ。」

 結良はそこまで成績は悪く無い。
 流雨達に頼るしか無いが、既に古賀家と佐々成家が手を貸している節があるので、今更だろう。

「はあ………、君のご家族にもそのうち挨拶しないと……。」

 何気に呟いたのだが、結良はにこにこと爆弾発言をした。

「うん!早く知ってて貰おうと思って流雨から言ってもらったんだ!だから皆んな要の事知ってるよ!」

 安心して!っとにこにこ笑顔で言うが、そうか、やっぱりそうだったか。認めてくれているんだろうから手助けがあるのだろうと信じたい。
 本音を言えばアルファとして自分一人の力でやり遂げたかった……。
 いや、そんな贅沢は言ってられない。
 せっかく結良も考えたのだろうから、喜ばなくては。

「ありがとう。今度の連休にでも必ず行くからね。」

 思いの外全てが早く終わりそうな気配と、結良のバックに見える大物達の気配に、要は苦笑いした。






 目を開けると白い天井だった。
 あの状態から保健室に運んで貰えるとは思わなかった。

「お、目ぇ覚めた?鼻血は止まったけど、後頭部はもう少し冷やさなきゃだぞ。」

 後頭部?
 意識するとずきりと痛む。
 
「流雨が飛び蹴りしてそのまま後ろに倒れたんだよ。」

 話してるのは久しぶりに見る人間だった。小中学校の時一緒だった糸井だ。
 
「なんかチラリと見えた。古賀と佐々成?と言う事は林野斎もか?何で糸井までいるんだ?」

「俺バイト中~。今アイツらの世話人という割りの良いバイトやってんの。」

 糸井は中学の頃少し荒れてて古賀流雨に絡んだ事がある。その時滅茶苦茶にやられていた。あの小柄な身体で蹴り倒してくるのだ。仲が悪くなる事はあっても、バイトに雇われる程仲良くなるとは思わなかった。

「何で?」

「金無いから。俺今一人暮らしだし、学費も払わなきゃだし。」

 糸井の家は父親がアルファ、母はオメガの家だ。何処かの会社の重役で金に困るとは思えなかった。
 
「俺中二でベータって診断されて高校行かせて貰えないって言われたんだよ。それで一人でバイトして行こうと思って受験したんだ。向こうの学校の生徒会みたいなのやれって言われた時、バイトしなきゃだから断ろうとしたら古賀君が雇ってくれるって言ったんだよ。助かったよ~。その代わりこうやってこんなとこまでついて来る羽目に会うけど。」

 ウチの叔父もベータだが高校を行かせないなんてされていない。大学も出た筈だ。

「お前の親酷いな………。」

 まだボンヤリする頭で何とか言葉を紡ぎ出す。慰めとかは言わない方が良いと思うが、何を言って良いのか分からなかった。

「はは、家は出てんだ。だからお前も頑張れよ。古賀君が高校くらいは出れる程度の落ちぶれ方にしとこうとか言ってたんだぜ。たぶん要君を嗾けたの親達にバレたらお前本気で消されるだろうからって、はぐらかして黙っててくれてるんだよ。」

 消される………。そうか、そうかもしれない。何でそんなバカな事したんだろう。要が失敗したからこそ表に出なかったが、成功してたら命は無かったのか。
 佐々成結良は何故か要に抱きついていた。
 知り合いだったのか、今回のことで知り合ったのかは分からないが、要は態と失敗したのだと理解した。
 理解すると、何だかもうどうでも良くなって来た。
 結良の事も、要への理不尽な怒りも、志岐家の事も、自分なりにやり直す事も手を尽くす事も出来たのに何もやっていないのは自分だと気付いた。
 ただもう今はズキズキと痛む後頭部の方が気になる。

「お前地頭いいんだから大きな事望まなければそれなりに幸せになれるよ。」

 糸井は態々俺に説教する為に保健室に運んで起きるまで待ってたのだろうか。
 お人よしだなと思った。

「そーいえば、お前下の名前なんだっけ?」

 糸井はキョトンとして笑った。

「秀次(しゅうじ)だよっ!ぶぁーか!」

 今更かよーと笑いながら文句を言った。今度転校する羽目にあいそうだから、この高校来たらよろしくなと笑っている。

「じゃあ、待っとくよ。俺も自分の力で大学まで行く。高校も辞めない。」

 糸井の様に笑いながら何でも無いのだと言える人間になってみせる。
 そして糸井の隣にいてもいい人間になろう。
 
「ああ、頑張れ。」

 糸井が何でも無いことの様に笑っているなら、きっとこんな事なんでも無い事なんだと思えた。


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