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14 モブはモブ顔が基本なのか
しおりを挟む主人公ラビノアは地下の牢屋にいる。
という事を知っているのは現在俺だけだ。
それから地下の監禁部屋とスヴェリアン公爵の執務室がエレベーターで繋がっているのを知っているのも俺だけだ。
前世のエレベーターのように電動ではなく手動エレベーターだけど。手動っていうのは扉がって事で、公爵家の城にあるエレベーターは地下と執務室を行ったり来たりするだけのやつだ。
仕組みはよく分からない。電気はないので前世のとは違うと思うけど、魔法ってわけでもないので蒸気とかかな?と思っている。王城にもあるらしいので一度乗ってみたい。
「殿下達はスヴェリアン公爵のところに向かいますかね?」
「そうだろうね。僕達は誘拐された人達を探そう。」
アジュソー団長に確認すると返事してくれた。ソマルデさんにはキツイ顔してるけど、俺には割と普通に喋ってくれる事に気付いた。甘いモノ同盟が心の中で結ばれたのかもしれない。
「さて、普通は兵舎の牢か城内の牢……。個室に監禁すると思うか?」
これはアジュソー団長がソマルデさんに尋ねている。ソマルデさんが実力者だとちゃんと認識してるんだなと感心する。
嫌いな人でも平等に評価する人なんだなぁ。
二人が話し合った結果、城には大概地下の牢屋があるので、そこではないかということになった。
なにも言わなくても真っ直ぐ目的地に行くようで、流石主要キャラは違うなと思いながら後に続く。
『女装メイドは運命を選ぶ』に出てくる主要人物は皆んな美形で性格もそれぞれ魅力的だ。
金髪ウルウル青い瞳のお人形のような主人公ラビノア。
銀髪赤目の美しくも冷酷な実力者ルキルエル・カルストルヴィン王太子殿下。
俺の旦那様でもあり冷淡冷静美麗なご尊顔の黒銀騎士団長エジエルジーン・ファバーリア侯爵。
天使の微笑みを持つ白銀騎士団長、その実過去には辛い幼少期もあるという影を持つアジュソー・リマリネ伯爵。
この中の誰かになりたかったかと聞かれると、別になりたいとは思わない。
だって前世狸顔のまん丸チビが、突然そんな美形になって生きていけるわけない。
絶対部屋に閉じこもって出てこなくなる。
なのでモブで良かったんだけど、どうせなら存在すら感じさせないモブが良かった……!
目の前を走るアジュソー団長のミルクティーベージュの髪が軽く揺れている。
この人遊び人で優しげな顔使って腹黒く生き抜いてるけど、小さい頃苦労してるんだよねぇ。
それを考えると主人公ラビノアとくっついて幸せになってもいいんじゃないかと思ってしまう。
漫画ではほぼ三人同時に牢に雪崩れ込む。
でも今はアジュソー団長が一番乗りだ。これはどうなんだろう?
ちょっと興味がある。
なんてどうでもいい事を考えてたら横から剣が降ってきた。
慌てて自分の武器で受け止める。
ほぼ無意識だった。
ギイィィンという音と火花が暗闇の中に散った。
隠し通路があったらしく、突然壁が開いて兵士達が出てきたのだ。最後尾を走っていた俺が真っ先に狙われた。
俺の武器は手をパーの形に広げて、それよりも少し大きいかな?というくらいの大きさの円月輪という投擲用の武器だった。
鉄で出来た丸い武器で、真ん中が空いて輪っかになっており、フリスビーみたいに投げる武器だ。一箇所だけ持ち手があって、そこを握って遠くまで投げる事で使う。円の外周は鋭利な刃になっていて、投げて敵を切ることも一応出来るけど、本来の使い方は遠くに投げる事にある。
俺のスキルは『複製』だ。
そして『複製』というスキルは本来紙一枚分くらいしか複製出来ないショボいスキルだ。
だけど俺は投げた円月輪を複製することが出来た。
俺は円月輪を壁の奥に投げた。まだ兵士が隠し通路の奥から出てこようと暗闇の中に並んでいるのが見えたからだ。
投げた円月輪が兵士達の上を真っ直ぐ飛んで奥の壁にガツンとめり込む。
カチンと音がして轟音を立てて爆発した。
「……………っっっ!?!!!」
自分で投げてびっくり!
この円月輪には仕込みが出来る。持ち手の所が外せるようになっていて、そこに爆弾、酸、薬などを入れて、投げて刺さった場所で自動作動するように出来ていた。
そして俺はこの武器を仕込みが入った状態で複製出来た。
腰に下げたポーチには三枚の円月輪が入っている。そしてそのポーチの横ポケットに離婚届が入っているのだ。
三枚の円月輪は『複製』の元になる円月輪で、俺は複製した円月輪を投げている。
これは元のユンネが使っていた武器だ。
ユンネの寝室で見つけたもので、最初は使い方が分からなかったけど、ソマルデさんと相談しながら練習していた結果、こうやって複製しながら使うのだろうという事になった。
身体はちゃんと覚えているのか、投げ方もなんとなく理解している。
俺はちゃんと円月輪を使えるのだ。
「大丈夫か!?」
直ぐに戻ってきたアジュソー団長が俺を庇いながら、残った兵士達をソマルデさんと共に片付けてくれた。
俺は自分が起こした爆発にびっくりしすぎて、言葉も出ずにコクコクと頷く事しか出来なかった。
だって投げる練習はしてたけど、爆弾とか練習では使えなかったんだ。
三枚のうち一枚は爆弾、もう一枚は何も無し、最後の一枚は毒の粉が入っている。
これは俺が用意したんじゃない。元々仕込まれていたやつだった。だからユンネが使う為に仕込んでいたやつだ。
ユンネは悪妻ではないけど、なかなか怖い武器を使っていたらしい。
使い所を間違えないようにしないと。
「使う時は私に相談を…。」
コソッとソマルデさんに言われて、俺もしっかりと頷いた。狭い場所であの爆発はヤバいね。
俺達は城の地下に駆け降りて行った。
途中スヴェリアン兵に出くわすが、アジュソー団長とソマルデさんに瞬殺されていく。
ここで不思議に思う。
自分自身が平気な事にだ。
なんで俺平気なんだろう?今だって敵兵の血が階段を流れている。先に二人が殺してしまうので、俺はそれを飛び越えて駆け降りることになる。
足の裏にヌルリと血の感触が感じられるし、不快な鉄臭い生臭さが狭い通路に充満する。
それが当たり前だと感じる感覚。
俺は平和な日本に生まれた単なるサラリーマンだった。
なんで平気なんだ………?
自分の感覚に初めて違和感を覚えた。
身体が慣れているという事?
それにさっき俺は爆弾で人を大勢殺したんだぞ?
中身は俺なのに、身体が知っていれば平気なものなのか?
罪悪感すら感じない自分にゾッとする。
普通は………、普通の人ならもっと後悔したり自分がしでかした事に、もっと良心の呵責に苦しんだりするもんじゃないのか?
耐えられずこんな所で吐いて動けなくなって、二人に迷惑を掛けるよりはマシなのだろうか?
自分自身に対する違和感を感じるが、今はそんな時じゃない。
いいじゃないか。迷惑を掛けるより…。
そう自分に納得させて、ユンネは二人の後をついて行った。
スヴェリアン公爵には、部下の中で最も重用しているスキル持ちがいる。
そいつがいる所為でここでの戦闘は激化する。
俺は勿論知っているわけだが、これは邪魔してはいけないシナリオになる。
何故ならここで王太子以下三名は『隷属』というスキルを受けてしまう。一緒に追随していた騎士達も同様に、そのスキル持ちの支配下に置かれてしまう。
そのスキル持ちの名前はミゼミ・キトルゼン
キトルゼン男爵家の四男で、スキル『隷属』を持って誕生した。普通はスキル持ちは一族あげて祝福される。
だけどミゼミのスキルは『隷属』だった。
人を従えるスキル。
個人の意思を無視して従えさせる事が出来る人間を、信頼する人間はそうそういない。
ミゼミは産まれてからずっと地下に幽閉されていた。
世話をする人間がたまに訪れるだけの無音と暗闇の小さな世界でミゼミは育っている。
ミゼミはちゃんとスキルを使いこなしているのに、『隷属』というスキルを持っているだけで、ミゼミは常に孤独だった。
そんなミゼミはスヴェリアン公爵に売られるようにして引き取られる。キトルゼン男爵家は厄介払いが出来たとミゼミの前で喜んだ描写があった。
そんなミゼミはこの内戦で命を落としてしまい、その後の調査でミゼミ・キトルゼンの存在が明らかになる。
調査結果を知ったルキルエル王太子殿下は、生かして自分の手元で側近として迎え入れたかったと零していた。
冷酷王太子はミゼミのスキルで何をしたかったのだろうか?こちらにも大変興味がある。
今から到着するであろう地下牢には、囚われたラビノアと同じように連れ去られてきたスキル持ちの人達がいて、監視役としてミゼミがいる。
ミゼミの素顔も気になるな?
なんせ漫画ではずっとフードを被っていた。服もマントで体格が分からない状態だった。
死んだ後に名前が出てきたけど、素顔は結局見えないままだった。
俺的にミゼミは悪妻ユンネと同じくらいのモブではないかと考えている。
『女装メイドは運命を選ぶ』の作者はモブを果たしてどのように考えていたのか……。俺同様モブはモブの顔なのか!ここでミゼミが美青年ならショックだなぁ~。絶対フード取ってやる。
「ふふふふふ。」
不気味に笑う俺を、ソマルデさんが嫌な顔して見ていた。
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