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結婚編の番外編(後編)
番外編⑦ レオ×コレットの疑惑4 ※王太子視点
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「コレットーーッ!!」
「はいぃぃっ!!」
コレットの名を叫びながら飛び起きた俺は、いつの間にかベッドの上に寝かされていた。後頭部がズキッと痛い。
なんだかものすごく嫌な夢を見ていた気がするけど、多分階段から落ちて頭を打って、そのまま気絶してたんだろう。
ベッドの横にはポロポロ泣くコレットと、俺のデスクの引き出しという引き出しを全部開けて、中身を床にまき散らかしているエドワードが見えた。
……誰か、エドワードを止めてくれるヤツはいなかったのか?
まあ、それはさておき。
「レオ様! ごめんなさい、私のせいで……」
「いや、大丈夫。とりあえずコレットは階段から落ちてないな? それなら良かった」
首を縦にブンブンと振りながら、コレットの涙は止まらない。
凶悪なエドワードを含め、コレット以外はみんな外してもらった。侍医だけは俺のケガを心配して、部屋の隅に控えている。
俺はまず、コレットを傷付けたことを謝らなければいけない。
妊娠のことは焦らなくたっていいのに、俺が無駄に焦らせてしまったから。
いざとなったら後継なんて凶悪なエドワードもいるし、コレットはコレットのままでいいんだ。それをちゃんと伝えなければいけない。
「レオ様……」
「コレット、ごめん。俺が悪かった」
「違うんです! ごめんなさい、私ったらメイとの会話を立ち聞きしてしまって……」
「いや、こんな話題を俺から嗅ぎ回るなんて、配慮も思いやりも全く足りなかった。食の好みも変わったし、お腹を触られるのも嫌がってたし、色々と先走って勘違いした。すまない」
コレットも俺もお互いに謝り続け、ついに二人とも沈黙して下を向いてしまった。もう、この話題はやめよう。忘れて楽しく暮らそう。気持ちを切り替えようと俺が顔を上げた時、侍医が口を挟んできた。
「王太子妃殿下、もしご体調が優れないようでしたら診察させて頂きますが……」
おい、空気読めよ! コレットが俺たちの話を聞いた時に泣いて逃げたってことは、妊娠してないってことだぞ!
心の傷をこれ以上広げるな!
侍医に怒ろうと思ったら、後頭部がまたズキッと痛んで声が出なかった。
「はい……では、診察をお願いします」
コレットが言う。
「え、なんで? コレットやっぱり体調が悪いのか?」
「レオ様、ここまで来たらもう、隠し通すことはできません。私実は……」
「実は?」
「…………便秘なんですッ!!」
べ、便秘……
便秘?
「それで、腹触られるの嫌がってたのか……?」
「はい……結婚してからお肉とかお魚とか豪華なメニューを食べ過ぎたのか、徐々に悪化してきたんです。イモ類が食物繊維が多くていいと聞いたからお芋も食べてみたし、乗馬の動きが腸を刺激するって聞いてやってみたりしたんですけどやっぱりダメで……」
便秘。
便秘か。
それを言うのが恥ずかしくて、診察も避けてたのか。便秘を妊娠と勘違いされて、恥ずかしくて泣いて逃げたのか?
「コレット、診てもらえ。便秘を馬鹿にするなよ。便秘で死ぬヤツだっているんだからな。知らんけど」
「ご心配をおかけして申し訳ありませんでした。しかも何だか妊娠の期待までさせてしまって。
でもレオ様。私だっていつかは子供が欲しいと思っています。妊娠するのを楽しみにもしてます。だから、もしそういう日が来たら、私からちゃんと言いますから……」
コレット、子供のことはこれからも、二人で楽しみに待つことにしよう。まずは便秘を治せ。
まあ、いくらコレットでも、自分で自分の妊娠に気付かないなんて有り得ないよな。どれだけ鈍感なんだよって話だ。ある意味良かったよ。俺たちも普通の夫婦になれるかもしれない。
俺のベッドに腰をかけさせて、侍医が診察を始めた。お腹を押すと苦しそうな顔をするコレットを見ていると、王宮の食事ももう少し改善しなければと思ったよ。
コレットの脈を測り終わった侍医が、袖を下ろしながら言う。
「話の流れ的に大変申し上げづらいのですが、王太子妃殿下、ご懐妊です。おめでとうございます」
「ええっ!!」
「ええっ!!」
話についていけず、口を開けて呆然とする俺たちを無視して、侍医の診察は続く。
何だか色々聞かれてるけど、全然頭に入ってこない。便秘なのか、妊娠なのか。一体何がどうなってるんだ?
「妊娠すると便秘になる方も多いですから。既に妊娠五ヶ月の安定期でございますが……お気付きではなかったでしょうか」
「気付かなかった……ですね」
ああ、そうか。
俺たちが普通の夫婦になれるわけがなかった。相手は、あの妄想専門家のコレットだぞ。
妊娠疑惑からの、実は便秘だった告白、そして事実はやっぱり妊娠だ。どれだけ振り回されるんだよ。
でも、俺はこんな毎日が楽しい。あっちにこっちに心が揺られて大変だけど、予想がつかないワクワクする毎日をくれたコレットに感謝してる。
ありがとう。
「レオ様、びっくりですね!」
「びっくりだよ、色んな意味で」
「でも大丈夫です! 私、ルイーズの離乳食も作っていたし、読み聞かせ用の絵本もたくさん持ってます。編み物だってできるし」
それは準備万端だな。妊娠に気付いてなかったのに準備だけはできてるなんて、さすがコレット。ぶっ飛んでる。
本格的な冬が来る前には、俺たちに家族が増えるらしい。どんな凶悪な子が生まれてきたって、王宮にいる全員がエドワードのせいで慣れてるから大丈夫だ!
安心して生まれて来いよ。みんなで待ってるから!
=====
※この物語はフィクションです
※妊娠中及び妊娠の可能性のある方は決してコレットの真似をしないでください(馬に乗る、薬服用などについては、現実世界の医師の指示に従ってください)
「はいぃぃっ!!」
コレットの名を叫びながら飛び起きた俺は、いつの間にかベッドの上に寝かされていた。後頭部がズキッと痛い。
なんだかものすごく嫌な夢を見ていた気がするけど、多分階段から落ちて頭を打って、そのまま気絶してたんだろう。
ベッドの横にはポロポロ泣くコレットと、俺のデスクの引き出しという引き出しを全部開けて、中身を床にまき散らかしているエドワードが見えた。
……誰か、エドワードを止めてくれるヤツはいなかったのか?
まあ、それはさておき。
「レオ様! ごめんなさい、私のせいで……」
「いや、大丈夫。とりあえずコレットは階段から落ちてないな? それなら良かった」
首を縦にブンブンと振りながら、コレットの涙は止まらない。
凶悪なエドワードを含め、コレット以外はみんな外してもらった。侍医だけは俺のケガを心配して、部屋の隅に控えている。
俺はまず、コレットを傷付けたことを謝らなければいけない。
妊娠のことは焦らなくたっていいのに、俺が無駄に焦らせてしまったから。
いざとなったら後継なんて凶悪なエドワードもいるし、コレットはコレットのままでいいんだ。それをちゃんと伝えなければいけない。
「レオ様……」
「コレット、ごめん。俺が悪かった」
「違うんです! ごめんなさい、私ったらメイとの会話を立ち聞きしてしまって……」
「いや、こんな話題を俺から嗅ぎ回るなんて、配慮も思いやりも全く足りなかった。食の好みも変わったし、お腹を触られるのも嫌がってたし、色々と先走って勘違いした。すまない」
コレットも俺もお互いに謝り続け、ついに二人とも沈黙して下を向いてしまった。もう、この話題はやめよう。忘れて楽しく暮らそう。気持ちを切り替えようと俺が顔を上げた時、侍医が口を挟んできた。
「王太子妃殿下、もしご体調が優れないようでしたら診察させて頂きますが……」
おい、空気読めよ! コレットが俺たちの話を聞いた時に泣いて逃げたってことは、妊娠してないってことだぞ!
心の傷をこれ以上広げるな!
侍医に怒ろうと思ったら、後頭部がまたズキッと痛んで声が出なかった。
「はい……では、診察をお願いします」
コレットが言う。
「え、なんで? コレットやっぱり体調が悪いのか?」
「レオ様、ここまで来たらもう、隠し通すことはできません。私実は……」
「実は?」
「…………便秘なんですッ!!」
べ、便秘……
便秘?
「それで、腹触られるの嫌がってたのか……?」
「はい……結婚してからお肉とかお魚とか豪華なメニューを食べ過ぎたのか、徐々に悪化してきたんです。イモ類が食物繊維が多くていいと聞いたからお芋も食べてみたし、乗馬の動きが腸を刺激するって聞いてやってみたりしたんですけどやっぱりダメで……」
便秘。
便秘か。
それを言うのが恥ずかしくて、診察も避けてたのか。便秘を妊娠と勘違いされて、恥ずかしくて泣いて逃げたのか?
「コレット、診てもらえ。便秘を馬鹿にするなよ。便秘で死ぬヤツだっているんだからな。知らんけど」
「ご心配をおかけして申し訳ありませんでした。しかも何だか妊娠の期待までさせてしまって。
でもレオ様。私だっていつかは子供が欲しいと思っています。妊娠するのを楽しみにもしてます。だから、もしそういう日が来たら、私からちゃんと言いますから……」
コレット、子供のことはこれからも、二人で楽しみに待つことにしよう。まずは便秘を治せ。
まあ、いくらコレットでも、自分で自分の妊娠に気付かないなんて有り得ないよな。どれだけ鈍感なんだよって話だ。ある意味良かったよ。俺たちも普通の夫婦になれるかもしれない。
俺のベッドに腰をかけさせて、侍医が診察を始めた。お腹を押すと苦しそうな顔をするコレットを見ていると、王宮の食事ももう少し改善しなければと思ったよ。
コレットの脈を測り終わった侍医が、袖を下ろしながら言う。
「話の流れ的に大変申し上げづらいのですが、王太子妃殿下、ご懐妊です。おめでとうございます」
「ええっ!!」
「ええっ!!」
話についていけず、口を開けて呆然とする俺たちを無視して、侍医の診察は続く。
何だか色々聞かれてるけど、全然頭に入ってこない。便秘なのか、妊娠なのか。一体何がどうなってるんだ?
「妊娠すると便秘になる方も多いですから。既に妊娠五ヶ月の安定期でございますが……お気付きではなかったでしょうか」
「気付かなかった……ですね」
ああ、そうか。
俺たちが普通の夫婦になれるわけがなかった。相手は、あの妄想専門家のコレットだぞ。
妊娠疑惑からの、実は便秘だった告白、そして事実はやっぱり妊娠だ。どれだけ振り回されるんだよ。
でも、俺はこんな毎日が楽しい。あっちにこっちに心が揺られて大変だけど、予想がつかないワクワクする毎日をくれたコレットに感謝してる。
ありがとう。
「レオ様、びっくりですね!」
「びっくりだよ、色んな意味で」
「でも大丈夫です! 私、ルイーズの離乳食も作っていたし、読み聞かせ用の絵本もたくさん持ってます。編み物だってできるし」
それは準備万端だな。妊娠に気付いてなかったのに準備だけはできてるなんて、さすがコレット。ぶっ飛んでる。
本格的な冬が来る前には、俺たちに家族が増えるらしい。どんな凶悪な子が生まれてきたって、王宮にいる全員がエドワードのせいで慣れてるから大丈夫だ!
安心して生まれて来いよ。みんなで待ってるから!
=====
※この物語はフィクションです
※妊娠中及び妊娠の可能性のある方は決してコレットの真似をしないでください(馬に乗る、薬服用などについては、現実世界の医師の指示に従ってください)
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